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どうぐや

 草原のど真ん中に、階段を見つけた。


 今日も穏やかな青空の下で転移門と食料を探しつつ三人で歩いていたら、草むらに隠れていたそれが突然、目の前に現れた。

 目の前に来るまでは分からなかった、遠くからは草原に隠れて全く気がつかなかったんだ。


 その石製の階段の入り口は、草原にポッカリと、正方形に口を開けて、地の底へと俺達を導いていた。

 なんの装飾もなく、前世で言うマンホールを大きくしたような感じだ。地下鉄への入り口なんかよりは全然ちいさい、雨よけ日()けも何もない、ただポッカリと空いた出入り口だった。



 我ながら草原のど真ん中で、よく見つけたものだ。すごいな、【はいかい】スキルの力は...



 階段を降りる時に「ザッザッザッザ...」という効果音(サウンド・エフェクト)を期待したけれど、当然、そんな音は鳴らなかったので、代わりに自分の心の中で言うことにした。ザッザッザッザ...


 降りてから気が付いたけど、我ながら少し不用心で、(いさ)み足過ぎた。

 階段を下りながら、目を丸くしながら同行するサキとユキに、今更(いまさら)ながら「これ、何なのか知ってる?」と(たず)ねてみたら、


「これが、私が知っているものなら......道具屋に、着くと思います」

「私も、ここには初めて来ました......おとぎ話でしか聞いたこと、ありません」


 と、未知の階段に少し興奮気味に教えてくれた。

 ほほう? 道具屋? ...俺、お金持ってないぞ?


 薄暗い階段を地下1、2階分ほど降りた場所に、扉があった。

 勝手に降りてきておいてなんだけど、なんだか、怪しいものでも売ってそうな雰囲気だなぁ......ちゃんと合法な道具屋だよね?


 もう、ここまで来たなら、仕方がない。いまさらだ。とにかく入ってみよう...



 ギィィ...という、なんだか入ってすぐに化物(ゾンビ)にでも襲われそうな雰囲気で開いた扉の向こうは、本当に、道具屋だった......もちろん信じてたよ? ちゃんと、合法な道具屋だって。



 石造りの室内、左右の陳列棚、まっすぐに奥へと広がっていく、老舗(しにせ)道具屋といった雰囲気の店内。

 薄暗い照明ながら、店自体はむしろ上品な雰囲気と言ってもいいだろう......棚に置かれた、一部怪しげな商品については見なかったことにしたけれど。怪しげな(つぼ)から「ギー」っていう鳴き声なんて、聞こえなかった。ハハハ。

 所狭しと商品が並べられていたけれど、良く整理が行き届いていて、不思議な品々と()きつける魅力の(あふ)れた素敵(すてき)なお店だ。



 店の正面奥にはカウンターと、そこに座る店主らしき人影。



 その耳の長い老婆は、丸い小さなメガネを通して、(いぶか)しげに俺を(にら)み続けていた。

 左手がそのメガネをつまみ、右手は湯呑みに......あぁ、お茶を飲んでいた途中なら、お(かま)い無く。

 俺は適当に店内を見て回って、すぐに出ていきますから、無一文ですし。



 ...あー、それでもダメなら、もう、すぐに店を出ますので...おじゃましました〜......

 ...え? 来い?

 いえ、そんな、おかまいなく...いいから来いって? えぇぇ...?



 俺はその、およそ客商売には似つかわしくない、鋭い視線の老婆に(うなが)されるままに、店の奥へと進んでいった。

 そして...


「...なんだ小僧、なにジロジロ見てんだい」


 おばあちゃん、開口一番に、怖いよマジで。

 あと、おばあちゃんの方こそスゴイ目つきでずっと俺を(にら)んでるよね? それ、年長者の特権ですか? ひどくない?


 ...っ、あー、もしかして......


 おばあちゃんも鑑定系のスキルを何かお持ちなのかもしれない。

 いかにも雰囲気のある道具屋だものね、ここ。それに、そのおばあちゃんの丸メガネもカッコイイというか、心なしか神々(こうごう)しく見えるんだ。


 ともかく、おばあちゃんが俺を鑑定できても、できなくても、いずれにしても俺が不審者に見えたのかもしれない。


「あー...俺は、その、怪しいものではありません」


 という、怪しさ百点満点の自己紹介をしたところで、おばあちゃんが、


「ハッ! 何いってんだい、怪しさ()()ない小僧が!」


 と(おっしゃ)った。

 そのメガネ、やっぱり何か()()()ます...?


「...デスヨネー」

「...安心しな。別に取って食おうって訳じゃないさ。ここに来る客なんて、大半が『訳あり』さ」


 取って食おうだなんて、おばあちゃん...... この世界の客商売は、これが標準なのだろうか? 店の入口も、まず見つかりっこない場所にあるし、客に厳しすぎる。

 それとも、食うか食われるかが物事(ものごと)の基準なのだろうか? 俺の【鑑定】スキルも『リゴの実:食べられる』みたいに、食べられるか否かしか表示されないし。


 でも、おばあちゃんの言う通り、俺が訳ありなのは否定できない。異世界から来た上に、目下(もっか)逃走中なのだから。

 そんな俺でも客として扱ってくれるなら、とてもありがたい...


「...ここは、道具屋なんですよね?」

「おや? 小僧、何も知らずにここに来たのかい?」

「あの、主様(あるじさま)


 ユキとサキが俺の(そで)を引いて、小声で説明してくれた。


「この『彷徨(さまよ)う道具屋』は、迷宮や秘境を探索する者達には有名な場所の一つなんです」

「必死に探して、それでも『招かれた客』しか辿(たど)り着けない、幻の道具屋と言われているんです」


 そうかー、なるほどー。


 確かに俺には今、どうしても手に入れたいものがあった。それを必死に探していたのは間違いない。

 目についた範囲では、この店内には俺の欲しかったそれは見当たらなかったけれど、幻の道具屋と呼ばれるくらいなら、もしかしたら手に入るかもしれない。


 俺は、覚悟を決めて、その質問をしてみることにした。


「あー......実は」

「...奴隷なら、うちは買い取らないよ」


 サキとユキのことを言ったのか? ...それより、ちょっと!? この世界は奴隷が一般的なの!? なにそれ、怖い!

 どうやら、俺がおばあちゃんに質問する前に、サキ、ユキをちらちらと見たのが、何か勘違いさせてしまったらしい。


「...実は、手持ちのお金は無いのですが、物々交換もできますか?」

「...何が欲しいのか、言ってみな」

「この二人が着れそうな服って、ここに売ってませんか?」

「「!?」」


 俺の言葉に、サキ、ユキが目を丸くした。



 俺、ずーーーっと我慢してきたんだから!



 二人のそれは、服ではなくて、布切れだからね? 見るわけにも指摘するわけにもいかないし、ずっと目を逸らし続けてきたんだ......本当にジロジロ見てなんていない! そんな度胸、俺には()ぇよ!?

 そこの二人っ、照れながら上目遣いでこっち見るんじゃない! もうこれ以上、俺の少ない理性をガリガリ削ってきちゃダメだっ!?


「......あんた、本当に、二人の服は必要なのかい?」

「っ!? ひひ必要ぅですけどぉ!? 本当にぃ!」


 おばあちゃん、「あんたは、売ってないって言われた方がうれしいんじゃないのかい?」みたいな、疑いの目でジロジロ見ないでくれるかな!?

 そこの二人も、「主様がお望みなら...」みたいな真っ赤な顔でモジモジしないでくれるかな!?

 俺ってそんなに、ダメ人間に見える!? 失敬だな! 俺はただ女の子をエロい目で見るのが好きなだけな普通の紳士だ!


 このまま服が手に入らなかったら、二人に合わせて俺も服を脱ぐべきか、わりと本気で悩んでいたんだぞ!?

 どうせ武器も棒だけだし、防具もずっと「布の服」だ! ()でもたいして防御力は変わらねえ! いっそ羞恥心(しゅうちしん)という名の「最後の防具」を脱ぎ捨てれば、案外、無敵になれるかもしれないと思っていたくらいなんだぞ! 変態なんかじゃない!


 おばあちゃんは(あき)れたように俺を見てため息をつくと、指を一回、パチンと鳴らして、店の奥に続く扉を指差した。


「...そっちの扉に入って、好きな服を適当に見繕(みつくろ)いな」


 え? 奥が倉庫なのかな?


 俺はサキ、ユキの二人にうなずいた。

 そして二人は扉を、そっと開いた。


 扉の向こうは、こちらの店内よりも少し広めの、部屋中に服が用意された場所だった。


 ...これはたぶん、そういう魔法か何かだ。

 扉の先を別の部屋に繋ぐやつか、扉の先に置いてあるものを総入れ替えするか、そういう魔法なのだろう。そうでなければ、ここは幻の道具屋ではなく、幻の服屋って呼ばれているはずだ。


 いや、服屋だとしても有り得ない......部屋にある衣装がどう見ても、すべてサキ、ユキにぴったりの大きさだからだ! 品揃えがピンポイント過ぎるだろ!


 二人の性別や体格に合わせた服しか置いて無いのは、いくらなんでもおかしすぎる。

 まさか、偶然おばあちゃんの趣味が......あー、ほらー、おばあちゃんすぐにそうやって、俺を(にら)みつけるー。あんまり(にら)むと、眉間(みけん)に小じわが増えちゃうよ? 余計に(にら)まれそうだから言わないけどさ。



 おそるおそる扉の向こうへ入っていった二人も、やがて楽しそうに服を手にとっては、二人で会話を弾ませていた。

 ......そんな光景が俺は、なんだかうれしくて、ホロリときてしまった...


 ...だけど、今はやることがある。

 二人が奥へと入って言ったのを確認して、俺はおばあちゃんと話をすることにした。


「...代金は、モモフの素材との交換でも良いですか?」

「構わないよ。あんた、収納空間(アイテムボックス)持ちかい?」

「あ、はい、そのようなものです。......それと、情報も買いたい、です」

「...言ってみな」

「あの二人について」

「...あの二人の、何を?」


 これは推測だけど、おばあちゃんはあの二人の敵ではない。俺が睨まれっぱなしなのは、俺だけの問題だろう。

 だから、かけ引き抜きで、正直に目的を話してみることにした。


「...あの二人を、人族に追われているらしい彼女らを(にが)し切る。そのための情報が欲しい」

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