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人化♀したドラゴンが遊びに来るんだよ_〜暁光帝、降りる〜  作者: Et_Cetera
<<暁光帝も木の芽時? 百合♀×♀強化キャンペーンです!>>
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暁光帝、愛の真実に目覚める。ほんとうのときめきってここにあったんだ♪

ショッキングな事態に衝撃を受けた、我らが超巨大ドラゴン暁光帝。

女性の尊厳を奪った筋肉が許せません。

このまま世界中の筋肉を膺懲しちゃうのでしょうか。

それとも、筋肉の言い分を聞いて弁証法みたいなジンテーゼを導いて世界に平和をもたらすのでしょうか。

人化したドラゴンの決定は如何に?

お楽しみ下さい。


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://ncode.syosetu.com/n2816go/

 そもそも、豚人(オーク)に乳房はない。

 オーク族はヒト族と同じ脊椎(せきつい)動物亜門に属するが、哺乳綱(ほにゅうこう)ではない。胎生(たいせい)だけれども、繁殖力に重きを置いて単為(たんい)生殖が盛んだ。つまり、父親が()らず、母親だけで子をなせる。

 オークの男は稀少であり、ほとんどのオーク女性は恋愛と縁がなく、単為生殖のみで子供を産む。優れた功績を認められた一部の女だけに褒美(ほうび)として男があてがわれるものの、それは当然のように共有という形を取る。

 男が(まれ)にしか生まれないから、必然的にオークの社会は一夫多妻制(いっぷたさいせい)なのだ。

 もっとも、それはヒト族の妄想するような、(うらや)ましい形態ではない。

 オーク族の男は矮雄(わいゆう)を起こしており、侏儒(ゴブリン)(オス)ほど極端ではないものの、肉体が縮んでいる。

 オーク女と(こと)なり、彼らは牙がなく、鼻面も出っ張っていない。顔はほぼヒトであり、頭の高い位置から伸びる耳と螺旋(らせん)を描く短い尻尾くらいしか違いがない。小柄な肉体は華奢(きゃしゃ)で、か弱く、色白で声も高い。男なのに(ひげ)が伸びず、お顔はツルツル、玉の肌。そして、お(しと)やかであること、髪は長く伸ばすことを()いられる。

 稀少だから大切にされ、きらびやかな衣装を着せられる。貴重な化粧品もまず男に優先される。

 つまり、ブタ耳とブタの尾、そして乳房の膨らみがないことを除けば、オーク男性の見かけはヒト族の可憐(かれん)な美少女にしか見えないのだ。

 もしかすると、彼らはヒト族の女性よりも優れているのかもしれない。外見に限れば歳を取らないからだ。寿命そのものはヒトと変わらないが、オークは老化による容姿の衰えが少ない。男女ともに歳を食っても姿がほとんど変わらないのだ。故に、オーク男性は美しい外見のまま、生涯を過ごすのである。

 それが幸せなのか、どうか、それについては議論の余地があるけれども。

 彼らは部族の宝であり、多くの従者にかしずかれて過ごす。そういった部族は豊かで強力だ。弱い部族は男が生まれても勢いのある部族に差し出すしかないからだ。

 そして、勇敢に戦うことを(たっと)ぶオーク族は大きくて屈強な肉体が特徴だが、実はそういう典型的なオークの全てが例外なく女性である。

 子供に乳を与える習慣どころか、彼女達は乳房そのものがない。

 そもそも、子供を育てる感覚からして(こと)なり、赤ん坊は乳母(うば)に育てられる。たくましい彼女達は母親と接する機会がなくても気にせず、大きくなって武器を取り、部族の新たな戦士となる。

 その胸はヒト族の男性とほぼ同じ。それどころか、ヒトの男と違って乳首はその痕跡(こんせき)すらない。

 つまり、見目麗(みめうるわ)しく上品なオーク男性は豚面(ぶたづら)の汗臭い屈強なオーク女性の集団に囲われて一生を過ごすのである。その待遇は完全に部族の共有財産であり、“恋愛の自由”など微塵(みじん)も存在しない。

 そして、今、アスタの目の前でさわやかに微笑むオークさんは女性なのだ。

 やはり、そのたくましい胸に乳首の痕跡すらない。

 それでも彼女は女性なのである。

 「うむ…うむ…そうだね。理解したよ」

 童女は血涙を()き、静かに立つ。

 「おかげで…()めた」

 (こと)(ほか)、冷静である。そこに先ほどまでの『おっぱい!』『おっぱい!』騒いでいた子供の姿はない。

 「ボクとしたことが道を見失っていたよ。無乳もよいものだ」

 悟りきった表情で語る。

 「アスタさん……」

 恐る恐る、ナンシーが様子をうかがうも。

 「女性とは何か? その問いについて『要素(エレメント)xは女性である』という命題を根源的に考えた時、『要素(エレメント)xは女性でないことはない』という二重否定を考えるべきだね」

 突然、謎めいた推論を()べ始める童女だ。

 「これは二重否定の原理から元の命題と同値(どうち)だよ。その定義に排中律(はいちゅうりつ)を適用すれば第一の否定『要素(エレメント)xは女性でない』が『要素(エレメント)xは男性である』と言い()えられるので第二の否定が『要素(エレメント)xは男性でない』に帰結(きけつ)されるね」

 紫のロングヘアーは金属光沢に(きら)めきながら、童女の周囲を静かに漂っている。

 「えっ? えっ!?」

 アスタは何を言っているのだろうか。

 驚いてしまい、ナンシーは目を白黒させている。

 「故に『女性である』ということは『男性でない』ことに等しい。そこから命題『要素エレメントxは乳房(おっぱい)がある』は必要十分条件ではないということが(みちび)かれる。つまり……」

 平たい胸をグッと張って。 

 「大胸筋、許したげるわー」

 童女は余裕の表情で堂々と宣言する。

 「えっ? うっ……えーっと…ア、ハイ」

 疑問にまみれながらも結論だけは肯定(こうてい)する。

 ナンシーには一連の流れが理解できない。

 最初は『大胸筋を許さない』だった。

 それもよくわからないが。

 今度は『大胸筋を許す』に変わった。

 “大胸筋”とは何か。

 実は特殊な暗語(あんご)なのだろうか。それともそのままの意味なのだろうか。

 只の筋肉が罪深かったり、恩赦(おんしゃ)(たまわ)ったり、何とも忙しいことだ。

 混乱するエルフだったが、暁の女帝様が『許してあげる』とおっしゃっているのだからそこは問答無用で納得するしかない。

 「お前さんもその結論に達したか。二重否定の原理から演繹(えんえき)するとは面白いぜ」

 さわやかオークさんも評価する。姿も口調も男にしか思えないが、これでも立派に女である。

 「その推論を吟味すると全称(ぜんしょう)命題『全ての要素(エレメント)xについてxが女性であるのならばxは乳房を持つ』は()であり、『ある要素(エレメント)xについてxが女性であるのならばxは乳房を持つ』という存在命題こそ真偽値(しんぎち)が1であると言えるのだろう」

 キラランとさわやかな笑顔で語るオークさんだ。

 人類共通語で喋っているにも関わらず、かなりというか、完璧に意味不明である。まったくもって人類共通でない。

 「ふむ。よくわかっているじゃないか。束縛変数を用いて命題関数を考えることは重要だね。意外な恒真式(トートロジー)が使えることもあるよ」

 意味不明の怪しい単語を絡めつつ、アスタは大いに感心している。

 驚くべき事に2人の間で互いに会話が成り立っているようだ。

 「は…はぁ……」

 ナンシーは心の中で『あ、このオーク、哲学者だ』と思う。この世の物事を(かた)(ぱし)からあれこれ難しく考える連中の1人である。妖精人(エルフ)闇妖精人(ダークエルフ)に多く、ヒトの中にもいる。豚人(オーク)の哲学者は珍しいが、そんな心的傾向(メンタリティー)にあるから故郷を出奔(しゅっぽん)して瓦礫街リュッダに来たのだろう。

 こういう場所で力仕事をすることに向いているとも思えないが。

 哲学は苦手で好きにはなれないし、実学ではないが、必要であることは認めている。あってもほとんど役に立たないが、なくては何も始められない、そんな学問だ。

 「俺もずいぶん悩んだが、今は納得している。この街では乳房があってこそ“女”である…らしい」

 今度は理解できる言語で語っているが、さわやかオークさんが顔をしかめて、さわやかでなくなっている。

 ヒトとオークでは男女観が違いすぎて、ほぼ真逆(まぎゃく)なのだ。

 「その上、女はお(しと)やかで、控えめで、優しくて、丁寧な言葉(づか)いだとか…男かよ。まったく」

 不平を(こぼ)す。

 「……」

 ナンシーは何も言わない。

 オークの文化はエルフと(こと)なる。ヒトとも、だ。大きく異なる。

 だから、文化や価値観の違いは強烈だと痛感した。そして、余計なことを言わないのが吉と学んだものである。

 オーク諸侯の国を訪れた時、散々な目に()ったのだ。

 強いことがバレたら戦いを(いど)まれて、仕方ないので受けて立ったら圧勝してしまった。すると、どう見ても可憐な美少女にしか見えない、可愛らしいオーク男性を差し出されたのだ。

 その時のやり取りは今でも鮮明に憶えている。

 『美しい男は強い女のものだ』

 『はぁっ!? いや、どうしろと?』

 『遠慮することはない! お前は勝者だ! 存分にまぐわえ!』

 『いえ、だから、要りませんって!』

 たくましい男性にしか見えない、屈強なオーク女性の族長には困らされた。

 華奢で可憐な“男”からは(ほお)を赤らめて『ぜひ!』と迫られるし。

 その背丈(せたけ)が女性の自分よりも低く、その生白(なまじろ)い二の腕が女性の自分よりも細かったことが思い出される。

 最後は涙目になられて。

 断ったことに罪悪感すら覚えさせられたものだ。

 一夫多妻制であるオーク族の恋愛観には“貞操(ていそう)”の2文字はないし。

 なるほど、あの環境は男女の概念を混乱させられる。

 目の前のたくましいオーク女性もヒト文化の街に来てずいぶん悩まされたのだろう。

 それならば、と。

 「なかなか立派な知見ですね。学者を目指してみては?」

 エルフは転職を勧めてみる。ここで荷運び人夫をやるよりもずっと待遇がいいだろう。街には新しい血が必要だし、オークの学者は貴重な新しい視点をもたらしてくれるかもしれない。

 「う〜ん…やりたいんだが、俺は字が読めないんだよ」

 さわやかオークさんは残念そうに語る。残念がってもさわやかだ。

 惜しい。

 識字率の低さはここでもついて回る。街は貴重な人材を採用できないようだ。

 「もったいないね」

 アスタは(なげ)くとすぐさま小さな手を打ち振る。


 チャリン!


 何もない虚空(こくう)から金貨が落ちて来た。

 ピカピカに輝く、真新しい金貨がたくさん。

 目に見えない箱、“アイテムボックス”だ。無限と思えるほどの収納力を持ち、収容物の時間経過を停止できるという、伝説の神器(じんぎ)から取り出したのである。

 そんなものを持っていると知れたら大変な騒ぎになるだろうが、本人が暁光帝であることの方が(はる)かに大事(おおごと)である。だから、気にしてもしょうがない。

 「おぉぅっ!?」

 さわやかオークさんが目を見開く。さすがにさわやかでいられない。

 「ボクがお金を恵んであげよう。本を買って勉強したまえ。キミが学ばないことは街の損失だ」

 童女はたくさんの金貨をオークの手に握らせてご満悦(まんえつ)である。

 相変わらず、ナチュラルに偉そうだ。

 「あー……」

 軽く頭を打ち振るナンシーは『数えなくてもわかる、23枚だわ』とため息を()く。

 “23”は暁光帝ら、孤高の八龍(オクトソラス)が好む数。

 やはりカネの使い方が違う。

 違いすぎる。

 一体、港湾労働者の何年分の収入だと思っているのだろう。いや、そんなことをアスタにわかるわけがないか。

 金銭感覚が凄すぎると言うか、おそらくそんなものはない。

 恐るべき超巨大ドラゴン暁光帝が人化した童女、それがアスタなのだ。世界の危機そのものである彼女が貨幣経済のことなぞに関心を持つわけがない。天井(てんじょう)に届かんばかりの金貨の山も所有しているし、まともな金銭感覚など期待できようはずもないのだ。

 そして。

 「おー! あんた、スゲぇ金持ちだったんだな! ありがてぇ! ありがてぇ!!」

 さわやかオークさんは満面の笑みで両手から(こぼ)れんばかりの金貨を見つめ、童女に感謝している。

 『俺は乞食(こじき)じゃねぇぞ!』などと反発することはない。誇りでは飯が食えないのだから、もらえるものは遠慮なくもらう。どんなにさわやかであっても、下層階級の人間などこんなものだ。

 「うんうん☆」

 アスタはよいことをしたと満面の笑顔。紫のロングヘアーも嬉しそうに踊っている。

 「あ…」

 エルフはためらう。

 このオーク、物乞(ものご)いではないのだ。たいした理由もなく他人にカネを恵むような、傲慢(ごうまん)(おこな)いは止めなさいとたしなめるべきだろうか。

 いや、彼女は常に例外なのだ。

 一般的な倫理観や価値基準で(はか)るべきではない。

 (いな)、測れない。

 「アスタさん、よいことをしましたね」

 余計なことを考えるのはヤメだ。ナンシーもニッコリ笑って童女を()めることにする。

 アスタが普通の子供であったなら、その野放図(のほうず)なカネの使い方について厳しく叱責(しっせき)されるべきだろう。

 だが、アスタは暁光帝なのだ。

 世界一偉い暁の女帝様ご本人なのだ。

 偉そうにして何が悪いのか。

 首長、国王、皇帝、教皇、大聖女、英雄、魔王、神、それらの誰よりも、いや、それら全てを合わせたよりも偉いのだから、ナチュラルに偉そうに振る舞って当然だろう。

 少なくとも下層階級の荷運び人夫を(あわ)れんでカネを恵むくらい当たり前の行為である。

 オークはカネがもらえて大喜び。

 アスタは良いことをして上機嫌。

 ナンシーは国家の繁栄が楽しみ。

 みんなが幸せになれた。

 偽善?

 少なくともアスタに“偽善”なんてものはない。幻獣(モンスター)に虚栄心などというものは存在せず、彼らは嘘を()かないのだから。

 「ホント、楽しみですね~」

 受け取った金貨を素直に喜ぶオーク女性を見て、ナンシーも期待する。

 このカネで学ぶ機会を得たオークが街に新しい風を呼び込んでくれることを。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

作中でナンシーが「哲学だよ」と評していますが、微妙に違いまして、実際は数学の1派ですね。

記号論理学と言います。

さすがのナンシーもこれには疎い。

小生が中学の頃に図書館で出会い、「これさえ学べば世界の真実を見いだせる!」と必死こいて勉強した分野です。

うん、ほとんど役に立たなかったよ〜

面白かったけど。

さて、この記号論理学にまずゲーデルの「完全性定理」というのがありましてとても面白いんですが、続く「不完全性定理」ってのが更に面白いんですよ。

当時の小生にとってはとてつもなくショッキングな内容でしたが。

結論から申しますと「どんなに頑張って公理系を組んでも必ず矛盾が生じる」って奴です。

この定理のおかげで(せいで?)ヒルベルト計画が頓挫しました。

当時、「数学に矛盾が生じるなんて!?」と半ば絶望に近い衝撃を受けたものですが。

逆に考えましょう

どう足掻いても矛盾は生じるのです。

あの数学ですら。

いわんや、小説に於いてをや。

ええ、どう足掻いても矛盾は生じるんです。

世界観を完璧に組んで、その世界観から自然に生じたキャラクターを使ってすら、物語に矛盾が生じてしまうということです。

こればかりはどうしようもありません。

それなら。

ストーリーに矛盾が生じるのは避けられない。

ですよね〜〜〜〜〜

ええ。そういうものです。

だから。

なるべく矛盾が生じないように努める。

矛盾を避けるように物語を組む。

少なくとも読者に気づかれないように。

小生らができることはそれくらいでしょう。

それくらいならできますから。

がんばりましょう(^_^;)

恨みますよ、クルト・ゲーデルさんww


ちなみに、以前、作中でナンシーが古典力学や運動エネルギーについて考察していますが、あれは誤記ではありません。

エレーウォン大陸は広いので、瓦礫街リュッダよりも文明の発達した超種族の国家もあるんです。

そこの連中から教わったという設定ですね。

まだ出番がないのでその辺は伏せさせておいてください(^_^;)


さて、まだまだ続く港観光。

ええ、まだ港しか観光してません(^_^;)

瓦礫街リュッダはそれなりの広さなのでまだ見るところはたくさんあります。

あー、何か、ふつうのバトルファンタジー作品だとそろそろ世界の危機が起きて主人公が超パワーアップしそうな頃ですが。

まだ、物語が始まって4日目なんですよね〜〜

超・遅ぇ!

いいんです☆

世界の危機ならエルフの隣で観光していますからww

遊びに来ただけですしね。

次は遊興港(マリーナ)へ出掛けます。

上流階級の遊び場です。

遊覧船が並んでいて、お金持ちの奥様&お嬢様が遊ぶところです。

それはもうステキな出会いがあるに決まってるじゃありませんか。

お楽しみに〜

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