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第八十一話 オーエス!

 私とゼラは遂に散水塔最上階へと辿り着くことに成功した。


 建物自体が延伸しそこから先端が分れた事によって、最上階は空が見える開けた屋上の様な有様に変貌していた。


 フロアの中心には猛烈な勢いの魔力を放つ結晶体が、半ば埋没しながらその上半分を晒し鎮座している。


 そしてその内側には、まるでレーザーでガラス細工の内部を彫り込んだような見た目の、偏執病じみた細密さを誇る魔法陣が幾つも描かれていた。


 恐らくは、あの中心に存在する結晶体がグラガナン=ガシャ達の言っていた統括装置なのだろう。


 統括装置で指向性を持たされた大地の魔力は、同時にそれによって大量の水に変貌し、放射状に延びる散水用の導管からそれを撒き散らし続けている。


 まるで生き物の鼓動の様に、私達の足元を魔力の光線が幾何学模様を描きながら奔る。


 私は、それら全ての中心である結晶の前に立つ、一人の男性に視線を向けた。


 確か、四人の導師の内の一人のはずだった。


 見覚えがあるが、名前はもう、思い出せない。


 彼は既に、ズヌバの手下Bでしかなかった。


 申し訳ないが、とっとと死んで貰う。


 彼を視認した段階で、既に私は行動を開始していた。


 右手を前方へと伸ばし、そのまま手首に搭載された礫弾を投射する。


 それは何物にも遮られずに彼の頭部に着弾し、それを容易く粉砕した。


 糸の切れた人形のようにパタリと倒れた死体を、暫く注視する。


 動き出す気配はない。


「どうせ動くんでしょ?」


 私もそう思う。


「ははは、芸が無いですかね」


 だが、その有様で喋るとまでは思わなかった。


 頭を欠いた男は何事も無かったのかの様にすっくと立ち上がると、服に付いた埃を払う。


 その動きで着衣に血の飛沫が飛び散っている事には頓着していない様だった。


「私達は、輝かしきあのお方の御力でこの世の苦しみから解き放たれました。その喜びを分かち合う機会を損なわせる行いは、やめていただけませんか?」


 実にベタな内容だが、喋るたびに喉の部分から血が噴き出すビジュアルは、中々破壊力があった。


「いや、ムリだから。キモすぎるから。鏡見たら? まあ無理だろうけど」


 ゼラの挑発に乗ったのかは分からないが、彼の首の断面からピンク色の液体が噴出する。


 そしてそれは塊となって元の頭部を復元していった。


「これが龍の力、その一端です。今私達の足元で惨めにも雨どいになっている奴らはこんな素晴らしい力を専有しているのですよ?」


 悪いが、全く心に響いてこない。


 目の前の相手の何もかもが、自分自身のそれから生み出されたものでないことが伝わって来る。


 徹頭徹尾、彼も、山頂で戦った男もズヌバの()でしかなかった。


「時間稼ぎに付き合う暇は無い。ゼラ、私が奴を引き離す。そうしたら君はあの光る結晶を壊しに行ってくれ」


「え? 壊して平気なの?」


 平気なはずだ。グラガナン=ガシャの指示でもある。


 圧力の掛かり続けているパイプに衝撃を加えるのは拙いが、吸い上げる指示を出している装置を壊す分には問題無い。


 私達の会話を聞いていた手下Bが、その身体を膨張させて行った。


 また、不定形の怪物かと思いきや、その外見は今までになく真っ当な生物的だった。


 部分部分で見ればの話だが。


 奴の頭部は鰐を思わせる形に変貌し、身体は触手によって膨れ上がり、それは剥き出しの筋繊維を思わせる形状を取った。


 腰から下からは毛むくじゃらの偶蹄類の脚、飛蝗に似た昆虫の脚、そして筋肉質な人間の足が出鱈目に八本ばかり生えている。


 両腕が解ける様にして触手ばかりのそれと化すと、一本一本が人間の腕らしき五本指を形成し、しかしそれは酷く長く伸びて地面をその爪で引っ掻いた。


 これを表現すべき言葉は、やはり怪物しか無かった。


「ーーーーーー!!!」


 鰐の口が開き、上下の口腔内に臼歯のみがびっしり生え揃ったそれを晒す。


 そうして喉の奥から発せられたのは、甲高い笛の音と雷鳴の衝撃波が発する音が合わさった様な、高低判別つきかねる怪音だ。

 

 怪物がその右腕を伸ばしながら鞭の様に振るった。


 私は屈み込みながら右肩のプロペラを全開で回す。


 それは屈んだ私の上を通過する腕の塊を目論見通りに引き裂いて行く。


 ゼラもまた地面に低く伏せる様にしてそれを躱し、同時に上に向かって高圧で線状になった酸を薙ぐように放った。


 私たちの攻撃によって奴の右腕が引き千切れる。


 だが、腕の持ち主は全く痛痒を感じた様子も無く、短くなったそれを自分の元に引き戻した。


 やはりと言うべきか、それは瞬く間に再生して行く。


「本当に一人で引き受けられるわけ?」


「無理かも」


 だが、やってみるしか無い。


 此方の目的が明白である以上、彼奴は装置の前から退こうとはしないだろう。


 だったら、やはりこの手段しかなかった。


 私は右腕に巻き付いたままのグレイプニルを、捕縛の意思を込めながら怪物に向かって射出する。


 怪物は天を仰ぎながら形容しがたい声で叫ぶ。


 魔力を供なう衝撃波が、理外の鎖を上に弾いた。


 私は弾かれた鎖の袂を左手で掴む。そしてそれを、そのまま右手と共に下の向かって振り降ろした。


 奴の上空に先端を遊ばせていたグレイプニルが急降下し、鰐の口を縛り上げて行く。


 それを拒否するかの様に、奴は自分の両手を私と奴の間にまたがる鎖に絡み付かせ、力任せに引っ張った。


 此方も負けてはいない。


 互いの足元の石畳が、互いの踏ん張りによって大きく罅割れた。


 多種多様な奴の脚が、一様にばたつきながら後退を行おうとする。


 それに対抗する私もまた、足元のタイヤを全力で回転させながら綱引きを敢行する。


 やがて一歩、二歩と歩み始めたのは私の方だった。


 呆気に取られていたゼラが、奴の足元に向かって酸を噴射する。


 それは相手の足を損なわせることはやはり叶わなかったが、綱引きの趨勢を決定付けるには充分な援護だった。


 中心に陣取っていた怪物が、其処から引き摺られながら離れて行く。


 勢いがついた段階で私は鎖の長さを縮めて行った。


 それにより奴とが装置の距離は更に開いて行った


 ゼラ、頼んだ!


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