表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
20/36

めんどくさい

目の前には、黒い翼を生やした男が立っていた。

上半身裸で、下半身は毛むくじゃらの、いわゆる半獣というやつだろうか。

よくよく見てみると、耳も尖っているし、口からは白い牙が見えている。目だけは人間と変わらなかったが、



おもいっきり、魔物だ。


これが、コスプレ好きの男の人、

とかならどれだけ良かっただろうか。



「…………」


莉伽は後ろに、じりじりと下がる。

魔物と距離をとろうとする。が、魔物は一足とびで莉伽に近付き、ニヤリと不気味な笑顔を向けた。


「……っ」


目の前には魔物。

ゲームや本で見るような典型的魔物。


人を襲う、魔物。



とっさには言葉が出なかった。話しなど、できるはずもなかった。

だが、目だけは魔物を捉えて離さなかった。

不気味に笑う魔物の顔から、目が逸らせられない。




にやにや笑う魔物の手が、ゆっくりと莉伽の顔にのびる。手の爪で、頬をゆっくりと引っ掻かれる。



莉伽の頬には赤い血のすじが二、三本入り、流れ落ちる血が頬を赤く染めていく。


「……っ…」


痛みに顔が歪む。




莉伽は金縛りにあったかのように、身動きがとれなかった。

体は、もしかしたら震えていたのかもしれない。



「くっ」と


初めて魔物が声を出して、笑った。



魔物が手のひらを、莉伽に向けるが莉伽は動けなかった。

もしかしたら魔法でも使われるのではないかと、そう思ったがやはり動けなかった。




魔物の手のひらが、淡く赤色に光出す。



やはり体は動かない。



魔物がニヤリと笑う。



体が、動かない。



体は動かない、のに。

目だけは動いて、それを見た。





黒猫の姿をそこに、見た。









気が付いたらどこか見知らぬ場所にいた。緑の森が生い茂る、涼しげな所。古びた、壊れそう石造りの建物が見える。

いかにも、といった風貌だ。



「…………」

「大丈夫か?」


目の前にいた黒猫が話しかけてくる。

莉伽は黒猫をじっと見る。


「大丈夫か?」

「………」

「大丈夫じゃなさそうだな」

「………」



いつの間にか座り込んでいた莉伽の膝元に、黒猫は前足を置く。


「もう少し早く助けてやるべきだったか」

「………ここは?」

「遺跡だ。来たかったのだろ?」

「……そうだけど」


あれか。

時空を歪めてってやつか。

なんて便利な力なんだ。



ぼけっとしていると、黒猫が器用に莉伽の体を上り、血が出ていた頬を舐める。


「……なに…?」

「血が出ているからな」

「だから?」

「舐めている」

「………」


黒猫の体をわしづかんでひっぺがす。


「大丈夫だから」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫です」

「そーか」



黒猫は何故か悲しそうな顔をした。




莉伽は立ち上がり、遺跡を見る。意外と小さな建物だ。入口らしき所は見当たらない。どこから入るのだろうか。


「おい」

「……なに?」

「助けてやっただろ?」


そういえば、お礼を言っていなかった。


「ありがとう、助けてくれて」

「礼はいい」

「は?」

「嫁になれ」


……またか。


「あの、前にも言ったと思うんだけど」

「俺も、前にも言ったな」

「…………」

「好きだ。嫁になれ」


あ、相変わらすの直球。


「ごめん、とりあえずその話しはまた今度という事で」


「じゃ」と莉伽は逃げるようにして、遺跡へと走り出す。

この話しは物凄く面倒だ。出来ればこのまま話さずにいたい話題だ。


「おい」


黒猫は追いかけて来て、莉伽の背中を器用に踏み台にして、頭の上にぴょんと飛び乗る。


あれ?

結構軽い。


重さを感じない黒猫に、疑問をもつ。

そういえば、さっき掴んだ時も頬を舐められてた時も重さを感じなかったような…。


「話しはまだ終わってないゾ」

「………」

「俺は二度もお前を助けた。お前が好きだからな。そんな俺の嫁になれと言ってるんだ。嬉しいだろ」


『猫』じゃなかったらね。嬉しかったと思うよ。しかも、アイナの言うことが正しければ、この黒猫は魔物かもしれないのだから。


とりあえず、聞いてみよう。



「あのさ、君は魔物なの?」


黒猫を頭に乗せたまま、莉伽は問いかける。


「魔物?俺は魔物なのか?」

「は?」


莉伽はこの黒猫と話すたびに「は?」とか言っている気がする。

これで何回目だ?


「俺は魔物なのか?」

「いや、私が聞いてんだけど」


また、なにをとんちんかんな事を。


「くろねこ、というものじゃないのか?」

「えっ?」

「あの女に、くろねこ、と言っていただろ」


聞いてたのか、こいつ。


「いや、それは私の世界の動物に君が似てるってことで」

「私の世界?」

「あっーとととっ!

私の国、私の国だ」



あ、危ない。危なかった。

うっかり口が滑ったぞ。



「あの、じゃ君は結局なんなわけ?」

「さぁ?」


さぁって……。



………もういいや。

とりあえず、放置。



莉伽は頭の上に乗っている黒猫を地面に降ろし、「私は大切な用事があるから」と黒猫に言い聞かす。


「ここの遺跡に大事な用事があるから、私は行くね。助けてくれてありがとう。お礼はまたいずれするから」

「礼はいらない。嫁にな」

「その話しも、また今度」


黒猫の言葉を遮る。


「じゃ、そいう事で」

「ちょっと待て、俺も行く」

「は?」

「遺跡には俺も行く」

「……何で?」

「遺跡での用事が終わったら嫁になるんだろう?だから俺も行く。早くすませよう」


いやいや、

嫁になるとか言ってないし。


「あの、困るんだけど」

「何故だ?」


さぁ行くぞと、遺跡の方へ歩き出していた黒猫に声をかける。


何故って。



『誰かさん』に、私が動いてる事は誰にも悟られるなと言われたし。

悟られるな、って事は精霊を解放しようとしているのは、知られるな、と言う事なのだろう。


この黒猫に遺跡の中にまでついてこられたら、莉伽が何をしようとしているのかが、バレてしまうのではないか。




さらに言えば、


ただただめんどくさい。

この黒猫と喋るのが。




「あの」

「行くぞ」

「………」



もういいや。

どうにでもなれ。




莉伽は黒猫に続いて、遺跡へと向かうのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ