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番外編 エリンの休日




 エリン・パールティスは歩きながらため息を零していた。


 なぜこんな事になったのかと言うと――ことの発端は三日前の会話である。その日は、いつものごとく朝食をメーフィリア様のお部屋に運んだところ、突如メーフィリア様が変なことを言い出した。私に休暇を何日か与えると。


「メーフィリア様、駄目です」


 当然のごとく、私はきっぱりと断った。


「えぇ、何が駄目なの?エリン、働きすぎ。少しは休んでも」


 しかし、メーフィリア様がいつも以上の粘りを見せる。


「駄目です。私はメーフィリア様の専属侍女ですよ?私しかいないメーフィリア様は、私が休んだら一体誰が身の回りの世話をするんですか?生活能力が著しく低いメーフィリア様に三日間生き残れるとは思えませんです」


 だいたい、三日でも過大評価しているんです。私がいないと下手したら一時間も持たないかもしれません。流石にそれは口には出しませんが。


「それは流石に私を舐め過ぎなのでは?というか自分でやろうとしたんだけどエリンに止められたよね、いつも」

「当然です。侍女ですから。メーフィリア様の手をわずらわせるわけには行きません」


 身の回りの世話はすべて私に任せておけばいいのです。


 口には出しませんが、メーフィリア様は本当に困ったお方です。隙きあらばあれこれと私の仕事を奪おうとしています。

 万が一それを許した日には、きっとつけあがって全部自分でやろうとするのが目に見えます。それでは私の立つ瀬がなくなりますし、何より私を甘やかしてメーフィリア様のような自分では何もできないダメ人間になったらどうするんですか。


「もう、休みを与えるって言ってるでしょ。とにかく休みなさい。命令なの」


 カチンと来たのか、メーフィリア様は強硬手段に出た。

 というのが、なぜこのような事態に至ったのか、その経緯である。


「困りました」


 懐に買い物袋を抱えて、沈む足取りを引きずりながらため息を吐く。今頃メーフィリア様は、きっとお腹を空かせてピーピーと泣いているに違いありません。

 面倒なことに、休暇を与えられた私はこの三日間、メーフィリア様に締め出されて、城に入れません。


 夜中こっそり入ろうとしたら、衛兵たちに、『すまんが、命令でな』と止められた。


 メーフィリア様、私に一体何の恨みがあってこのような暴虐非道を……グスン。働いてないのに給料は通常通り払うなんて、ひどすぎます。私は良心の呵責に耐えられません。


 また、一つため息をつこうとしていたところ――。


「困ったなあ……」


 と、大きなため息をつき、石の階段に腰を下ろしながら、頭を抱えている青年の姿が目に飛び込んでくる。


 相当困っているのは見ていれば分かるけれど、私には関係のない話なので、そのまま横をスタスタ通ろうとしたら、


「困ったな……」


 男が、また一つため息をついた。


「……どうかしました?」


 流石にそのまま通るのは、躊躇われた。

 突然声をかけられ、青年が顔を上げる。


「あ、いや……何でもない」

「なんでもないようには見えません。力になれるかどうかはわかりませんが、話してください」


「……いや、恥ずかしい話ですが、妹が誕生日なんで、食べたい果物をプレゼントしようと思って市場に行ったら、とんでもなく高くなってて、あはは……」

「そうですか」


 そう言って、財布から金を取り出そうとすると、青年が慌てて声を上げて止める。


「ちょっ、何してるの!?悪いよ、受け取れないよ」

「そうですか。……ちなみに一応聞きますけど、プレゼントの果物はなんですか」


「辺境の特産りんご。俺も市場の人に聞いて初めて知った、ここ最近高いんだ」


 りんご。その単語にエリンが反応する。視線をちらっと袋の中に移し、また青年に戻す。

 そこには、先程市場で買ったメーフィリア様の分と自分の分のりんごが入っていた。


 値段が高くなって以来、メーフィリア様はたまに『りんごが食べたい』とポツリ漏らしていた。そこで強引に休暇を取らされた私は市場でりんごを見かけた瞬間、メーフィリア様と一緒に食べようと目を輝かせて購入した。


 こんな話、聞かせてごめんねの顔で、青年は申し訳無さそうに微笑んで、また頭を抱える。


「……」


 私は、青年と袋の中のりんごを交互に見て、中から自分の分を取り出した。そしてそれを、青年に差し上げる。


「どうぞ」

「え?りんご……!?……いや、君に悪いよ。ありがとう、でも受け取れないよ」


「大丈夫です。余った分です」

「…そう?ありがとう。せめて金を払わせてと、言いたいところなんだけど、そもそも値段が高くて買えなかった……」


「お気になさらず。妹へのプレゼントでしょう?」

「駄目だ。明日、明日ここに来て、その時払うから」


「ですが」

「お願い」


 面倒くさい、というのが正直な感想でした。


「払うつもりのようですが、えーと」

「ヴェノン」


「ヴェノンさん、私が市場で購入したときの値段、知らないわけではないのでしょう。80000ですよ?裕福な王都でも、一般人の半年の給料――」

「ああ、わかってる。だからこそ、君に払わないなんて選択肢はない」


 青年は、意思の強い目で見つめてくる。

 私はため息をつき、諦めた。


「ヴェノンさんが明日すぐ払えるとは思えません」

「うっ」


「……特に期限は設けません。払えるようになったら、えーと、まあ、その時はその時」

「ありがとう」


 青年はりんごを受け取り、笑顔で見送り、手を振ってくれている。

 ヴェノンさんには悪いが、金を受け取る気はありません。そもそも簡単に払える金額ではありませんからね。


 私の分はなくなりましたが、問題ありません。今日で休暇は終わり、ようやく城に入れる。

 早くメーフィリア様の顔が見たい。りんごを見せたら、きっと喜ばれる。

 この時、私はまだ知らなかった。まさかヴェノンさんとは恋仲になるなんて。


 ちなみに。


「はい、半分っ子ね」


 メーフィリア様は、自分のりんごの半分を私に差し出す。


「メーフィリア様……グスン」


 優しさの塊ですか。




エレンシュア「私の出番は?ハッピーエンドですよね?」

作者「エレンシュアちゃん、貴女十分ハッピーエンドですよ。軽い罪を問われて、その後ガルクカムの手引きにより北の大陸に嫁ぐんですよ?」

エレンシュア「足りませんわ。ヘリミティアに勝てていませんもの」

作者「それ無理だから。貴女とヘリミティアは二律背反の状態。更にその上に、貴女はヘリミティアの下位互換、じゃなくて、ヘリミティアは貴女の上位互換だから」

エレンシュア「同じことではありませんの!」

作者「その調子よ、エレンシュア。ツッコミの何たるかを掴んできているわ」

エレンシュア「ツッコミはどうでもいいの。ヘリミティアに勝てる方法を教えなさい」

作者「だから無理って……」

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