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ある魔女が死ぬまで  


 十三品目は《ある魔女が死ぬまで》になります。


《余命一年の魔女》


 ウサギのような耳を持ち、リスのような尻尾を持つ、ネコのような姿をした水色のカーバンクルや、シロフクロウなどの動物と共に暮らしている。


 見習い魔女である、メグ・ラズベリー。


『お前、あと一年で死ぬよ?』


 師匠である初老の魔女、ファウストから突如とつじょつげらた死の宣告。


『なんですか、お師匠さま。突然、冗談なんか仰って』


『冗談じゃない。お前は死ぬ運命にある』


『嘘、ですよね?』


 からかっているだけですよね?っと、確認する。


『嘘じゃない。お前は死ぬんだ、あと一年後にね』

 たんたんと告げる。


『お・師・匠・様……一応、今日、私の誕生日なんですけど?』


 ずん、ずん、ずんと、ファウストに詰め寄る。十七歳の誕生日を迎えた、メグ・ラズベリー。


『わかっているさ、それでも誤魔化すわけにはいかない。お前は死ぬ。そしてこのままじゃ、お前の死は避けられない』


『死ぬ。って、言ってもいったい、どうしてぇ……』


 ファウストの机のはしつかみ、質問する。


『呪いだ。お前は呪いにかかっている。余命一年の死の宣告の呪いにねぇ……十七歳になった今、その呪いが発動したんだ。現代の魔女が知らない、古い呪いさね』


 それは通常の千倍の速さで老いて行く、どれだけ長くても一ヶ月で死ぬ呪いだという。そして、産まれ付きの持病だと語られる。


『呪いを解くにはどうすればいいのでしょうか……?』


 半べそで問う、メグ・ラズベリー。


『方法はない。今のところね?言い換えれば病気なのさ、お前は病気だ!』


 終始冷静なファウスト。


『十七歳のうるわしき乙女に、なんて事言いやがる!!!』


 半泣き状態から突然の激怒!情緒不安定である。


最期さいごまで面倒みてやるから、安らかに眠りな』


メグ(無茶苦茶つめたいな、この人。仮にも十数年一緒に暮らしてきたのに、もう少し、こう……愛弟子まなでしに対しての愛情とかないのか……)


『まぁ、冗談はさておき、助かる方法が無いわけじゃないよ?』


『んぇ?……なーんだ、笑えない冗談言ってないで、早く話してくださいよ〜』


『まぁ、難しいのは確かさ、時間的にも、内容的にもねぇ……』


 そう言いながらテーブルに置かれた瓶、それはポーションでも入れる様な洒落しゃれた形状。メグ・ラズベリーは空のびんを怪しげに見つめる。


『なんか変な形の瓶ですけど?このゴミみたいな物はいったい……』


 右側へ、顔と視線のみ、ファウストに向ける。


『ちっとは口をつつしみな!今、この瓶に魔法をかけた。お前は今日から感情のかけらを集めるんだ』


『感情の欠片かけら?なんです、それ?』


 魔法がかけらた瓶を片手に持ち、ファウストに問いかける。


『文字通り、人が抱く、強い感情さね。お前はそれを集める。命の種ってのがあってね?人が持つ、喜怒哀楽のうち、喜びの感情で作られたものだ』


『どうやって作るんですか?』


 時魔法を使うファウストが瓶を指差しながら説明する。


『そいつに私の時魔法を込めておいた。感情の欠片を結晶にし、保管してくれる。お前はそれに、いろんな人の喜びの感情を集めるんだ。人が喜んだ時に流す涙……嬉し涙をね?』


『嬉し涙……』嬉し涙を想像しようとするメグ・ラズベリー。


『嬉し涙は命の種を産む材料だ。命の種はお前を不死にする。つまり、タイムリミットが来ても寿命を保ってくれるのさ』


『つまり私は不老不死になる?もう、お師匠様ったら……なんだかんだ弟子が可愛いんでしょう?それで?いったいどれくらい涙を集めればいいんですか?』


 魔女と呼ばれる存在であっても、不老不死ではない。不老不死というワードにテンションが上がるも……


『千人分だ!千粒集めんだよ?人がほんとに喜んだ涙を十二ヶ月で、千粒だ』


『一年で出来ます?それ……』


 気づいてはいけない事実を確認する、メグ・ラズベリー。


『奇跡でも起こせる魔女じゃなきゃ、不可能に近いよ?』


『さいですか……本当にクソみたいな話!アリガトウコザイマシター!!』


 無茶振りに気づいたメグ・ラズベリーは師匠に対して憤慨ふんがいし、怒りを巻き散らしながら家を出た。


 落ち着いた頃には河川敷かせんしき付近の芝生しばふに身をあづけ、ひとごとが口をつく。


『私は死ぬ』


メグ(もし本当に、あと一年で本当に死ぬとするならば、私が今までやってきた事って、なんなんだ?


 馬鹿みたいに毎日、魔法の勉強をして……


 馬鹿みたいに仕事して、一生懸命やってきたはずなのに……その、全てが無駄だった。と、言うのか?)


『じゃあ、私が生きてる意味ってなんだよ?誕生日なのに、最低の気分だ……』


 視界にウサギ耳と赤い水晶を持つ、ペットのカーバンクルがカットイン。思わず両手で捕獲して、上半身を起こし、モフモフする。


『あ、ファウスト様のところのおねぇちゃん!何してるのこんなところで?』


 アンナという名の少女に話かけられる。


『へぇ〜、アンナちゃん。ここまで一人で来たんだ?』


『うん、ファウスト様にお願いがあって来たの!』


 十歳前後の金髪の女の子。後ろ髪を左右で三つ編みにしている。


『お師匠様に?』


『ママがゆっくり眠れるように、たくさんのお花をあげてください。って!私のママね、ずっと入院してたんだけど、やっと病院から出られたの。でも、ずっと眠ったまま、起きないの……』


『あっ!』アンナの母親が亡くなっている事をさっしたメグの表情。


『パパはね、今まで頑張って来たから、これからは休むんだよ、って。だから、ゆっくり眠れるように、いい匂いのするお花を、飾ってあげようと思うの』


 小さい頃に両親を失ったメグ・ラズベリー。その時に手を差し伸べてくれたのが、師匠のファウスト。その行為に思う事があるメグ・ラズベリー。


『ねぇ、もし良かったらさぁ、アンナちゃんのお母さんにお花あげるの、お姉ちゃんにやらせてくれない?お姉ちゃんが、アンナちゃんのお願い、叶えてあげる!』


 師匠が差し伸べたように、メグ・ラズベリーもまた、アンナへ手を差し伸べる。


『それで?ママにあげる花って、どんなのがいいの?』


 二人がアンナの家に向かう途中、メグ・ラズベリーが問う。


『うんとね……ママが好きな、お花!』


『だから、それなんや?』合いの手を出す。


『ピンク色の素敵なお花。ママが昔、見たんだって。もう一度みたいって、いっつも言ってた』


『えぇ……漠然ばくぜんとしてるなぁ……』


 ヒントは色だけか……苦笑にがわらいを浮かべるメグ・ラズベリー。


『パパ、お客さんだよ』アンナの家に到着。


『ようこそ、いらっしゃい』優しそうな低い声。


『うん?なーんだ、ヘンディさんじゃん!』


 四十代くらいの丸渕まるぶちメガネをかけた、短髪の優しげなおじさん。


『ファウスト様のところの……』弟子である事は知っていた。


『メ・グ・だ・よ!メグ・ラズベリー』


『お姉ちゃんとパパ、知り合いなの?』


『ヘンディさんは、うちのお得意様だよ?よく見たら、私、何回かここに来た事あるなぁーー』


『そうなの?』アンナが不思議そうに聞く。


 ヘンディは診療所の先生で、白衣を羽織っている。


『よく、魔法薬の発注をしてもらっててね……私が届けに来てるんだーー』


『まぁ……いつもは、病院側から入ってもらってるしねぇ……アンナとも、会った事……なかったかな……?』


『初めて会いましたよ♪』


『お姉ちゃんはね!ママにお花をあげに来てくれたの!』


 場所をリビングに移し、アンナの母親が好きな花を、ヘンディに聞いてみる。


 『イリスが好きだった花か……よく、飾ってくれてはいたけど……何が好きなのかは、ちょっと、覚えてないな……』


『うーん、ヒント無しか……』しおれるメグ・ラズベリー。


『そうだ!アルバムがあったなぁ……何か、分かるかも知れない』


 アンナがアルバムを取りに行ってくれた。


 その間にメグ・ラズベリーは奥さんの事を尋ねる。もともと病弱で、亡くなってから一週間も経ったいない事が判明。奥さんの趣味はハーブの収集。


 アルバムをのぞき込み、ヘンディの暗い表情に光が宿る。思い出深い、一枚の写真を指差す。


『ほら、この写真、東洋とうように行った時のヤツだよ!この国では不思議な経験をしてねぇ……』


『不思議な経験?』『どんな、どんな?』 メグとアルバムを持ってきたアンナは興味深々。


山際やまぎわ寺院じいんを見に行った時のことなんだけど……雪が降ってたんだ。すっかり春で、暖かかったのに、不思議だったなぁ……』


『春なのに、雪が降ってたんですか?』


『しかも、空は晴れててね?そんな事、起こるはずないのに、ピンクの雪が舞い降ちてきて、本当に、綺麗だったなぁ……』


 それは雪ではなく花びら。花びらが綺麗だったのか?浴衣姿の奥さんが花びらに手を伸ばす姿が綺麗だったかったのか?それはヘンディのみぞ知る。


『ピンクの雪?すご〜い!』アンナのテンションが上がる。


『暖かい季節に降る……?』


 紅茶をれながら、メグはひらめく。


『ねぇ、アンナちゃん。お母さんの寝てる所って、ここから近い?』


『うん!すぐだよ?』


『じゃあ、連れてってよ!ピンクの雪と、お母さんの好きな花、見せたげる!』


 母親の眠る墓でアンナはつぶやく。


『本当は知ってるんだ……私。ママはもう……起きないんだよね?ママが眠っちゃう前にね、アンナに言ったの。《パパをお願い》ってね?

 

 パパ、ずっと元気なくて、いつもママの写真を見て、悲しそうな顔をしててね?だから、ママがゆっくりお休みできたら、パパも安心できるかな?って』


『ひょっとして、お花を用意しようとしたのは?パパのため?』


 そっとうなずくアンナ。


『ママにゆっくり眠って欲しいし、パパにも元気でいて欲しい』


 遠くからヘンディが駆け寄って来る。


『どうしても、気になってね。午後の診察は遅らせて来た。それで?イリスが好きだった、花の正体。わかったのかい?』


『うん。と言っても確証があるわけじゃないんだけど……バラとヤグルマギクとアイリス。アンナちゃんのお母さんが飾ってたのは全部、旅行に行った国を象徴する花だった。大好きな国の花を見せることで、アンナちゃんに少しでも世界を見てもらおうとしてたんじゃ無いかな?』


『そうだったのか……』妻の思いを噛み締めるような言葉。


『そして、最後に一つだけ、どうしても用意出来ない物があった。たぶんそれは、アンナちゃんに一番見せたかったものなんじゃ無いか?って、思う。


 アンナちゃん、東洋にはね?ソメンヨシノって、木があるんだよ?品種は桜。春先に咲く花だよ』


《我が声よ届け、大地の豊穣ほうじょうよ、木々の豊潤ほうじゅんよ、あまねく奇跡を聞き届け、我が元にかつての色彩をよみがえらせよ。


 幻影は形となり、形は夢を見せ、夢は希望を授け、あまねく奇跡はここにあり、果ては東よりその色彩を浮かばせ、美しい姿を見せて》


 手のひらにのっていた、思い出の花びらが色を取り戻し、花びらの形に戻り、その花びらは増え、天に登っていく。


 『すごい』ヘンディはつぶやく。


『桜の再構築さいこうちく魔法だよ。とは言っても、一時的な幻影みたいなもんだけど』


メグ(いやいやいや、ちょっと上手く行きすぎでしょ?これ本当に私がやったの……?)


 そこには見渡す限りの満開の桜が現れ、雪のように綺麗に散っていく。そこにはかつてみた景色がヘンディの眼前に広がる。


『ヘンディさんはずっと、奥さんに苦労させてしまった事が、心残りだったかも知れない。でも、きっと、ヘンディさんの本当の気持ちも、奥さんにはちゃんとわかってた。家にあったハーブ、あれはどれも、ヘンディさんの体調に合わせたものが選ばれてたんだ。


 ハーブに桜に、たくさんの花に。こんなに家族を思ってる人、他にいないよ』


 涙を堪え切れないヘンディ。心配そうに父親を見つめるアンナ。アンナの小さな手を両手で掴む、メグ・ラズベリー。


『アンナちゃん。お母さんはきっともう大丈夫。だって、大好きなアンナちゃんに、自分が一番好きな花を見せることが出来たんだから……』


「メグちゃん……もう、アンナ我慢しなくていい?」


「うん、大丈夫だよ。よく頑張ったね、アンナちゃん」


 アンナの瞳から大粒の涙が流れる。それは今まで必死におさえ込んでいた、悲しみの感情。


「アンナね、ママが居なくなってから、ずっと、ずっと寂しかったの。パパが元気なくて、ママもいなくなっちゃって。ずっと、ずっと……』


 泣き出すアンナ。アンナを抱きしめるヘンディ。


『アンナ!ごめん、アンナ!パパ、もう大丈夫だから。もう、アンナに寂しい想いはさせない!』


『うん!』





メグ(アンナちゃんのお母さんは自分が居なくなった後も、二人に笑って欲しかったんだ……)


 瓶の中には、二人分の涙が溜まる。




『ありがとう、メグちゃん。


 メグちゃん、いつかファウスト様みたにいなる?だって、だって、メグちゃんはママの大切な花を見つけてくれたんだもん!きっとファウスト様より、ずっと凄い魔女なるって、アンナ信じてる。だから約束して……』


 アンナはキラキラと瞳を輝かせる。


メグ(言えない……私があと一年で死んでしまうだなんて……)


『大丈夫さぁ……アンナ。なれるよ、メグちゃんなら、永年えいねんの魔女、ファウスト様を超える未来の大魔導師に……』


 ヘンディがアンナの肩に手を添えて、お墨付きをくれる。


『分かったよ……じゃあいつか、私が凄い大魔導師になったら、その時は幻じゃなくて、本物の桜を見せたげる』


『本当!?』


『うん。期待しててよ!』


  


 メグ・ラズベリーはファウストの待つ、我が家へ帰る。ファウストの予想に反して、意外と元気な弟子へ言葉をおくる。


「死んだ魚みたいな顔で帰ってくると思いきや、ずいぶんと光を取り戻しているじゃないか?」


「人を魚と一緒にしないでいただきたい。ねぇ、お師匠様、これって、嬉し涙っすかねーー」


 ファウストから貰った時魔法が込められた瓶を取り出し、二つの涙の粒を見せる。


「違うね……」


「それは喜びと悲しみが混ざった涙だ。純粋な嬉し涙じゃない」


 メグ・ラズベリーの希望の光が一瞬で消える。


「そっすか……」


「嬉し涙じゃないけど、清らかな涙だね。普通にはない、強い力を感じる。綺麗でみ切った。優しい感情だ」


「だから瓶が間違って、集めちゃった。って、事っすか?」


「ふん。かも、知れないねぇ……」


 ふん。という笑いまじりの返事。自身が用意した魔法の瓶、そのファウストの予想を超えた涙を収集してきたメグ・ラズベリーに対しての愉快な笑いにも聞こえる。


「んん、なんか、喜んでます?」


「お前は人の心を開かせる事ができる魔女なんだね」


 珍しく弟子を褒めるファウスト。


「そんなモンできたとこで、クソの役にも立ちまへんがなぁーー」


 ソファーに寝転がり、ふてぶてしい態度で手首を軽く振る。


「ちっとは素直に褒め言葉を受け取りなぁーー」


「だいたい。なんで一年前になって、いまさら呪いの話なんて、したんっすか?せめてあと、五・六年もあったら……」


「五・六年あったら……成し遂げられたって?」


「いえ……」(自分の性格なんて、良くわかっている。そんな時に言われても、時間があるからって、何もしないで、そのまま最期さいごの日を迎えていただろう……)


「今のお前だから、言う価値と、運命にあらがう力があるんだよ」


 その言葉はメグ・ラズベリーを魔女として認めているからこその試練、その様に聞こえなくもない。


「運命に……あらがう?」


「それでどうするんだい?このまま諦めて死を受け入れるのか?わずかでも生きこる可能性にけるのか?お前が決めるんだ」


「はぁ……たく。最低の誕生日プレゼントですね?お師匠様。やります。嬉し涙千粒!集めて見せます!!」


 ファウストは弟子の選択に満足したかの様にうなずく。その表情は死を選択するとは微塵も考えていなかったのかもしれない。


「呪いがなんぼのもんじゃーー!!!」




《これは余命一年を宣告された未熟な魔女が起こす。奇跡の物語》




































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