定まった心
浅田は超人的な速度で走りながら、僕に言っている訳ではないように、言葉を唱えた。
浅田は里の一番の大通りに走り出た。
僕がそこへ追いついて、下を向いて息を整えていると、地面が揺れる。
一定の間隔で、揺れて収まりを繰り返している。
浅田はその揺れの発信源を見つめていた。
それは巨大な白い体をした、鬼だった。
その巨体は優に5メートルを超えている。
大きな丸い目の中に小さな黒い瞳があり、頭は禿げて、皮膚は所々不気味にめくれ上がって、異様な姿をしていた。
「らああああああああああああああああああああああああ」
という意味の分からない、くぐもったような声はとてつもなく気味が悪かった。
浅田は、能力の最大出力で体を強化する。
髪の毛が浮き上がり、全身にかすかな青い光を帯びて、浅田の立っている所の地面が少し陥没する。
「受け取れ」
力を纏った浅田はそう言って僕に軽く刀を投げ渡した。
「それは私の全てだ。私の全てをお前に託す」
その言葉を言い終わって、浅田が鬼の方に向き直った、次の瞬間、浅田はもうそこには居なかった。
はるか前方を、鬼に向かって跳躍を繰り返して迫って行く。
鬼は浅田の姿を見つけると、その気持ち悪い腕で浅田をなぎ払おうとする。
しかし、浅田はそれを難なくかわした。
鬼の動きはとてつもない力を持っている反面 酷く緩慢だった。
浅田は地面を恐ろしい力で蹴り、体を一際力強く、素早く跳躍させて、空中で膝蹴りの体勢を取った。
鬼は間抜けな顔でそんな浅田を眺めている。
浅田は一つの力の塊となり、鬼の体の中心に向かって突貫した。
その体は弾丸のような速度で鬼の腹に命中する。




