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第49話 炎と雷が交じるとき



 ミレイユ・アスターの〈白雷〉は、単純な強化系スキルの範疇をとうに超えている――そう言葉で言い表せば簡単だが、実際にそう思わせるだけの機構が彼女の体内には幾重にも折り重なるようにひしめいていた。神経系の末端にまで深く浸透した雷霊素、その電気的な伝達を肉体の運動へ変換するため筋繊維を駆動させる導火線の役割を担う炎霊素、さらに両者が互いの出力を食い潰さないよう絶えず均衡を取り続ける微細な魔力循環までが一つの体系として組み上げられており、外側から眺めただけでは到底ひとつの身体強化として片づけられる代物ではない。


 筋力そのものを底上げするもの。骨格や皮膚を硬化させ、外から受ける衝撃への耐久性を引き上げるもの。あるいは神経へ魔力を集中させ、反射速度だけを人間離れした領域まで研ぎ澄ますものや、筋繊維へ直接魔力を流し込み、ほんの一瞬だけ爆発的な出力を引き出すもの――ひと口に身体強化といっても、その性質は術者によって大きく異なる。ただしどの系統にも共通している原則がひとつあった。限られた魔力で大きな効果を得ようとするなら、強化する対象はできるだけ絞ったほうがいい。筋力なら筋力、反射なら反射、耐久力なら耐久力と、一つの機能へ魔力を集中させるほど術式は単純になり、制御に必要な負担も小さくなるからだ。


 ところがミレイユの〈白雷〉は、その大前提からして異質だった。


 肉体の一部を選んで強化するのではなく、視覚や聴覚、平衡感覚といった外界を捉える器官から、得られた情報を脳へ運ぶ神経伝達、判断を動作へ変換する筋収縮、そこへ必要な魔力を送り込む放出制御、加速によって崩れかけた重心を立て直す姿勢制御、さらには現在の動作を終えるより早く次の一手へ身体を移すための予備運動に至るまで、本来なら互いに異なる役割を持つ無数の機能を彼女はひと続きの巨大な回路として繋げている。


 目で捉え、頭で理解しながら身体へ命令を送り、それを受けた筋肉が動く――


 人間である以上どうしても挟まるはずの微細な遅延さえ、雷霊素が持つ異常な伝達速度によって限界まで削ぎ落として認識と行動の境目そのものを曖昧にしてしまう。


 言ってしまえば、〈白雷〉とは単なる身体強化ではなかった。


 ミレイユという人間の肉体そのものを、戦闘に特化した一個の生体式演算機関へ作り替える術式。


 だから彼女にとってはたった一歩の踏み込みさえ単純な動作ではなく、視界の端で敵の肩がどちらへ傾いたか、足裏に返ってきた地面の硬さは十分か、踏み込めば重心が何度ずれるか、剣を振るうために腰をどこまで回し、その反動を次の足運びへどう逃がすか――常人ならひとつひとつ意識していては到底戦闘にならない数十、数百もの情報が身体の内側を駆け巡り、本人が「動く」と決めたときには必要な処理のほとんどがすでに終わっているのだ。


 そして何より厄介なのは、そこまでが〈白雷〉の全貌ではないという点にあった。


 雷霊素によって神経伝達を加速させ、炎霊素を筋繊維へ流し込むことで爆発的な駆動力を得る――そこまでなら扱う属性が二つに跨がっているとはいえ、理屈の上では極端に高出力な身体強化として説明できる。


 しかしミレイユはそうして生み出した力を一度使って捨てるのではなく、踏み込み、加速、斬撃、着地、制動という一連の動作で発生した熱や衝撃、その過程で本来なら損失として消えていくはずのエネルギーまで拾い上げ、再び自身の魔力循環へ組み込んでいた。


 走れば、筋肉が熱を持つ。


 その熱を餌に炎霊素が活性化すれば、筋繊維はさらに強く、さらに速く収縮できるようになり、当然ながら身体はそれまで以上の速度へ押し出される。急激な加速によって神経へ掛かる負荷が増えれば、今度は雷霊素が伝達経路へ割り込み、信号の乱れを補正しながら処理速度そのものを引き上げる。そうして活発になった雷霊素は視覚や聴覚をはじめとする感覚器官にも波及するため、速度を増した肉体に認識が置き去りにされることもなくより短い時間でより多くの情報を拾えるようになる。増えた情報をもとに姿勢制御が精密になれば無駄な動作が削られ、削られた分だけ次の加速へ回せる力が増えていく。


 炎が肉体を動かし、雷がその速さへ思考を追いつかせる。


 雷によって研ぎ澄まされた制御が炎の出力を余さず運動へ変え、その運動によって生まれた熱が再び炎を強くする。


 どちらか一方がもう一方を補助しているわけではない。二つの属性が互いを押し上げながら円環を描き、その回転そのものが新たな出力を生み出していく。


 つまり〈白雷〉は外から力を足し続けることで強くなる術ではなかった。


 一つの強化が別の強化を呼び、その成果がさらに次の機能を押し上げ、巡り巡った力が最初の起点へ戻ることで循環そのものを少しずつ太く、速く、激しくしていく――動けば動くほど肉体と魔力が互いを焚きつけ、戦闘が続くほど完成へ近づいていく自己増幅型の循環構造。


 それこそが〈白雷〉という能力の核心だった。


 リエナを覆う水膜を抜け、〈鳴神〉の切っ先が白い袖もろとも前腕を裂いた時点でミレイユにはその斬撃が浅いことまで分かっていた。刃先から返ってきた手応えは確かで、皮膚を割った直後にわずかな抵抗が増し、その奥の肉を薄く削って血を引き出した感触も掌には残っている――


 しかし腕そのものを断ち落とすには遠く、腱を傷つけて短杖を握れなくするほど深くもない。リエナは防御が間に合わないと悟った段階で、厚い水流を正面へ集めて〈鳴神〉を完全に受け止める選択を捨てていたのだろう。まだ形を保っていた水膜を斜めに噛ませ、剣筋をほんのわずか外側へ滑らせるのと同時に自らも刃の進行方向から逃れるよう後方へ身体を引いている。


 水膜そのものは裂かれた。


 それでも役目は果たした。


 斬撃を防ぎ切る必要など最初からなかったのだ。まともに受ければ腕を持っていかれる一撃から中心だけを外し、致命傷を浅手へ変え、そのわずかな猶予を使って剣の間合いから抜け出す――守り切れないと分かったなら守るものを選び直す。傷を負うことまで計算へ含めたうえで被害を最小限に抑える、それがリエナの出した答えだった。


 ——ザッ


 ミレイユの次の判断が即座に落ちる。


 〈鳴神〉を振り抜いたあとも前進するための重心は死んでおらず、むしろリエナが後ろへ退いたことで“次に踏むべき場所”が明確になった。斬ったという事実だけで足を止める剣士ではない。傷が浅かったからと悔やみ、手応えを確かめるために時間を使う騎士でもない。相手が一歩退いて距離を作るのなら、その一歩が完成するより早くこちらが詰めればいい――ただそれだけの理屈を、長年鍛え上げた身体が思考より滑らかに実行へ移していく。


 左足の親指の付け根が岩盤を強く噛む。


 膝を深く沈めて溜めを作るような分かりやすい予備動作はない。足裏で捉えた地面から必要な反力だけを拾い、膝がわずかに撓むのに合わせて腰が前へ滑り出すと、上体はその動きを邪魔しない程度に傾き、肩もまた大きな斬撃を作るためではなくすでに振り抜いた〈鳴神〉を次の剣筋へ最短距離で乗せるために必要な角度だけを開く。


 足、膝、腰、背骨、肩、肘、手首――


 それぞれが別々に動いているはずなのに、どこからどこまでが一つの動作なのか境目を見つけることは難しく、リエナを追って伸びていく一連の挙動は殺意の応酬が支配する戦場のただ中にあってなお、華麗と呼ぶほかなかった。


 ただし、それは見せるために磨かれた美しさではない。


 余分な力を使わず必要のない動きを捨て、刃を最も速く敵へ届かせようと突き詰めた果てに、結果として生まれた機能の美しさだった。


 白華で磨き抜かれた剣術。幾度となく繰り返して身体へ染み込ませた足運び。下半身から生まれた力を腰へ渡し、重心移動そのものを前進へ変えながら、上半身には剣を操るための自由を残す身体操作――積み重ねてきた技術のひとつひとつが互いの邪魔をせず噛み合っているからこそ、ミレイユの動きには無理に速さを絞り出している者にありがちな力みがない。


 速いのに、慌ただしく見えない。


 激しいのに、乱れていない。


 リエナが後退によって稼いだはずの間合いが踏み込みひとつで見る間に削られていくなか、〈鳴神〉は先ほどの斬撃を無理に引き戻すことなくその終点から手首の返しと腰の旋回に導かれて斜めの軌道へ乗った。刃先が触れた水霊素の膜は真正面から力任せに叩き割られるのではなく、流れの薄い継ぎ目へ沿って切り開かれ、一枚目が形を崩した頃には刀身はすでにそこを抜けている。


 二枚目。


 こちらは流れが速い。


 ならば逆らわない。


 水が刃を外へ押し流そうとする力へ手首を合わせ、ほんのわずか剣先を泳がせてからその流れが弱まる角度へ滑り込ませる。水を斬るというより、流れそのものに刃を運ばせながら内側へ潜り込ませるような剣捌きだった。


 一つ、二つ。


 リエナが後退しながら編み上げる水の防壁をミレイユは立ち止まって破壊するのではなく、前へ進む動作の中で次々と捌いていく。


 斬る。


 踏む。


 流す。


 潜る。


 そのどれもが独立した動作ではなく一つ前の動きの終わりがそのまま次の始まりへ繋がっているから、攻撃と前進の境目さえ見えない。


 水の向こうへ逃れようとするリエナに対して、ミレイユはただ速さだけで食らいついているのではなかった。


 剣を振るうたびに前へ出る。


 前へ出るたび、次の剣が最短になる。


 そうして一度掴んだ間合いを、決して相手へ返さない。


 リエナの短杖が、外へ向いていた先端を伏せるようにして胸元へ引き寄せられる。


 それを合図に、上腕へ刻まれた群青色の術式回路が肩口から肘へ向かって一節ずつ光を帯び、脈拍とは異なる一定の律動を刻みながら、周囲に漂っていた水霊素を急速に吸い上げ始めた。流れ込む量は先ほど〈鳴神〉をわずかに逸らした紙一枚ほどの水膜とは比較にならない。


 そもそも目的が違うのだ。これは一撃を防ぐためだけに張る盾ではなく、ミレイユの接近によって崩された戦場そのものを、もう一度リエナにとって都合のいい形へ組み直すための術式――寸断された〈水鏡脈〉を再接続し、白雷に掻き乱されて領域の外へ散った情報を呼び戻し、魔力、熱、振動、荷重、空気圧のすべてを再び観測網へ載せることで、ミレイユ・アスターという異常な速度の塊を、理解不能な脅威から「読める現象」へ引きずり下ろすための大きな型だった。


 二秒。


 刻印式の補助を受けたリエナが、そこまでの術式を完成させるために必要とする時間。


 けれど白雷を纏うミレイユにとって、その二秒は決して短くない。


 リエナの周囲へ集まり始めた水霊素の密度、短杖へ収束する魔力の量、術式回路が肩から肘まで灯り切る速度――それらを視界へ捉えた時点で、ミレイユには相手があとどれほどの時間を必要としているのかのおおよその見当がついていた。


 連撃へと繋げられる距離の中心に影が動く。


 ミレイユの動きの中心にあるものは徹底した迷いのなさだった。何が来るのか見極めようと距離を取ることも〈鳴神〉を引き戻して防御へ備えることもせず、斬撃の余勢を殺さないまま、リエナの懐へさらに一歩をねじ込んでいく。


 間合いは、まだこちらのものだ。


 水膜が六重まで編み上がるより早く、短杖を握る腕をもう一度斬る。そこへ刃が届かなければ肩でもいい。上半身を守られたなら膝を狙い、踏ん張るための脚を潰す。ミレイユが欲しいのは命ではなく、術式を完成させる余裕だった。首を刎ねる必要などないし、心臓を貫く理由もない――リエナが〈水鏡脈〉を組み直すために必要としている、そのわずか二秒を奪い取れれば、それで十分。


 そうして踏み込もうとした左足へ、糸よりも細い水霊素の波がするりと絡みついた。


「――っ」


 踏み込んだはずの左足が、進まない。


 いや――違う。


 止められた。


 拘束か、とミレイユは反射的に疑ったものの、身体のどこにも強制的な固定を受けた感触はなかった。関節そのものを術式で縫い留める類でも、筋肉へ干渉して収縮を鈍らせるものでもなく、足元を泥や氷へ変えて物理的に自由を奪う術とも違う。そうした分かりやすい拘束と比べれば、今の干渉はあまりにも弱く、意識して力を込めれば簡単に振り切れてしまいそうなほど頼りない。


 だからこそ、気味が悪かった。


 ――白雷を止めるほどの強度がない。


 靴底が岩盤を離れる、ほんの直前だった。


 踏み込みの力が足裏の一点へ集まり、地面を蹴った反力が踵から膝、腰、背骨へ一気に駆け上がろうとした、まさにその狭間だけをどこからともなく入り込んだ水の流れが撫でていく。


 足首そのものを掴まれたわけではない。ただ、爪先が向く角度を予定していた軌道からほんのわずか外へ逃がされ、その小さなずれにつられて膝の向きが半指ほど開き、本来なら余すところなく腰へ渡るはずだった地面からの反力が横へ漏れた。


 たった、それだけ。


 転ぶような抵抗もなければ体勢が崩れるような段差もない。


 〈鳴神〉を握る腕には何の影響もなく、剣筋だけを見れば傍目には先ほどまでと寸分違わぬ鋭さを保っているようにさえ映るだろう。


 けれど、ミレイユには分かる。


 足りない。


 踏み込みで稼ぐはずだった、ほんの数寸。


 剣士にとっては生死を分ける、そのわずかな距離だけが綺麗に消えている。


 〈鳴神〉の切っ先がリエナの前腕へ迫り――届かない。


 刃先と白い袖とのあいだに、指一本にも満たない空間が残った。


「……ちっ」


 ミレイユが足を継ぐ。


 もう一歩。


 逃げたリエナとの間合いを埋めるため、右足で地面を捉えながら腰を前へ送り込む。


 まただ。


 今度は足首ではない。踏み込む直前の靴底と岩盤のあいだへ薄い水が滑り込み、ほんの一瞬だけ摩擦を奪った。滑るほどではなく、姿勢を崩すほどでもない――それでも地面を掴む力がわずかに逃げ、前へ出るはずだった身体から数寸が削られる。


 リエナが、そのぶん遠ざかる。


 さらに踏む。


 水が触れる。


 蹴る。


 ずらされる。


 詰める。


 届かない。


 強引に振り切ろうと思えば振り切ることができるだろう。


 足元を覆う水ごと蹴り飛ばし、〈白雷〉の出力を一段上げて距離そのものを踏み潰せばいいだけの話だが、そうすれば今度は姿勢制御へ余計な魔力を回さなければならず、無理に加速した身体には確実に小さな隙が生まれる。そして何より、相手はその瞬間を待っている。


 ――面倒だな。


 完全には止めようとはせず、転ばせようともしない。


 剣を振れなくするわけでもない。


 ただ、ミレイユが最も力を乗せやすい瞬間だけを狙い、前進に必要な力をほんの少し横へ逃がす。それによって一歩から数寸を奪い、その数寸を積み重ね、決して〈鳴神〉が十分な間合いへ入らないよう調整している。


 鎖で縛られているわけでもないのに、前へ出られない。


 目の前にリエナがいる。


 剣を伸ばせば届きそうなところにいる。


 なのに一歩詰めれば一歩ぶんの距離を作られ、さらに踏み込めば今度は数寸だけ削られる――目に見えない手で胸元を押さえられ、走り出すたび元の場所へ引き戻されているようなひどく歯痒い足止めだった。


 ――誰だ。


 疑問が形を得るより先に、ミレイユの意識は目の前のリエナからわずかに離れ、崖上の各所へ散っている気配を拾い直していた。


 ここにいるのは、リエナ一人ではない。


 視野を広げれば、先ほどまで一対一の攻防へ集中していたせいで背景へ押しやっていた残る二人が、改めて輪郭を取り戻してくる。


 そこでようやく、ミレイユの中でひとつの違和感が明確な形を持った。


 三人の装備に分かりやすい統一性はない。得物も違う。立ち位置も、魔力の性質も、戦い方もまるで異なっている。一見しただけならそれぞれ別の土地で腕を磨いてきた者たちが、何らかの目的で一時的に手を組んでいる――そう考えても不自然ではなかった。


 しかしそれでは説明のつかないものが多すぎる。


 リエナの身体へ刻み込まれた、高度な身体刻印型の術式回路。


 グラド・バルムの巨体を遥か遠方から貫き、その腹へ一撃で致命傷を与えた黒銀の槍。


 そして今、ミレイユを直接拘束することなく、踏み込みが完成する一点だけを正確に突いて数寸ずつ前進を奪っている、術者の位置さえ即座には掴ませない精密な干渉。


 どれもそれ単体でひとつの戦闘技術として完成している。


 それほど性質が違うにもかかわらず、互いの邪魔をまるでしていない。


 むしろ逆だ。


 リエナが観測と防御へ意識を割けば、そのあいだにミレイユが懐へ潜り込むのを別の誰かが阻む。そこで生まれた数寸の遅れを使ってリエナが間合いを取り戻せば、今度は別方向から攻撃へ移るための余白が生まれる。一人が自分の役割へ集中したときに当然なら発生するはずの隙へ、残る二人のどちらかが何の合図もなく入り込んでくる。


 偶然、息が合っているわけではない。


 長年一緒に戦ってきたから互いの癖を知り尽くしている――それだけでも説明が足りない。


 もっと根本的なところから、それぞれの役割が噛み合うように組まれている。


 ミレイユの眼差しから、わずかに熱が引いた。


 リエナだけではないのだ。


 彼女の魔脈を解析し、肉体へ刻印を施した者がいる。あれほど複雑な術式回路を設計できる技術者がいて、それを身体へ馴染ませながら実戦で反射的に運用できるところまで鍛える環境も存在している。そしてこの三人が同じ場所から送り出された者たちなのだとすれば――リエナだけが特別な処置を受けていると考えるほうがよほど不自然だった。


 誰かが、この三人を作った。


 少なくとも三人がそれぞれの能力を最大限に発揮できるよう、役割を与え、組み合わせ、戦い方として完成させた何者かがいる。


 ――こいつら、何者だ。


 答えはまだ出ない。


 所属も目的も分からない。どこでこれほどの技術を手に入れたのか、三人だけで完結した小隊なのか、それとも同じような連中がほかにも存在し、ここへ来た彼女たちは組織のほんの一部にすぎないのか――判断するには材料が足りなさすぎる。


 ただし今この場で剣を振るうために必要な答えだけは、もう出ていた。


 ――一人ずつ見たら駄目だ。


 リエナだけを追えば、足を止められる。


 足止めへ意識を向ければ、リエナが距離を取る。


 強引に突破しようと出力を上げれば、その一瞬の乱れをまだ動いていない三人目が狙える。


 こちらが一人を攻略しようとするたび、別の一人がほんのわずか介入して、その攻略を完成する直前で止めてくる。


 しかも、その妨害は決して大きくない。


 あと一歩。


 あと数寸。


 あと一拍。


 それだけを奪う。


 だからこそ、突破できそうに見えてしまう。


 手を伸ばせば届きそうなリエナを追ってもう一歩だけ踏み込めばいいと思わせ、その一歩をまた数寸だけ削る――そうやってミレイユは、前へ進み続けているにもかかわらず肝心の間合いだけをいつまでも取り戻せずにいた。


 三人の強敵を、同時に相手取っているのではない。


 目の前にいる三人は、最初から三人でひとつの戦い方を完成させている。


 ならば本当に厄介なのは、リエナの水でも黒銀の槍でも、この足元へまとわりつく鬱陶しい干渉でもない。


 それらが互いの欠けた部分へ入り込み、攻撃と防御の切れ目そのものを消しているこの噛み合わせだ。


 ミレイユは〈鳴神〉を握り直す。


 前へ出ようとする爪先を、また薄い水が撫でた。


 数寸。


 また、届かない。


 そのわずかな空白を挟んでリエナを見据えながら、ミレイユはようやく思考の向きを変えた。


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