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転生先が、悪役アンデッド姫だなんて聞いてない!  作者: 夏野あさがお


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42. 2つ目の決戦-1-



 エドゥー王子から突然に、花火を一緒に見ようとの申し出を受けた。

 それに対し、私の口が勝手に了承の返事をしてしまった。

 ううっ、早く取り消さなくてはー!

 そう思って焦るが、何故か体が動かなかった。

 ガクガクと震えが止まらないし、自分の心臓の音がはっきりと大きく聞こえる。

 目の前にいるのは背が高く体のがっしりとした白地に青の奇妙な髪色をした、美しいただの男性だ。

 いや、牛のように頭に2本の角がにょっきり生えてるけども。

 喉元に剣や銃を突きつけられてるわけでも、かみ殺されそうになっているわけでもない。

 なのに恐怖で体がすくんでしまうのだ。

 そう考えて、ハタと思い出した。

 ああ、先日、ライオンになったリパーフに襲われ、圧し掛かられた時に似てるんだ!

 あの時と同じで、命が危険であると、今まさに本能が察しているのだ。

 だからって、彼からの誘いを承諾してしまったのはマズい!

 エドゥー王子と花火を一緒に見るということは、彼がドラゴンになって暴れ出す現場に居合わせるということだ。

 はい! まさに即死亡コースですね!

 この殺気はただの脅しだろうし、誘いを断っても、命を奪われることはないはずだ!

 意を決して顔を上げて鋭い金の瞳を見つめ返し、すぐに発言を撤廃しようと口を開けた。

 だが、声が出せない。

 口をパクパクと動かすだけだ。


「フン、魚のようだな」


 エドゥーは僅かに口端を上げ、私に背を向けると、悠然と立ち去ってしまったのだった。

 …ヤ、ヤバい。



「ひ、姫様…!」


 エミリと護衛騎士は真っ青というより、もはや土色の顔をしていた。

 私はエミリと手を取り合う。


「とっさに動けず、申し訳ございません! 大丈夫でございますか!?」


「うっ…ええ、なんとか。でも、断ることが出来なかったわ。…ごめんなさい」


 小心な自分が情けなく感じた。

 エミリは首を横に振って、悔しそうに唇を噛む。

 獰猛な獣に囲まれても平然と返り討ちにするエミリだが、エドゥー王子の凄まじい威圧の前では、とっさに主を庇うことができなかった。

 武道の心得があり相手の実力を量ることが出来るエミリの方が、イザメリーラよりもその恐ろしさを、よりひしひしと感じていた。



「おい、大丈夫だったか!?」


「一体、何があったんだい?」


 つむじ風のように走ってやって来たリパーフ王子がイザメリーラの横に立つと、背中の黒い羽を広げたガオザン王子が上空から現れ、反対側に降り立った。


「リパーフ様、ガオザン様…どうして?」


 心配そうに見下ろしてくるイケメン二人に突然挟まれ、挙動不審になる私。

 キョロキョロと左右の王子に視線を向ける。

 ピンチを察して駆けつけてくれるとか、まるで姫を守るナイトのようじゃないか!?

 もしや、ヒロインのオリアナ姫でもないアンデッドの私を心配して駆けつけてくれたとか!?

 まさかねぇ…なんて思いながらも、乙女ゲームのヒロインのような待遇に、ちょっとだけ胸が高揚してしまう。

 いやいや、勘違いなんてしないよ?

 ただ、たまたま彼らがドラゴン王子の殺気に敏感に反応しただけだろうけどね!



 

「凄まじい気配を感じたから来てみたんだけど、大丈夫かい? 顔色が酷く悪いよ?」


 ガオザン王子が眉を寄せ、私の顔を覗き込んだ。

 自分じゃ気付かなかったけど、エミリたち同様、私の顔色も相当酷いことになってるみたい。

 アンデッドが青い顔をすると、青白いを通り越して、黒っぽく土色になってくるから注意が必要だ。

 ゾンビさマシマシの不気味な見た目になってしまう。

 アンデッド王国のイメージダウンは何としても避けたい!

 頑張って微笑み顔を作る。

 表情筋を操り、顔色までも根性で通常に戻した。

 どうよ! これが幼いころから鍛えた王女稼業の修行の成果よ!


 今のイザメリーラは自身の作った美容薬のおかげで、ゲームの中のイザメリーラとは全くの別人といってもいい容姿をしていた。

 白く健康的な肌や、瑞々しく艶のある髪。

 ゲームの中のイザメリーラには無かった物だ。

 元々、造りは大変に整っていたので、肌や髪が彼女の美しさをより引き立て、眩い美しさを手に入れていた。

 さらに、少々つり目なせいでキツそうな印象を持たれる事が度々あり、悪女と思われないために、少しでも優しく見られるための笑顔の研究に努力を惜しまなかった。

 その成果が実り、アンデッドの王女は交流会の期間中、今日まで、常に美しく輝く笑顔を浮かべることに成功していた。

 一寸の隙も無いその容姿に見とれ憧れる者もいれば、嫉妬で益々冷たく当たる者もいた。

 エドゥーの気まぐれな行動も、イザメリーラの美しさに目を留めた男の、ごく自然な行動だった。

 だがイザメリーラは、自分が他国の王子に注目される理由を、今一つよく分かっていなかったのだが。

 

 イザメリーラは扇で憂鬱な顔を隠しながら、ハァと大きなため息をついた。

 ガオザンとリパーフには先日、未だ未解決の三人の王子が巻き起こす未来を、もうすでに話してあった。

 オリアナ姫と結ばれる云々や、汚名返上の理由でアンデッド王国へ宣戦布告する云々はあえて教えなかったが、今夜の花火大会でエドゥーが暴れて町を破壊するなどの厄介な事案は伝えてあった。

 だから、今夜の最大の厄災であるドラゴン王子に誘われてしまい断れなかった旨を伝えると、ケモ耳王子は「はあ!? 何やってんだよ!?」と吠えた。

 悪魔王子の方はというと、冷静にフゥと息を吐き、目を細めた。


「ふふふ、私の誘いを断ったりしたからね、まあ自業自得じゃないかな? 私と約束していたのなら、何とかしてあげたんだけどねぇ」


「ガ、ガオザン様…!」


 さすが腹黒悪魔王子! やはり根に持っていたか!

 にっこり美しく微笑むガオザン王子は、フェミニストと評判の、とっても優しそうでスマートな美麗な男性だ。

 だが、見た目と違って、私にだけは意地が悪い。そして、どうやら執念深い。

 まるで天使のような美しい微笑みを浮かべていても、腹の中は真っ黒なのだ。

 残念そうに眉を下げているけど、内心はざまあみろって思ってるんじゃなかろうか。

 先日、私を花火に誘ったのにも何か裏があったのかもしれない。

 何を思って誘って来たのかは、謎だ。


 その時、いつも明るいリパーフがイザメリーラの肩をバンバン!と元気よく叩いた。


「まあまあ、そう心配そうな顔すんなって! 必ずしもお前の言っていた通りになるとは限らないってお前らも言ってただろ? それに、先を見通せるなら、防ぐことも出来るだろうしな!」


「リパーフ様…」


「よーし、俺に任せろ! あいつとは、ちゃんと一回勝負して、どっちが上か決着つけたいと思ってたんだ。あいつの人を馬鹿にしたような、見下す態度がどうにも気に食わなかったから、ちょうど良かったよ。俺も一緒に行ってやるから、安心しろ!」


 「なっ!」と、励ますように明るく笑って、肩を組まれた。

 んん? それって…?

 一瞬、リパーフの目が鋭くギラリと光ったように見えたのは、気のせいだろうか?

 なにやら一抹の不安が胸をよぎる。

 「防ぐ」とか言いながらも、暴れたエドゥーを迎え討つこと前提になってるような?

 こいつ、連れていって大丈夫か!?

 巨大ドラゴンの破壊力は凄まじかった。

 あの暴れっぷりは、リパーフが暴走した時の比じゃない。

 だから、まずは、絶対に怒らせない!

 そして、もしも最悪、怒らせてしまったとしても、なんとか被害を最小限に抑えて怒りを静めて竜化を解く!

 武力で抑えようなんて無茶はダメだ!


 はっきり言って、竜人族に比べたら、アンデッドは無力だ。

 同じ竜人族でも、ライザになら勝てそうな気がするけど、竜人族はこの世界最強の戦士。

 リパーフがいたら事態が収束するどころか、余計に悪化してしまいそうな予感がしていた。

 喜んでいいのか、どうなのか。しばらく微妙な顔で固まっていたら、ガオザンが苦笑して、やれやれと首を振った。

 そして、私の耳に口を寄せ、甘い声で囁いた。


「私は正直、まだ君達の言う未来を信じたわけじゃない。だけど、今夜は私もお供するよ」


 腹黒で意地悪だれど、意外にもガオザンは面倒見がいいのだ。

 先日は、雨に降られて、濡れネズミになった私たちを、なんだかんだと助けてくれたし。

 弟のキフェルによく懐かれてるのは知ってるし、昔から弟の面倒をよくみる良いお兄ちゃんだったようだ。

 意外にも、世話焼きなお兄ちゃん気質なのかもね。



 



 薄闇に包まれた夕刻。

 エドゥーが用意してくれた馬車が待ち合わせ場所に到着してドアが開かれると、私の前に、スッと大きな手が差し出された。

 冷徹な眼差しがイザメリーラを見上げ、目が合うと、金色の瞳がわずかに細められる。


「フン、やっと来たか、遅いぞ」


「あら、お待たせしてしまってすみません。ありがとうございます」


 イザメリーラは真っ赤なドレスをたくし上げ、もう片方の手を差し出されたエドゥー王子の白い手袋をした手の平に乗せようとした。

 だが、腰がグイッと後ろに引かれる。

 ガオザンが素早い身のこなしでイザメリーラよりも先に降りると、イザメリーラの手を取り馬車から降ろす。

 そのあとから続いて金の髪をなびかせたリパーフも地面に降り立つ。

 さらにシュレイ様もリパーフに手を引かれ、優雅に馬車から降りた。


「なっ!? …これは、どういうことだ? なんでお前らがいる!?」


 その後に到着した別の馬車から、それぞれの護衛と従者が続々と降りてきた。

 イザメリーラだけを誘ったつもりのエドゥーは、目を見開いた。


「お誘いいただきありがとうございます、エドゥー様。ほら、大勢の方が楽しめますでしょう? だから、皆様をお誘い致しましたの、うふふ。あっ…あの、もしかして、いけなかったでしょうか…?」


 イザメリーラは心細げに胸に手を置き、上目遣いにエドゥー王子を見上げた。

 両脇にはガオザン王子とリパーフ王子。リパーフ王子の横にはシュレイ様もいる。

 そしてその後ろには彼らの従者と護衛がズラリと並んだ。

 馬車が去り、私は周りをキョロキョロと見回した。

 見晴らしのいい小高い展望台からは、遠くに明かりを灯し始めた町が広がっている。

 背後は林。そのまた後ろはさらに高い山々が続いているようだ。

 オリアナ姫がマテウスに指定したオリアスの丘はここから6キロほど離れた場所にあり、町の反対側だ。

 ここで騒ぎが起こっても、きっと気付かないだろう。

 二人を邪魔しないように、あえて私はこの場所を指定した。

 事前にレンバートに頼んでおいたので、ちゃんと人払いもされているから、私達の他には全く人の気配はない。

 エドゥーが暴れても被害が少なく済みそうなこの場所を調べて教えてくれたのもレンバートだ。

 いやあ、まったく、彼は優秀だね! 他国でこれほど動けるなんて!

 文官にスカウトした私も鼻が高いよ!


「申し訳ありません、エドゥー様。お気を、悪くなされましたか…?」


 ヒロインに負けてはいられない!

 悪役だってやるときゃやるよ!?

 指を胸の前で絡め、人より大きなおめめをウルウルさせてエドゥー王子を見上げてみる。

 交流会初日に初めて会った時のオリアナ姫がお手本だ。

 あの時のオリアナ姫の大きな瞳に涙をにじませたあの表情は、とっても可憐で庇護欲を誘った。

 あれを見たリパーフは、理由も聞かず私を糾弾したからね!

 

 イザメリーラの真っ白い陶器のような肌と神秘的な紫がかった流れる銀髪。作り物のようにすべてが整った艶やかな容姿に、エドゥーは息を飲む。

 琥珀色の輝く大きな瞳がジワリと潤んだのを見て、ジリ…と後ずさった。


「…ぐっ! フン、まあいい」


 エドゥーは奥歯を噛みしめて怒りを堪え、許した。

 ふぅ。

 私はホッと息を吐いた。

 ドラゴン王子の怒りの沸点は小学生並みに低そうだから、気を付けなければならない。

 彼は威厳があり王に相応しいとか、カリスマ性があるとか言われているが、私から見れば、取っつきにくくて気難しい俺様!だからね。

 だが、強大な魔力と武力を秘めていることは確かで、威圧を浴びせられると、体が動かなくなっちゃうんだよね…そこがちょっと困りどころだ。

 私と戦闘力が違いすぎるせいか?

 いざという時に、みんなを逃がす準備だけはしておこうと気合を入れる。


 エドゥーに誘われたあの後、よくよく考えてみたら、実は、これってラッキーな事だと気づいた。

 今回は関わるなって言われてたから宿屋に引っ込んでるつもりだったけど、隠れて自分の身を守るだけなんて、絶対、後悔する。

 役に立てないだろうとは思うけど、関わらずに後悔するより、関わって後悔した方がまだいい。

 馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけど、死んでも治らない馬鹿もいるのだ。

 

 前回は結局、オリアナ姫に、今回は他国の王子2人とシュレイ様に甘えてしまった。

 前世では1人で頑張り過ぎちゃうところがあったけれど、今世ではいろんな人たちの力を借り、何度も助けられている。

 幼い頃から周りには頼れる大人がたくさんいて、適材適所、それぞれが得意分野を受け持ってくれて助けてくれた。

 自分一人で頑張るよりも、得意な人に任せた方が手際よく対処してくれることを知った。

 アンデッド王国の貴族たちは私が知り得なかった情報を仕入れてくれたし、コネを使って他国で融通をきかせてくれた。

 今回のメンバーでは、知力ではレンバート、外交力ではマテウス、武力ではエミリ、護衛騎士が優れている。

 私はというと、特に貢献できる所がないから、足手まとい?

 ただ、王女という身分があることと、ロージス神から直接、未来のお告げを見せてもらっているから大まかな未来が分かるっていう利点がある。

 だがそれも、もう10歳の時に詳細なレポートを提出して知っている事のほとんどを伝えてあるし、エミリの方がよく覚えているから、そこでももはや役に立ってない!?

 これじゃあ、エミリに大人しく引っ込んでいるよう言われてしまうのも仕方のないことだよね。トホホ…

 しかも、今回の相手はこの世界最強の人種、竜人族!

 そもそも人間並みの戦闘力しか持たず、魔法を扱えないアンデッドなど、到底太刀打ちできない相手だった。

 リパーフが行くと聞いて、シュレイ様までついて来てしまったのは誤算だったけど。


「イザメリーラ様の危機を黙って見過ごせませんわ!」


と、男前な気概を見せてくれた。

 リパーフ王子の求婚を断ってガッカリさせてしまったのに、前回の獣化事件を恩に感じてくれているようだった。

 結局、解決できたのはオリアナ姫のお蔭なのに。

 ううっ、ありがたい。

 シュレイ様だって、充分戦力になる!

 前回は麻酔銃型魔道具っていう反則武器を使ったから勝てたわけで、剣で対抗していたら、一捻りでやられちゃってたはずだ。

 今回も当然、ちゃんとドレスに武器が仕込んである。

 ああ、しかし、もどかしい。

 本当だったら、みんなをこんな危険にさらさなくっても済んだはずだったのに。

 エドゥーが聞く耳を持ってくれてさえいれば良かった。

 彼の護衛が信用ならないことを伝えて、用心してもらうだけで済んだはずだったのだ。

 エドゥーは護衛よりも誰よりも強いのだから、未来を知って、気をつけてさえいれば悲劇は避けられるはずだ。

 だが、残念。

 やはり俺様。

 エミリ談「人の話を聞く耳は、全く持ってはいなかった」そうだ。

 だが、彼の気持ちも分かる。

 私だって、もしボイルとベントのどっちかが裏切者だから気を付けろって他国の者に言われたとして、到底信じられないからね。


 エドゥーの後ろに控えるごつい護衛二人をちらりと横目で観察する。

 二人とも筋骨隆々の厳つい大男だ。

 うわー、なんなの、この人達! めっちゃ強そう!

 乙女ゲームでは、はっきり顔が描かれていなかったように思う。

 二人の顔を見ても、どちらも見覚えがなかった。

 この二人の内、どちらかがエドゥーの姉につく裏切り者のはずだ!

 …うーん、一人は目つきが鋭く狐のよう。もう一人は犯罪者のような悪人面でコワイ。

 人相で犯人を特定するのは無理そうだった。


 ガオザンとリパーフは普段通りの様子に見えるが、シュレイ様やエミリ、ボイルとベントは警戒の色が隠せていない。

 かく言う私も、笑顔を浮かべながらも、緊張で背汗が止まらないよーー!



 予期せず大勢の観客らと共に花火を見ることになってしまったエドゥーは、不機嫌な顔を隠そうともしていない。

 ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえ、皆が距離を取って彼を遠巻きにしていた。

 だが、エドゥーはそんな顔をしながらもイザメリーラの隣に並ぶと、距離を縮めようと近づいた。

 堅物に見える彼も、美しい姫と仲良くなりたかったようだ。



「…もう間もなく始まる時刻のようだな。もっとこっちに来るがいい」


 ちらりと流し目を寄越して、イザメリーラの肩を抱き寄せようと手を伸ばす。

 だがそこで、ガオザンがパチリと指を鳴らし、魔法で素早く自身とイザメリーラの体を入れ替えた。

 エドゥーはガオザンをグイっと抱き寄せる。

 ギュッと肩を寄せ合う二人。

 周りはギョッと目をむいて二人を見た。

 エドゥーは気づいていない。

 自身がガオザンを抱き寄せていることを。

 美麗な男性二人が寄り添う姿に、シュレイ様の侍女が「きゃあ!」と、顔を真っ赤にして鼻を押さえた。

 彼女はBL好きの素養がありそうだ。

 そういう私も、口からよだれと一緒に血が垂れてしまわないよう、ギュッと口を引き結んで、念のためハンカチで押さえる。 


「ハァ、やめてくれないか、エドゥー」


 ガオザンがそう言うと、エドゥーはギョッと横を見てのけぞり、ガオザンは不機嫌な顔で肩にかかったエドゥーの手を外した。

 エドゥーの肩がブルブルと震え、怒声を飛ばす。


「き…貴様ぁ、ふざけるなーっ!! 呼ばれてもおらぬのにのこのこ現れたと思えば、何を考えている!?」


「ふざけているのは君だと思うけど? レディーを誘うのに威圧で脅して断れないようにするのは反則じゃないかな? 元々は私が誘っていたんだ。君が強引な手を使わなければ、彼女は私と花火を見る予定だったんだからね」


「なっ…!?」


 驚愕の表情でガオザンを見つめるエドゥー。

 口を開けたまま、言葉が出てこないようだ。

 俺様で最強のエドゥーに逆らう者は、今まで一人もいなかったのだろう。

 ガオザンはそんな彼には目もくれず、先程までエドゥーの手が乗せられていた肩を、汚らわしい物を払うかの様にハンカチで叩いた。


「ぐっ、この、おまっ…!!」


 エドゥーは顔面を真っ赤にして口をわななかせている。

 

「…な、なんたる無礼なっ! ぐぅ、ゆ、許せぬ!!」


 怒りのあまり真っ赤な顔で涙目になったエドゥーの頭上には、禍々しい青い色の魔力のオーラが渦巻いていた。

 それを見ても、余裕の顔でニコリと微笑むガオザンの全身から、紫色の魔力がゆらゆらと立ち昇る。

 アンデッド御一行は、その様子をじりじり後ずさりながら、呆然と眺めていた。

 うぉぉぉーい、これって、どうなってるのーー!? 

 あんた、喧嘩っ早いリパーフが心配だからって、ついて来たんじゃないんかーい!?

 あんたが喧嘩吹っ掛けてどうすんだよーっ!?

 恐ろしいので、心の中だけでツッコミを入れる。


 

「ちょ、おまえら、落ち着け! なっ!?」


 珍しく余裕のないリパーフが二人の間に入って、手をバタバタと振った。

 

「エ、エドゥー様、ど、どうかお静まりくださいっ」


 エドゥーの従者がエドゥーの前に立ち、焦りながら彼に縋りつく。

 みんなの目は対峙するエドゥーとガオザンに向かっていた。

 魔力を放ち一触即発の二人に全員の視線が向かった時、エドゥーの従者の一人が、これはチャンスと、剣の鞘に手を掛けた。

 そして一気に剣を引き抜くと、エドゥーへと瞬時に距離を詰める。


 この時、私はというと、大人数でこの場に訪れたこともあり、今回、刺客は暗殺を躊躇するのではないかと考えていた。

 この場での決行を事前に決意していたとしても、各国の護衛騎士らが見守る前では、さすがに大人しくしているだろうと。

 だが、その考えは甘かったのだ。

 皆の目が自分から離れた一瞬を狙って、刺客は容赦なく暗殺を実行したのだ。


「あっ!!」


 動体視力と聴覚に優れたケモミミ一向が最初に気付いた。

 灰色髪のリパーフの従者がサッとエドゥーの前に割って入った。

 ガオザンの護衛が魔法使いが持つような短い木の棒を、一瞬怯んだ刺客へと向ける。

 男の体が宙に浮かび、すぐさま地面に叩き落された。


「ぐはっ!」


 男は唸り声を上げ、地面に仰向けに倒れた。

 近くにいたリパーフが剣を持つ手を踏みつけ、男を取り押さえる。


「大人しくしろっ!」


 男は歯を食いしばり暴れるが、ケモミミ達が一斉に飛び掛かり、太い鎖でグルグルと縛り付ける。

 鎖を引きちぎろうと男は暴れる。だが、鎖が切れる様子はない。

 私は男の顔を見た。

 犯罪者のような悪人面の方だった。

 こっちが裏切者だったか…

 

「こ、これは、どういうことだ!? 何故だ! 何故、お前が我に剣を向けた!?」


 エドゥーがフラフラと男に近づく。

 男は悔しそうに顔を歪ませ、主を見上げた。


「ふっ、すべては、カルツィ姫様のため…!!」


「なっ!? お前は…」


 エドゥーは驚愕の表情で男を見下ろす。

 その時、ドドーン!と大きな音が夜空に轟いた。

 皆が一斉に音の方を見やった。

 夜空に大きな光の粒が花開いた。

 前世で見たのと同じ、白や黄色、赤や青。色とりどりの大きな丸い花火が次々と上がり、花火大会の開幕を告げる。

 

「危ないっ!」


 花火に見入っていた一同が、緊迫した青年の声に、一斉に振り返った。

 えっ、嘘…!?


 エドゥーを庇うように彼の前に立った従者の青年の体に、剣が深々と突き刺さっていた。




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