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女帝ヴィクトリアの契約結婚物語〜幼馴染の女帝が恋愛を業務処理するので、年下騎士副団長は契約結婚して最後まで隣にいることにしました〜  作者: ななめ尚央
第四章 届かぬ想いの祈りの果て

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第14話:話の続きは、帰ってからだ



 二人の間で、気まずい時間が流れたまま、出撃の朝を迎えた。


 ヴィクトリアは、カシアンに投げられた言葉の意味をくり返し思い出し、なかなか眠れなかった。出撃準備を終わらせたカシアンとイザベラは、アドルシュタインの門前に立っていた。


「二人とも、気を付けて。」


 父は、真剣な眼差しで二人を見つめた。そこには、普段の様子とは違い、元騎士団長の貫禄が見える。


「土地を奪い、血を流す。原始的な手法でしか、交渉しない……そんな人間たちに付き合うのは、本当に退屈ですね。愚者たちの祭典に、お二人の命まで付き合わせる必要はありません。カシアンお義兄さま。イザベラお姉さまを頼みますよ。……お二人とも、どうかお気をつけて。」


 エレナは、いつもの調子を崩さない。


「エレナ、大丈夫だ。この油断ならない姉さまの夫は、私が守る。」

 イザベラは、腰にある剣に手をあてて言った。


「……余計なお世話だ。」

 カシアンは、小さく反論した。


 家臣たちが見守る前で、ヴィクトリアは、ゆっくりと息を吐いた。胸の奥で暴れる不安を力ずくで抑え込んだ。……ここで弱音を吐くわけにはいかない。


「カシアン、そしてイザベラ。国家の要請に応え、我が家を代表して戦地に赴く卿らの忠誠と勇気に、心からの敬意を表します。どうか、ご無事で。」


 一分の隙もない、教科書通りの完璧な当主の挨拶。しかし、その声を張るヴィクトリアの指先は、ドレスの裾の陰でかすかに震えていた。


「お姉さま、行って参ります。」

 イザベラは、そう言うと早々に馬に乗った。


 カシアンは、最後にヴィクトリアを見た。

 昨日の出来事から、二人は会話を交わしていなかった。



「話の続きは、帰ってからだ。」



 それだけ言い残し、カシアンは出発した。



 ヴィクトリアの唇は僅かに動いたが、言葉にはならなかった。




********



 北方街道を駆け抜けた第一騎士隊が、国境砦オルグランへ到着した頃には、すでに戦いは始まっていた。


 雪に覆われた砦の外壁には無数の矢が突き刺さり、城門の前では兵士たちが必死に応戦している。遠くには、黒い狼を描いたガルダリカ軍の軍旗が確認できた。先行したガレス団長率いる本隊は、すでに敵軍と激しく剣を交えていた。


 怒号。

 剣を交える音。

 雪を赤く染める血。


 戦場特有の混沌が、北方の大地を覆っている。その光景を、カシアンは砦近くの高台から見下ろしていた。


「副団長!」

 砦守備隊の指揮官が、駆け寄る。


「よく持ちこたえた。状況を報告しろ。」


「ガレス団長の本隊が到着し、敵の第一波をどうにか退けているところです。ですが、奴らの攻撃がしつこく続いています。」


 息も絶え絶えに指揮官は、報告した。カシアンは、高台から視線を巡らせ、戦場に展開するガルダリカ軍の陣形を凝視する。そして、微かな違和感を覚える。


 ……兵の数が少ない。


 それでいて、攻撃だけは止めない。

 まるで、ここへ縛り付けたいようだ。

 

 事前に考えていた総力戦の予測に比べ、目の前の敵勢は明らかに小規模だった。


「副団長、敵軍が、再び後退を始めました!」


 見張りの叫び声通り、黒い狼の軍旗がゆっくりと後退を始めた。深追いさせようとするかのような、あまりにも不自然な引き際に見えた。


(……後退が早すぎる。時間稼ぎか。)


 ガレス団長率いる本隊を、このオルグラン砦に釘付けにしている理由。真の狙いは、この強固な砦の陥落ではなく、その裏側にあるように思える。


 カシアンは、地図を思い浮かべた。


 国境砦、魔石鉱山、物流街道。

 北方には、三つの要所がある。


 オルグラン砦を囮にする価値があるとすれば……。


 敵の本隊、その別働隊が向かうとすれば、ここから二手に分かれる重要な大動脈か。


「……物流街道、魔石鉱山か。」


 もし、その二つのルートに別働隊を差し向けられていれば、北方の生命線は完全に断たれる。補給線を断たれれば、砦が残っても北方は死ぬだろう。


(敵の狙いは、そこだ。)


 一騎の伝令が、高台へ駆け上がってくる。


「副団長、ガレス団長より伝令です。」

「読め。」


「はっ!第一騎士隊は魔石鉱山へ。第二騎士隊は物流街道へ向かえとのことです!」


 カシアンは小さく息を吐いた。

 ……団長も同じ結論に辿り着いている。


「第一騎士隊は、魔石鉱山へ向かう。」

 騎士たちへ大声で伝えると、カシアンは待機させていた軍馬の背に素早く跨がった。


「第一騎士隊、出るぞ。」

 カシアンが号令をかけると、騎士たちが一斉に馬へ飛び乗る。


「俺たちは、魔石鉱山を死守する。」

「はっ!!」


「カシアン!」


 雪煙の向こうから、怒鳴り声が飛んでくる。第二騎士隊を率いるイザベラだった。


「情けない姿を見せるなよ。姉様に報告するからな!」

「お前こそ馬鹿みたいに突っ込むな。」



 イザベラは、不敵な笑みを浮かべた。


 雪煙を巻き上げ、カシアンは騎士を引き連れ魔石鉱山へと走らせた。



つづく

第四章、戦争編が始まりました。

カシアンを信じて、もう少しお付き合い頂けると幸いです。お手数ですが、ブックマークや評価★で応援していただけると励みになります。

完結まで本編予約投稿しております。よろしくお願い致します。

読んでくださり、ありがとうございました。

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