プロローグ 初恋は、不思議な満月の夜に
あの満月の夜。
わたしは、まだ知らなかった。
魔法を使える小さな女の子との出会いが。
樹くんも、わたしも、この初恋も。
ぜんぶ、変えてしまうなんて。
わたし、西尾月菜には、ずっと好きな人がいる。
高校一年生。
同じクラスの、樹くん。
ふわっとした茶色い髪に、少し眠たそうな目。
あんまり目立つタイプじゃないのに、気づけばいつも目で追いかけてしまう。
授業中に窓の外をぼんやり眺める横顔も。
笑うと少しだけ優しくなる目も。
全部、好き。
……えへへ。
ちゃんと話したことなんて、ほんの少ししかない。
それなのに、気づけば毎日、樹くんのことばかり考えてしまう。
好きって、不思議。
「好きです」
たった一言なのに。
その言葉が、どうしても言えない。
今日こそ伝えよう。
そう思って学校へ行っても、顔を見た瞬間、勇気はどこかへ飛んでいってしまう。
「お、おはよう……」
それだけで精いっぱい。
はぁ……。
わたし、ほんとにだめだなぁ。
だから、この初恋はきっと叶わないんだろうなって。
少しだけ、そう思い始めていた。
――そんな満月の夜。
お風呂に入って、パジャマに着替えたわたしは、ベランダで夜空を眺めていた。
月は、吸い込まれそうなくらい丸くてきれいだった。
そのとき。
下のほうから、見たこともない小さな女の子が、浮かんできた。
月の光みたいな金色の髪。
お人形さんみたいにきれいなのに、どこか泣きそうな顔をしている。
その子は、わたしの目の前まで来ると、にこっと笑った。
「お願いがあるの」
その一言で。
わたしの初恋は。
魔法と一緒に、動き始めたんだ。
お読みいただきありがとうございます。




