魔術師リアムの初級編三日目の夕餉へ
嵐が去った。
祐介はパタン、とサツキ宅の玄関の扉を閉めると、リアムを見つめる。先程までの笑顔はもうなかった。照れた様な表情で見られていて、何だかこちらも照れ臭くなる。
「あの、さ。ご飯、今日は外に食べに行こうか。僕もサツキちゃんに合う服に着替えるから」
「別に構わんが……疲れたか?」
「いや午後は楽しん……見てただけだから、そういう訳じゃないけど。服に合う靴買おうよ。見たところ靴あんまり持ってないみたいだし」
「靴?」
確かにサツキの持つごついサンダルやスニーカー、会社用のはパンプスというらしいがそれと明らかに季節外れのブーツがある位だ。この服に似合うかと言われたら、うん、まあそうかもしれない。
「僕が買うから。ていうか買わせて」
「いや、サツキの物だ、サツキの金で買うべきだろう」
「僕が買いたいの。ね?」
懇願する様に言われては、これ以上固辞するのも何だか居心地が悪い。
「分かった」
リアムは思わず苦笑する。普段は優しい祐介が時折見せるちょっとした我儘は、嫌いではなかった。これを我儘と呼ぶかどうかは微妙だが。
「しかし何だ、祐介は女子をすぐこうやって甘やかすのか? これではすぐに相手がつけ上がるのではないか? もてる祐介ともてなかった私の違いはここか、とも思うが……」
リアムは女性に贈り物は殆どしたことがない。過去に一度、当時気になっていた女性に思い切って渡した物が捨てられている所を見てからは、躊躇する様になった。魔法剣士見習いだった一時同じパーティーにいた女性だったが、剣の腕前がイマイチだったので力の腕輪を贈ったのである。着用すると筋肉が隆々と盛り上がり、魔法剣士を目指すのであればいいと思ったのだが。
その後、二度と同じパーティーになることはなかった。
「僕は別に誰にでもこんなことしないよ」
「そうなのか? 今後の参考にしようと思ったのだが」
「サツキちゃんが参考にしてどうすんの」
「いや、だってこのままサツキとして生きていくにしてもだな、いずれは伴侶を見つけ子をもうけたいとは思うしだな」
「まさか女に贈るつもり? サツキちゃん女の子なのに?」
「あ……そうか」
失念していた。この身体は女。子を成すとなると、当然のことながら相手は男でなくてはならない。
「いや待て、そうすると私は男を伴侶とせなばならないのか……? 男を色恋の対象と……?」
「そこ、今更? ていうか色恋って」
中身は男のリアムだ。男を好いたりすることなど可能なのだろうか。
「また眉間に皺寄ってるよ」
「あ」
急いで伸ばす。祐介が、ふ、と笑った。
「男を好きになるんじゃなくて、好きになる人がたまたま男ならいいんじゃないの?」
「祐介、哲学的な意見だな」
「はは」
「私はここ数年人を好いたこともなかったから、まずはそこからか」
「……じゃあ僕で予行練習したら?」
「――へ?」
祐介は、リアムを見てにっこりと笑った。
次回はサツキバージョン。




