初めてのお買い物。暁光帝、ついに商人と向き合う。世界の真実とは!?
(・人・)の誘惑を振り切って、我らが暁光帝はマリーナに来ました。
お金持ちの奥様(巨乳)やお嬢様(美乳)が遊ぶ、上流階級のための場所です。
さぁ、どんな大事件が待ち受けているのでしょうか。
お楽しみください☆
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商港区を見物した後は戻って漁港区を巡った。
一本マストの漁船は小型の帆船である。漁網や銛、釣り竿など、漁具を積んで沖に出る。
日焼けした漁師達がその日の釣果を互いに自慢しあう。
アスタは大きな魚に手を叩いて喜んでいた。
漁は存分に見物したので遊興港区へと向かう。
そろそろ、昼食の時間だろうか。
到着すると臨港道路から見える光景が一変していた。
「華やかだねぇ~」
童女アスタが感心している。
「遊興港区は上流階級の遊び場ですからね。非市民はやって来ません」
苦笑いするエルフのナンシー。
“非市民”、“自由民”とも呼ばれる彼らは戸籍を持たない。名前の通り、自由ではあるが、瓦礫街リュッダの行政府から公的なサービスを受けることができないので生活に困ることも多い。その代わり、ほとんど義務を負わず、自由である。
ちなみに税金も取られない。
ここに来る自由民は裕福の人々におべんちゃらを使ってカネを恵んでもらうか、スリや盗人として彼らから奪うか、そんな連中しかいないのだ。
もっとも、犯罪に関わる者は少ない。
上流階級の遊び場は兵士も警邏していて治安が保たれている。
「うん、うん、いい感じだよ」
童女は機嫌がいい。
上流階級の遊び場だけあって、栄養状態もいいから、ご婦人方もお嬢様方もいい具合にお肉が付いている。つまり、豊かな胸乳の持ち主が多いのだ。
しかも、季節は初夏。それなりに暑くなってきているのでドレスの生地も薄くなる。皆、けっこうな薄着であり、露わな肌を衆目に晒している。
また、裕福だから肉体労働を担うことが少なく、女性達も身体を鍛えている様子は余りない。おかげで、アスタが大好きなお胸のお肉が大胸筋に搾り取られることもないわけだ。
「いいね☆」
童女の喜びを表現しているのだろう。初夏の陽光を受けて紫色のロングヘアーが金属光沢に輝いて踊る。
ちなみに、ちゃんと男性もいる。同じく上流階級の旦那様方やお坊ちゃま方なのだが、単純に関心がないのでアスタの目に入っていないだけである。
子供はともかく、金持ちの男性達は恰幅がよいというか、肥満体が多く、だらしなく垂れた腹の肉を揺らしながら『ふぅふぅ』言いつつ歩いている。
人々の栄養状態が余りよろしくない、この国では太っていることが社会的地位を示すバロメーターなのだ。そこで裕福な男性達は競って太るため、このようなデブの楽園みたいになっている。
この傾向には上流階級の女性達も逆らいづらいようで、やはり太り気味の方々が少なくない。皆、『貧乏人とは違うのよ』と言った感じで、“デブ”と言われても仕方ないくらいに肉を付けている。
もっとも、アスタは大きなお胸が好みなので、少しばかり余分なお肉が付いていても、その辺は大歓迎である。
「へぇ…豪華絢爛☆」
華やかな雰囲気に童女の機嫌が更に良くなる。
海の方に多く枝分かれした桟橋が並び、それぞれに派手な装飾に彩られた遊覧艇が浮かぶ。それらは色とりどりの鮮やかさを披露していて、ここが非市民の住む場所とは異なる、上流階級の遊び場であることを主張している。
背後には遊覧艇を修理する船大工の工場が建ち並び、九柱戯やクリケットや蹴球などの球技場がある。どれもお金持ち御用達の施設だ。
「うちもそこそこの遊覧艇を持っていますよ」
エルフは大いに自慢する。
紫陽花の鏡は最上級の冒険者パーティーだ。地位と名誉は当然、しっかり富も蓄えており、十分に裕福だ。遊興港区に立派な遊覧艇を持つくらいに。
「へぇ…凄いね。今ならブタよりも小さいボクは乗れそうだ」
金属光沢に輝く紫のロングヘアーが楽しげに踊っている。
本人は気づいていないが、『今なら』と話しているから、『今』でなければ身体が大きすぎて船に乗れないことを認めてしまっているようなものだ。
それは童女の正体をほのめかしていて、不用心なことである。
「え…ええ……」
頭を抱えたくなるナンシー。
正体がバレて一番困るのはアスタだろうに。
そんな懸念に焦らされるが、果たして本当にそうだろうかとも悩む。
アスタが恐るべき超巨大ドラゴン暁光帝が人化した童女であると知れたら、どうなるのか。
住民に警戒されてここにいられなくなる?
怒り狂った住民に襲われる?
まさか。
お尋ね者の犯罪者とはわけが違う。
暁の女帝様が追い出されるわけがない。
震え上がって住民の方が街を脱出する。そして、ここ、港湾都市リュッダが無人の廃港になるのだ。
恐れられる暁光帝とおびえる人間。この構図は絶対に変わらない。
今はたまたま、人化して童女アスタになっているから、正体を隠している彼女がおとなしくしてくれているに過ぎない。
潰した国は百を下らず、殺めた敵は万を下らず。
世界の破壊者、天にあり。
暁光帝、畏れるべし。障るべからず、障るべからず。
これぞ、ドラゴンと付き合うための心得。ゆめゆめ忘るべからず、だ。
「わぁい☆」
潮風に紫髪を踊らせて、“世界の危機”が屋台の群れを駆け回っている。
香ばしい肉の串焼きや色とりどりの鮮やかなフルーツゼリー、氷の魔石で冷やしたレモネードなど、子供の目を引く食べ物がズラリ並んでいる。
「食べ物だよ! 食べ物が並んでいるよ!!」
思いっきり興奮する、“世界の危機”である。
しかし、ナンシーはこういうときに童女の興奮を鎮める魔法の言葉を知っている。
「アスタさん、そこにいるのは商人ですよ」
屋台の店員を示して告げる。
途端に。
「えっ!?」
まるで悪魔にでも出会ったかのように目を丸くする童女である。
「いや、商人って…まぁ、そうだけどさ。ペテン師じゃないんだよー」
口ごもりながら店員は抗議する。カッコよくアゴヒゲを生やした、白色人種のお兄さんだ。
しかし。
「うわぁっ! 商人だっ!!」
アスタは驚いて飛び退る。まるでウミケムシでも踏みつけたかのように。
こいつは商人だ。どれだけ警戒しても足りない。ナンシーの服の裾を掴んで背後に隠れてしまった。
商人が恐ろしい。
商人は嘘を吐くから。
アスタは騙されるのが嫌いだ。
無尽の魔力と強大な魔法、そして地形を変形させるほどの怪力と空を覆わんばかりの超巨体、戦力という点では人間の軍隊を圧倒する暁光帝、それがアスタの正体であるが、無敵の彼女にも怖いものがある。
童女は幻獣なのだ。
そして、幻獣は嘘を吐かない。
嘘が吐けない。
だから、人間が嘘を吐いているか、正直に語っているか、それを見破るのが苦手だ。
商人が日常的に商売の駆け引きを繰り返す、つまり、本物の嘘つきだと聞いて震え上がった。
騙されてしまうかもしれない。
語りの中に意図的に真実と異なる話を混ぜて相手の思考を歪ませる技術、“嘘”については聞いている。親友の緑龍テアルからもずいぶん警告されたものだ。それは禁忌と恐れられる精神干渉の魔法と同じ効果を魔力の消費無しでもたらすという、真におぞましく忌まわしい技術である。
「ナンシー……」
童女はすがるような目でエルフを見る。
「お任せを」
スッと目を細めてナンシーは交渉を開始する。
「肉の串焼きは1本いくら?」
料理を指差す。
「ん? ああ、銅貨1枚だ…です」
驚いていた店員が気を取り直して応対する。愛想がないけれども、この街では普通である。
「高いわね。貝貨1枚でしょう?」
「おいおい! 値引きはしないぜ…ですよ。うちはずっとこの値段でやって来たんだ。でも、仕方ないから貧乏人には貝貨8枚で勘弁してやるよ…です」
「でも、池で取ったウシガエルの肉を串に通して焼いただけでしょう? 串はその辺の木を削っただけだし、元手はかかってないじゃない? 貝貨2枚ね」
「馬鹿、言うな! こうして俺が働いてるからおっとぉ、おっかぁ、かかぁに娘とせがれが食ってけるんだ…です。オレ達に首を吊れってか? 貝貨6枚だぜ…です」
「貝貨6枚? ロープを6本も買えば、一家6人が首を吊るのに足りるでしょう。一家心中したくなければ、貝貨3枚に負けなさいな」
「テメェっ、そこまで言うか…ますか。ぐぬぅ…貝貨5枚だ。これ以上は負けられん…です」
値切るエルフと高く売りつけたい店員のお兄さんが丁々発止のやりとりだ。2人は罵り合うように喋り、互いに値段を提示しながら、上げ下げする。
そして。
「じゃあ、10本を銅貨1枚で買うわ。あなたが最初に提示した値段よ。これなら文句ないでしょう?」
ナンシーは新たな条件を提示する。
ドッギャァァァァン!!
「なんだとぉっ!?」
店員の魂に衝撃が走った。
銅貨1枚は最初に自分が伝えた価格だ。それを提示されてしまった。
「ええっ!?」
目を丸くするアスタ。これはどういうことか。数字が飛び交い、増えたり減ったりしている。何がどうしてどうなるのかさっぱりわからない。意外な展開に呆然としている。
「目をそらしてはいけません。これがリュッダの街で行われている“お買い物”なのです」
エルフが厳しく伝える。
強烈な意志を湛える、その視線はいささかも揺らがず、店員の目にグサリと突き刺さっている。
言葉の戦争は終わらない。
意志の衝突、論理のぶつけ合いが再び始まる。
「これはあなたが最初に提示した価格。何にせよ、それが手に入るなら文句はないはずよ。どうせ、その肉の串焼きには元手がかかっていなんでしょう?」
「ぐっ…しかし……」
「焼いた串が全部売れると信じられる? 昨日は何本売れ残ったの? 一昨日は? 今日だって売れ残るかもしれない。今、売ってしまえば確実に銅貨1枚が手に入るのよ」
「むぅ…ぐぅ……」
「『まだはもうなり、もうはまだなり』と言うでしょう。“まだ売れる”は“もう売れ残る”なのよ。あなたも商人なら決断しなさい!」
ズッギュゥゥゥゥン!!
言葉でキメる。
言葉は武器だ。
言葉が武器だ。
それが商人というものだ。
そして、“お買い物”と言えども商取引であり、商人と客は対等。高く売りつけようとする意志と安く値切ろうとする意志がぶつかり合う。
だが、人間は未来が見えない。予言してくれる親切な奴もいない。
だから、売り時がわからない。
だから、決断が求められる。
損をしない決断が。
一人前の商人は決めるべきときに決めなくてはならないのだ。
「う…うぅぅ……で、でも…お金持ちの旦那が来てくれりゃ……」
店員のお兄さんは脂汗を垂らしながら唇を震わせている。
金払いのいい客が来れば肉の串焼きは1本が銅貨1枚で売れるはずだ。
10本、売れれば銅貨10枚になるはずなんだ。
そこへ。
「来るんですか?」
言葉のナイフが突き立てられる。
「一昨日、来てくれたんですか? 昨日は? 今日、必ず来るという約束でも? それで売れるんですか? 希望だけで不確実な収入を期待するのでしょうか?」
鋭利なナイフがザクザクと店員のお兄さんの首や胸を刺しまくる。
「むぅん!?」
店員のお兄さんはタジタジで、唇をわななかせて立ちすくんでいる。
「私が肉の串焼き10本を銅貨1枚で買いましょう」
銅貨を見せる。ピカピカの赤いコインだ。
エルフの口調は丁寧だったが、その言葉は鋭くお兄さんの心を切り刻む。
「さぁ、決めてください!」
ドグワッシャァァァァッ!!
凜とした声が響く。
腹式呼吸から発せられた、威圧感が満載の命令。
それは言葉による攻撃だった。
「!?」
店員のお兄さんは怯んだ。
カネが欲しい。
けれども、未来は見えない。
今日、お金持ちの旦那が来てくれるのか、わからない。
だから、今、串10本で銅貨1枚をもらいたい。
「……」
無言で串を数え、震える右手で差し出し、左の手の平をおずおずと広げる。
「ふん。得しましたね」
鼻息も荒く、ナンシーは銅貨を払って、肉の串焼きを受け取る。
「あ…ありがと…う…ござい……」
店員のお兄さんはわななく唇で礼を述べようとして口ごもり。
「!」
悩んだ。
もしかすると自分は大失敗したのではないか。
本当はお金持ちの旦那がやって来て串焼きがたくさん売れてもっとたくさんのピカピカの銅貨がもらえるんじゃないか。
自分は騙されたんじゃないのか。
今日、もらえるはずのピカピカの銅貨を9枚も失ったんじゃないのか?
疑念がわき上がり。
「値切る貧乏人が! 二度と来るんじゃねぇ!」
声を張り上げて怒鳴りつける。
だが、ナンシーは涼しい顔だ。
「フフフ…よい経験値になったでしょう。感謝なさい」
軽く手を打ち振って踵を返す。
その両手には焼き串が10本。
「はい。どうぞ~」
戦利品をアスタに差し出す。
ここまで読んでいただきありがとうございます♪
はい。大事件が起きました。
ラッキーでもスケベでもありませんが、あの暁光帝が肉の串焼きを買いに来たのです。
いや、買ったのはナンシーですが。
暁光帝はお姉さんの後ろで震えていました(>_<)
さて、次はようやく手に入れた肉の串焼きを手に暁光帝が世界の謎に挑みます。
異なる文化、異なる境遇に暁光帝が挑みます。
お楽しみに〜




