↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/168

母と娘と

 ある程度抱擁を交わしたエルフリーデと、その母・ソフィアはベッドに腰を掛けた。


 微妙な沈黙が訪れた。


 一旦二人の出会いの場面が落ち着いたようだったので、俺はエルフリーデと一緒に旅をしていると自己紹介した。


 とても驚かれた。幼かったエルフリーデが旅に出ていることや、王が許可したことなど。


 そして俺の自己紹介を言い終わると、また少し沈黙の時間が訪れてしまった。誰が何から話をしたらよいのかわからず。


 誰も話を始めない。気まずさがある。お互いに聞きたいことが山ほどあるはずなのに、遠慮しあっているような感じだ。


 昔やっていた企画会議を思い出した。こういう時は、本題と関係のない木っ端の者が口火を切るのがスムーズだったりする。


「何か聞きたいことがあったんじゃないの?」


 そのために来たようなものだ。エルフリーデは7年間、なぜ自分たちを捨てて行ったのか、他にももっと聞きたいことがあるはずだ。


「そう、なんだけど……」


 そう言い、ソフィアの方を確認する。心配そうに無理をして笑顔を作られているのは伝わってくる。


 自分が思い描いていた母親の姿ではなかったのか、もっと矢継ぎ早に聞こうと思っていたが言い出せない。言葉が詰まる。


 仕方がないので、俺が当り障りなさそうなところから聞いてみることにした。


「ソフィアさんは、どうしてここにいらっしゃるのですか?」


 俺のその質問に、フィンが小さく反応したのが見えた。


 一瞬何かあるのかと思ったが、ここにいるのは国外に出たとはいえ王女だった人。まだどこの馬の骨かわからない俺が聞いて良いことではなかった。


「すみません、ちょっとしゃしゃり出ちゃいました……」


 俺がそう矛を収めようとしたが、エルフリーデが制した。


「タナカ、良いの。本当は私から聞かなければならなかったことだし」


 エルフリーデの言葉でフィンのこわばった表情も収まったので、俺の感じたことは間違ってなかったようだ。


 こういう、と言っては失礼だが、生活のレベルから、俺が対等に話してよいということではない。


 しかし、フィンはどうしてわかっていたのだろか。ソフィアさんから聞いているのだろうか。保護している? どういう関係なのか。


「お母さん、さっきも言ったけど、タナカは私と一緒に旅をしてて、お父様も認めてくれた人なの。だから安心して。そして、私が思ってることを言ってくれただけなの。どうして出て行ったのかって」


 その言葉を聞いて、ソフィアは信じた。エルフリーデの手を握り。話すことを決意したようだ。


 長年会っていなかった。そして目が見えず、フィンが言っていることを信じるしかない状況なのに、信用してくれている。親子の絆というのはそういうものなのだろうか。


 俺は少しだけ前の世界に残している母のことを思い出してみた。しかし徐々に記憶が遠くになっていると気が付いた。


「これから話すことは、まだあなたの知らないこと。そして、これからもみんなは知らないこと」


 つまり、歴史の教科書に載っていなく、口伝でも知られていない王族の話をされるということだろう。


 エルフリーデと俺がいる方向に顔を向けてそう言ってくる。フィンはそれに関して特に何も言わない。話するしないは、ソフィアさんの領分なのだろう。


「まずは、どうして出て行ったか、って話からしようかしら――」


 念を押すように「でもあまり深く考えないでね」とソフィアさんは付け加えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。