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手持ちマイナス
「そ、そんな話……っ!」
(聞いてないぞ! ……先輩の家、確か母子家庭だったよな。じゃあ、スクーターやら食券やら、別にふざけてたとかじゃなくって……?)
睦月は絶句する。別に、睦月だって、華音に何かして償ってもらおうとは思っていない。ましてや、金なんか貰うつもりもないし、貰ったからと言ってどうにかなるものでもないだろう。
ただ、華音がスクーターだの、食券だのとふざけた事を言い出したので、バカにされたような気分になってイライラしていたのだが……彼女にしてみれば、少ないどころかマイナスの手持ちから、最大限なんとかして睦月を慰めようとしていたに違いない。
もっとも、自分ができる事を考えるあまり、それを提示された相手がどう思うかまで考えが回らないのが、彼女らしい。




