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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第1章   失踪  〈 Ⅰ -邂逅編〉
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その後、ブランダウア城では・・・


 その日の夕暮れ時、ブランダウア城にとんでもない事件が起こった。


 だが、騒《さわ》ぎは密かに起こっていた。


 今に始まったことではなかったが、今回はこれまで以上に深刻だった。


 お嬢様・・・つまり公爵令嬢《ミーア》が、いつものように姿を消したまま、だがいつもとは違い、夕食時(どき)にもまだ戻らないというのである。


 とは言え、行き先は数日前に知れている。


 それで、またしても上手い具合に撒《ま》かれてしまった侍女《じじょ》たちの報告を受けた執事《しつじ》が、守衛の男をすぐにレドリー・カーフェイが借りているという部屋へ送った。


 ところが、その者たちが訪《おとず》れた頃には、すっかりもぬけの殻だったというわけである。


 数日前、お嬢様を街の意外な場所で見つけ出した時のこと。そこで一緒にいた者が、軍の関係者が雇《やと》った男で、内部ではアイアスの戦士として知られる彼であったことから、彼が暮らす場所の住所は容易《ようい》に調べがついた。だがその間に、二人とも行方《ゆくえ》が分からなくなっていたのだ。


 あまりに殺風景《さっぷうけい》な部屋の様相に、まさかと思った使いの者たちは、ただちにこれを報告。それを受けた執事は迅速《じんそく》に行動を起こして、ほかの守衛や召使いにも密かに街中を捜索《そうさく》させた・・・が、待てど暮らせど帰って来ない。


 そうしている間にも夕食の用意が整い、白いテーブルクロスの上には、前菜ながら豪勢な料理が運び込まれていた。大きな葉をつけた観葉植物が部屋の隅《すみ》に飾られており、その横からズラリと召使いたちが立ち並んでいる。


 そこで今、何も知らない公爵《こうしゃく》ローガンとエルーラ夫人が、一つ空いている小さな椅子に、可愛い娘が着くのをただ待っているのである。


 美しくあしらわれた前菜の数々を見ていながらも、食事とは関係のないことを考えていたローガンのその目だけが、ある時横に動いて、執事に向けられた。


「ミーアは何をしているのだ。ずいぶん遅いではないか。」


「旦那様、その・・・実は、まことに申し上げにくいのですが・・・」


 しどろもどろになりながらも、主人に忠実《ちゅうじつ》な執事の男は、もはやこれまでと観念した。


「お嬢様が、まだその、お帰りに・・・。」


「またか・・・。行き先は知れているのだろう。なぜ使いの者をやらんのだ。」


 温厚なローガンは、深々とため息をついて穏やかに問うた。


「それが、使いの者はすぐに送ったのでございますが、その者がカーフェイ殿の部屋を訪《たず》ねましたところ、すでに引き払われたあとでありまして・・・今も街中を捜索させていますが・・・まだ・・・。」


「共に国を出たというのか。」


 執事が遠回しに伝えたことを、ローガンは率直に口に出した。しかし、その口調は至って穏やかだ。


「はい。恐らくお察しの通りではないかと・・・。」


「まったく、いつからこのような悪癖《あくへき》がついてしまったのか・・・仕方のない娘だ。ミーアが無理について行ったに違いない。国外への追跡が可能な者を集め、早々にあとを追わせてくれ。」


「かしこまりました。」


 執事はうやうやしく一礼してから、退出した。


 それにしても、ローガンがここまで平然としていられるのには、ほかにも理由がある。それは、すぐに帰ってくるだろうという甘い考えと、例え少々延びようとも、伝説の戦士レドリー・カーフェイと一緒ならば、間違っても盗賊にさらわれ、どこかへ売りとばされてしまうという事態は起こりえない。つまり、娘の身の安全は保障されているという安心感によるものだ。


 ローガンは、そばに控えている召使いに、葡萄《ぶどう》酒を注ぐ合図を送った。それから、自分と同じように、少しも焦《あせ》る様子もなく話を聞いていた妻のエルーラを見た。


「少々自由にさせ過ぎたのではないか。」


「あら、それは閣下の方ではなくて。」


 にっこりとほほ笑んで言い返すエルーラ夫人。


 ローガンは、水平線の彼方《かなた》へ沈みゆく夕日を眺めながら、暢気《のんき》に苦笑した。







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