第25話:さよなら、バグだらけの世界。――『明日』という概念を修理せよ!
1. 天地逆転のカタストロフ
「サトシ、あれを見ろ! 物理法則が完全にログアウトしてやがる!」
深海の大聖堂から脱出した一行の目に飛び込んできたのは、悪夢のような光景だった。
海面が空に向かって吸い上げられ、地上では巨大なビルや大地が重力を失って浮き上がっている。バグメーカーが仕掛けた自爆スイッチ――それは世界の**『天地の定義』**を反転させる、最悪のプログラムだった。
「……世界が、逆さまになっておる。これでは、妾の愛する限定フィギュアが全部天井に激突して砕けてしまうではないか!」
「リィエル様、心配するところがそこですか!? カイさん、世界全体のシステム復旧、いけますか!?」
「無理だ、範囲が広すぎる! 僕の『更新』じゃ、一国を救うのが精一杯だ。地球規模の概念崩壊を止めるには、OSそのものを書き換えるしかない!」
2. 宿敵、バグメーカーの正体
混乱する空の裂け目から、一人の男がゆっくりと舞い降りてきた。
白のパーカーを羽織り、気だるそうにスマホを弄る少年。彼こそが、世界を混乱に陥れたバグメーカーの正体――**『管理人』**を自称する少年、ゼロだった。
「やあ、サトシ君。リィエル君。……この世界、もうボロボロだろう? 修正パッチを当てるのも疲れたんだ。一度全部デリートして、最初から作り直した方が早いと思わないかい?」
「ゼロ……。お前、自分の都合でどれだけの人が泣いてると思ってるんだ!」
「泣く? それもただの『出力』だよ。……さあ、君の自慢の『修理』で、この壊れゆく世界を繋ぎ止めてごらんよ。もっとも、全人類の『生存権』を一度に修理する魔力なんて、君にはないだろうけどね」
3. 三位一体のデバッグ・コード
サトシは静かに、銀の腕時計の文字盤を最大出力で解放した。
「一人じゃ無理かもしれません。……でも、僕には『最高にワガママな女神様』と、『口の悪い天才エンジニア』がついてるんです」
「フン、言ってくれるじゃないか。サトシ、僕が全人類の意識をネットワークで繋いで、君の『修理』の負荷を分散させる。一瞬だけ、全人類に『世界が直るイメージ』を共有させるぞ!」
「うむ! 妾も神威を全開放してやる! サトシ、お主の『修理』の概念に、妾の『不滅』の神性を付与せよ!」
カイのドローンが世界中にホログラムを展開し、リィエルの銀髪が眩い光を放ち、サトシを包み込む。
「【最終概念修復】――対象:地球全域・生存圏。付与概念:『明日へと続く、変わらぬ日常』!!」
4. 奇跡の『修理』:青い空の復元
サトシの手から放たれた金色の光が、空へと昇りゆく海を、浮き上がる大地を、一つずつ優しく「元の場所」へと押し戻していく。
それは単なる物理的な修復ではない。
世界中の人々が抱く「明日も同じように過ごしたい」というささやかな願いを、サトシのスキルが汲み取り、強固な現実へと定着させていくのだ。
System Recovery:
Gravity \rightarrow 1.0G (Fixed)
Atmosphere \rightarrow Normal(Fixed)
Status: World Rebooting... Success.
激しい光が収まると、そこには以前と変わらぬ、穏やかな夏の海と青い空が戻っていた。
ゼロは呆然とそれを見上げ、スマホをポケットに仕舞った。
「……はは、バカげてる。合理性を無視して、『今』を守るために全魔力を使うなんて。……サトシ君、君の勝ちだよ。この壊れかけの世界、もう少しだけ付き合ってあげることにするよ」
ゼロの姿は、ノイズと共に消えていった。
5. 結末:そして、いつもの日常へ
数日後。ホテルのスイートルーム。
「サトシ! 早くこれを見よ! 妾の限定フィギュア、お主が直した瞬間に『耐久性が100倍』になっておったぞ! これでどれだけ投げ飛ばしても安心じゃな!」
「投げ飛ばさないでください。……あと、カイさんから連絡です。『世界の再起動にかかった電気代を折半しろ』って」
「なんじゃと!? 恩を仇で返すような奴じゃな。サトシ、今すぐカイの財布を『常に空っぽ』に修理してしまえ!」
「できませんよ。……さて、リィエル様。世界も直りましたし、次はどこへ行きましょうか?」
リィエルは、サトシが開けたばかりのポテトチップスを一枚、彼の口に放り込んだ。
「決まっておる。次は『秋の味覚フェア』じゃ! 世界を直したご褒美に、お主が全種類奢るのじゃぞ!」
『【祝】世界救済完了! サトシさんお疲れ様!』
『結局最後もポテチかよwww』
『でも、これが二人の「日常」なんだよな……。最高だぜ!』
ドローンが映し出すのは、救われた世界で、相変わらずワガママを言う女神と、それを苦笑いしながら受け入れる一人の修理屋の姿。
世界のバグはまだ尽きないけれど、この二人(と一人のライバル)がいれば、きっと何度でも直していける。
『世界を修理するF級探索者』――第一部・完。




