やっぱり見えない
精霊を探すため、
遺跡ダンジョン。
潜入開始です。
となるはずだったのだが、
遺跡ダンジョンへの入口らしき扉や通路は、探しても見つからなかった。建物の隅から隅までくまなく探したが、遺跡の内部へと入れそうな所は全くもって見当たらない。
これは精霊が封印されてる遺跡なのか?
本当に?
これじゃ、ただの石造りのハリボテみたいだ。
ハリボテは、ちょっと言い過ぎか。
場所事態は間違ってないそうなのだが。
「ねぇ、なんでこの遺跡、入口らしき扉やら通路やらがないんだろ?」
「入るために作られた物じゃないからじゃないか」
「どういう事?」
「外から見るだけの建物、という事なのではないか?」
やっぱりハリボテか。
って、
そんなばかな。
精霊が封印されてる遺跡なんだから、それなりのダンジョンとかトラップとかがあって、仲間と力を合わせ瀕死になりながらも奥へ奥へと進めば、そこには精霊が封印されてますよー的な台座とかがあって、遺跡ボス的な何かがいて、おっとその前にセーブ、セーブみたいな。
いや、さすがにセーブはないと思うけどさ。
それが、外から見るだけの観賞用って。中に入れないって。仮にも精霊が封印されてるのに。
遺跡ダンジョンを舐めてんのか、この世界は。
「じゃ、中には入れないと?」
「だろうな」
「じゃあ精霊は一体どこに封印されてるんだろ」
「精霊に用があるのか?」
黒猫が、遺跡にじっと向けている目をそらさずに莉伽に問う。
「うん、まぁ」
莉伽は隣にいる黒猫をちらっと見る。この黒猫は本当に何者なのか、疑問だ。
さっき自分でも、自分が何者なのか解ってないみたいな事言ってたし。
一応魔物ではない。
人間でも断じてないし、普通の動物、ってわけでもないだろう。時空を操る能力を持っているのだから。
………わからん。
さっぱりだ。
莉伽が黒猫についての考察を頭の中でぐるぐるとしていると、当の黒猫が精霊なら遺跡の所にいるぞ、と意味不明な事を口にした。
「は?」
「精霊なら遺跡の所にいるゾ」
「……遺跡のどこらへんに?」
遺跡周辺を見渡すが、精霊らしきものは見当たらない。精霊が封印されてそうな台座もないし。
もしかして莉伽には見えない、とかそういう落ちなのだろうか。
「私には見えないけど」
「何言ってるんだ?さっきからそこにいるだろ?」
「いや、だから」
見えないんだって。
少しの沈黙の後、
黒猫が眉間にしわを寄せ、莉伽を見る。
「何故、見えない」
何故と言われましても。
なんでだろ?
人間だから?
力がないから?
役立たずだから?
まぁ、それは置いといて。
これはそうとう不味い展開になったぞ。精霊が見えないとどうしようもなくないか?
というか、精霊が見えるって。何でもっと早く言わない!
精霊に用があるとは言ってないので当たり前なのだが。
「君には精霊、見えてるんだよね?」
「ああ。当たり前だろ」
「精霊は遺跡内部じゃなくて、外に封印されてるってこと?」
「封印なぞ、されてないゾ」
「は?」
「封印、されてない」
どーいう事?
最初から封印されてなかったって事か?
それとも封印が解けているって事か?
なんだか意味不明な展開になってきた。
じゃあ、ここで莉伽がやるべき事はないって事か。
無駄足……?
「封印はされていない、
が弱っているようだな」
「弱ってる?」
「話しもできない状態のようだ。遺跡の所でへばっているゾ」
……うーん。
見えないのがこんなに不憫だとは思わなかった。精霊の気配すら感じないしね。どういう状況だ?これ。
だが、弱っているというのは不味い事だろうと思われる。
ファンタジー展開的に。
「元気にしてあげるにはどうしたらいいの?」
「知らん」
「…………」
見えるだけかよ。
使えない猫だな。
……まぁ、私が一番使えないんだけど。
自分で言って、自分で傷付き、項垂れていた莉伽の頭に黒猫は飛び乗り、ぺしぺしと軽く叩く。
「……頭に乗らないで欲しいんだけど」
重くないから苦痛じゃないのだが、なにか微妙だ。頭に乗られるの。
「用事はすんだか?」
「………すんでない」
「まだなのか」
ふぅ、と黒猫はため息をつく。ため息をつきたいのはこっちの方だ。
「ねぇ、ほんとに知らない?精霊を元気にする方法」
「そんなに精霊を元気にしたいのか?お前は」
「………」
封印は解けているのだから、莉伽がすべき事は終わっている。
『誰かさん』に言われたのは、封印を解放しろと言う事だけだったので、
この先の事は莉伽の仕事ではないのだろうが……。
「本人に直接聞くか」
黒猫が莉伽の返事を待たずに、頭の上から飛び降りて遺跡の方へ走りだしていってしまった。
「…………」
早いなぁ……。
大丈夫かな?
へばってる相手に無理矢理な事しないよね?
病人に鞭うつような事、しないよね?
そう思いつつも、
莉伽は黒猫の後をのんびりと追った。
見えないのだから、どうしようもない。
一人で喋っている黒猫に、見えないけどそこに精霊がいるんだろうなと思いながら莉伽がゆっくり近付くと、
黒猫は物凄い形相で「来るなっ」と莉伽に怒鳴り付けた。
………へ?
なんで?
と莉伽が思うやいなや、莉伽の右手人差し指、『呪いの指輪』がはまっている指に強烈な激痛が走る。
「……っ!!!」
腕を押さえ必死に我慢するが、指を遠慮なく締め付けられる様な激痛に莉伽は涙目になる。
黒猫が近くで何か叫んでいるのだが、それどころじゃない。
骨が折れるっ!
黒猫が必死に莉伽の指から指輪を抜こうと口で噛みつくが、呪いの指輪なので抜けるはずもない。
莉伽の手が心配なのか、あまり力も入れてこない。
「拒否反応かぁ。指輪の呪いと反発しちゃったんだな、これは。
やっぱ無理矢理はよくなかったって事かな。ごめんね?」
激痛に耐えていた莉伽の側で、声が聞こえた。
下を向いている莉伽には、誰が喋っているのかは解らない。
「お前っ…!」
黒猫の、今にもつかみかかっていきそうな声も聞こえる。
「黒いの、君が弱ってる僕に無理矢理聞いたんじゃないか。僕が力を取り戻す方法を」
「そのやり方は無しだと、別のやり方はないのかと、そう言っただろ」
「あぁ。ごめんごめん。そうだっけ?」
何が、どうなったんだ?
指の痛みが徐々に引いてきた莉伽が顔を上げると、そこには
誰もいなかった。
黒猫だけが、どこか虚空を睨み付けて、莉伽の前にいる。
「……………」
見えない。
「あの、いったい全体何が…?」
莉伽は黒猫に聞いてみる。
「精霊の奴がお前の指輪にのりうつった」
「のりうつった?」
「そーだよー。適当な物が見当たらなかったから、その指輪にしたんだけど、まさか呪いの指輪だったとは。
呪いの契約と僕の契約が反発しあって、所有者に負荷をかけてしまったみたいだねー」
見えない誰かの声が、またした。
「あの、声だけが聞こえて姿が見えないんだけど、もしかしなくても精霊さんでしょうか?」
「そーでーす。精霊のライトっていいまーす。以後よろしくー」
軽いのりの精霊、ライトに莉伽は嫌な予感しかしなかった。
「どういう事?」
渋い顔をして、莉伽を見ていた黒猫に聞くと、黒猫は「生命力だ」と投げやりに言った。
「生命力って……」
やっぱり嫌な予感しかしない。
「精霊が力を取り戻して、元気になる方法は誰かの生命力を貰う事、だったらしい」
と、言うことは。
「頂きます」
姿の見えない精霊ライトが、莉伽に言った。




