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第4話:紳士B:自称大手会計系コンサルティング会社勤務

 次に動いたのは、奥のソファ席でグラスを傾けていたスーツ姿の男だった。


 ネクタイを緩め、ジャケットを脱いで椅子に掛けている。脇にいる同僚らしき二人に軽く頷いてから、氷の解けかけたハイボール片手に、カウンターの二人に歩み寄った。


「いやぁ、華やかですね。せっかくだし、一緒に飲み直しませんか?」


 ――来た。

 今度は典型的な“自称コンサル”。

 私はバーテンダーとしてカウンター越しに様子を伺いながら、心の中で数秒カウントを始める。さて、どのくらいで撃沈するか。


 玲奈が振り返った。表情は柔らかい。だが、その目は冷静に相手を値踏みしている。


「飲み直す……ですか」

 氷をつつきながら、玲奈は小さく息を吐いた。


「それ、プレゼンの“つかみ”としてどうでしょう? 最初の一言――いわゆる“出だし”で相手の興味を引けなかったら、その時点で企画はボツです。……今が、まさにそれ」


 男の眉がぴくりと動いた。

「い、いや、そんなつもりじゃ――」


 玲奈は笑顔を崩さない。むしろ、さらに柔らかく微笑んだ。

「“That's not my intention”って弁明が出るのも典型的です。コンサルならご存知ですよね?――初手で相手の心を掴めなければ、議論の土俵にも立てないって」


 グラスの中の氷がカランと音を立てた。

 男は言葉を失い、持ってきたハイボールを無意味に口に運んで誤魔化した。

 結局、視線を泳がせたまま、彼は小さく頭を下げ、友人の元へと戻っていった。


 亜紀が横目で玲奈を見て、口角を上げた。

「……Immediately shot down! お見事」


 玲奈はグラスを軽く揺らしながら肩を竦めた。

「だって、私たちにプレゼンするなら、最低限“introduction”は工夫すべきでしょ?」


 亜紀は頷く。

「そうね。……直也くんのプレゼンは魂を掴み取る力を感じたけれど、まるで比較にならないわ」


 私は思わずグラスを磨く手を止め、小さく苦笑した。

 ――やはりこの二人、容赦がない。


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