魔術師リアムの中級編三日目の出社後
何となく機嫌が悪くなってしまった祐介と、それでも手を繋いだままエレベーターに乗り込んだ。顔は怒っているのに、手は離されない。
「祐介」
「なに」
やはり怒っている。
「職場では手を繋がないのではなかったのか?」
「まだ会社についてないでしょ」
「エレベーターの中に羽田はいない様だが」
「降りたらいるかもしれないでしょ」
「成程……一理あるな」
エレベーターが三階に着くと、廊下奥の執務エリアから楽しげな話し声が聞こえてきた。祐介とリアムは顔を見合わせた。これは潮崎と木佐ちゃんの声である。
リアムが興味津々で中に進もうとすると、祐介がリアムの腕を引っ張って引き止め、口にしいっと指を当てた。何だか隠密の様である。リアムも気になって仕方なかったので、祐介の提案に乗ることにした。
つまりは盗み聞きである。
「潮崎さんて面白い方だったんですね。私全然知らなかったです」
「面白いかなあ? でもそう言ってくれると嬉しいね」
「あの……是非また今度ご一緒に夜ご飯でも如何ですか?」
「え? あ、ああ、木佐さんがいいならいつでも。僕基本一人だし」
なんと、食事の約束をしているではないか。リアムが口をあんぐりと開けて隣の祐介を見ると、祐介が真剣な顔で深く大きく頷いてみせた。
再び耳を傾ける。
「昨日のお店も美味しかったです。私、ああいう赤提灯みたいなところ、実は入るの初めてで」
「あ、そうだったんだ? この辺、一歩裏に入ると美味しい穴場の店が結構あるから、そうしたら今度牛タン食べに行こうか? 牛タンの煮込みとかが安くて美味しいんだ。種類が多いからいっぱい頼みたいけど、一人だと二品位しか頼めないし」
「え! 是非行きたいです! いつ行きますか!?」
木佐ちゃんらしからぬ攻めっぷりである。どうした木佐ちゃんよ。それではまるで恋する乙女の様ではないか。
少し面白くなくて横の祐介を盗み見すると、視線に気付いた祐介がにやりと勝ち誇った様に笑った。意味が分からない。木佐ちゃんのお気に入りの立場が危ういのは祐介も同様だというのに。
「ははは、気が早いね。別にいつでもいいけど……」
「今日は! 今日はご予定は!?」
ぐいぐい行っている。そろそろ執務エリアに入ってしまってもいいだろうか。
リアムが動こうとすると、祐介が肩を掴んで引き寄せ、無言で首を横に振った。行くなということらしい。
「あはは、いいよ、今夜でも。でも仕事溜まってるんじゃない?」
「え、いやそれが、野原さん人が変わった様に集中して仕事をしてくれるので、打ってるメールの文がおかしいのはあるんですけど、それ以外は一回教えたらとてもよく覚えててくれて、仕事が大分捗ってまして」
「ああ、野原さん? ちょっといきなり雰囲気変わったよね、何か武士みたいな喋り方……」
「おはようございます!」
祐介がいきなり乱入した。どうした祐介、と一瞬思ったが、リアムの話題に変わったので止めに入ったらしい。さすが祐介、機転が利く。
リアムも続いて執務エリアへと入っていった。
次回はサツキバージョン。




