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第六十三話 絶対に笑ってはいけない顔合わせ

 ようやく会議参加者全員が集った訳だったが、実は既に問題になりそうな事態が発生していた。


 このステンドグラスが見事な会議室、円卓を用いていないため上座が存在する。


 座る場所は、ホストでもある大聖堂が指定しているのだが、進行役である導師四人が上座である事に始まり、バトランドとカルハザールがそれより下、さらにミネリアとレストニアが最も下座である。


 ミネリアが下座なのは、大聖堂側が上座である事と釣り合いを取っているのかも知れないが、他の国に関しては、事前に連絡も無く場所を指定してしまっている以上、不満が出る人間もいるはずだった。


「この会議は上手くいかないな。初めから予想は出来ていたが」


「アダムさんもやっぱりそう思いますか」


 ナタリアと小声で話をしていると、カルハザール側から会議に遅れた旨の謝罪と、各々の簡単な紹介が行われた。


「皆ざま、(おぐ)れてじまいしてどうもずみませんでした。はずめまして。俺は『ダイクン・ヤマド』と言います。お()ぎの通り、冒険者上がりで喋りが上手ぐないもんですから、代表づっても形だけです。専ら隣の男が皆ざんの対応させで貰いまずんで、よろずくお願いじます」


 訛ってるな~。


 日焼けした体格の良い男、ダイクンは自分の隣に座る生白い男性を手で示しながら挨拶を行った。


 その男性が、席から立ち上がり続けて挨拶を行う。


「重ねて、お詫び申し上げます。私は『ヤノメ・スノハ』と申します。ダイクン様には今回無理を言って参加をお願いしており、卑賎な身ですが、私が皆様のお相手をさせて頂く旨、どうかご了承いただけましたら幸いです」


 印象よりも遥かに丁寧な物腰を持つ男は、目礼すると席に座った。


 四人の導師の内最も恰幅が良く、満足げな顔をしているのが彼らを担当している導師なのだろう。


 レシナールは涼しい顔をしているが、後の二人はダイクンに対して余り良い顔をしていない様に見える。


「失礼。ダイクン殿は、カルハザールでは音に聞く英雄でしてな。連合の皆様には龍に説話かもしれませんが、今回の議題においては彼の様な類い稀なる力を持った人間をお呼びするのが筋だと思いまして、大聖堂まで態々足を運んでいただいた次第でございます」


 恰幅の良い導師が興奮気味に立ち上がりながらそんな発言を行った。


「ノトリウス導師。私もダイクン殿の武勇はかねがねから存じております。そして勿論ここに居られる皆様も、それに恥じない勇士ばかりでは御座います。今回は有意義な話が出来る物と存じておりますよ」


 レシナールがそんなノトリウスと呼んだ導師を諫める様に話しかけた。


 ノトリウス導師に悪気は一切無いのは、彼が少年の様に瞳を輝かせている事から理解できるが、だからと言ってそれで良い印象を受けるわけでは無いのも事実だった。


 その後、既に到着していた私達も、上座に座る側から順に挨拶を行っていく。


 それぞれを見る視線からでも、かなりの事が分かった。


 バトランド皇国支部からの参加者については、やはりガルナ老が最も注目されており、先ほどダイクンに不満げな表情を送った導師の内の一人がサーレインの養父に当たるプレキマス導師である事も判明した。


 私が名前を知らない文官二人は、会議に直接参加はしない為なのかも知れなかったが、特に個別に名前を紹介されることも無くその挨拶を終えた。


 レストニア都市連邦支部では当然の様にトレト老人が注目を集めるのだが、少し気になるのがバトランド皇国側や、トレト老人が以前に臆病なネゼタリアと呼んでいた導師、レストニア担当である彼以外の導師達からも、やや不遜な視線を感じたことだ。


 ガルナは上手く隠しているが、その振る舞いから苦手意識が見え隠れしている。ベルナは、興味半々と言った所だ。文官二人は露骨に顔を顰めていた。


 ミネリア王国では獣人という物は殆ど見かけないため余り気にしたことは無かったが、人種による悪感情という物はこの世界でも存在するらしい。


 メルメルが耳を隠すのは、敏感だからという以外にも理由があるのかも知れない。


 レストニア側では、唯一ジャレル君のみがその視線に反応を返していたが、他の人間は気にしていないか気づいていないかのどちらかである様だった。


 さて、そしていよいよ我らがミネリア王国支部の出番だ。


 言うまでも無いが、一番耳目を集めたのは私だった。


 予想されていたため、紹介を行うのはトリに回されていた。


 ライラやロット、そしてメルメル達は年齢の件もあって軽く見られている様だったが、彼らは特に気にした様子も無い。こういった場に慣れているリヨコも問題は無かった。


 マールメアはなぜ導師達からそんなに警戒されているのか。知っているけど。


 ナタリアは、成熟した女性に向けられる視線を受けていたが、特に顔には出さずに切り抜けていた。ダイクンの方から、恋の始まる音が聞こえた気がしたが気付かなかったことにしよう。


 そして私だ。


「アダム殿は勇者で在らせられるとか。確かに見事な偉丈夫ですな。ゴーレムというからもっと魔物然とした御方かと思いましたが」


「失礼ですが、ミネリア側は本当にこの、いえ、彼を制御できているのですか?」


「彼が人間性を持ち得ていることは、この不肖ガルナ・バートンが保証致します」


「ミネリア王国守護龍に在らせられるシャール=シャラシャリーア様が、彼の存在を認めていらっしゃいます。異を唱えられるおつもりでいらっしゃいますか?」


「それはね。儂も彼が良い存在であることに異論はないけどね。強く言い切るにはまだ難しい問題だからね。会議できちんと説明すれば皆も分かってくれるからね」


 少し抜粋しただけでこの有様である。


 ライラ達年少組が不安そうに私を見つめるが、全く問題は無い。


 寧ろ、何も言われず諸手を挙げて歓迎される事態になっていたならば、私は彼らの正気を疑っていただろう。


 それに意見が出るという事は、それ即ち私に対して関心があるという事である。


 それよりも気になるのは、龍であるシャール=シャラシャリーアの認めた存在に対して、盲目的にそれを信じる手合いが少ないという事だ。


 良い事なのだが、これはミネリア王国首都周辺が、世界的に見ればマイノリティである事実を浮き彫りにしている。


 禁足地である霊峰に住むグラガナン=ガシャを例に取ってみても、本来龍とは、普通に生きていれば出会う事自体があり得ない存在なのだろう。


 間違いなく、屋台のおばちゃんから串肉を貰い、汚部屋で寝転んでいる様な存在ではない。


「皆さま方、そこなアダムがどういう存在なのかは別として、私ども大聖堂からもご紹介したい存在がございます」


 話を強引に切り上げ、プレキマス導師が合図を送る。


 上手い事話のダシにされたが、これもまた予想されていた話の流れだ。


「ご紹介いたします。アダム同様に意思を持つ魔物、霊泉より生まれた清らかな水の乙女、ゼラです」


 あれ? 知らない人かな?


 会議室奥の扉が開く。


 今まで身に着けている姿を見たことが無い豪奢な装束と装飾品を身に纏ったサーレインに先導され、エナメルの白いローブにやはり装飾品を身に付けたゼラが、フードを目深に被ったまま静々と歩いて来た。


 その足取りは優雅で、衣擦れの音すらしないその歩みは、ステンドグラスから降り注ぐ光と相まって神聖さを演出していた。


 上手いことやるなー。


 でもカルハザール以外の人間はもう本性を知っているから、何人かは笑いを堪えている状態だ。


 ミレは既にジャレル君に口を塞がれている。


 そしてゼラをよく見れば、いつもよりも胸部が盛り上がっていた。


 ゴーレムなのに笑いを堪えるのが必死なのはどういう事だ。


 これは、プレキマス導師。ここまでのゼラやサーレイン達の動きを全く把握していないな。


 知っていたらこんな腹筋にダメージを与えてくる演出はしない。


 知っていてやっているなら即座に友達になれるレベルだ。


 ゼラが典雅な動作でそのフードを取り去る。


 そこに現れたのは、柔和な微笑みを湛える、透き通った身体に多色の光を透過させる美女だった。


「初めまして皆様方。私はゼラ。この地に満ちる清らかなる霊水によって生まれたスライムでございます。何も知らぬ無垢なる私に、智慧と清廉を与えてくださった大聖堂の方々には、深く感謝申し上げます」


 何人かが、思わず下を向く。


 トレト老人が、加齢によるものでない震えを伴っていることに気付いたレストニア側が全員撃沈寸前になっていた。


「美しいでしょう。彼女こそ、我らに神が遣わした存在。勇者、いや、女神かも知れません」


 早く終わってくれ……! この地獄から抜け出させてくれ……!


 ゼラ、貴様、分かってやっているな……!


 僅かに呆れ顔のサーレインを尻目に、ゼラは再び優雅にほほ笑んだのだった。


デデーン



本当は最後までシリアスに行くつもりだったのに

ゼラが登場した途端展開が暴走してしまいました。

本当にこいつは……。

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