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39. オリアナとマテウス

 世の中は未知のウイルスのせいで大変な事態になっていますね。

 そのせいで、忙しくて執筆がはかどらず、またも遅い投稿となってしまいました(泣

 早い収束をお祈りしています。



 オリアナ姫は胸に手を当て、長いまつ毛を伏せた。


「幼い頃から、私は人の心の中の闇が見えるのです。闇の深い人は、体から黒いモヤのような霧のようなものが染み出て見えます。おせっかいかもしれませんが、そんな人々を、私は放っておけないのです。私の力で、少しでもその闇を消せたら…そう思うのです」


 マテウスは黙ってオリアナの言葉を聞いている。

 

「マテウス様…。あなたの闇はとても大きく、全身を覆うほどの大きなモヤが溢れ出てきています。とても苦しいでしょう? 私なら、あなたの力になれる。…そう思いませんか?」


「オリアナ様…」


 マテウスは図星を突かれた顔で、ジッと彼女を見つめた。

 オリアナ姫は大きな瞳で背の高いマテウスを見上げ、慈愛を湛えた微笑みを向ける。

 

 そうか…!

 ゲームの中でオリアナ姫は王子らが悩みを抱えているのを見抜き、自らそれに飛び込んで救っていた。

 悩みの内容は分からずとも、彼らの抱える闇の大きさ、つまり悩みの大きさが見えていて、どうにかして助けたいと思って行動していたのか!

 本来なら、マテウスの悩みはアンデッドが他国より蔑まれ、不利な貿易の条約を結ばされていることだった。

 しかし、今現在はそんな不平等な貿易はしていないし、アンデッドを蔑む者は全くいないとはいえないが、半数以下だろう。

 だから、マテウスの悩みは、すでに解決済みだと思っていた。

 オリアナ姫の気を引くため、別の悩みを捏造しなければと思っていたほどだ。

 だが、違った。

 悩みならあるじゃないの!

 それも、以前よりも、ずうっと大きな悩みが!!

 マテウスはロージス神の言葉を聞いた私とエミリによって、アンデッド王国の未来を知ってしまった。

 6通りの未来の内、平和的に解決するのは、たった一つで、後はすべてバッドエンド。

 しかもバッドエンドの中の一つは、魔法世界の滅亡だ!

 アンデッドはもちろん、魔力失くしては生きられないたくさんの動物や植物、それを糧にして生きていた者達が死に絶える。

 抱える闇の大きさでいえば、攻略対象の王子らの中で、マテウスがダントツの第一位。

 オリアナ姫が彼らの中で、一番にマテウスを気にかけ、そうしているうちに恋心を抱くようになってしまったのは、無理もない展開だ。

 うむ。

 オリアナ姫って、見る目あるじゃん。

 マテウスは攻略対象者の中で、アンデッドってのがちょっとネックなだけで、そうとは思えないほど綺麗な顔をしているし、性格も一番まともでいい男だもんね!…って、これは幼馴染のひいき目か?

 とにかく、マテウスを誘ったということは、マテウスルートが確定したということ!!

 事前に練っていた私達の作戦は成功したのだ!

 これは国をあげて盛大な宴を催さねばならぬほどの、めでたい事態だ。

 マテウスルート以外はアンデッド王国滅亡への道へと続くから、それを防ぐためには、マテウスルートに進んでもらうしかなかった。

 マテウスには気の毒なんだけどね。

 そう、彼はこのルートを拒んでいた。一時期、あんなにグレるほどに。

 ごめん、マテウス…

 マテウスの心中を思ってなのか、めでたい事態なのに、何故か私の心は暗く重くなる。


「ねえ、マテウス様、どうなさったの? 私と一緒に…花火を見てくださいますか?」


 不安気にまつ毛を揺らすオリアナに、マテウスは小さく頷いた。

 オリアナはパッと顔を輝かせ、マテウスに駆け寄る。

 そっとマテウスの胸に触れ、嫌がらないと分かると、愛しそうに胸に顔を寄せた。

 可憐な美少女と、青白い顔をしていても背が高くスラっと男らしい体格の美男が寄り添うさまは、絵画のように美しい。

 その時、誰かが私の腕を掴んだ。


 え!?

 またまた腕を掴まれた!

 これで本日、三回目だ。

 今度は誰よ!?


 不機嫌に振り向くと、厳しい顔をしたレンバートが私の腕を掴んでいた。

 思わず驚きの声を上げそうな私に向かって、レンバートは人差し指を立てて自身の口に当て、黙るよう合図をした。

 そして、ハッとする。

 あれ? 私、今、何を…!?

 いつの間にか知らないうちに、私は先程まで隠れていた建物の影から出て、オリアナ姫たちから見えそうな位置まで出てきてしまっていた。

 レンバートは腕を引き、私を再び建物の影へと引き入れる。


「やだわ、私ったら、何をしているのかしら…?」


 今、私が出て行ったりしたら、心優しいオリアナ姫のことだから、発言を撤回してしまうかもしれない。

 せっかく二人をくっつける作戦が成功したというのに、台無しにしてしまう所だった。

 首を捻って自身の行動を不思議に思いながらも、今度はちゃんと隠れたまま、再び二人の観察を続ける。

 レンバートはそんなイザメリーラとマテウスを、悲しい顔で見ていた。



 ----------



「いやいや、ちょっと待ってよ。なんで私が責められてるの?」


 訳が分からず、首を捻ってマテウスを見上げる。

 彼の意に反してマテウスルートへと進んでしまったからなのだろうか?

 マテウスは何故か、かなり機嫌が悪い。

 普通の男性だったら、世界樹の巫女で、あんなに可愛らしい王女に誘われたら、舞い上がって大喜びしちゃうと思うんだけどな。

 ホントに彼女一筋なのねー。一途だわー


「婚約者がいながら男に色目を使って…! 責められるのは当然だろ!? なんで俺との婚約を政略的婚約なんて言ったんだ! 自分からつけ入る隙を作ってどうする!?」


「ううっ、それはうっかりっていうか、悪かったわ! 別に色目なんて使ってないんだけど…。ごめん、ちょっと、気が緩んでたみたい。でもさ、そのせいで、オリアナ姫が気楽に誘える雰囲気になったんじゃない? マテウスは不本意だろうけど、これでアンデッド王国が救われたわ。…だから、まあ、結果オーライ?」


 私は見下ろすマテウスに向かって、上目遣いで小首を傾げた。


 ケモミミ王子とシュレイ様、オリアナ姫、ガオザンが朝食を食べ終え迎賓館へと帰ったあと、私は何故か宿屋の自室で椅子に座らされ、目の前で仁王立ちしているマテウスに責められていた。

 なぜだ!?

 怒りを鎮めてもらおうと、あざとく小首を傾げる私に、「うっ」と一瞬、怯んだようにも見えた。だが、再び端正な顔を歪め、プイっとそっぽを向いた。

 ありゃりゃ…

 いつもなら、もっと動揺して顔を赤くして沈静化するところだけど、今回は沸点がかなり上がっていたようで、誤魔化されてくれない。

 そっぽを向いたまま、ボソッと低い声で呟いた。


「…それで、リパーフ王子に、なんて返事をしたんだ?」


「え? リパーフに? そりゃあ、はっきりきっぱりお断りしたわよ?」


「ほ、本当か!?」


「ええ、もちろん。今はそんな場合じゃないしね」


 「当り前よ」と頷いて、「ねえ?」と、エミリとレンバートに同意を求める。

 彼らはしっかりと頷いた。


「そ、そうか。ま、それならいいんだが…」


 マテウスは硬い表情を崩す。

 だが、再び口を開いた私に、驚愕の表情をした。


「…でも、なぜかそのあと、ガオザン王子から一緒に花火を見ようって誘われちゃったのよね。いったい、何を企んでるのかしら…」


「はあ!? どういうことだ!?」


「分からないわ。どういうことなのかしら…?」


 顎に手を当て考える。

 ガオザンは初めて会った時には、私に対し、敵意むき出しだった。

 大事な弟をかどわかす悪い女だと思われていたはずだ。

 それから、好かれるようなことは何もしていないのに、何故か会うたびに態度が軟化しているみたいだった。

 常に優し気に微笑んでいるが、彼が優しいだけの人…っていうか、悪魔だったわ。優しいだけの悪魔じゃないのは、何となく分かる…って、何を言っているのか、自分でもよく分からん。

 悪魔が優しくないのはデホォなのか?


「…やっぱり、『神のスキル』のせいかしらね? それ以外、私を選ぶメリットなんて、何もないと思うし…」


 いくらオリアナ姫に振られちゃったとしても、王女や貴族の令嬢など、今この国に集まる人たちや、それ以外にも、国内でも国外でも、ガオザン王子ならばお相手はわんさかいるはず。

 わざわざアンデッドの私に気のある素振りを見せる理由が全く分からない。

 しいてあげるなら、私が持っている『神のスキル』だ。

 それでも、一夫多妻の制度がなく、一人しか妻を娶れないザータン王国の王子が、気味が悪く、魔法も使えないアンデッドをわざわざ選ぶ理由には、弱い気がした。

 からかって、面白がってるだけなのかな?

 一国の王子が公式の場で、よその国の王女をナンパしないと思うんだけど…

 マテウスは溜息をつきながら、私の両肩に手を乗せる。


「…くれぐれも、隙を見せるなよ? ガオザンを含め、俺意外の男を近寄らせるんじゃない。分かったな?」


 彼のセリフと近づいた顔に、頬がカッと熱くなる。

 長いまつ毛で縁どられた涼し気な目元が、威圧的に細められる。

 深い青の鋭い瞳に見つめられて、胸がドキンと鳴った。

 あ、あれ?

 ちょ、ちょっと、なんでこんなにドキドキしてんの?

 これじゃあ、まるでウブな女の子みたいじゃない!?

 いや、精神年齢はずいぶんいっちゃってるけど、恋愛経験は皆無だから、実際ウブなんだけどさ!

 昨日、馬車の中で抱きしめられた時は、これほどにはドキドキしなかったのに~!

 その時の事を思い出して、ますます熱くなってきた。

 うむ、マズイ!

 いつもはドギマギするマテウスを見てからかう方なのに、今日のマテウスは怒りのせいか、照れがない。

 反対にこっちがドキドキさせられてしまう。

 恥ずかしいのを誤魔化すために、おちゃらけた口調で言い返すことにした。


「もう、なーに言ってるのよ? 好き好んで寄ってくる男なんていないって! 今まで、スティーバさんからしかモテたことないから、ぜーんぜん大丈夫よ。それより、マテウスったら、どうしちゃったの? そんなに私が心配? あー、分かった! 私の事が好きなんでしょう!」


 マテウスは眉間に皺を寄せハァーと息を吐き出すと、肩から手を離した。


「二人きりになりたいから、ちょっと出ていてくれ」


 エミリとレンバートはやれやれといった顔で私を見た後、軽く会釈をすると、部屋から出て行こうとする。


「ちょっと待って! ここに残って! 出てっちゃダメ!」


 慌ててそう言ったのに、二人は聞こえていないかのように、無視して部屋から出て行ってしまった。  

 なぜだ。

 私、王女だよね???

 自分を王女だと思い込んでる中二病の人じゃないよね?

 どうしてマテウスの言う事は聞いて、私の言う事は聞かないのよーーー!!

 

 コツコツとマテウスが部屋の中を歩き回る靴音が響く。

 私は叱られている子供のように、椅子の上で小さくなっていた。

 しまった。

 ただでさえ機嫌が悪いのに、おちゃらけた態度が逆鱗に触れてしまったようだ。

 でもさ、そんなに怒る事ないじゃん?

 オリアナ姫とは、ただ花火を見る約束をしただけでしょ?

 結婚の約束をしたわけじゃない。

 マテウスルートに突入しても、違う結末にもっていくチャンスは、まだあるはずだ!


「あ、あの…、まだ挽回のチャンスはあると思うの。ちゃんと好きな子と結ばれるように、私も頑張るからさ。そんな怒らないで?」


「…スティーバとは…」


「え?」


「…スティーバとは、何があったんだ?」


「…へ?」


 私は間抜けな顔でマテウスを見上げた。

 何故そこが気になるのかは分からなかったが、別にやましい事は何もないので、洗いざらいあった事を話した。アリサには内緒だと付け加えて。

 まだ不機嫌な顔のままだが、少しは緩んだように見えたので、ホッとした。

 

「悪い男に引っかからないか心配してくれてるの? 私に寄って来る男は、だいたいスキル狙いか、何か企んでる奴ばかりだから、ちゃんと警戒してるし大丈夫よ?」


 ハァと疲れた顔で、またもため息をつかれた。


「何も企んでない奴がきたらどうするんだ? お前の美しさや優しさ、知性や強さや寛容さに惹かれたんだとしたら?」


「プッ!」


 思わず吹き出してしまった。

 何を言い出すかと思いきや、ありえないって! 

 私は、あの、悪役王女のイザメリーラだよ?

 血色悪く、目の下にクマを作った不気味な顔で、血をまき散らして悪態をつく、あの気持ちの悪い悪女だよ?

 このキャラが一番大嫌いだった。

 なにを好き好んで、こんな女に好意を示す男がいるんだっての。


「アハハ、ありえない! そんな人がいるなら見てみたいわ。まあ世の中には、スティーバさんみたいな物好きな人が、他にもいるかもしれないけどね」


 残念なことに、彼みたいな変わり者は、もう現れないかもしれない。

 彼の気持ちに気付かず、まんまと逃してしまった。

 アリサから奪い取るつもりは毛頭ないし、一生独身も覚悟してるくらいなのに。


 マテウスは真面目な顔で私の前にしゃがみ込むと、手を取った。


「…ここにいるが?」


 私は首を捻る。


「へ? なにが?」


 マテウスは優雅に私の手の甲にキスを落とした。

 ふぁ!?!?

 

「いやいや、だから、勘違いしちゃうって!」


「イザメリーラ、君を、正妃にしたい…」


 手を引かれて立ち上がった私を抱きしめると、マテウスは耳元でそう囁いた。






「姫様! いい加減、顔を引き締めてください。口をお閉めにならないと、先ほどからずうっと垂れておりますよ!?」

 

 甲斐甲斐しく侍女に口周りの血を拭われ、ハッと我に返る。


「あの…エミリ、マテウスが変なんだけど…?」


「マテウス様が変なのは、今に始まったことではございません」


「エミリ?」


「幼い頃から、恋の病にかかっておいででしたから」


 エミリは知ってたんだ…?

 自意識過剰かと思ったけど、やっぱり思い過ごしじゃないよね?

 マテウスは、もしかしてずっと私の事を…?


「…でも、そんなの、初めて聞いたし」


「ええ、ずいぶんなヘタレでいらっしゃいますからね」


 エミリは床に落ちた血を拭きながら冷たく答える。

 まあ、早い段階で言っても、相手にされなかったでしょうがね…と、心の中で苦笑した。

 ここに来て、やっと危機感を抱いたとみえる。

 さすがにこのままでは、よその王子にかっさらわれてしまうと思ったようだ。

 さて、姫様はどうされるでしょうか…?

 どう転ぶとしても。エミリは血で汚れてしまったドレスを着替えさせるため、新しいドレスを出しながら決意を新たにする。

 アンデッド王国ももちろん大切ですが、私は、主の幸せを一番に願っておりますからね。



 

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