おうとじょうおう
「どうした主様、こんな時間に逢引か?」
俺はその夜、ティを霧の河原の片隅にある(なりゆきで)メガミさんを祀ることになった小さな神殿へと呼び出した......いや、呼び出された?
もともとは、少し二人きりで相談事をしたいからとティを家の外に誘っただけだった。
あまり愉快な話ではないから他のみんなに聞かれたくは無かったし、みんなに話すにしても、まずは二人で話をまとめてからにしたかったんだ。
既に夜だから心配をかけないようにと一応メイに外に出ることを伝えたら、メイが「今夜はティ様の順番なので、問題ありません」と言ってきて、その言葉にティも「こういうのは雰囲気が大切なのじゃ」と言われて、俺一人だけで先に神殿前に放り出されてしまったんだ。
そして、しばらく神殿で一人、待ちぼうけ。
遅れて現れたティは、小人妖精ではなく、大人モードだった。
偶然なのか魔法なのか、涼やかな夜風と共に周囲の花畑の甘い香りを引き連れて、簡素だけど美しく軽やかなドレスをはためかせて、それはもう雰囲気いっぱいで現れた。個人の感想としては、あの21階層のオークのお店の全員に「勝てる」であろう女王の貫禄だった。
そして「逢引か?」である。もう、今夜はあいびきでも良い気がしてきたなー......違う、だめだ!
「ティにしか頼めない相談がある」
「...ふむ。申してみよ」
真面目に相談を切り出したらティに不満そうな顔をされてしまったが仕方がない。ちょっと、真面目な話をしておかないといけない状況なんだ。
この二日間の騒動。
あんなことがあればもう、俺達と人族の国(?)との敵対は決定的だ。ここで後手に回るわけにはいかない。
何か手を打ちたいところだけど、それをすぐに頼めそうなのはティとメイしかいない。
「これから先、情報を集めることについて力を貸してして欲しいんだ。俺達に敵対する者達の動向について、色々と」
「情報? ...あぁ、見聞を集めろということか?」
「そう、【徘徊する逢魔】や二人の小鬼、俺達を狙う者達の動きについて耳を立てておいて欲しい。ティの仲間達の手を借りて。例えば10階層や20階層でのうわさ話があれば集めて欲しい」
とりあえず言ってはみたものの、実はティやメイが普段、誰とどんなやりとりをしているのか俺は全然分かっていない。
いつの間に出入りしている建築関係者達、いつの間に拡張されたり連結されたりしている俺の【白昼夢】の霧の領域、ティは10階層で見かけた妖精達とこそこそ何かやっているし、メイも知らないどこかと交易していて、昨夜はメイが23階層のティから連絡を受けていて、ティは骸骨戦士を召喚していた......彼女達が何とどうやって繋がっているのか俺にはさっぱり謎仕様のままだ。
いつもは何をやっているのか聞いてもはぐらかされてしまうのだけど、今回はその力に頼ってみるしかないだろう...
「...それで、メイにも同じように頼んで情報を集めてもらいたい。だけど、他のみんなにはまだ内緒にしておいてもらいたい」
「なぜ内緒にしたいのじゃ?」
「集まる情報は基本的に暗い話題ばかりのはずだ。俺達の命をどう狙うとかの話だからな。それらに対抗する手段についてもきっと一筋縄ではいかないような、泥臭い話になるだろう」
「...ふむ。それはどうであろうな?」
「いずれにせよ、それも情報が集まってから分かることだ。
今までは迷宮に隠れて、距離を置くことを意識していたのだけれど、これからは先手を取られないように情報を集めていかなければならないと思うんだ...」
情報を集めてみた結果、他のみんなにも知らせたほうが良い話題ならその時はみんなにも話す。
だけど、それこそ再び神の使徒が俺を殺しに来たとかならば、場合によっては俺が先手を打って......とにかく、何も敵のことを知らない現状ではどうしようもない。
ティが、ふぅとため息をついて俺に尋ねた。
「オーク達の一件を気にしておるのか?」
「...気にはしている。
知っていればあれを防げた、とは思えないけれど、何も知らないことは痛感した。迷宮へ逃げ延びたつもりが、簡単に兵力を送り込まれてしまった上に、巻き込んだ」
「それではもう、地上へと撃って出るしかなかろうな?」
「いや、むこうが俺を探して来るのが確定なら、この【白昼夢】の中に引きこもったって良い。いつの間にやら城や畑ができているくらいなんだ、もうここで静かに自給自足生活を営めば良い」
「むー。それはつまらぬのー」
「逃げるにせよ戦うににせよ、今は情報が足りない。その判断材料を得るためにもティの力を借りたい」
「主様が【徘徊する逢魔】として皆に協力を仰げば、そんなことは簡単じゃぞ?」
「...俺が大っぴらにそれをやると、もう、全面戦争になる気がするんだ。【徘徊する逢魔】が立ち上がったぞ! みたいに。
だけどモタさんや10階層にいた人達みたいに、全ての人族が戦いを望んでいるわけじゃない。その反対に、戦いを望む連中に口実を与えるのも嫌だ。だからまずは静かに、慎重に動きたい」
「面倒な話じゃのー」
「それでまず、ティに相談した。俺の伝手なんて、あとは道具屋の――」
「わらわがやるぞ」
「――...ゴメン、今のは無しで。
この話は仲間達の中でも、もっともこの世界に詳しいティにまず相談したい。俺の言っていることがどの程度の難易度なのかも含めて、ティの意見を聞いてみたいんだ」
俺が説明を一通り終えると、ティは沈黙した。
珍しく長く黙考するティ。きっと、真剣に考えてくれているのだろう。
簡単な話ではない。今夜は持ち帰ってもらって、後日仕切り直ししても良いくらいだと思っていたのが......
ティが俺を正面に、向き直った。
真剣な表情で、俺の目をじっと見つめてきた。
風にさざめく花畑に囲まれた夜の神殿で、輝く緑髪に柔らかな衣をなびかせたティ。吸い込まれそうな瞳と、妖しく艶めかしい立ち姿に目を奪われて、息を呑んだ。
そしていつもの無邪気な笑顔ではない、獲物を魅了するような、あるいは威圧するような微笑みを見せてティが言った。
「よかろう。ただし条件がある」
「...条件?」
ティが俺の目の前へと近づいてくる。
「主様の望み通り、今後はわらわの眷族と仲間達の力を以って、全力で情報を集めよう。
ただし、その情報は主様には伝えぬ。それが条件じゃ」
「え? 伝えない? ...それだと集める意味が?」
俺の頬に手を添えて、語気を荒げた。
「過去に! その情報とやらを知るや否や、一人で勝手に飛び出してしまった愚か者がいた......知る必要のない話を知ったことで敵に情けをかけ、救わずとも良い味方に足を引っ張られ、最後は己が命で贖った愚か者がいた......」
「......」
「その愚か者達の名は【徘徊する逢魔】! ...主様が悪いのではない、その名を冠する神と使徒達が、愚か者だったのじゃ」
...メガミさんを馬鹿にするのはゆるさないぞー。
「それゆえに、主様においそれと情報を渡すわけにはいかぬし、そもそも渡す必要がない」
「必要がない?」
「そのような些事を気にするな我らが主よ。
主様が望むのならば、ただ望めば、万事、うまくゆく」
...甘い匂い、頬をくすぐる吐息、俺を【魅了】するような妖艶な瞳。
「わらわをなんと心得る。そして主様の相手はわらわじゃ。
そんな人族よりも、わらわ達と遊ぶのじゃ」
ティの両手が俺の両頬をつつみこみ、その額の熱を俺に伝える。
「主様はわらわのものじゃ――」
――ダメですぅ!!
――痛っ!!?
全身を貫く痛みと共に、俺は意識を引き戻され――
「...むー!」
「...おい、ティ、なんだ今のは――...何か今、俺に仕掛けたな!?」
...そう、これは【魅了】だ!
ティとニアが俺達に実演してみせた魔法やスキルの数々、その中でもティがノリノリで俺に仕掛けて来やがった【吸魔】と並ぶ極悪なスキルが【魅了】、その名の通り相手の心を奪うやつだ。
ここが「神殿」でなければ危なかった。
「一体何の真似だ! 悪戯にしては度が過ぎるっ!」
「怒った主様もかわいいのう」
こんな危なっかしいスキルはさすがに、俺相手にも実戦投入は遠慮していたと思っていたのに――うん?
「...お前、何で急に...?」
ティは悪戯好きだが、それなりにわきまえているし、なんだかんだで面倒見の良い奴だ。
メイや他の者達の為ならば俺に頭を下げることも辞さないような、心優しい妖精の女王さんだ。
これまで遠慮していた【魅了】の技をあえて今ここで使ってきたのは――
「――俺やメガミさんの怒りを買ってまで俺の話を有耶無耶にして――...全部、お前一人でかぶるつもりか?」
俺が人族のことを調べたいと頼んだら、こっちでやるから気にするなといって、【魅了】してきた。
「俺の知らない場所で知らない内に、俺の敵を行方不明にでもし続けるつもりか? お前、俺のために...」
「そうじゃ! だがこれはわらわのためじゃ!
甘々なおぬしがつまらぬことで頭を悩ます時間があれば、それらはすべてわらわに使えと言っておるのじゃ!」
俺の両肩をつかんで叱りつけてくる。
「おぬしの言う『この世界に詳しい』わらわが教えてやろう、おぬしは甘い!
オークの集落を襲った人族達を一人残らず帰してしまうようなお人好しには任せておけぬ!
わらわは、わらわの流儀によって、我らの敵を一匹残らず始末する!」
そして、心配するように、子供をあやすように、俺の目を見て語る。
「...だが、主様の主義も分からぬわけではない。案ずるな。
それも含めて、あとはわらわが全て、うまくやる」
俺を優しく抱き寄せて、ティが続けた。
「主様の敵はわらわが相手をする。主様はわらわの相手をすれば良い
主様がそれを気に入らぬならば、主様がわらわを止めてみせよ。
主様はただ、わらわだけを見つめておれば良い」
「...それって、俺達を守るために、俺の代わりに汚れ役はティが一手に引き受けると言っているのだろう?」
「買いかぶるな。わらわはただ、わらわのやりたいようにやる。それだけじゃ」
再び、今度は正面から正攻法で、魅了されてしまいそうだ。
偽らざる本音、強く優しい妖精の女王様が、俺を抱き包み守ってあげると言っている。
超有能な部下が、全部いい感じに仕事して、あなたは承認印だけ押してくださいと言っている。
最強チームを率いるエースが、俺ことぼんくら監督が雲の数でも数えている内に、全戦全勝してきてやろうと言ってくれている...
...しかもこれ、人族の後発隊撃滅の件といい、既にティは俺の知らない所で暗躍を始めているんじゃないのか?
もしかして俺がこの話題をティに振らなければ、実は俺が何も知らないままにティに守られていただけだったんじゃないのか...?
もう、全部任せちゃえば、妖精女王様が全部勝手にやってくれちゃうやつじゃないのかな?
そして、女王の優しく力強い甘言が俺を全力で包み込み溶かしにかかってきた。
「...甘々なおぬしには任せられぬ、わらわに任せて引っ込んでおれと言っておるのじゃ。フフフ」
――それでいいのか?
「そう、なるほど、よく分かった」
「うむ。ゆえに主様は安心して――」
過去の【徘徊する逢魔】達を愚か者と呼んだティ。
この神殿で俺を襲ったのには、彼らへのあてつけもあったのかもしれない。
きっと甘々な彼らを相手にティは辛い思いをしてきたのだろうけれど......残念ながら、俺はティよりも「彼ら」の気持ちの方が、なぜか何となく、分かってしまったんだ。
「ティを止めれば良いわけだな?」
「――...え?」
メイも、骸骨戦士たち四天王も決して弱いとは思わない。
だけど【徘徊する逢魔】は敗北し、そして彼女達は生き残った。
「ティ、なんで俺が情報をよこせと言ったのに、お前が全部やるという話になっている? つまり、俺が甘々で無いのをティに証明すれば良いわけか? 今すぐ、ここで」
「いや、ちょっと待つのじゃ主様。それは、そういう意味では――」
きっと、甘々な【徘徊する逢魔】は彼女達に運命を共にすることを許さなかったんだ。
こんな【徘徊する逢魔】を守ろうとする者達だからこそ、大切な者達だからこそ、守られるわけにはいかなかったんだ。
「お前には、俺はそんなに弱く見えたのか? お前が影で手を血に染めることに俺の心が傷まないとでも思ったのか? それともお前、血に飢えているのか? つまり愛情が足りないのか、ここで存分に愛情を注ぎ込んでやれば良いわけか!?」
「ま、待て、それはどうい、ムッ――」
メガミも使徒も偏屈者の頑固者、どうしようもない意地っ張りな連中だったんだ。
...そうだよ、俺もだよ!
「――悪いことを唆すこの口を塞げばいいのか? それともイケナイことを考えるこの頭も身体も撫で回してやれば良いのか? おまえの望む説得とは何だ!? さぁ、言ってみろ!」
「な、な、な、なぜ急に、積極的なのじゃ主様!?」
そう、この【徘徊する逢魔】に対して良い度胸じゃないか、【羽ばたく悪戯】っ!
「俺が信用できないのか? お前も、サキやユキやニア達のように拳を握って『主様は最強です!』くらい言ってみせろ!」
「...いまは、他の女子の名を出すでない」
「お前こそ昔の【徘徊する逢魔】と俺を比べるんじゃない!」
「む!」
「...お前がどこでどう遊んでいたって構わない。
勝手に我が家を拡張したり築城したりもドキドキしながら見守ってきたけれど、それでもお前が楽しそうならばそれで構わない。俺の心臓が止まらない程度には、お前の悪戯にだって付き合うつもりでいた」
「......」
「だが! 俺達を守るために、お前が暗躍して手を汚そうとしているのならば話は別だ! ...手を汚すなとは言わない、だけど、そんなのは俺に相談してからやってくれ」
「......」
「俺が主だと言うのならば、厄介事は俺に押し付けろ。俺に言え。俺に甘えろ」
「......」
「俺では力不足だと言うのか?」
「......」
「...そうだ、お前には黙秘権がある! だが夜は長い。喋れるうちに洗いざらい白状して降参したほうが身のためだぞ? さぁ、もう二度と危険な真似はしないと言いなさい!」
「...嫌じゃ」
「そうかそうか、それでこそティだ。そしてちっとも懲りてないっ!
【徘徊する逢魔】が相手ならばいざ知らず、お前の【主様】がお前を相手にどう出るのか、その身を以って十分に分かっていたはずだがな!?」
「えっ? ......〜〜〜!! まさか、いまっ!?」
「何がまさかだ!? わざわざ大人姿でヤル気まんまんに登場して【魅了】までかましてきやがって! 神が許したとて、【下心先生】はもはや黙っちゃいないぞっ!」
「誰じゃ、それ!? ...だ、だが、それは歓迎...いや、その......ここは一旦、し、仕切り直しを、だな?」
天高くからも「こらーっ!? こ、ここでっ...こらー!」と抗議の裏返った悲鳴が聞こえてくるが、どうせあんたはいつもどこでも見境なしに見守っているんだろう、いまさらだ! そもそも、見るなっ!
「...い、や、じゃ。イタズラ好きの悪い妖精は、甘々な主様が一晩かけてじっくりねっとりイタズラして、甘味漬けにしながら説得してやるっ、さぁ、覚悟しろ!」
「や、まてっ......そうわらわが何度も不覚をとると思うたかっ! 主様こそ今宵は覚悟を、あっ――!!」
こうして悪い子におしおき......いや、悪い子二人が互いの主張をかけて、上を取り合った。
...
どうにかティの「暗躍」の方は撤回させることに成功した。
ここでのティの言葉を信じるならば、ティが過去にやらかしたのは昨夜の人族行方不明の一回のみ。そして、今後もこっそり何かを行方不明にさせたりしないということで約束を取り付けた。
その一方で、ティが俺には全ての情報までは話さないこと、情報を隠すことでティが俺の暴走を止めるということに関しては、彼女は最後まで譲らなかった。
過去の【徘徊する逢魔】には相当な辛酸を嘗めさせられたのだろう。今の俺では、その辺りの信用を得ることはできなかったようだ。
たとえ責任は「主様」である俺がとることになるとしても、人はそれぞれの判断で動いて当然だ。
ティに譲れないものがあるのも正しいことだろうし、それでもティが俺に対して色々と譲歩してくれたのは彼女の優しさだと思う。
「ぬしさまのいうように、せかいはやさしくないのじゃ」
ティが悲しそうな、さみしそうな面持ちで、俺の頭を撫でながら心配するように言ってきた。
世界が優しくないから彼女が代わりにやると言いたいのか、俺も世界に容赦するなと言いたいのか、その両方なのか。
いずれにしても、俺がこのままではダメだと、俺の考えは甘いとティは思っているのだろう。
だけど、少し違うんだ。
「別に俺は世界に優しくなって欲しいわけじゃないんだ」
この世界がどういうものなのかは俺にも分からない。
産地直送で迷宮へと放り込まれて、そのまま迷宮ですくすく育ってしまっている上に、迷宮についてすらも何も分かっちゃいない。
まして俺よりもこの世界で長く生きてきたティの思いを慮るには、俺は未熟者すぎるのは自覚しているつもりだ。
だけど、大事なのは、
「...君の周りだけ優しくなればそれで良い。
それが周りに広がろうが広がるまいが、どちらでも構わない。世界が優しくなれば良いのは、あくまでついでの話なんだ」
ティが、仲間達が優しい気持ちでいてくれれば十分なんだ。
余力があればティの仲間達にも優しくしたいけど、それは後回しだ。
まして世界なんて、ずっとずっと、後の話だ。
俺の手は情けないほどに、短いんだ。
俺の言葉に目をぱちくりさせたティが、ひと呼吸してから、ニヤニヤしながら言ってきた。
「...それではまるで、わらわのほうが世界よりも大切なように聞こえてしまうぞ、ニヒヒ」
「うん? それがどうした?」
「......」
...?
「...わっ、わーーー!? ばかー!? あほー!? ここここのっ、すっ、すけべーっ!!」
「な、なんだよティ!? いきなりなんだ!? 至近距離で魔法を放つな、蔦で縛るな! お前はあれか、蔦オバケの眷族か何かなのかっ!?」
早朝の神殿で、朝っぱらから魔法戦を繰り広げるというバチあたりな行為をひとしきり繰り広げた後、俺達は身なりを整えて、ようやく我が家へと引き返していった。
相談のつもりが、一晩かけた戦い(?)になっちゃったけれど、ティが何を思い、俺がどう思っているのか、多少なりとも互いに伝えることができたのは良かったと思う。
だが、問題が起きたのは、この後だった。
すっかり忘れていたが、よくよく考えれば俺達ひと晩中、家に帰ってこなかった訳だ。
つまり、朝帰りというやつだ。
他のみんなに心配をかけたのならば申し訳ないと思ったが、どうやらそうでは無かったらしい。
むしろ、彼女達は昨夜、遠巻きに「バッチリと目撃」していたようだった。
そして......
「あ、あの、主様がその、野外を望むのであれば...」
「わわ、私達も、そ、その......望むところ、ですっ!」
「ぬ、ぬしさま? やはり昨夜のは、そ、そういう趣旨じゃったのか......妖精達はもともとその、森に住むのが常じゃから、その...」
「わ、家妖精としましてわっ、家をオススメするというか、あの、その、はわわ...」
ちょっと待てっ!!
別に俺、そういう行為がお好きなわけじゃないからな!?
以前、10階層より上にいた時に石の上で寝てたのも、単に家が無かったからってだけだからな!? 確かにキャンプとか楽しいけどさ、お前らのそれは、趣旨が違うだろ!? それに神殿に呼んだのはお前達だ!
第一、お前ら三人、一体なんだよ!?
寝こみを襲ったり蔦で縛ったり毒寸前の精力剤を食事に盛ったりしてくる連中が、なんで、俺の時だけそんなに過剰な反応をするんだよ!? ちょっと、ズルくない!?
メイも、そこの三人の言うことをいちいち鵜呑みにするんじゃない! 俺は変態なんかじゃない! もう少し軽めの変態なんだ!
スライムさんを抱えてやって来たニアが「私はおフトンが良い」と言ってきた。
そうだよねー、俺もお布団の上で静かに寝るのが一番だよぉー。
みんな、何を言っているんだろうねー?




