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33. ガオザン・ポイフェイ



 ここからは歩きで移動だ。


 レストハウスを出てからは、大きな塊になって行動することとなった。

 その周りを騎馬兵がズラリと取り囲んで護衛していた。

 途中で細いつり橋を渡る都合で、ここからは馬車に乗っては行けないのだ。


 私は日傘を差し、エミリと護衛の騎士2名と共に、塊の最後尾をてくてくと歩く。

 踵の低いブーツを履いているので足が痛くなる心配はない。

 それに、長年戦闘訓練を続け、一向に剣の腕前は向上しないかわりに、体力だけはしっかりとついた。

 少々険しく長い道のりでも、問題なくついて行く自信がある。


 老齢な王や王妃、あるいは普段運動など全くしていない、か弱い令嬢は籠に乗って運んでもらっているようだ。

 それ以外にも騎馬兵でもないのに馬に乗る王子がいた。

 前に婚約者を乗せて2人乗りをしている。

 仲睦まじい。

 婚約者がいても別行動をしている私に見せつけているのかな? …と思うのは被害妄想でしょうか?

 

 どうやら馬での移動を許可されているのは、この国の国王と親交の厚い国の王族らで、王に気に入られている者達だけが特別待遇を受けているようだ。

 当然、私達アンデッドに馬はあてがわれない。

 先頭を行くオリアナ姫とそれを取り囲むいつものメンバーは全員、馬に騎乗している。

 当然の権利のようにオリアナ姫は王子と2人乗りをしている。

 今回、彼女と共に騎乗する栄誉を勝ち取ったのは、冥界のギュレス王子だ。

 ほう。

 彼の名が出るのは、この国に来た初日以来だね。

 あの時は殺害を思いとどまったので、彼はまだ無事にピンピンしている。


 彼を世界樹に近づけるのは危険だと思うんだけど。

 ゲームの中では毒薬を使って世界樹を枯らしてしまった。

 でも今日はみんなの目があるから、さすがに大丈夫かな?

 ちなみに先頭集団は遥か先を進んでいて肉眼では見えないので、これらは双眼鏡を覗くエミリが、事細かに実況してくれて分かったことだ。

 

「あの集団は相変わらず楽しそうに盛り上がっていらっしゃいます」


「じゃあ、マテウスも?」


「はい。マテウス様もオリアナ様のお隣に並んで、楽し気に会話していらっしゃいますね」


 

 しばらくは何事もなく進んでいたのだが、突然、先陣から悲鳴が上がった。

 慌てて双眼鏡を構えるエミリ。


「ああっ、姫様! 魔獣が現れたようです! 戦闘態勢に入りました!」


 ギョッとして身構えたが、すぐにエミリは告げる。


「あ、でも、あっという間に倒された模様です。リパーフ様が得意そうに獲物を掲げていらっしゃいます」


「なあんだ、良かった。ふふっ、彼も相変わらずね」


 見なくても、光景が目に浮かんでくる。

 しかし、獣人族にとっては普通の事かもしれないけど、一般の令嬢は血だらけの獲物を見せられても困惑しちゃうと思う。

 オリアナ姫は大丈夫かな?


 それからも何度か魔獣が現れた。

 だが、先頭集団によってすべて瞬殺され、私達は順調に森の中の道を進んだ。

 攻略対象の王子らは血の気の多い強者が揃っている。

 彼らに任せておけば、そこいらの魔獣なんかが襲い掛かってきても何なく処理してくれそうだ。

 明日は我が身の気がしてならないが。



 

「姫様…、天気が怪しくなってまいりました」


 エミリが心配そうに空を見上げる。

 午前中、あんなに晴れていた空に、いつの間にか厚い雲が覆い始めた。

 先頭を行く彼らも気づいたようで、馬を急かせ、わき道に逸れる。

 みるみる空が暗くなり、ポツリポツリと雨粒が落ちてきた。

 私も足早に馬の後を追う。

 そして、一気に雨が激しくなった。

 短時間に激しい雨が降る、夏特有のスコールだろう。

 すぐに止むとは思うけれど、雨がしのげる場所に避難しなくては!

 走って走ってやっと追いついて、先に行った者達が雨宿りしている突き出た岩の下に到着した。

 歩きの者や籠に乗った者も私達の後から遅れてやって来た。


 私は老齢な王や王妃、ひ弱そうな令嬢を先に岩の下へと誘導した。

 そして、アンデッド一行が最後に岩下へと入ろうとしたその時、1人の王が大声でそれを制した。


「もうここはいっぱいだ! お前らは他へ行け!」


 …え? と固まる。

 確かにぎゅうぎゅうと身を寄せ合って狭そうだが、あと4人くらいは詰めれば何とか入れそうだ。

 気にせず彼らに近づくと、「止まれ!」と言ってその王の護衛の1人が剣を鞘から引き抜き、剣先を私へと向けた。


 なっ!

 なんだとう!?


 抜かれた剣を見た令嬢が「きゃあっ!」と恐怖の叫び声を上げた。

 日傘で避けているとはいえ、上半身はともかくスカートは濡れ、地面から跳ねる雨粒がドレスの裾を汚していく。

 これ以上の被害を受けないために、こちらとしてはなるべく早く雨宿りをしたい。

 しかし、この王…確かベネビリー王国のガーラ王だったかな?

 彼は私に剣を突き付けてでも、ここには入らせない構えだ。

 めっちゃいじわる…!

 

「お前らと接触などしたら、こちらまで穢れそうだ! 不浄な者どもに近寄られたくはないわ!」


 しっしっ! あっちへ行け! と手を振る。

 この意地の悪いガーラ王は、ちょっとお腹の突き出た中年男性だ。

 うーむ、確かこの国は最先端医療が売りの国だったかな?

 数年前までは薬の売上が世界ナンバーワンだったそう。

 しかし最近は芳しくないらしい。

 ああ、やっぱり。

 私を見る目に恨みがこもっている。

 そうとう煙たいみたい。

 目の上のたんこぶか?

 しょーがないじゃんねえ。

 みんなが欲しいのは、効き目が良い薬だ。

 となれば、バラ製薬の薬の方がよく売れる。

 患者を助ける事にもなるので、薬の販売をやめる気はないし。


「刃を向けるとは、物騒ですな」


 他国の王がガーラ王に苦言を呈す。

 また、それを見ていた王妃や王女ら女性陣は、数人が護衛の乱暴な振る舞いに怯え、残りは不満な視線をガーラ王に向けて、ひそひそ話を始めた。


 そこへ、人垣の奥から厳しい目つきのジェイド王と、5人の背の高い美麗な男性に囲まれたオリアナ姫が姿を現した。

 あれ?

 1人足りないような?

 ああ! リパーフがいないんだ!

 さっきまでは元気に魔獣を狩っていたのに、どうしたんだろう?

 ジェイド王は不機嫌そうに眉をひそめると、吐き捨てるように言った。


「何の騒ぎかと思えば、またアンデッドの王女か! 騒々しい!」


 へ? 私?

 えーっと、言っておくけど、ここに来てからはまだ一言もしゃべってないんですが?

 当然ながら、騒々しくしているのは私じゃないですし。

 (おも)にそこのお腹の出たお方なのですが?

 事情も聴かず、またも私のせいにされた。

 またしてもこのパターンかいっ!


 足元ぐっしょりの私達と違って、ジェイド王やオリアナ姫らは少しも濡れてはいなかった。

 マテウスは雨の中に立たされている私を見て、とても驚いた顔をしている。


「私達も雨宿りをさせていただきたいのですが…」


「ここにはもう入る余裕などない! お前達は別の場所へ行け! そのように汚い姿で近づかれては、こちらまで汚れてしまうからな!」


 希望を口にした私に、被せるようにガーラ王が大声で反論した。

 ジェイド王は私の姿を見やり、頷いた。


「ガーラ王の言う事ももっともだな。アンデッドの王女よ。そなたは別の場所で雨が止むまで待つがよい」


「え…」


「え、お父様…?」


 固まる私。

 オリアナ姫は、父王を見上げる。

 ジェイド王の冷たい対応に、各国の王族らはざわついた。

 

 私はギリリと奥歯を噛む。

 冷めた目をガーラ王へと向けギロリと一睨みすると、くるりと踵を返す。

 悔しいけどさ! めっちゃ悔しいけど、しばらくこの国に滞在する身としては、ジェイド王といざこざを起こしたくはない。

 ああー、くっそー!

 アンデッド王国の未来がかかってなかったのなら言い返してやるのに~~~!!


 エミリを見ると、日傘のおかげで顔は濡れていないけれど、足元はもうびしょ濡れだった。

 そしてその顔は感情を抑えすぎたのか、一周回って無表情。

 蒼白真顔のまま固まっている。

 怒るより、こっちの方がかえって恐ろしい気がするのは気のせいだろうか?

 大丈夫か!? エミリ!

 日傘さえも持っていないボイルとベントは頭の先からつま先まで全身ぐっしょり。

 夏だから風邪はひかないかもしれないが、可哀想な姿だ。

 私のせいみたいで心が痛む。

 キョロキョロと周りを見渡して、ここから30メートルほど先にある大きく枝を広げた木の下で待つことに決めた。

 駆け出したイザメリーラのあとを彼女の従者が追った。


 

 ジェイド王の対応を呆れて見ていたガオザンは、横に立つマテウスがブルブルと震えているのに気付いた。

 寒いのか?

 雨には濡れていないはずだし、急にどうした?

 よくよく見れば、握り込んだ手を震わせながら憎しみのこもった眼でジェイド王を睨みつけていた。

 そして、私を押しのけ彼女の後を追おうとした。

 私は肩を掴んでそれを止める。

 

「ちょっと待って。君にしては、ずいぶん熱くなってるね。真面目な君が、婚約者を差し置いてオリアナ姫の側にいるのは、何か理由があるんだろう?」


 たった3日しか見ていないが、彼の性格は何となく分かってきた。

 婚約者をないがしろにされ腹を立てるほど大事に思っているくせに、何故かオリアナ姫の側を片時も離れようとしない。

 今日の昼はほんの少しの間とはいえ、こっそり抜け出して彼女に会いに行っていた。

 その時の彼はオリアナ姫と一緒にいる時よりも幸せそうだった。

 その様子から、彼の行動には何か理由があるのではと考えるようになったのだ。

 

 マテウスはピタッと動きを止め、視線を彷徨わせる。

 そして、何も言わずに俯いた。

 どうも言えない事情がありそうだ。


「君が追って行っても何も解決しないだろう? まあ、いい。私に任せておけ。彼女が濡れないようにしてあげるよ。貸しだからね?」


 私は彼の返事を待たずに雨の中へ飛び出した。


「あっ、ガオザン様、どちらに!?」


 オリアナ姫が細い指を伸ばしてきたが、それには気づかぬ振りをした。

 私はパチン!と指を鳴らし、魔法を発動する。

 ドーム型の透明な膜が現れて、一瞬で体を覆った。

 雨はすべて膜に弾かれ、濡れることはない。

 右手側を見ると、激しい雨に打たれながら駆けて行くアンデッドの姿が見えた。

 私は背中の黒い翼を広げると、空を舞って彼らの前に降り立つ。

 驚いた彼らが足を止める。

 再び指を鳴らし、彼ら全体を覆う大きな膜を作ってやる。

 雨が彼らを避けて膜の表面を流れ落ち、それを見たアンデッドらは目を丸くした。


「な、なんだこれは!? 魔法か!?」


 騎士の男が膜に近寄り観察する。


「大丈夫? …じゃあ、ないみたいだね。こりゃあ酷いな。ずぶ濡れだ」


「え? ガオザン様…?」


 私が微笑むと、アンデッドの王女は琥珀色の瞳を見開き、信じられないものを見た顔をする。

 先日は彼女に辛辣な言葉を浴びせたし、私から親切を受けるなんて思ってもみなかったのだろうね。

 彼女の口をポカンと開けた間抜け面を見て、私は口を押さえてクックッと笑った。

 笑う私に、今度はムッと顔をしかめる。


「な、なんなんですか!?」


「病み上がりなのだろう? なのにそんなに体を濡らして、自分を痛めつけるのが好きなのかい?」


 彼女はハァと脱力してため息をつく。

 私と会話をするのに疲れたと言いたげだ。

 もう一度パチン!と指を鳴らすと、今度は風を起こした。

 彼女らを包む膜の内側に温かい風を送り、濡れた衣服を乾かしてやる。

 しばらくそうして、もういいだろうと風を止めた。

 衣服は乾いたようだが、跳ねた泥はそのままべったりとこびりついている。

 そして、髪はあちこちへと跳ねて大きく広がっていた。

 綺麗に結い上げていた髪が、ボサボサと乱れて見るも無残な状態だ。

 昼に会った時の、隙なく着飾る澄ました令嬢とは、全くの別人のよう。

 あまりにも異なる姿に、私はまたも口を隠しながら喉を鳴らした。

 泥に汚れ、これほどに髪が乱れていては、せっかくの美しい容姿も台無しだ。

 ギャップがすごい。


 彼女は自分の頭に手をやり気付くと、急いで髪を撫でつけて、侍女に手伝ってもらいながら元に戻そうと奮闘する。

 急いで直そうと必死な様子に笑いが止まらない。

 あー、苦しい!

 あらかたマシに戻ったが、笑いはちっとも収まらなかった。

 いつまでも笑いを止めないのが、彼女は気に障ったらしい。


「ずいぶんと笑い上戸なのですね!」


 ジロリと睨まれた。

 恨みがましい声音だ。

 私は笑いすぎて痛めた腹を押さえ、ハァハァと息を荒げながら「いいや?」と首を横に振る。


「はぁ…しかし、てっきり泣いているかと思ったのに、けっこう平気そうだね。驚いたよ」


「あのくらいで泣いたりいたしません!」


 王女は本当に平気そうに、不貞腐れた顔でプイッと横を向いた。

 

「しかし、君の婚約者殿は冷たいね。庇って欲しかったんじゃない?」


「あっ、もうすぐ雨が上がりそうですよ?」


 わざとらしく話を逸らして空を見上げた彼女は、手の平を上へ向ける。

 確かに雲の切れ間に日の光が差し込み、雨脚も衰えてきた。


「あっ!」


 彼女が指を差した道の先を見ると、つり橋の向こうの開けた空に、大きな虹がかかっていた。


「わあっ、綺麗ですねえ!」


 空にかかった雲がさあっと晴れ、眩しい日の光が彼女の神秘的な紫がかった銀色の髪に射した。

 美しい容姿を彩る輝く髪と彼女の真っ白な肌は、光をキラキラと反射させて辺りに散らす。

 濡れた木の葉や小道の水たまりは眩く光を弾き、その先に浮かぶ虹と合わせて自然の美しさをこれでもかと見せつけている。

 だが、それらを眩しそうに眺める彼女から目が離せなかった。

 相変わらずドレスは汚れているし、多少直したといってもまだ少々髪も乱れている。

 だが彼女の美しさは自然の森の美しさにも(まさ)っていた。


「ガオザン様? どうされましたか?」


 ぼんやりする私を不審に思ったのだろう。

 恐る恐るといった様子で話しかけてきた。


 「いや、なんでもない」と焦って首を横に振る。

 美しさに見とれてしまったなどと、正直に答えたくなかった。

 なんだか負けた気がするから。

 心の中を見透かそうと、ジッと探る視線を向ける彼女に耐えられず、私は彼女の手を取った。

 強引に引き寄せると、ふわりと空へと舞い上がる。


「わあっ、ちょ、うきゃあーっ!!」


 魔法に慣れていないのだろうね。

 彼女は真っ青な顔で、奇妙な声を上げながらジタバタともがく。

 

「ねえ、落ち着いて? しっかりつかまっていないと落ちちゃうよ?」


 彼女自身に浮遊の魔法をかけているから、つかまっていなくても落ちる心配はないのだが、意地悪でそう言ってみる。

 すんなり信じた彼女は、必死の形相で私の首にしがみついてきた。

 私は彼女のしなやかな細い腰に手を回して抱き寄せると、さらに上空へと飛び上がる。


「あいつらと一緒に行くのは嫌だろう? このまま2人で見に行こうか」


 ガオザンはニコリと笑うと、空中を移動しイザメリーラをどこかへ(いざな)う。

 眼下に米粒のように小さくなったエミリと騎士らが見える。


 ぎゃわー!

 ちょ、待って待って、怖いよーっ!!

 さて、みなさんは覚えているだろうか?

 私が前世でどんな死に方をしたかを。

 はい、そうです。正解は落下死です。

 わあー、足が空中でプラプラしてるよー!?

 「ぎゃわー!」とか「ふぎゃー!」とか意味不明な叫び声を上げ続けて、だんだんと喉が枯れてきた。

 ゼイゼイと息をする。

 このまま死ぬの? 死んじゃうの!?

 こいつは私を嫌ってるみたいだから、きっと「あ、しまった。手が滑っちゃったわー」とか言って、上空でポイってするつもりなんだー!!

 やーめーてー!!

 …あ、だんだん気持ちが悪くなってきた。

 お、おえーっ!!


「ちょ、ちょっと、大丈夫かい?」


 「うっ!」と口を押さえる私の背をゆっくりと撫でながら、それでもガオザンは空中を飛び続ける。

 そしてしばらくした後、ふわりと地面に着地した。

 

「こ、ここは…?」


 樹木の生えていない平らな岩山の上にいた。

 目の前には大きな渓谷が広がっていて、その向こうは見渡す限り樹海が続いている。

 そしてその樹海の真ん中にデーン!!と立っている巨大な木があった。

 

「え? あれが世界樹!?」


「ああ、そうみたいだね」


 形は普通の木と同じだ。

 幹があって枝があって、枝にはたくさんの葉がついている。

 だが、大きさが全く違う。

 周りの木が苔のように見える。

 太い幹は直径何キロあるのか。

 木の先端は雲を突き抜けそびえ立っており、先が見えない。

 あれがこの世界に満ちる魔力の源、世界樹。

 遮るものが何もない絶景が広がっている。

 大きな虹と不思議な巨木は写真に収めて飾っておきたい光景だ。


「はあー、大きいですねえ…」


「そうだね」


 横を向けばガオザンの美しい顔。

 フワフワとカールした金色の髪。

 優しく細められた紫色の魅惑の瞳。

 あれ…?

 ち、近い!?

 自分の状態を確かめる。

 彼の首にしがみつき、彼の手は私の腰に回っている。

 密着した体。

 

「わわわわっ!?」


 慌てて彼から離れる。

 だが、足がふらつく。

 ガオザンは私の腕を取り、体を支えてくれた。


「怖がらせちゃったみたいだね。ごめんね」


 穏やかな優しい顔。

 ガオザンが私に謝った。

 うっそー!?


 

「姫様ー!」


 エミリの声が聞こえて振り向くと、息を切らせながらエミリとボイル、ベントの3人が走ってくるのが見えた。

 ゼイゼイと息をしながら口を開こうとしたエミリは、目の前に広がる景色に驚いて口を閉ざした。


「す、すごいです…!」


「そうよね…」


 私達は口を開かず、しばらく美しい景色に見入った。

 ガオザンがふわりと体を浮かせて崖下を覗き込む。


「ああ、やっと来たようだ。私は彼らと合流することにするよ。そこにある展望台が終着点らしい」


 彼の指さす先に、白い塔が立っていた。

 しかし、この岩山の方が塔の先端よりも高い位置にある。

 こちらからの方が眺めが良さそうだ。


「ここから帰れるかい?」


 ガオザンはエミリに尋ねる。

 エミリは大丈夫だと頷いた。


「魔獣は?」


「姫様の作った魔獣避けのおかげか、一匹も現れませんでしたわ」


「そうか、それは良かった。じゃあ行くね」


 ガオザンは翼を広げて行きかけて、「あっ」と私の正面に降り立つ。

 そして、額の髪をかき上げて、私の額に口づけをした。


「ええっ!?」


 私は額を押さえて飛び退く。


「魔力の乱れが見えたからね。整えておいたよ。体調を崩したせいか魔力量も減っていたから補充もしておいた。これで大丈夫だと思うよ?」


 そう言うと、ガオザンはパッと崖下へと姿を消した。


 な、なんじゃこりゃああああ!!




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