母と娘と
ある程度抱擁を交わしたエルフリーデと、その母・ソフィアはベッドに腰を掛けた。
微妙な沈黙が訪れた。
一旦二人の出会いの場面が落ち着いたようだったので、俺はエルフリーデと一緒に旅をしていると自己紹介した。
とても驚かれた。幼かったエルフリーデが旅に出ていることや、王が許可したことなど。
そして俺の自己紹介を言い終わると、また少し沈黙の時間が訪れてしまった。誰が何から話をしたらよいのかわからず。
誰も話を始めない。気まずさがある。お互いに聞きたいことが山ほどあるはずなのに、遠慮しあっているような感じだ。
昔やっていた企画会議を思い出した。こういう時は、本題と関係のない木っ端の者が口火を切るのがスムーズだったりする。
「何か聞きたいことがあったんじゃないの?」
そのために来たようなものだ。エルフリーデは7年間、なぜ自分たちを捨てて行ったのか、他にももっと聞きたいことがあるはずだ。
「そう、なんだけど……」
そう言い、ソフィアの方を確認する。心配そうに無理をして笑顔を作られているのは伝わってくる。
自分が思い描いていた母親の姿ではなかったのか、もっと矢継ぎ早に聞こうと思っていたが言い出せない。言葉が詰まる。
仕方がないので、俺が当り障りなさそうなところから聞いてみることにした。
「ソフィアさんは、どうしてここにいらっしゃるのですか?」
俺のその質問に、フィンが小さく反応したのが見えた。
一瞬何かあるのかと思ったが、ここにいるのは国外に出たとはいえ王女だった人。まだどこの馬の骨かわからない俺が聞いて良いことではなかった。
「すみません、ちょっとしゃしゃり出ちゃいました……」
俺がそう矛を収めようとしたが、エルフリーデが制した。
「タナカ、良いの。本当は私から聞かなければならなかったことだし」
エルフリーデの言葉でフィンのこわばった表情も収まったので、俺の感じたことは間違ってなかったようだ。
こういう、と言っては失礼だが、生活のレベルから、俺が対等に話してよいということではない。
しかし、フィンはどうしてわかっていたのだろか。ソフィアさんから聞いているのだろうか。保護している? どういう関係なのか。
「お母さん、さっきも言ったけど、タナカは私と一緒に旅をしてて、お父様も認めてくれた人なの。だから安心して。そして、私が思ってることを言ってくれただけなの。どうして出て行ったのかって」
その言葉を聞いて、ソフィアは信じた。エルフリーデの手を握り。話すことを決意したようだ。
長年会っていなかった。そして目が見えず、フィンが言っていることを信じるしかない状況なのに、信用してくれている。親子の絆というのはそういうものなのだろうか。
俺は少しだけ前の世界に残している母のことを思い出してみた。しかし徐々に記憶が遠くになっていると気が付いた。
「これから話すことは、まだあなたの知らないこと。そして、これからもみんなは知らないこと」
つまり、歴史の教科書に載っていなく、口伝でも知られていない王族の話をされるということだろう。
エルフリーデと俺がいる方向に顔を向けてそう言ってくる。フィンはそれに関して特に何も言わない。話するしないは、ソフィアさんの領分なのだろう。
「まずは、どうして出て行ったか、って話からしようかしら――」
念を押すように「でもあまり深く考えないでね」とソフィアさんは付け加えた。




