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第17話:落ちてくる空と、伝説の『天空イチゴ』

1. 目覚まし時計は「世界の危機」

 「サトシ……。お主のその腕輪、先ほどから『ピピピ』とうるさいぞ。わらわの神聖なる二度寝を妨害するとは、よほど壊されたいようじゃな」

 ホテルのベッドで、リィエルが枕を抱えながら不機嫌そうに唸る。

 サトシの左手首で輝く銀の腕時計。その文字盤には、昨日まではなかった「赤い警告灯」が激しく点滅していた。

「リィエル様、寝てる場合じゃないです。……これ、とんでもない距離のバグを検知してます。場所は……真上。高度一万メートル」

「真上? 雲の上には、妾の古い知人の隠れ家くらいしかな……――あ」

 リィエルが窓の外を見上げた瞬間、空が「割れた」。

 青空の一部がノイズのように剥がれ落ち、そこから巨大な、岩と緑に覆われた**『浮遊島・アエテリア』**が、重力に逆らうようにではなく、重力に従って真っ逆さまに落下を始めていたのだ。

2. 空飛ぶイチゴを求めて

 落下する浮遊島。その下にあるのは、人口数百万を抱える大都市だ。

 パニックに陥る世界。だが、リィエルの関心は別の場所にあった。

「サトシ! あれは『アエテリア』ではないか! あそこには、千年に一度しか実らぬという伝説の果実**『天空イチゴ』**が自生しておるはずじゃ!」

「イチゴ……? 今、それどころじゃ――」

「それどころじゃ! あの島が地面に激突すれば、イチゴはジャムどころかちりになる! サトシ、直ちにあの島を『修理』して元の位置へ戻すのじゃ! ついでにイチゴを収穫せよ!」

「……結局、食べ物なんですね」

 サトシはため息をつきながら、リィエルの手を取った。

「わかりました。……リィエル様、空を飛ぶ『概念』、貸してください」

「うむ! 妾の翼(ジャージの袖)に捕まっておれ!」

3. 『概念修復』:重力定数のデバッグ

 落下する島の上空。吹き荒れる暴風の中、サトシは新しい腕時計のレーダーをスキャンさせた。

 島の中心部にある『浮遊核フロート・コア』が、バグメーカーのウイルスによって物理法則を書き換えられている。

  エラー:重力加速度 g の異常設定


  g = 9.8m/s^2 \rightarrow 98.0m/s^2



ステータス:自由落下を『強制加速』へ変更済み

「……ひどいな。わざと加速させて、確実に街を壊そうとしてる」

 サトシは落下する島の中枢、巨大なクリスタルへと飛び込んだ。

 周囲には、バグによって狂暴化した空中モンスターが群がっているが、リィエルがデコピン一発で雲の彼方へ弾き飛ばしていく。

「サトシ、早くせよ! イチゴの温室が、風圧でミシミシ言っておるぞ!」

「わかってます! 【概念修復リペア・ワークス】――対象:アエテリア浮遊核。数式修復:重力定数の正常化、および『慣性キャンセル』の付与」

 サトシが腕時計をクリスタルに叩きつける。

 金色の光が回路を駆け巡り、落下速度が急速に衰えていく。

「――さらに、島の『位置』を再定義する。お前は落ちる石じゃない。空に浮かぶ『楽園』だ!」

 ギギギ、と世界が軋むような音が響き、落下していた巨大な島が、地表からわずか数百メートルのところでピタリと静止した。

 街の人々が見上げる中、島はゆっくりと、太陽の光を浴びながら元の高度へと上昇を始めた。

4. 天空のピクニック

 数時間後。

 元の高度に戻ったアエテリアの庭園で、リィエルは念願の『天空イチゴ』を口にしていた。

 一粒がリンゴほどもある、白銀に輝くイチゴ。

「……っはぁぁ……。サトシ……これは、もはや果物ではない。神の慈悲そのものじゃ……。甘みが、魂を修理していくようじゃ……」

「それは良かったです。……おかげでこっちは、世界政府から『無許可で島を動かした』って始末書を書かされそうですよ」

 サトシは苦笑いしながら、腕時計のログを確認する。

 そこには、バグメーカーが残したと思われる短いテキストメッセージが刻まれていた。

『デバッグ成功おめでとう。でも、その島の「下」は見たかな?』

「……下?」

 サトシが島の端から地上を見下ろすと、そこには島が落下しかけた衝撃で、地上に**巨大な『ダンジョン』**が開いているのが見えた。

5. 結末:新章への入り口

 島を救った代償に、地上の封印が解けてしまった。

 そこから溢れ出すのは、これまでのバグとは比較にならないほど濃密な「世界の欠陥」。

「サトシよ。イチゴも食ったし、次はあの穴を直すとしようか。あそこからは、さらに美味そうな『地底の特産品』の匂いがするぞ」

「……リィエル様、もしかして確信犯ですか?」

「なんのことじゃ? 妾はただ、お主と一緒におれば、美味いものが食えて世界が直る。それだけで満足なのじゃ」

 リィエルはイチゴの果汁がついた指をペロリと舐め、いたずらっぽく微笑んだ。

 

『【速報】サトシ、島をキャッチして新ダンジョンを開放ww』

運営バグメーカーとプレイヤー(サトシ)のプロレスが熱すぎる』

『女神様、イチゴの食レポが神がかってる件』

 ドローンは、新しく出現した「奈落のダンジョン」を背景に、仲良くイチゴを分け合う二人の姿を世界へ届けていた。

 

 世界の修理屋と、自由奔放な女神。

 二人の旅は、地底の奥深くへと続いていく。

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