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無口
ジーンズにトレーナーのラフな姿の芽衣子は、手に持っていた女性ファッション誌を机の上に伏せると、睦月をにぺこりと頭を下げた。
睦月は、そちらへと近づきながら問いかける。
「身体の方は、もう大丈夫なんですか?」
芽衣子は、困った顔でそわそわしている。
「……どうしたんすか?」
答えず、相変わらず困り顔だ。以前の饒舌な芽衣子と同一人物とは思えない。
そして、ふと思いついたように立ち上がると、部屋の片隅に走っていき、何かを手に取る。どうやらそれは、子供の使う砂鉄と磁気を使ったお絵かきボードらしい。
睦月の見ている前で、芽衣子はさらさらと文字を書き、ひっくり返した。
『口の中を切っていて声がでない』




