閑話2 椰子の実と黄色いお猪口
久しぶりの投稿ですね。読んでいただけると嬉しいです。
初依頼を終えた翌日、俺達は机の前に集まっていた。
「今日はこれを開封する!」
「へぇ」
「にゃ」
緑色で艶のある実を持ちながら言う。
ここはグロリアス王国オブリビオンにある宿屋レリジョンの居室。
「これが異界の果物なのね」
マァは俺の手にある椰子の実を見て言った。
「そう。ラジエルが食べてたのとは別のやつだけど」
「あれは白や黄色の実だったわね」
「にゃ」
火龍果は色のバリエーションがあるからな。
「まずは鑑定だ」
状態を確認する。
《異界の椰子の実》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る椰子の実。中には液体と白い固形部分があり、液体は仄かな甘味がある。
手に入れてからしばらく経ったが、品質に変わりはないようだ。
「うん、大丈夫だな」
椰子の実を机の上に置く。
鑑定玉を鞄に入れ、代わりに星辰の短剣を手に取った。
鞘から青白い剣身を抜くと、どこを切るか目星を付ける。
「上の部分を斬ればいけるはず」
「ふぅん」
「にゃん」
マァやラジエルは刃の届かない所に避難してもらう。
片手で実の下部分を押さえ、刃を上部分に軽く触れさせる。
「シッ!」
短剣を軽く振ると、剣身が何の手ごたえもなく実を通り抜けた。
時間差で斬れた部分が机の上にコロンと落ちる。
「凄い斬れ味ね」
「にゃ」
近寄ってきたマァとラジエルは実を眺める。
「うーん」
切断面は綺麗だ。美味く真っ直ぐ斬れたと思う。
だが見えるのは薄っすら黄色がかった断面だけで、液体部分まで到達していない。
「もっと下か?」
実を持って耳元で揺らしてみる。
ちゃぽちゃぽと音が鳴る。
「また斬るから念のため離れてて」
何度か慎重に斬っていく。
そしてある程度上がなくなると突然中心に穴が開いた。
「お!」
断面を見ると外側から緑色、黄色味のある白色、茶色の層がそれぞれあり、その更に内側には真っ白な層がある。
恐らくここも食べられる部分だとは思う。
そして中心に空く穴の中には液体が入っていた。
「いけた」
斬り飛ばした分をゴミ箱に捨てると改めて中身を見せた。
「へぇーこんな風になってるのね」
「にゃ」
二人はしげしげと中身を眺める。
「液体に仄かに甘味があるらしい」
「それは楽しみね」
「にゃん」
俺達はそれぞれのコップに注いでいく。
色は若干白く濁っている。
鑑定がなければ飲もうとは思わなかっただろう。
俺とマァは木のコップに、ラジエルは黄色のお猪口に――。
「ん?」
俺は手を止める。
出すなら赤い皿かと思ったんだが、ラジエルの前にあるのはお猪口だ。
「その杯はラジエル様の?」
マァは目を見開いている。
「初めて見たな」
俺はラジエルに許可をもらいお猪口を手に取る。
金に近い黄色で透き通った宝石のような材質だ。
側面には鳥が翼を広げて飛ぶ様子が精緻な紋様で彫られている。
「凄いなこれ」
「ええ、そうね」
俺の隣でマァも見ている。
「私も触ってよろしいですか?」
しばらく俺と一緒に眺めていたマァはラジエルに聞く。
「にゃ」
「ありがとうございます」
俺は見終わったお猪口をそっとマァに手渡した。
「美しい……」
マァは魅入られたように眺めている。
「いつから出せるようになったんだ?」
そんなマァを横目にラジエルに訊いてみる。
「んにゃ」
「最初からね」
鳴き声のニュアンスで大体言っている事が分かる。
マァは【言語理解】があるから細かい意味も分かるが、俺も結構凄いんじゃないだろうか。
「ふぅ……ありがとうございました」
マァは満足したのかラジエルの前にそっとお猪口を置く。
「じゃあ注ぐぞ」
ラジエルのお猪口に零さないようゆっくり注ぐ。
入れすぎないよう気を付ける。
「じゃあ乾杯!」
「ええ、乾杯」
「にゃ」
俺達は杯を合わせるとゆっくり味わうように口に含む。
「ほう」
「へぇ」
「にゃ」
マァとラジエルも声を漏らし、口の中に広がる甘味を味わっているようだ。
「美味いな」
「そうね」
「にゃん」
南国特有の華やかな香りとその中で感じる仄かな甘味。
くどくなくサッと消えていく後味。
水差しの水とも異界の岩清水とも違う独特な味わい。
「時間がある時にまた採ってくるか」
「私もまた飲みたいわ」
「にゃ」
気付けば椰子の実の中身は空になっていた。
この中の白い部分も何かに使えたと思うが、どう処理するかは覚えていない。
食べるにしても切り出したり刻んだりとかは現状難しい。
今回は液体だけいただくという事で割り切ろう。
「実は異界に置いておくか」
ゴミ箱に捨ててもいいが、このままだと大きくて嵩張る。
部屋の入口手前で異界の門を開き、靴を履いて中に入る。
「よし、これでいい」
門から少し離れた場所に飲み終わった実を置くと振り返る。
視線の先にはたくさんの実を付けた椰子の姿があった。
「しばらくは困らないな」
一つ頷くと、そのまま門を通って宿に帰った。
♢
ちなみに俺が斬った場所を覚えたのか、次からは机に実を置くとラジエルが寄ってきて斬るようになった。
俺より上手いし、最初から斬ってほしかったと思わなくもない。
まぁ、俺が斬るのを見て学んだんだろうし、努力も無駄ではなかったという事にしておこう。




