成長
あきらは時々厳しくなる僕を、曲がりなく真っ直ぐに慕ってくれた。
そんなあきらは僕が無職になっても、変わりない態度で僕に接してくれていた。
あきらは今、中学2年生だからまだこれからだが、勉強もできるし、先も心配する事がない気がする。
僕はあきらの事が一番大切だった。
しかし、浅田と出会って、浅田は強烈な勢いで僕の心の中を掻き回していった。
僕の中にある「能力を鍛えたい」という想いを足掛りに、僕の心の中に自分の陣地を広げていった。
その浅田の熱を持った力は、すぐに僕の中にあるあきらへの大切な想いの強さを凌駕した。
僕は、実際の戦闘でも負け、そして精神面でも浅田に負けていた。
一番大切な物を思う想いさえも、浅田の熱意の前に打ち負かされていた。
そして、今、浅田はいなくなった。
浅田の熱の力が支配していた僕の心の中には大きな穴が開いて、その隅の方に少しのあきらへの想いが残っている。
僕は浅田に心を奪われていた。
正直に、正々堂々と、浅田は僕の心を支配していった。
僕はすでに気付き始めている。
去った浅田が僕にしてほしい事。
それは自分が残した情熱を絶やさずに繋いで行ってほしいという願い。
確かに浅田の情熱は受け継いで行く価値がある。
浅田を失った僕の心の空白の中に、小さな火種が落ちた気がした。
僕はそれを、消してしまわないように、大切に大きくして、そして、いつか、それが僕自身の情熱として心の空白を埋めるのだという事を理解する。
僕の歩む道は今、決まったのだ。
「あきら」
「ん?」
あきらは不安気な表情で僕を見つめる。
「僕は、また家を出る」




