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思い出せない最強は、元妻に雇われている 「記憶のない俺は、知らない女に拾われた___その正体は元妻だった」  作者: お魚さん


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第32話


ドラード古城道中の城――内門。


重い扉を押し開けた瞬間。


空気が変わった。


張り詰めた気配。


次の瞬間――


「止まれ!!」


怒号とともに、


無数の槍がゼルグとオーティマへ向けられる。


一斉。


迷いのない構え。


だが、その穂先はわずかに震えていた。


恐怖と緊張が、混じっている。


ゼルグは足を止める。


両手を、ゆっくりと上げた。


「大丈夫だ。敵じゃねぇ」


低く、落ち着いた声。


「安心してくれ」


オーティマも同じように両手を上げる。


(……ここで刺激したらまずい)


空気を壊さないよう、静かに呼吸を整える。


沈黙。


誰も動かない。


数秒が、やけに長く感じる。


その緊張を切り裂いたのは――


「……さげろ!」


奥から響いた声。


兵士長だった。


兵士たちは互いに顔を見合わせ、


それでも完全には信用できないまま、


ゆっくりと槍を下ろしていく。


疑いの目は、消えない。


ゼルグとオーティマも手を下げる。


オーティマは小さく息を吐いた。


(……助かった)


「外の魔物は粗方倒した」


ゼルグが言う。


「もう大丈夫だ」


その一言に、


場の空気が一瞬止まる。


「……は?」


「ばかな……」


兵士たちのざわめき。


「Sランク魔物の大群に、魔族までいたんだぞ……?」


「こんな短時間で……」


信じられない。


当然の反応だった。


その時――


扉が勢いよく開く。


「兵士長!!」


駆け込んできた兵士が叫ぶ。


「城壁内の魔物が、ほぼ全滅しています!」


その場の視線が、一斉に動く。


報告した兵士も、


遅れてゼルグたちに気づく。


「……?」


兵士長は静かに頷いた。


「……なるほど。本当のようだな」


疑いが、確信へ変わる。


---


その奥から、


近衛兵に囲まれた一人の男が歩み出る。


若い男。


だが、その目には責任の重さが宿っていた。


「城主のテズだ」


落ち着いた声で名乗る。


「魔物を掃討してくれたらしいな。感謝――」


そこまで言って、


言葉が止まる。


視線が、ゼルグに固定される。


目が見開かれる。


「……まさか」


一歩、前へ出る。


「ゼルグさん……じゃないですか?」


声がわずかに震える。


「お久しぶりです」


軽く頭を下げる。


周囲がざわつく。


兵士長も、近衛兵も、


一斉に驚きの表情を浮かべる。


(……え、知り合い?)


空気が一変する。


「ん?」


ゼルグが首をかしげる。


「……だれだ?」


(あー……)


オーティマが心の中で頭を抱える。


(これは……気まずいやつだ……)


視線を逸らす。


「グフォーラの森で助けてもらった……テズです!」


食い気味に名乗る。


必死さすら感じる声。


「グフォーラ?」


ゼルグが考える。


数秒。


そして――


「あー!」


思い出したように笑う。


「魔王討伐の時の!あのテズか!!」


表情が一気に明るくなる。


「久しぶりだな!」


(よかった……覚えてた……)


オーティマが安堵する。


(奇跡……)


内心で拍手。


次の瞬間――


兵士たちが一斉に膝をつく。


空気が変わる。


疑いは、完全に消えた。


「ゼルグさん」


テズが改めて向き直る。


「この状況ですので、大したもてなしはできませんが……」


わずかに申し訳なさを滲ませる。


「少し休んでください」


そして後ろへ目配せする。


「お二人をご案内しろ」


大広間。


高い天井。


秩序は保たれていた。


三人は向かい合って座る。


「テズ。大変だったな」


ゼルグが言う。


その声には、わずかな労りがあった。


「いえ、おかげさまで本当に助かりました」


「いきなりだったので、対応が遅れてしまい……」


悔しさが滲む。


自分の判断が遅れたことを、責めている。


「どうして、こんな状況に?」


オーティマが静かに問う。


視線は冷静だ。


情報を整理している。


「目的は分かりません」


テズは首を振る。


「突然、魔族が一人現れて……」


言葉を選ぶ。


「次々と魔物を召喚し始めました」


「……いきなり、か」


ゼルグが呟く。


「時間は?」


オーティマが続ける。


「お二人が来られる……一時間ほど前です」


沈黙。


三人の思考が交差する。


「……もしかしたら」


オーティマが口を開く。


「僕たちを足止めするために……」


「……たぶん、そうだな」


ゼルグが即答する。


確信に近い。


次の瞬間。


ゼルグが頭を下げた。


「テズ。すまねぇ」


オーティマも続く。


「い、いえ!!」


テズが慌てて手を振る。


「そんな事、思いません!」


強く言う。


「むしろ助けてもらって……感謝しかないです」


本心だった。


「俺たちはドラード古城を目指してる」


ゼルグが言う。


「なるほど……」


テズの表情が引き締まる。


「……行動を監視されている可能性がありますね」


「二回目だからな」


ゼルグが笑う。


「たぶん見られてる」


「間違いないですね」


オーティマも頷く。


「ドラードには、もう魔物や魔族が集まっているはずです」


「……いつから見られてたんだろう」


ぽつりと漏らす。


答えは出ない。


沈黙。


重い空気。


だが――


次の瞬間。


「はっはっは!!」


ゼルグが笑い出す。


場違いなほど、豪快に。


「要するに――」


立ち上がる。


「俺とティマ坊にビビってるって事だろ?」


「……出た」


オーティマが額を押さえる。


(嫌な予感、的中……)


「ドラード古城、正面突破する気ですよね?」


半ば諦めた声。


「当たり前だろ!」


ゼルグが笑う。


「ぶっ飛ばせばいいだけだ!」


その言葉に――


テズが、ふっと笑う。


「……変わっていませんね」


どこか安心したように。


「テズ!」


ゼルグが振り向く。


「少し休ませてもらうぞ!」


そしてオーティマへ。


「馬が回復したら――全速力だ」


「……はぁ」


オーティマが肩を落とす。


「はい」


だが、その目には迷いはない。


三人の間に、


わずかな笑いが生まれる。


張り詰めていた空気が少しだけ、緩んだ。


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