第17話 十三女町の英雄
緑野恵麻は、居ても立っても居られずに喫茶店を飛び出した。
とはいえ、彼女にはどうすることもできない。ヒカリたちが気になるならばもっと早く追いかけておけばよかった、と後悔した。
もっとも追いかけたところで自分が足手まといでしかなく、むしろストーカー気質のファンと捉えられてしまってはいけない。
魔法少女が戦っている間は記者も近寄りたがらないのか戦闘状況が入ってこない。
恵麻は人が行きかう路上で立ち尽くした。一人スマホを起動し、何気なく魔法少女と検索に打ち込んでみる。
魔法少女は、この町の英雄だ。
この町──十三女町は、昔から怪物──その昔は妖怪と呼ばれていた──の出現が絶えなかった。
しかし、十三人の巫女の出現によってこの街の平穏は訪れた。その力は継承され、現在の魔法少女にあたる。
今現在、この国では怪物の出現は十三女町のみである。と同時に、魔法少女が誕生するのもこの町のみである。
昔からの力を受け継ぐ、十三の少女。
彼女たちが、この町の守護神だった。
恵麻は検索しても、昔の情報ばかりなのに首をひねる。
ヒカリたちと別れて結構の時間が経つ。魔法少女は、13人さえ集まってしまえば怪物へのとどめを刺すことが可能だ。
今頃、魔法少女が怪物を退治していれば何かしら情報はあるはずだが──。
「ない……? あっ、これ」
気づけば恵麻の口から独り言が漏れていた。新規の順番でやっと見つけた中継動画をタップする。
おそらく、報道機関によるドローンを使った撮影だろう。魔法少女たちの戦闘に巻き込まれたくないのか最近は中継報道も少なくなっている。
そういえば、この前の植物園の魔法少女の活躍も事件が解決してからニュースとなったことを恵麻は思い出した。
ユイカさんと、ミライさん。その時、植物園を守り抜いた魔法少女を思い出す。魔法少女を見守る妖精メルルがいない戦いは珍しいゆえに恵麻の記憶にも強く残っていた。
広告の後に動画が再生される。上空からの撮影に違いないだろう。
その動画を見た瞬間に恵麻の手が震えた。目に映るのは遠くから見える11人の魔法少女と──魔法少女ミライ。
恵麻が息をのんだその瞬間に、目の前に光る何かが迫ったかと思うと視点が乱雑に転換し、突如に黒い画面が表示される。
気づけばスマホを強く握りしめていた。
一瞬しか見えなかったが、それでも魔法少女たちが優位に立っているとは言い難い状況だということだけは確認できた。確認できてしまった。
気づけば足が震えていた。
考えないように。もしかしたら、何かの見間違いではないのか。魔法少女は何があっても倒れない。そして魔法少女は13人さえ揃ってしまえば──。
そこで恵麻は、はっと思い出した。
先程目に入った魔法少女たちを思い返す。魔法少女全員のファンである恵麻にとっては容易いことだった。
──ユイカさん。ユイカさんがいなかった。
今、魔法少女は12人しかいないことに気づいて恵麻は目を見開いた。ユイカに何があったのだろうか。
震える手で唯一連絡先を知っているヒカリにメッセージを送る。戦闘中だろうが今の恵麻の不安を紛らわすにはそれしかなかった。
しかし、一向に既読はつかない。
戦闘中だ。当たり前だろう、という考えの中、気づけば通話画面を押していた。
「お願い、出て……」
13人さえ集まればどんな敵でも倒すことができる。とはいえ、12人も魔法少女がいればそれほど苦戦はしないはずだ。今までもずっとそうだった。そうずっと。きっと。
途切れることのない発信音が不安を搔き立てる。
耳の奥にスマホを強く当て願うかのように何度もかけなおした。しかし、出る気配は一切感じられない。
気づけば駆け出していた。走りながらスマホを耳に当て続ける。向かう先は公園。
息を切らしながら走っていると、目の前に公園の輪郭がぼんやりと目に入ってきた。
「……待ちなさい」
その声に恵麻の体が反応してしまい、後ろを振り返った。
足元の影が伸びるように揺らいだかと思うと、目の前に長い黒髪をなびかせた少女が立っていた。
「え、あ、あの」
「貴方はどこへ行くの? 公園の怪人出現情報は見なかったのかしら?」
「あ、あの! それは知ってます! あと貴方はエルザさん……」
「私の名前を知っているのね。随分と詳しいじゃない」
少女はその美しい顔で恵麻に笑いかけた。しかし、その笑顔はぞっとするほど美しく柔らかさは微塵も含んでいなかった。
エルザが一歩踏み出す。至近距離で見つめられ恵麻の脚が一歩下がった。
「丁度いいわ。貴方に手伝ってもらいたいことがあるの」
空中に光が迸る。否、それは男の作り出した大量の刃だった。回転し、公園でミライを守る植物たちを切り倒していく。
その刃は男へと向かう植物さえも切り裂く。
男の出現させる刃が、ミライの首元に迫った。しかし、後方から大木が伸びミライを掴み後退させる。
「防戦一方だね。可哀想に」
淡々とした口調。その口調に反して大量の刃がミライに襲い掛かる。
しかし、それらは伸びてくる植物によって防がれる。しかし、一向に攻撃の隙はできずにひたすら植物たちはミライを護り続ける。
ミライ自身の意識は感じられない。焦点も合わずにどこかぎこちなく手を振り上げ植物が集まっていくことを繰り返している。
気づけば植物はミライの守りを固めるのに集中していた。そう見計らったかのように男は一歩踏み出すと、一気にミライへと距離を詰めた。
「やっぱり指揮官がいないのは致命的だね──!?」
男の頭上。後ろから植物が襲い掛かりその身体を封じ込める。
かすかに目を見開く男の目の前が、折り重なった木の枝に覆われた。
先日も更新できずに申し訳ございません。
本日の午後に本日分を投稿しますのでよろしくお願いします。




