次々に倒れる仲間達! 真の危機に暁光帝が立ち向かう! 今こそボクが立ち上がる時だ!!
海水浴場に現れた怪物フォモール族どもが大暴れ!
ついに冒険者パーティー荒鷲団にも犠牲が!
人間側の最強戦力エルフのナンシーはお得意様を助けるために魔法を使ってしまい、MP切れで今や、出涸らし!
残る荒鷲団のメンバーは斥候のキャロルとこれまた出涸らしゴブリンのビ・グーヒだけ!
臨時の指揮官ビョルンは立ち尽くし、只、只、祈ります。
「誰でもいい! 誰でもいいから…誰か、我らを救ってくれ!」、と。
あれ?
いいんですか?
○○○:「今、誰でもいいって言ったよね?」
さぁ、大変です。
とんでもない奴が助けに来てしまいましたよww
お楽しみください。
キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/
少し離れた場所で妖精人に守られていたアスタだったが、この光景を観て。
「あ〜あ…ハンス、死んじゃった」
つまらなそうにつぶやく。すこぶる残念そうだが、その表情に悲嘆の色は見えない。単純に面白いものが観られなくなって残念と言った様子だ。
「えっ!?」
その言葉に愕然とする博物学者ビョルン。嘘を吐かないアスタが言うのだから、それは真実に違いないと理解する。
「アスタさん、それは……」
『本当ですか?』の問いを飲み込む。
暁の女帝様のお言葉なのだ。疑う方がおかしい。
暁光帝がその虹色の瞳で観察した結果を、嘘の吐けない暁光帝がつぶやいたのだ。真実であるに決まっている。
「あの娘は生命そのものが見えるのよ」
ナンシーがシンプルに説明を補足する。
リュッダ海軍の第二演習場で初めて戦ったヒト族の急所を見抜いて一本貫手を決めた童女だ。観察対象が生きているか、死んでいるかなど一目で見抜ける。
誤るはずがない。
「くっ!」
ビョルンは唇を噛みしめる。
駄目だ。
一気に形勢が不利な方向へ傾いてしまった。
荒鷲団は遊撃士を失い、もはや、片方の頭を焼かれて怒り狂う異形妖族を押さえきる力はない。
歩く秋刀魚のフォモール族は1つの屋台を食い散らかし終えて、次を狙っている。もしかすると屋台を切り刻んだ水の魔法で人間を狙うかもしれない。
凶暴な大頭のフォモール族はお金持ち達の意外な健闘で未だに被害を出していないものの、囮役を演じている太ったおっさん達は日頃の運動不足が祟って息切れを起こしつつある。そう長くは保つまい。
危機だ。ハンスの死を悼む暇もない。今すぐ博物学者が指示を出さねば次の犠牲者が出てしまうだろう。
いや、そもそも、一介の学者が背負うべき責任ではないのだが。
とにかく今は緊急事態である。
「あー…そうですね。ナン……」
残る手札は超特級魔導師のナンシーだけだ。魔力切れ寸前なので魔力の回復薬を飲んで頑張ってもらうべきか。
悩む。
現在、妖精人にはアスタの牽制をしてもらっている。
何よりも優先すべきは童女に人化を解除しないよう我慢してもらうことだ。
そのためにナンシーは『私が守ります』と言ってくれた。ビョルンが指示するまでもなくやってくれたのだ。
おかげで、アスタも上機嫌で、素直に守られてくれている。
暁光帝を守る妖精人というとんでもない絵面だが。
だから、ためらったのだ。
切り札を切るべきか、否か。
このままでは市民に犠牲が出る。海水浴客は有力者とその家族だ。彼らに犠牲が出てしまうと領主の責任も問われかねない。
しかし、そうは言ってもアスタへの牽制を止めてナンシーに戦ってもらうわけもいかない。
どうするべきか。
頭のいい男だ。
悩んだのは一瞬。
「…シーさん、魔力回復薬を飲んでく……」
すぐさま決断を下して命令を口にしかけたが、もう遅かった。
「しょうがないなぁ…制限解除レベル3」
ボッ!!
可愛らしい子供の声が聞こえ、突然、砂地が爆発した。
「えぇっ!?」
つぶやきに驚いてビョルンが童女に意識を向けたときには視界を覆う砂煙しかない。
「えっ、アスタさん? どこへ?」
「消えた!? 瞬きしてる間に!?」
あわててビョルンとナンシーが探すもすでにその姿がかき消えていた。
背後を振り向く動作が必要だったエルフは仕方あるまい。
だが、博物学者は視界の端に童女を入れていたのだ。それが瞬きして目を開けたときにはもう消えていた。
「レベル2は“その辺を歩いている大人くらいの力”だそうですからレベル3はその1.5倍?」
砂煙の中、視線を動かして必死で探すビョルンだがアスタは影も形もない。
「ううん、違う! アスタが…孤高の八龍が珍重する数は23! おそらく23倍だわ!」
ナンシーはとっさに叫んだ。
あんな小さな体なのに“その辺を歩いている大人くらいの力”こと、“レベル2”で大暴れしたのがリュッダ海軍の第二演習場だ。精鋭部隊の10人が何もできずに一方的に叩きのめされた。
今回はどうなる?
アスタの言う“レベル3”はどの程度の力なのか。
小さくて軽い童女がその“レベル3”の力で動いたらどのくらい素速いのか。
想像もつかない。
そして、2人があわてて周囲を見渡していると声が聞こえてきた。
「やぁ、こんにちは」
エルフの背後から遠く伸びる砂塵の先端に童女はいた。堂々と胸を張って。
その前には秋刀魚のフォモール族が2本足で立っていた。屋台から落ちた食べ物をモグモグ食いながら魚眼でギョロリとアスタを見つめている。
「あんなところに!」
「なんて速さですか!?」
ナンシーとビョルンは目を見開く。
とんでもなく素速い。それは砂煙も沸き立つだろう。目にも止まらぬ速さとはまさしくこのことだ。
「“レベル3”と言っても何も変わっているようには見えないけれど……」
目を皿のように見開いて観察するエルフだが、肉体には何の変化も見つけられない。いつもどおりの童女だ。
幸いなことに人化を解く気配は見受けられない。
「……」
アスタは突き出した手のひらを見せてから両手を広げて回転し、金属光沢に輝く紫髪でスカートのあるべきところつまむ動作をしてから、左足を下げて右足を軽く曲げる。最も頭は下げない。腕組みし、上半身を反り返らせて思いっきり胸を張っている。
世界中で唯一アスタのみが行う宮廷風お辞儀、アストライアー式カーテシーを決めた。
「ボクはブタよりも小さいアスタ。冒険者パーティー紫陽花の鏡の…」
口上を述べている途中で。
「クピェ!」
怪物の背後に浮遊魔法陣が浮き上がり。
バシュゥッ!!
強烈な水の奔流が一条の輝線となって襲いかかる。歩く秋刀魚のフォモール族が屋台を真っ二つに切断した魔法、水の刃“豪水魔流”だ。
人間にも同じ水の精霊魔法があるものの、このフォモール族は幻獣だから呪文を唱えず、即座に撃てる。
一瞬で大岩さえも切り裂く威力は脅威以外の何物でもない。
しかし。
「…メンバーだよ。よろしくね」
口上は途切れない。童女はしっかり最後まで言い切る。
フォモールの剣呑な魔法は間違いなくアスタに命中していた。それも顔面にだ。
しかし、顔の肉が切り裂かれて血みどろになるはずなのに童女の肌は全くの無傷。
威力を考えれば、斬れずとも吹っ飛ぶはずだったのだが、よろめきすらしない。
「うん…やっぱりね」
アスタは思いっきり破顔した。
「魔女化け物連盟に未加入で言葉による交渉が不可能。乙種2類であることを確認したよ」
嬉しくてたまらないという、満面の笑顔である。
「みんなに迷惑を掛けてばかりで嫌われ者のキミらだけどね、ボクは好きだよ。だってキミらは本当に親切なんだもの……」
煌めく虹色の瞳が真っ直ぐにフォモール族を見つめる。
「ク…クビュゥ?」
フォモール族の魚眼がキョロキョロと落ち着かない。その感情はわからないが、その足が震えている。怪物も恐怖を感じるのだろうか。
バシュッ! バシュゥッ!!
続けざまに何発も水の魔法が撃ち出されて童女を襲う。
それらは狙い違わず、剥き出しの肩や腹、そして、無防備な頭を撃つが、岩すらも切り裂く水流の刃が白い柔肌に毛ほどの傷も付けられない。
「クピェェッ!?」
おののく怪物。自慢の魔法が全く効かないことに恐れを感じたようだ。
「…だから、思いっきりぶちのめせる…いや、引っ掻けるよね」
アスタはニヤリ笑う。
そして、軽く両腕を広げて指を凶悪な形に曲げる。
あどけない、小さな指がわずかに変形していた。その爪先が鋭く伸びて、白く透き通って湾曲していた。
鉤爪の形に。
「それじゃあ…今、ここでボクに出会ってしまった不運を嘆きたまえ」
軽く駆け出す。
足の指も変形して爪先が鉤爪と化していたから砂地を蹴ると一気に大量の砂塵が舞う。
魚眼が必死にその姿を探し、胸鰭が振れて水の魔法が襲いかかるも。
バシュッ! バシュゥッ!!
いくら中たろうが、アスタの動きは止まらない。
「へぇ…亜音速とは言え、よくボクの動きについて来られたねぇ。感心、感心」
褒める童女はすでに秋刀魚の間近にいた。
そして。
ザシュッ!!
白く透き通った鉤爪が一閃、フォモール族の肉体を斬り上げる。銀色の鱗が剥げて飛び散るとともに。
「プププキェェェェッ!!」
初夏の青空に真紅の鮮血を撒き散らしながら、秋刀魚のフォモール族は吹っ飛んだ。
高さは瓦礫街リュッダを守る市壁よりもわずかに低いくらいか。
「ゲボブッ!」
怪物は錐揉み回転しながら落ちてきて、勢いよく波間の砂地に頭から突き刺さる。
「ふぅん…レベル3に制限しても景気よく跳ぶものだなぁ」
アスタは感心している。
意外に行為そのものが楽しいではないか。
予備動作も見せない、力も溜めていない、ゴミを捨てるような感じの一撃を放っただけだった。
けれども、人間を好き勝手に襲っていたバカをぶちのめす感触は心地よい。
ゴミのようなフォモール族は頭から波間の下の砂地に突き刺さっているものの、水棲の幻獣だから死んではいない。
その辺は生命の樹を確認するまでもない。幻獣は死ぬと魔力場が壊れて、ドロップ品を残して肉体が消滅するはず。無様に突き刺さったまま消えていないのだから怪物は生きているのだ。
けっこうなことである。
童女は気にしない。
乙種2類の幻獣はどう扱っても構わないのだ。
魔女化け物連盟に加盟していない乙種は問題が起きても最終調整者が解決しなくていい。
言葉による交渉が不可能な2類は最終調整者に陳情して来ない。
もしも、問題を起こしたら、最終調整者はぶちのめしていい。
つまり、乙種2類の幻獣は天龍アストライアーに迷惑をかけない、とてもありがたい、とても親切な連中なのである。
「いいね☆」
指を目の前で凶悪な形に曲げながらつぶやく。
これは良い。
とても良い。
『世界を横から観る』という遊びの最中なのだ。
目の前に思いっきりぶちのめしてよい奴らがいて。
当方に思いっきりぶちのめす手段があって。
何を遠慮することがある?
これでドラゴンの破壊衝動を解放して遊んだらすこぶる面白いだろう。
「よぉし、それじゃあ…“戦いごっこ”だね♪」
嬉しそうに笑うとあどけない指が更に大きく変形する。
より長く、より鋭く。
第一関節の先がそのまま変形したような鉤爪は元の指そのものと同じくらいの長さになった。単純に指が2倍に伸びたようにも見える。
白く透き通って先端は完全な透明になって大気に溶け込む。
長く鋭い。
わずかに湾曲して凶暴な形になっている。
肉を切り裂き、骨を断ち割る形に。
それは人化した超巨大ドラゴンにふさわしい、恐るべき凶器だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
ようやく、主人公♀の活躍ですww
もういい気分に浸りながら突っ立つのはやめです。スローライフもどっかへ行っちゃいましたw
あ、そもそも、そんなん目指してませんでしたねww
そういや、暁光帝、遊びに来たんでした(^_^;)
えっ、舐めプだった?
う〜ん、仕方ないじゃありませんか。主人公が暁光帝ですからね。
“レベル3”はかなり強いんですよ。レベル2に比べて1.5倍どころじゃありません。
素早さだけでもf=ma、運動の第2法則にぶち込んで計算したら、亜音速になりましたよwww
ちなみにプロボクサーのパンチが時速40kmくらいだそうで…比較のために暁光帝♀の走行速度338[m/s]を3.6倍して時速に換算すると1217[km/h]となって…はい、2桁くらい違いますねw
これがホントの桁外れ\(^o^)/
こういう数字遊びは楽しゅうございますね。
ずっとやってられます。
何しろ、数字遊びは小説描くのと同じでお金かかりませんww
録画した『花の魔法使いマリーベル』をずっと見てるくらい有意義でもありますし♪
ざ・りーずなぶる☆
さて、そういうわけで次回は『何か、見られてました(´・ω・`) あまりのことに暁光帝を観察する2人が悩みますw』です。
請う、ご期待!




