第1話 桜子さんの薬局
暁の桃源郷。
朝日の都。
朝日城がある。朝日 御茶 殿下が治める。
悠久の和の都。
「私、楠見です」
薫楠見。16歳。
幼さの残る顔立ち。
肩までの黒髪の女の娘。
読書大好き、眼鏡少女。
楠見には、大好きな人がいる。
それは、“桜子さん”。
優しくて、親切で、愛嬌のある人。
すごく大好きな人。
ここは、都の桜撫子薬局。
「桜子さん、いつものお薬お願いします」
桜子さんは、桜撫子薬局の薬師だ。
そして。
「あら〜ん。楠見ちゃん。ちょっと待ってね〜ん」
ゴツい系のオカマさんだ。
第1話 桜子さんの薬局
「一週間分で、いいかしら〜ん?」
「はい」
お辞儀をして、受け取る。
中身を確かめる。
花粉症用のお薬だ。全部そろっている。
楠見は、真面目な眼鏡少女。
何回も確認を繰り返す。
大丈夫。
一週間分ある。
「そんなに確認しなくても〜ん。アタシが、確認してるから、安心してね〜ん」
「はい」
「楠見ちゃんって、本当に真面目ね〜ん」
桜子さんは、桜色の着物を着ている。
女性着物だ。
体格は、大きめ。
身長も高い。
向上桜子。年齢不詳。本名不明。
生粋のオカマさんである。
「オカマのアタシも、感心するわ〜ん」
「大好きな桜子さんの用意してくれた、お薬、ちゃんと飲みます」
「そう?食後か、症状がひどい時に飲んでね〜ん」
人差し指を振る。
桜子さんは、本当に優しい。
とても良い人だ。
「今日の来客は、少ないんですか?」
薬局内には、楠見以外のお客がいない。
最近、朝日の都では、流行り病が流行している。
異常に眠気をともなう、熱病である。
「今の時間が、たまたまお客さんが少ないだけよ〜ん」
流行り病には解熱剤が有効で、薬局は今、重宝されている。
お客さんも多くなってきている。
そう言う間に、お客さんが来た。
身なりが整っている。
朝日城の役人だと名乗る。
お城に仕えている、位の高い人物だ。
「こちらで、解熱剤を頼もう」
「は〜い」
「朝日城の者が流行り病にかかって、困っている」
役人は、解熱剤の大量注文をする。
「…この数は、多いわね〜ん。お薬を増やさないと」
「時間がかかるか」
「数刻、お待ちになって〜ん」
桜子さんは、ウインクする。
ゴツい系のウインクだ。
ビクッ
朝日城の役人が、後ずさりする。
オカマは、苦手な様子。
後で取りに来る予約をして、役人は、退店する。
「水の薬草が必要ね〜ん」
棚の薬草の数を数える。
「薬草が足りないわね〜ん…」
桜子さんは、小指を立てたまま、考え込む。
「…乃保琉さんに頼むしかないわね〜ん」
「兄ですか?」
楠見の兄。
薫乃保琉。20歳。
剣道を得意とする。寡黙な青年だ。
桜子さんは、乃保琉に、都の外の薬草集め役をしてもらっている。
「乙女のお願いを断わる人じゃないから、安心だわ〜ん」
「…桜子。呼んだか…」
乃保琉は、すぐ駆けつけた。
肩で息をしている。
「…桜子の頼みは、一つ残らず、叶える…」
「兄さん、急いで来たんですね」
実は、楠見の兄も、桜子さんのことが大好きだ。
それを、心に秘めている。
薫兄妹は、そろって、桜子さんに片想い中なのだ。
「乃保琉さん。水の薬草集めをお願い〜ん」
「…わかった。すぐ、戻る…」
走って立ち去る。
楠見は、兄の後ろ姿を見送った。
「楠見ちゃんにも、お手伝いしてもらっていいかしら〜ん?」
「何ですか?」
「都の天然水屋で、お買い物したいの〜ん。荷物運びをしてもらいたいの〜ん」
「あ、はい。いいですよ」
元気一杯に、楠見はうなづいた。




