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第六十五話 狙い撃ち

「彼女は今回の会議の正式な参加者ではありません。あくまでも傍聴人としてこの場に置かせて頂いているだけです」


 彼がそういう人間なのは分かっていたが、プレキマス導師の発言は極めて恣意的だった。


 彼はサーレインとゼラを自分の手の内にある駒であると認識している。


 だが少なくともゼラはあちこち勝手に動き回る駒で、彼には全く制御出来ていない。


「そうかね? 今回の会議の主題は廃龍ズヌバへの対抗手段を話し合う事ね。勇者であるゼラ殿を蚊帳の外に置くのはお門違いではないかね?」


 トレト老人は追及の手を緩めない。


「私もそう思いますな。バトランド皇国支部としても、彼女の力は非常に興味深いですな」


 そしてガルナもしっかりとそれに乗る。


 自分の味方だと思っていたバトランドに後ろから刺される形となったプレキマス導師だが、彼はまだガルナを信じているようだ。


 渋々トレト老人による発言の正当性を認める形となった。


 他の国や導師も異論は無い。


 これで議論の中でゼラの存在を前提とした話が持ち出されても、誰も文句は言え無くなった。


 そして何より大きいのが、名目上、これでゼラも会議参加者の一人として発言が行えると言う事だ。


 会議は次の議題に進む。


 レストニア都市連邦から提出されたのは、現在係争中の河川利用における諸問題の早期解決だった。


 凄まじく分かりにくい皮肉や用語を交えた会話が、大聖堂側とレストニア都市連邦側の間で飛び交う。


 隣に座るライラがSOSを発信してきたので、私は彼女にも分かる様に猛烈に要約した内容を文字盤に表示した。


「お前らの所の観光客がゴミ捨てまくるせいでこっちはいい迷惑してる。この大変な時期に河の掃除に人手を取られるの本当にムカつくし、兎に角水汚すのマジでやめろ。さっさとどうにかしろ」


「こっちでも努力はしてるが、これ以上金や人を使ったところで大して改善なんてしない。ぐだぐだ抜かすな」


「良い度胸してるじゃないか。連合が廃龍対策に力を入れろと言ってきているのに、こっちの力を割かせてその邪魔をするつもりか? それなら考えがあるぞ」


 こんな感じで、言葉で殴り合っている状況だ。


 思ったよりもレストニア都市連邦というか、ハバン側はキレてるようだ。


 というよりも、パーマネトラが酷いと言うべきか。


 結局この議題は一旦保留となった。即日解決するような話でもないし妥当だろう。


 ハバンとしては、そういう問題がある事を他の国の支部に伝える事自体が目的だったようだしな。


 そしてバトランド皇国支部だが、彼らはここで一気に勝負に出た。


「我々は、ミネリア王国にのみ勇者が存在する状況を良しとしておらん。よって、ゼラ殿、もしくはアダム殿を我々の国に招き入れたいと考えている」


 プレキマス、ようやく気付いたか。


 そこに居るのは味方でも何でない。いや、もう味方では無くなったと言うべきか。


「アダムは現在、王都クリスタリアの研究室にも籍を置いており、国外支部への誘致には国王陛下の許諾が必要です」


 すかさずナタリアが私の確保に移る。


 尤もこれは向こうも承知している事だ。態々私の名前を出したのは、ゼラの名前だけを出すことで不自然にならないようにする以外の理由は無い。


 寧ろこの発言は、持っていくならゼラをどうぞ。という意味合いが強い。


 ミネリア王国支部としては、先ほどのガルナの発言には同意するところが大きいからだ。


「待って欲しいね。それが通るなら、是非ともレストニアにも来て欲しいね。ゼラちゃんはスライム、水は生命線ね。まさかパーマネトラも、可愛いゼラちゃんが居る地域の水を汚したままにはしないね? きっともっと力を入れてくれるに違いないね」


 トレトも即座に重ねてくる。


 さて、これで顔色の悪いプレキマス君も理解出来ただろう。


 我々、ミネリア、バトランド、レストニアは君をこの場で可能な限りボコすつもりだという事を。


 私達の主張はそれぞれ異なるし、利害も複雑だ。全員が均等に幸せになる道は、極めて細い。もしくは無いと言っても過言ではないだろう。


 だが、一点だけ共通する部分がある。


 それは、パーマネトラ、ひいては大聖堂の力は弱い方が都合が良いという点だ。


 ミネリア王国、そして辺境伯は、独立なぞ考えている都市に手厳しい警告をくれてやることが出来る。


 バトランド皇国は、自国の影響力が増し、ミネリア王国内での発言力が減った都市を南下の足掛かりとして踏み台にする事が現実的になる。


 レストニア都市連邦は、水利権、河川管理について今よりも更に強く出る事が出来るようになる。


 現在のパーマネトラの権力は導師に集中している。本来都市を治めるべき辺境伯はバトランド皇国の南下を抑えるために北に注力しているからだ。


 だからこそ、今この場で最も攻撃しやすい、分かりやすく隙を見せたプレキマスが標的になっている。


 ミネリア王国としては、ゼラが北に行くことは出来るならば避けたいが、それよりも辺境伯の背中をちくちく刺してくる獅子身中の虫にお灸をすえる事を優先するつもりなのだった。


「もし、ゼラが余所に行くというなら、毎日浄化を行っているというサーレインも同道することになるのですか?」


 ここで私も一撃を加えることにする。


「ええ、そうね。そうなるでしょう」


 ゼラは他所行きの仮面を被ったままそう答えた。隣に座るサーレインがそれを聞いて驚愕していた。


 さてはゼラの奴、結局今日まで何も伝えていなかったな。


 私はプレキマスの様子を伺う。


 おーおー、分かりやすく慌てているな。


「ゼラ貴様! 何を! それは私、いや、このパーマネトラの水の巫女姫だぞ! そのようなことは認められない!」


「いや、プレキマス殿。前例が無い訳ではありますまい。水の巫女姫とは別にこの街に必ずいなければならない訳ではありません。世界を回って修行を行い、そしてこの大聖堂にて次代の巫女姫を支える存在となる者もおります。そう、そこに居るイーヴァの様に」


 それには少し驚いた。


 プレキマスは、その発言を行ったレシナール導師を睨みつけている。


 それにしても道理でイーヴァさんがサーレインに協力的だった訳だ。


 彼女が外に出た巫女姫だというのならば、籠の鳥であり、胡散臭い土産物を作らされている状況のサーレインを見て思うところが有ったのだろう。


 イーヴァさんに好意的だったゼラはこの事を知っていたのかもしれない。


 そんな嘗ての姫巫女は、サーレインの方を向いてニッコリと微笑んでいた。


 皆、隠し事が多くて参るな。


「アダムさん。何だか楽しそうですね」


 ライラが小声で話しかけて来る。


 何、ちょっと溜飲が下がってるだけだよ。


 そもそも本来、今回の会議のイニシアチブは連合支部側に存在するのだ。


 我々がズヌバに対抗するために必要だと結論付ければ、それは正式な決議として議事録にも残る。


 それにも関わらず、肥大した権力と財力で腐敗した極一部の導師が、更にゼラという存在の所為でトチ狂って、周りの人間が自分の都合の良いように動くと勘違いしただけだ。


 ここでの滞在費用分は良い夢を見せてやれたかな?


 青い顔をしたプレキマスと、諦めた表情のネゼタリア導師、そして涼しい顔のレシナール導師。


 三者三様の姿を見せているが、ここで私は唯一の懸念事項に目を向ける。


 カルハザール共和国とそれに付いたノトリウス導師は不気味に沈黙していた。


 ダイクンは話に付いて来れていないだけだが、間違いなくヤノメはそうで無いだろう。


 その事を示すように、白い肌の男はゆっくりとその手を挙げ、プレキマスの確認を待たずして発言を始めた。


「よろしいですかな。先ほどのゼラ様の件、私共も大変興味深く思っております。可能ならば是非とも我が国にもお越しいただきたく存じますが、残念ながらそれはまた何時か、というお話です」


 その発言に、プレキマスが僅かに希望を垣間見た表情をする。しかし続く発言によってそれはまやかしであると理解させられていた。


「それよりも、私共が提案したいのはここより東に横たわる、霊峰アトラカナンの入山許可についてでございます」


 会議室がざわつく。


 禁足地であるアトラカナンへの入山許可、その理由を考えた私は、直ぐにそれに思い至った。


「今回の会議、私共がパーマネトラに到着するのが遅れましたのは他でもありません。その道程に問題が有ったからでございます」


 カルハザール共和国は周囲を山々に囲まれた盆地に存在する。


 彼らから見て西に存在するのが霊峰アトラカナンであり、彼らはそこを通ることが出来ないが故に北か南に大きく迂回しながら山越えをする必要があり、到着に時間がかかったのだ。


「世界を脅かす廃龍が蘇った現在、周辺各国との連携が重要な事は皆さまも同意して下さるはず。そんな中、西の山道を塞がれている現状は余りにも我が国、我ら支部の活動に支障を来たします。何卒ご検討のほどよろしくお願いします」


 正論だ。


 はっきり言って議論の余地がある議題だった。


 だが、これはやり過ぎかもしれない。


 ゼラとサーレインを都市から連れ去り、その上霊峰の禁足地指定を外すという行為。


 パーマネトラの屋台骨である霊峰と霊水、そして龍への信仰。私達支部の意見を全て通すとなると、それら全てを文字通り骨抜きにしてしまう恐れがあった。


 さしものレシナール導師もこの意見には顔を顰めている。他の導師はもっとだった。


 落ち着いているのはノトリウス導師だけだ。


「私共も見返り無くこのような事を申し出ているのではありません。もし一部だけでも通行が叶うなら、こちらで開発した、遺物に匹敵する開発品を皆様に供する事が……」


 ヤノメがかなり気になる発言を行おうとしたその時だった。


 会議室の外から喧騒が近づいて来るのを感じた。


 こちらにずんずん近づいてくる気配と、それを止めようとして全く止められていない職員の声だ。


 私はその近づいて来る気配に覚えが有った。


 うわ、最悪。


 それに気付くと同時に、会議室の扉が大きく開かれた。


「皆の衆! 会議の最中失礼するぞ! 新たな勇者はどこぞ!? ん! 其方か! スライムかー! 余は守護龍シャール=シャラシャリーアじゃ。! よろしくな!」


 ここでまさかの幼女龍襲来。


ブクマ、評価、如何なる感想でもお待ちしております。


何れも土の下にいる作者に良く効きます

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