第10話 桜子さんが大好き
桜撫子薬局。
ここには、ゴツい系のオカマの桜子さんがいる。
「桜子さん。お薬ありがとうございます」
真面目な眼鏡少女の楠見は、頭を下げる。
「いつも、真面目ね〜ん。楠見ちゃん」
小指を立てながら、お薬の数をかぞえる桜子さん。
「丁度、一週間分ね〜ん」
「はい」
楠見は、自分でもお薬の数を確認する。
お薬代は、会計の南治さんに渡してある。
「今日は、お客さんが少ないですね」
「そうね〜ん。流行り病の特効薬ができたから、あまりお客さんがこなくなったわ〜ん」
桜子さんの薬局のお客さんは減っていた。
最近、流行り病があり、お客さんが増えていた。
しかし、流行り病の原因が一部の井戸水とわかった。
朝日城のお抱え医師団が、解明した。
浄化の薬草で、特効薬も完成した。
その情報は、新聞の号外で、すぐに広まった。
全ての人が知ることとなった。
流行り病は、徐々に鎮静化していっている。
「最近、ヒマになってきたから、お留守番を南治さんにまかせて〜ん」
桜子さんは、外出用の巾着ふくろを手にする。
「楠見ちゃん。一緒にお出かけしましょう〜ん」
「は、はい」
楠見は、うなづく。
第10話 桜子さんが大好き
自然万年桜庭園。
万年桜を見に来る人が、増えている。
花見を楽しむ、笑い声も聞こえる。
「万年桜は綺麗ね〜ん。楠見ちゃん」
「はい」
万年桜が咲き乱れる庭園の道を二人で歩いていた。
桜子さんは、一つ一つの桜を楽しんでいる。
楠見も、ゆっくりと桜をながめる。
万年桜は、一年中咲く、文字通りの“万年桜”。
その姿は美しく。
優雅だ。
本来、儚さのある桜。
しかし、万年桜は、力強く咲く。
楠見は、その力強さに見惚れていた。
「…楠見ちゃん」
体格のいい女性着物姿の桜子さんが、楠見を見ている。
「は、はい」
「アタシたちって、好き同士だと思うの〜ん」
「え…」
楠見は、自分の顔が赤くなるのを感じた。
好き同士。
私と、桜子さんが…。
それは、うれしい。
「アタシたちって、乙女の友情があるもの同士だと思うのよね〜ん」
「はい」
「乙女同士って、最高のお友達よね〜ん?」
桜子さんは、身体をくねらせる。
乙女同士。
アタシと、楠見ちゃん…。
女の娘と仲良くしたい。
女の娘とお喋りするのって楽しい。
女の娘の友達が、ずっとほしかった。
「楠見ちゃん。これからも、乙女同士のお友達でいましょうね〜ん」
「はい」
楠見は喜ぶ。
桜子さんが、お友達でいてくれる。
それは、ずっと一緒にいてくれるということ。
うれしいな。
万年桜は、見守ってくれている。
「桜子さん。私、桜子さんのことが好きです」
「アタシも、楠見ちゃんのこと好きよ〜ん」
ひしっ
女の娘とオカマが、ギュッと抱きしめ合う。
乙女の友情。
ちょっぴりの恋心。
二人は、きっと、上手くいく。
優しい時間。
永遠の時間。
ずっと、こうしていたい楠見だった。
「おかえりなさい」
店番の会計の南治さんが、出迎える。
薬局には、兄の乃保琉がいた。
「…桜子…浄化の薬草…これか…」
肩で息をしている。
よほど、急いでいたのだろう。
「乃保琉さん。確かに浄化の薬草だけどね〜ん。そんなに急がなくても、在庫があるから大丈夫よ〜ん」
桜子さんは人差し指を左右に振る。
「でも、ありがとうね〜ん」
「…桜子…オレからも、ありがとう…」
ばたっ。
乃保琉は、前のめりに倒れる。
「兄さん。頑張りすぎてますね。すごいです」
楠見は、兄の努力を認める。
「そうね〜ん。この薬草を、早速調合して、在庫を増やすわ〜ん」
着物の袖をまくる桜子さん。
「て、手伝います…」
「楠見ちゃんには、まだ早いわよ〜ん。見学してていいわよ〜ん」
「…はい」
楠見は、大きくうなづく。
今、楠見の夢は、薬師になること。
そのための勉学の最中なのだ。
大好きな桜子さんのお手伝いをして、ずっと側にいられるように。
桜子さんのことが大好きだから。
暁の桃源郷。
朝日の都。
悠久の和の都。
ここには、大好きな薬師のオカマさん。
大好きな桜子さんがいる。




