45,寝室の攻防
「本当に侯爵と寝室を共にするのか?」
ランスロットの発言に、一瞬、晩餐の場の空気が固まる。
「はい。夫婦ですから、別々に寝るほうが不自然でございますでしょう」
イヴリンは動揺も見せずに答える。
「頑固だな…」
イヴリンの返しに、ため息と共にボヤくランスロット。
「まあ、良い。夏季休暇はまだ長いしな」
「えッ! 殿下、まさか夏季休暇中ずっと滞在する気じゃ…」
「するぞ」
「……」
ランスロットの発言に、イヴリンの開いた口が塞がらない。
(夏季休暇前に忙しそうにしていたのって、この時間を確保するためだったのかな…。さすがに公務とかあるだろうし、いても一週間くらいかと勝手に思ってた…
というか、一か月は一緒に住むってことよね…。ごまかしきれるかな…)
イヴリンは途方に暮れていた。
◆
「オークリー様。先ほどは申し訳ございませんでした…。私はこちらのソファをお借りしますので」
(いくら意識されないとはいえ、殿下がいる間、毎日一緒に寝たら欲が出そうだし、何よりオークリー様が窮屈よね…。さすがに分かれて寝ないと)
就寝の準備をしてイヴリンが侯爵の執務室を訪ね、そう伝えると、オークリーもちょうど、シャワーを浴びて着替えた時だった。
「いや、ベッドで寝れば良い。気になるなら、俺がコレを使う」
そう言ってソファを指さすオークリー。
「いえ、オークリー様をソファで寝かすわけには…」
「… …」
しばらくベッドの譲り合いの応酬が続く。
(ダメだ。決着がつかない。やっぱり一緒に寝させてもらおうかな…いや、それよりも…)
イヴリンは思いついたように提案する。
「それか、もう殿下にバレてますし、一か月間、嘘をつくより、やはり正直に話しますか…? 私とオークリー様は契約関係であるだけだって、私が一方的にお慕いしているだけだって…」
(言ってて自分で悲しくなるけど。うん、そうしようかな。殿下のアプローチを私が自分で躱し続ければ良いだけだし…。オークリー様とはあまり一緒にいられなくなっちゃうかもしれないけど…。
私はその気はないけど、オークリー様はもともと私に別の相手を、と望んでいるのだから、反対はしないだろうし。殿下は王族だし相手としては慎重にならなきゃいけないから、今は私に合わせてくれているだけだろうしね…)
「……いや、いったん俺のほうでこの件は預かろう。ひとまず今日はベッドで共寝するしかないな」
そのオークリーの言葉に一瞬嬉しそうな表情を浮かべるイヴリン。
(私が大変になるって気遣ってくれたのかな…? それとも、政治的な意味がある…? 分からないけど、ひとまず今日はオークリー様の傍にいられるのは嬉しい…)
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って いそいそと嬉しそうにベッドのある部屋へ向かうイヴリンとは対照的に、オークリーの眉間には更に皺が刻まれるのだった。




