表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年後の勇者召喚で再会した初恋の少女、だが本当に世界を救ったのは俺だった  作者: 暁牡丹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/38

第10話 世界の壁

### 第十話 世界の壁


 訓練場に静寂が落ちていた。


 先ほどまで響いていた木剣の打ち合う音も、兵士たちの掛け声も、すべて止まっている。勇者たち三十人は、砂地の中央で向き合う二人の姿をただ見つめていた。


 一人は赤い髪の少女――ヤスナ。


 もう一人は黒い外套を羽織った冒険者――トバリ。


 砂を踏む音だけが、静かに響いている。


 トバリは剣を肩に担いだまま、軽く首を傾げた。


「久しぶりだね」


 気楽な声だった。


 まるで散歩の途中で知り合いに会ったかのような調子だ。


 ヤスナは鼻を鳴らす。


「昨日も会った」


「そうだっけ」


「忘れるな」


 苛立った声。


 だがその目には、わずかな笑みが浮かんでいる。


 グラドが小さく息を吐いた。


(やれやれ)


 完全に始まる流れだ。


 だが、ここで止めるわけにもいかない。


 むしろ――


 勇者たちに見せるには、ちょうどいい。


 この世界の強さを。


 勇者たちはまだ理解していない。


 自分たちがどれほど未熟なのかを。


「トバリ」


 グラドが言う。


「軽くでいい」


 トバリは肩をすくめた。


「そのつもり」


 そして剣を下ろす。


 細身の剣。


 どこにでもありそうな冒険者用の剣だった。


 ヤスナは手ぶらだ。


 だが。


 誰も、それを不利だとは思っていなかった。


「じゃあ」


 トバリが言う。


「ほどほどに」


 次の瞬間。


 空気が弾けた。


 ヤスナが消える。


 勇者たちの視界から、完全に姿が消えた。


「え?」


 彩葉が声を漏らす。


 次の瞬間、衝撃音が訓練場に響いた。


 ドンッ!


 砂が爆発する。


 ヤスナの拳がトバリの剣に叩きつけられていた。


 その速度は、先ほどの戦いとは比べ物にならない。


「おっと」


 トバリが軽く後ろへ跳ぶ。


 だがヤスナは止まらない。


 踏み込み。


 回転。


 蹴り。


 拳。


 すべてが人間の目で追える速度ではなかった。


 衝撃音が連続する。


 ドン、ドン、ドンッ!


 砂が舞い上がり、訓練場の中央が土煙に包まれる。


 勇者たちは動けない。


「……なんだよ、これ」


 東堂が呟く。


 さっきまで自分たちが戦っていた場所だ。


 なのに。


 今、そこで起きている戦いはまるで別の世界だった。


 グラドが小さく言う。


「見ておけ」


 勇者たちは息を呑む。


 砂煙の中で、二つの影が高速で交差する。


 剣と拳。


 金属音。


 衝撃波。


 そのたびに砂が舞い上がり、空気が震えた。


 やがて。


 ヤスナが距離を取る。


 地面を滑るように止まった。


「やっぱり強いね」


 ヤスナが笑う。


 トバリは肩を回した。


「少しは手加減してよ」


「嫌」


 ヤスナが踏み込む。


 次の瞬間、拳が振り抜かれる。


 今度は真っ直ぐ。


 トバリの胸へ。


 だが。


 剣が動いた。


 最小の動き。


 ヤスナの拳が弾かれる。


「……!」


 その瞬間、トバリの剣がヤスナの喉元で止まっていた。


 完全な間合い。


 完全な勝ち。


 訓練場が静まり返る。


 ヤスナはしばらく動かなかった。


 そして。


「つまんない」


 そう言って剣を軽く押し返した。


「また今度」


 そのままくるりと背を向ける。


 城壁へ歩く。


 そして軽く跳ぶと、壁の上へと消えた。


 静寂。


 しばらく誰も動かなかった。


 最初に口を開いたのは東堂だった。


「……今の」


「人間か?」


 グラドが振り返る。


「この世界の強さだ」


 短く言った。


「魔族、魔獣、そして……英雄」


 勇者たちを見渡す。


「君たちはまだ、その入口に立っただけだ」


 沈黙が落ちる。


 誰も反論しない。


 今見たものは、それほど圧倒的だった。


 トバリが剣を肩に担ぐ。


「まあ」


 軽く言う。


「焦らなくていいよ」


 勇者たちを見る。


「少しずつ強くなればいい」


 その視線が、唯愛で止まった。


 唯愛は息を呑む。


 胸がまた強く鳴る。


 この人。


 どこかで――


「……?」


 トバリはすぐに視線を逸らした。


「じゃあ、続きをやろうか」


 グラドが頷く。


「頼む」


 そして勇者たちは、再び剣を握った。


 だが。


 さっきまでとは違う。


 今見た戦いが、はっきりと刻まれていた。


 この世界の強さを。


 そして――


 その頂点にいる存在を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ