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ある魔女が死ぬまで  《ラピス編》


 十四品目は《ある魔女が死ぬまで(ラピス編)》になります。



《余命一年の魔女》



 ウサギのような耳を持ち、リスのような尻尾を持つ、ネコのような姿をした水色のカーバンクルや、シロフクロウなどの動物と共に暮らしている。


 見習い魔女である、メグ・ラズベリー。


『お前、あと一年で死ぬよ?』


 師匠である初老の魔女、ファウストから突如(とつじょ)つげらた死の宣告。


 死を回避する唯一の方法、それは感情の欠片。命の種を作る為に人が喜んだ時に流す涙、嬉し涙を千人分、千粒集めること。


『私がクソみたいな呪いのせいで、あと一年の命だと宣告をされてから一週間が経(た)ちました。


 さてここで問題です!私は残りどれくらいのペースで涙を集め無ければならないのでしょうか!?答えてみよ!』


 メグ・ラズベリーは名探偵のごとくシロフクロウを指挿す。突然の振りに『ホッ!?』と驚く。カーバンクルがインク入りの瓶をスライドさせ、シロフクロウはクチバシにインクを付け、紙に描(か)いた。


『ふぇ!?一……日三粒!まて、まて、まて、この間の二粒集めるだけでも、結構、苦労したぞぉーーしかも、嬉し涙じゃないし……


 あれに更(さら)に一粒加えて、嬉し涙が出るまで粘れとーー?!』


頭を抱えて、混乱し、


『ウワァァァァァーーーー!!!!』終(しま)いには発狂してしまう。





《死神、死期が迫っている人が纏(まと)う黒い霧》



 自身の死期が迫っているからこそ、知り合いであるフレアばあさんが黒い霧を纏っている事を見過ごせなかった。


 師匠であるファウストに相談するも……


『変えていい運命と、変えちゃダメな運命が世の中には存在するんだよ』


『私だって、もうすぐ死神を纏うかもしれない。その時、お師匠様は私に、命の種を諦めて死ね!って、言えるんですか!?


 助けられるかも知れないのに見過ごすなんて、私は出来ないし、したくない!』


 師匠に肯定して欲しかったのに、否定された事に激怒し、家出する事に。行き先はもちろん、フレアばあさんの家。


『あら、あら、メグちゃん。どうしたの?こんな時間に』


『あはははぁ……お師匠様と喧嘩しちゃってさぁ……』


 頭の上にはシロフクロウが乗っている。


『まぁ、大変。外は寒いからとりあえずお上りなさい』


『へぇーい、お邪魔しまーす!』


 水色のカーバンクルもフレアばあさんの家に入る。夕食を食べ損(そこ)ねたメグ・ラズベリーは、フレアばあさんの家でシチューをご馳走になる。


『ファウスト様と喧嘩なんて、ここ数年らいの事件ねぇ……ふふ』


『なんで、笑ってんの?』フレアばあさんに尋(たず)ねる。


『いえねぇ。昔、私もお爺さんと喧嘩したな。って、思って』


『フレアばあさんが喧嘩?ちょっと信じられないなぁ……』


『長く暮らしているんですもの、喧嘩くらいするわ。そうやって、お互いの事を知っていく。少しずつ、少しずつね?』


『ねぇ。フレアばあさん、しばらく泊まってもいいかな?』


 夕食を終えた二人は寝室で話合う。


『このベッド、花の香りがする。フレアばあさんの香りだ』


『あら、あら、お花のお世話をしていたから、その匂いがついて来ちゃったのかしら?』


『この家ももう古いね……?お子さんが独り立ちして、何年だっけ?』


『さてねぇ……もう随分(ずいぶん)と前だから……』


『最近、会ってる?』


『忙しいみたいで、もう随分と長い間、会ってないわ』


『そっか……』


メグ・ラズベリー

(私はどうすればいいんだろう?私はフレアばあさんに何が出来るんだろう?フレアばあさんには、あと、どれくらいの時間が残されているんだろう……)


 助けられるかも知れないのに見過ごすなんて、私は出来ないし、したくない!とは言っても、現状、死神から救う方法は見つかっていない。


メグ・ラズベリー

(そんな私を嘲笑(あざわら)うかの様に、フレアばあさんの纏う死神は、どんどん力を増していた)


『ここはね、私のとっておきの場所なの。小さな頃からいつも一緒にこの木と過ごしてきた。友達と遊んだ時間も、家族と過ごした時間も、メグちゃんとこうして、ここにいる時間も……この木はね、ずっと見守ってきてくれたの』


 昼下がり、フレアばあさんの思い出の木を紹介してもらうメグ・ラズベリー。フレアばあさんは終始(しゅうし)思い出の木に右手の手の平を押し当てながら、振り返るように、木に語りかけるように話す。


 メグ・ラズベリーも笑顔でその木に左手の手のひらをあてる。


メグ・ラズベリー

(魔力に乱れが……この木はもう、助からない……)


 魔力災害による影響なのか?メグ・ラズベリーは人一倍魔力に敏感であり、木が魔力に侵されていることを悟る。


 メグ・ラズベリーが悟ったそれは、ファウストの言葉を思い返すトリガーとなった。


《運命ってものがある。定(さだ)めがきたから死神を纏うんだ》


メグ・ラズベリー

(あーー、そうか。変えられる運命と、変えられない運命があるんだ)


 魔法では変えられない運命もあると、諦めに似た思いを抱(いだ)く、メグ・ラズベリー。

 それでもなお、できる事はある。前向きな提案をフレアばあさんにする。


『フレアばあさん。もし、もしもだよ?明日世界が滅ぶとして、最期に何がやりたい?』


『あら、あら、ずいぶん変わった質問ねぇ……でも、そうねぇ……最期なら、やっぱり家族と一緒に過ごしたいねぇ……』


『そっか……』視線の先にはシロフクロウが写る。


 



 夜更(よふ)け、メグ・ラズベリーはシロフクロウを外に連れ、フレアばあさんの家族の元え、シロフクロウとメグ・ラズベリーが向かう為に魔法を使う。


『いくよ!我が眷属、呼び声に応え、内なる力を放ち、広く広く空の大海に舞え。


我が願いは遥か彼方、その大地に誘う力を授けん。


天空を舞う御使(みつかい)として、

翼、空(くう)を切り、風を運び、我が命(めい)を持って、その役割をはたさん』


 早朝にはフレアばあさんの家族を乗せて、メグ・ラズベリーは帰還した。


『驚いたたよ、早朝にいきなり押しかけてくるんだから。母さんが危篤(きとく)みたいな言い方してさぁ……』


 フレアばあさんの息子がベンチに座りながら、隣に座る母さんに告げる。


『ぜんぜん、家に帰っていない。親不孝者に帰省のきっかけを作ってあげただけっすわ』


 親子として、会話をし、娘と遊ぶ、息子。


 フレアばあさんはメグ・ラズベリーと二人でベンチに腰をかけ、メグ・ラズベリーに感謝を告げる。


『ありがとうね、メグちゃん。私が寂しがっていたから、見かねてエド(息子)を連れて来てくれたんだね?』


『一宿一飯の恩義は忘れないようにしてんの!でも、余計なことじゃ無かった?』


『大丈夫。だって、こんなに私を幸せにしてくれたんだもの』


『そう言ってくれると嬉しいけどね』


『メグちゃんに出会えて良かった。長い人生の中で、魔女と出会ったことは一度や二度じゃない。でも、こんなにたくさんの物をくれたのは、メグちゃんだけだよ。こんなに暖かくて穏やかな日に、大切な家族と過ごせて、隣には優しくて、素敵な魔女さんがいてくれるんだもの、これ以上望むと、きっとバチが当たるわ』


 メグ・ラズベリーの手に手を添えるフレアばあさん。


『なに言ってんの、こんなもんじゃ無いよ?これから私はもっと、もーっと凄い魔女になって、もっと、もっと、嬉しい光景をフレアばあさんに見せてあげるんだから……』


 メグ・ラズベリーの言葉を最期に、フレアばあさんの添えた手は滑り落ち、黒い霧は霧散した。


『安らかに眠っているね?こんな穏やかに、眠るように最期を迎えるのは幸せな事かもしれないね?』


 息を引き取った、フレアばあさんを見ながら、師匠であるファウストが語りかける。


『お師匠様……』


『メグ、結末を変えることは誰にもできない。だが

、お前は結末の形を変えることが出来たんだ。よく頑張ったねぇ……メグ。


沢山の人が見ることの叶わなかった明日を背負って、お前は生きているんだ。だからお前は生きなきゃならない。それは死者を知ることができる、お前使命だよ』


『はい』


メグ・ラズベリー

(今日はビーフシチューを作ろう。明日はローズマリーを練り込んだ、クッキーを焼こう。そうすればフレアばあさんは、これからも私の中で生きていく。私が生きる限り、ずっと一緒に……)


 メグ・ラズベリーの持つ、時の魔法が込められた瓶に、初めて純粋な嬉し涙の結晶が一粒ふえる。




《七賢人の一人、英知の魔女》



 ある朝、メグ・ラズベリーは激臭のする足の臭いで目を覚まし、飛び起きる。


『失礼ね!そんなに臭くないわよ!』


『うぇ……?』臭いの元から逃げ出し、声のする方 へ顔を向ける。


 そこには魔女の装いをした妙齢(みょうれい)の女性が立っていた。


『私は祈(いのり)、東洋に住む、英知の魔女。と言ったらわかる?』


『英知の魔女?』メグ・ラズベリーは寝ぼけている?


『そう、私こそが七賢人の一人、英知の魔女こと、祈』


『へぇ……本当に?』


メグ・ラズベリー

(英知の魔女って、確か百歳をゆうに超えるって聞いたけど……』


 メグ・ラズベリーより少し年上に見える魔女。お婆さんというよりは、お姉さんに見える容姿。


『それで、どうしてその英知の魔女が我が家に?』


『ニュース見てないの?今、魔力による生態系の変化が起こってってね。その調査にあんたの師匠も行ってんのよ?』


『あーー、ニュースの……』


『帰るのが遅れるからって、見にいくように頼まれたのよ。あんたの師匠に』


『そんな……私も十七ですよ?家事もできますし、心配いりません。って』


『家が無事か、心配だって……』


 まさかの理由にメグ・ラズベリーも驚きと困惑の表情。


『あーーそっちか……』


『そんな訳で……数日、お世話になるから』


『あ、そうだ、祈さん。一つだけお願いがあるんですが……』祈の足を指さして、鼻を指で摘んで『足、洗ってください。マジで臭いんで』


『あんた、殺す!』笑顔で告げる、英知の魔女。





《実力のある魔女は二つ名を持つ》



 英知の魔女に自家製のブレンドティーを振る舞うメグ・ラズベリー。その完成度の高さからか?祈は問う。


『もう、二つ名はあるの?』


『いや、そんなの無理っす!こっちとら、天下無双の見習いですわ!』自慢気に語る。


『威張って言うこと?見習いねぇ……他にも見たいわ、ここのハーブは自家製でしょ?案内してよ?』


『ガッテン!実は丁度、私も庭に用があったんですよーー』


『なんかーー採取するの?』不思議そうに確認する。


『ミントの油を用(もち)いたクスリ湯を使えば、足の裏も、めっちゃ良い臭いになるんですよーー!』


『あたし、そんなに臭うの?』ちょっと、心配になってきた祈。


ウサ耳のカーバンクルとシロフクロウは鼻を押さえ頷(うなず)き、臭いことを主張する。


『ここさオラが畑だ!』演じるように、魔女の森を誇る。


『しっかり管理してるわねぇ……土を見られるのは優秀よ?特にここ最近、いろいろとおかしくなって来てるからね。気候も環境も』畑の土に手を添える祈。


『なんなんですかねぇ……』


『自然に手が入り過ぎたのよ!空気も汚染され、森も伐採されて、土地があるべき形で無くなってきている。それなのにお偉いさん達は自分達がしたことを魔法で回復できると思っているのよ……


 植物が伐採され数が減ると、地を巡る魔力は行き場を失う。その結果、魔力は大きな個体に集中して流れり様になる。大き過ぎる力は時に暴走を招く。理の均衡を保つのは魔導士の鉄則よ。もしあんたが力を得たら……どうする?』


メグ・ラズベリーの頬が緩み、欲望を語り出す。メグ・ラズベリー。


『富と名誉を我が手にし、美男だけのハーレムを作ります』


 英知の魔女にため息をつかれる。メグ・ラズベリー。


『あんたはダメだ……』


『そう言う重たい話はなんか苦手です……人はいつ死ぬか分かりません。人生は短いんだから、楽しいことだけで埋め尽くすべきだと思います』


『メグのイメージする楽しい事って?』


 二度目、メグ・ラズベリーの頬が緩み、欲望を語り出す。


『酒とタバコと美味い飯と女』『オッサンかよ!』と、英知の魔女はチョップで即レス。


『気に言ったわ。あんた、将来独り立ちしたら、私の助手になりなさい』


『助手?』死を宣告されたメグ・ラズベリーにもたらされた、一筋の光。


『クスリの開発パートナーよ?製薬会社と協力して、薬効のある成分を探し、その効果を調べたり、検証したりするすんの。丁度、植物の知識がある助手が欲しいと思ってたんだ』


『そんな急に言われても困りますよ。だいたい、だいたい、お師匠様がなんて言うか?』


『だから……一人立ちしてからって、言ってるでしょ?若いうちは冒険しないと。私なんか、十歳で世界中旅して回ってたのよ?』


『若い頃を語りだすなんて、なんだかババ臭いですね?世界に出るかぁ……』


『将来の夢とか目標とかないんだったら、世界に出ることも考えてもいいんじゃない?』


『夢や目標ですか?』メグ・ラズベリーは考える。


『なんかあんの?』


『世界征服です!』真顔で告げる、メグ・ラズベリー。


『へぇ……』『いや、突っ込んでくださいよ』





《月夜の本心・月夜の気付き》



『夜に瞑想(めいそう)してるんだ。真面目だね?』英知の魔女がメグ・ラズベリーに話かける。


『祈さんはやったこと無いんですか?』


『やったこと無いわねぇーー何せ英知の魔女だから。発想と知識だけで魔法を発展させてきた、天才よ?』


『自分で言う?祈さんはもしも自分があと一年で死ぬって言われたら、どうします?』


『何それ、あんた死ぬの?』


『もしも、って言ったでしょ?』


『誤魔化さなくても分かるわよ?将来の話をしてから、なーんかリアクションが鈍いなぁーーって、思ってたのよ?』


『やっぱり、七賢人には敵いませんなぁーー』


 なぜ、死ぬのか?洗いざらい話す。その上で、今の気持ちを祈に話す。


『正直、祈さんから助手に誘われた時、心が高揚しました。私は今まで、ずっとラピスで暮らしていたから、なんて言うか、広い世界に繋がる扉を前にして、ワクワクする感じがしたんです。


 お師匠様から嬉し涙を集めるように言われて、数週間が経ちます。流石に、ポジティブモンスターと言われた私でも、たった一年で千粒の涙を集めるのが不可能に近いことに気づきますよ?』


『諦める?』


メグ・ラズベリー

(そうか!私は諦めようとしてたのか?いつの間にか私は生き残る事より、死ぬことを受け入れようとしていたんだ)


『ふっ、ふ、ははははははは。ごめん、ごめん、あんたがあんまりにも馬鹿だからさぁ……


 自分が諦めようとしてた事もに気づいてないなぁんて、馬鹿じゃんふふふふ』


『どうやら、戦争がしたいようで』怨霊のごとく迫る。


『悪かったわよ!じゃ、死を覚悟したメグちゃんに、いいもん見せてあげるわよ?私が七賢人ってところ、魅せてあげる』


 流星群の極大日、世界の果てに行かないと見れない光景。夜空に満点の流星群。


『これだけの星を見てたら、自分の悩みなんて、ちっぽけなものにみえるでしょ?』


『そうーーっすね。別に悩んでた訳じゃないんですけど』夜空に流れる流星群を見上げてながら呟く。


『悩んで!?』この返答には七賢人といえど驚きを隠せない。


メグ・ラズベリー

(私は諦めていた。諦めて、死を受け入れようとしていた。でも一つ、この流星群を見て気付いた事がある。魔法の可能性は無限大だってことだ!)


『願いなよメグ、あんたが一番叶えたいこと』


 魔女ではなく、女神のように両手を広げ、願いを問う。


『世界征服ですか?』この状況でもぶれないメグ・ラズベリー。


『そうじゃなくてさ、生き抜くこと、死なないこと。世界に出る魔女になること。あんたが願うべきはそれじゃないの?』


『祈さん、分かりました』胸の前で両手を組み、目を閉じて静かに祈る。


『最初はさぁ、疑問に思ってたんだよねぇ……、あのファウストばあさんが、なんで弟子なんてとったんだろう……って』


『成り行きじゃないんですか?』


『メグ、あんた良い魔女になるよ!』





《ファウストの帰還》



『悪かったわね祈、この子の面倒を見てもらって』


 ファウストは帰宅後、祈に挨拶する。


『いいわよ、私も結構楽しかったし。ところで、ファウストばあさん。ちょっと相談なんだけどさぁ、この子、将来的に私の助手にして、いいかしら?』


 祈はメグ・ラズベリーの首に手を回し、力強く抱き寄せる。さながら、姉妹にも見える風景。


『その子はまだ半人前だよ?でも、いつかその時が来たら、それも悪くないかも知れないね』


『じゃ、決まりね!良いわねメグ、あんた死んじゃ駄目よ!私の右腕になるんだから。死んでも生きなさい!』


『めちゃくちゃ、いいますヤン』


『返事は?』


『はい!絶対死にません!』


メグ・ラズベリー

(私は英知の魔女に夢をもらったんだと思う。この一年を乗り越えた先に待つ、たくさんの可能性や、まだ見ぬ世界の夢を。だから、今は少しだけ、目の前のことを必死で頑張ろうと思う。いつか来る、そ日を夢見て)





《認められていない魔女、認められた魔女》



 ファウストの腰痛を機に知り合った七賢人の一人、祝福の魔女、ソフィ。


 ソフィの話を聞くと、二つ名を持つ魔女とは認められた魔女の事だと知り、同時にメグ・ラズベリーはファウストの弟子という認識止まりで、魔女メグ・ラズベリーとしては認められていないと知る。


 そんな折、メグ・ラズベリーは効率よく嬉し涙を集める方法を見つける。しかし、その過程には心は通わず、効率だけを追い求めた作業となってしまった。


 ファウストに怒られ、魔法の使用を禁止される。そんな中、メグ・ラズベリーが効率的に助けた人にお礼を言われた。しかし、心の通わない出来事は記憶に残らず、助けた理由すら思い出せない。


 ファウストに怒られた理由を知り、ラピスの人達と真摯(しんし)に向き合いなおす。気がつけばメグ・ラズベリーは《ラピスの魔女》と呼ばれるようになり、認められた魔女へと成長していた。




《ラピスの市長からの依頼》



『街の御神木が、奇妙な形に変化してしまってね……専門家の話だと、魔力に汚染されて、周囲の植物に悪影響を与えるようになっているらしいんだ』


 御神木を救う議論はなされた。しかし、議論の末、御神木を伐採することが決定されたと、市長が説明する。


『そう……ですか……』メグ・ラズベリーは俯(うつむ)きがちに返答する。


 メグ・ラズベリーは知っていた。魔力の乱れがあり、この木が助からないことを……しかし、その木は御神木である前に、フレアばあさんの思い出の木であり、今ではフレアばあさんとの思い出の木になっていた。


 『ただね……いざ伐採するとなると問題が起きた』


『問題?』メグ・ラズベリーらしくない、しおらしい声。


『業者を雇って、刃を入れたんだが、幹(みき)がまるで鋼(はがね)みたいになっていて、伐採どころじゃ無いんだ』


『だから……お師匠様を訪ねたって訳ですか?』


『まさか、海外出張で留守とは思わなかったけどね……』


 市長は困っていた。そして、木を調査していた七賢人の祈が木の状況を説明してくれる。


『メグ、予想以上にマズいよ?これは……』


『市長も運がいいですねぇ……たまたま家(うち)に七賢人の英知の魔女が転がり込んでましたから……』


『出張で近くに来る予定があったから、様子見がてら泊まってただけでしょう……』少し、ムッとしている英知の魔女。


『あんた、家(うち)をホテルかなんかと、勘違いしていませんか……?』


 そのやり取りを聞き、笑う声が聞こえる。笑う声の主をキョロキョロしながら探すメグ・ラズベリー。


 木の上に座る少女。その少女は御神木の精霊か?はたまた怨霊か?


『祈さん、この木にいったい何が起こっているのか?教えては頂けませんか?』市長が問う。


『簡単に言うと、魔力を吸い過ぎて、変質してしまっているの。この変質って言うのが、生態系に大きく影響する可能性がある。


 中東で砂漠を産んだのはね?たった一本の木なの!』


『お?』『え?』市長とメグ・ラズベリーは自体の深刻さを知る事になる。


『丁度、こんなふうに、魔力を吸い過ぎた異常な木が出てね、大した事ないと放置している内に、根がどんどん伸びて、半径百キロを死の大地に変えたあと、ようやく成長を止めたのよ?』


『じゃあ、いずれはーー!』市長が死の大地を予感する。


『メグ、やるよ?あんたの愛したこの街を守るためにもね?』


『助ける方法とかは?』希望を捨てないメグ・ラズベリー。


『あると思う?』学者である祈は希望的な思考だけでは判断しない。


 祈の瞳には可能性は無かった。


 それだけ、自体は深刻であり、助かる段階はとうに過ぎていた。


 内側から燃やす、魔法の炎でという祈の判断に、違を唱える。市長とメグ・ラズベリー。


『せめて、伐採じゃ駄目なんですか?』メグ・ラズベリーが言う。


『この木は三百年、私達を守り続けてくれました。その最期が生きたまま燃やされるのは、あまりに可哀想な気がします』市長も同意見。


『ダメよ!この規模になると、根から全部殺さないと、被害を止める事はできない。確実にそれが出来るのは焼き尽くすことしかない!』


『そんな……』メグ・ラズベリーはまだ諦め切れない。


『メグ、あんたも七賢人の弟子なら、覚悟を決めな!人間が長年土地を開拓し、汚染と破壊を続けた。その結果がこれなんだ。そして、あんたの師匠はその尻を拭う為に必死で頑張ってる。そうでしょ?』


『はい……』メグ・ラズベリーの返事は弱い。何も知らない訳ではない。現状を打開するすべもない。それでも、納得はできない。いろいろな感情が渦巻く。


 御神木を燃やす為、祈とメグは魔法陣を木に描く。そこでもまた、笑い声が聞こえる。


『そこ、じゃーー!!!!』メグ・ラズベリーが木の上を指差す。


 驚いた少女は御神木から落ちてきた。メグ・ラズベリーが陽なら、この少女は隠と呼ぶべき、白いワンピースの少女。


『わーーびっくりしたーー』透き通る様な、響く声。


『もーーひどい!急に驚かせるなんて!』メグ・ラズベリーに言いよる。


『あ……ごんめなさい』


『何やってるのメグ?』祈が心配そうに言う。


『この子が木から落ちちゃって……』


『この子?どこに居るのよ?』


『あんたの目の前におるがな!』不躾に指を指す。


『無理だと思うよ?そのお姉さんに、私は見えない。私の姿が見えるのは、貴方が初めてだよ。魔女、メグ・ラズベリーさん』


『私のこと、知ってるの?』メグ・ラズベリーは驚く。


『もちろん。だって、私はこの街を、ラピスをずっと見守って来たから。私は精霊、この木に宿る精霊なんだ』


 しかし、七賢人のクロエの話では精霊ではないと言う。紛(まぎ)れ込んだ異物、しかもそれはメグ・ラズベリーが関わったからという可能性まで出て来た。


 メグ・ラズベリーとメグ・ラズベリーのペットにしか見えない存在。精霊だと祈に嘘をつく事で殺す未来を回避する。


『貴方達は、私を消しに来たんだよね?』メグ・ラズベリーに問いかける。『自分の身体の事だから、分かるんだ。もう、私……長く無いんだって。


 あと、魔女が私の身体に魔法陣を描くなんて、今まで無かったしね。ねぇ、魔女さん。最期にこの街を見て周りたいんだけど?』


『ラピスの街を?』


『ずっとこの街を見守って来たから、一度見たいな……って。だから、貴方に道案内をお願いしたくて』


 両手を腰に回して、メグ・ラズベリーに近づく。


『怖くは無いの、死ぬのが?』


『もともと、私みたいな精霊はそういう感情が薄いからね……あと、この街の為なら死んでも良いかなって』


『でも、どうして私に案内を?』


『だって、貴方は私と同じくら、この街を好きに見えるから。それに、何かあった時、貴方なら対処できるでしょ?』


 その言葉にはラピスの魔女としての信頼が感じられた。




《精霊の名前はセレナ》


メグ・ラズベリー

(祈さんに作業を任せて、私は少女を街に案内することになった)


 スキップする様に軽やかに歩く少女。そして、メグ・ラズベリーは肝心な事を聞いていなかった。


『あ、そういえば貴方、名前は?』


『名前は無いかな?メグちゃんが決めてよ!』


『私が!?』驚き、悩む、メグ・ラズベリー。


『うん!』期待はしていないが、初めての名前。


 メグ・ラズベリーは悩み過ぎて、『白目むいてるけど、大丈夫?』と、少女に心配されてしまう。


 そこに、閃きが落ちてきた。少女を指差し、閃いた名前を告げる。


『セレナはどうだろう?』


『セレナ?』小首を傾(かし)げる。


『セレナイトって、真っ白で、綺麗なパワーストーンがあってさぁ……貴方の白い肌と白い髪によく似てるから、どうかなぁーーって』


 外した?っと慌てふためくメグ・ラズベリーに対して、


『素敵、気に入った!』好感触の反応のセレナ。『セレナ……セレナか……ふふ』


 セレナと街を巡り、ラピスの人と触れ合い。辿り着いた先は、フレアばあさんのお墓。


『フレアばあさんだよ?私の祖母みたいな人だったんだ……花の栽培が好きで、私にもたくさん花の育て方を教えてくれた人だった』


『フレアのことは良く知ってる。フレアは私を訪ねてくれる、最後の友達だったからね?私に会いに来てくれ人は、もう居なくなったけど、それは他にやるべき事が沢山あって、元気な証拠でもあると思うんだ。


 この街の人達は、私の子供みたいなものだから……』


『セレナにとっても、ラピスの街は故郷なんだね?』


『故郷?』きょとんと、小首を傾げる。 


『魂が繋がってる、帰るべき場所、って事。心が安心出来て、落ちつける場所。文字通り、根を張る場所。って、言えば良いのかなぁ……』


『根を張る場所かぁ……うん。そうかも知れないね?』




《ラピス・セレナの願い》



『しっかし、懐かしいなぁ……此処(ここ)、私が桜の魔法を使った場所じゃん』


『サクラ?』


『東洋の木で、春頃にピンクの花びらが咲き誇るらしいんだよねーーその花をここで、一瞬だけ再現したの』


『いいなぁ……私も記憶に残る、美しい花を咲かせてみたい!』瞳を閉じながら理想を語る。


『オークの木は地味な木だから、今度はもっともっと人を楽しませる。ラピスのみんなに、喜んでもらえる存在に、なりたいなぁ……』飛び切りの笑顔で告げる。


 しかし、理想とは逆の展開、オークの木の魔力暴走が始まってしまう。物語に夜のとばりが降りてきた。


 オークの木の暴走の直前、セレナは異形の存在に変わり果てていた。オークの木が暴走を始めた事で退避せざるを得ない状況へ、そこでセレナの声が聞こえる。


『メグちゃん……お願い、メグちゃん。私を殺して、メグ!』苦しみながら紡(つむ)がれる声。


 メグ・ラズベリーの脳内に過ぎる『何かあった時、貴方なら対処できるでしょ?』期待と信頼の言葉。


メグ・ラズベリー

(セレナは完全に魔物になった訳じゃない!ラピスを守ろうと戦ってるんだ!)


『セレナ!』暴走したオークの木からセレナを助ける為に動く。しかし、反撃を受けて、致命傷を負う。そんな時、ファウスト師匠の言葉が過ぎる。


《自分で決めた事なら貫き通しな!世界に名だたる魔導師達は皆そうして来たんだ!》


『セレナを、セレナを助けるんだ!!ラピスの皆んなを助けたいって、セレナの想いを!』


 命懸けの魔法!セレナの願いを叶えられるのか!



《これは余命一年を宣告された未熟な魔女が起こす。奇跡の物語》




 























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