表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/61

未来

本日は3話投稿しています。

ここから入った方は、2話前にお戻りください。

私の思考はピタリと止まってしまう。

どうしても目の前の男性の存在が信じられない。


「美春、美春。……ああ、本当に本物の美春だ」


長い黒髪を後ろに束ね、綺麗な紫の目を感動でキラキラ輝かせている男性は、私に向かって手を伸ばしてくる。


「美春!」


全てがスローモーションみたいに見える中で、男性の手が私の体を捕まえた。


椅子から立ち上がらせ――――ギュッと抱きしめてくる。


ガタンという椅子の倒れる音と、「キャァ~!!」という周囲の悲鳴が聞こえた。


私を抱く腕は力強く、温かなぬくもりを持っている。


そのどれもが、これが現実なのだと私に伝えてきた。






「…………リュ、リュシアン?」


私はその男性――――リュシアンの名を呼ぶ。



「ああ、そうだよ。美春、久しぶり」



艶を含んだ男の声が、私の鼓膜を震わせた。


頭が真っ白になって、それでも私は震える両手を彼の背中に回す。

力を込めて上着を掴み、間違いなくその存在を確かめて――――口を開いた。




「リュシアン――――なんで、スーツなんて着ているの?」


そう。リュシアンが着ているのは一目でブランド物とわかる超高級スーツだ。それがまたピタリと似合っているのだから、イケメンというのは怖ろしい。


「……ハハ、美春らしい質問だね。感動の再会を果たして、最初に聞くのが服装のことかい?」


リュシアンは嬉しそうに笑った。


「だって、気になるんだもの。仕方ないでしょう!」


私は大声で怒鳴る。

あんまり大声を出したせいで、目からポロリと涙が落ちた。


リュシアンは「ごめん」と謝ってくる。

形のよい口が頬に寄せられ、ペロリと涙を舐められた。


「俺はこの大学の教授になったんだよ。これでずっと君と一緒にいられる」


私をなだめるように頭を撫でながらそう言ってくる。


そんなバカな! と、私は思った。




「どうして?」


「……俺に不可能なことなんてないって言っただろう?」


不敵に笑うリュシアン。

ならば彼は異世界トリップをして日本に来たと言うのだろうか?



「だって仕方ない。こうでもしないと君は、俺が“君自身”を好きだと信じてくれないんだからね。他ならぬ“ここ”でずっと俺が君を好きでいれば、否応でも君は俺の心を信じてくれるよね?」



地球に帰還しようとしていたあの時、

私はリュシアンが“異世界人”を好きなのであって“私自身”を好きなんじゃないと、確かに言った。


だからリュシアンは、周り中異世界人だらけの“ここ”で自分の気持ちを証明すると言うのだろうか?




「そんなの…………無茶苦茶だわ!」


抱きしめられたまま私は叫ぶ。

涙がポロポロ落ちてきた。


「無茶苦茶でもいいよ。それで美春が手に入るなら俺はどんなことでもする」


爽やかに笑いながらリュシアンは宣言する。

「ああ、もう!」と言いながらポケットからハンカチを取り出した。


「もったいない。美春の全ては俺のものなのに」


そう言いながら、私の頬を拭ってくる。


(ハンカチがあるなら、最初からそれを使ってよね! ……それに、その発言は間違いなくアウトだから!)


心の中で、私は毒づいた。

ありったけの罵詈雑言を思い浮かべながら――――もうダメだと思う。



(こんな。……こんな風に異世界まで追いかけてこられて……意地なんて張っていられないじゃない)



ギュッと、なお強くリュシアンの服を私は掴んだ。高級スーツがしわしわになってしまうだろうが、そんなものどうでもいい。



「……リュシアン、ありがとう」



小さな声で囁いた。

“私”を――――私自身を好きになってくれてありがとう。

追いかけてきてくれてありがとう。



「また会えて、嬉しいわ」



だから素直に伝えてみる。


これ以上……は、とっても無理だ。

今だって頬が熱くて死にそうなんだから。


リュシアンは本当に嬉しそうに笑った。



「どういたしまして。大好きだよ、美春。――――愛している」



私の言えない一言を、リュシアンはあっさりと口にする。



もうっ!


――――もうっ!


――――――――もうっ!!





私はリュシアンに白旗を上げた。


無理だと思ったもう一歩を、決死の覚悟で踏み出す。




「……私も」




その言葉に感動したリュシアンに、息が止まるくらいに抱きしめられた。

天国の扉の一歩手前くらいまで行ったんじゃないかと思う――――







ここが大学の食堂で周りには弥香や他の人たちが大勢いることに私が気づき、パニックを起こすのはもう少し後だ。



世界を越えて追いかけてきてくれたリュシアンに絆されて、大学卒業後に再び異世界トリップをして魔族の花嫁になるのは、三年後。



異世界で、死神と呼ばれる力の強すぎる魔族のやんごとなき事情――――国王のように最期に狂わないためには一生を添い遂げる“伴侶”が必要だということ――――をはじめて聞かされ、魔族の総力を挙げた研究の成果で不老不死に近い人生を送ることになるのは、遥か未来のことだった。






    ~END~


これで完結となります。

最後までお読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こーきたか Σ(゜Д゜) トリックの最後も、二人の結末も驚きでした。 面白かったです。☆彡
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ