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文化祭1日前

文化祭まで、あと一日。

朝、教室へ入ると黒板中央には太く書かれていた。


『文化祭 前日!失敗しても泣くな!!でも成功しろ!!!』


……担任らしい雑な励まし文だ。ってかこの担任当初とキャラが変わりすぎじゃないか?


すでにクラス中がざわざわ、机と椅子は移動待機状態。

熱気で教室の温度が二度ぐらい上がってる気がする。


「翔さーん!材料チェックしてきました!」


菜々が小走りで報告書片手に来る。


「厨房は仕込み分担完了した!今日で完成させる!」


結衣はエプロン姿でもう仕事モード。


「装飾もあとちょい、リボンと布足りない!」


夏樹はハサミぶんまわしながら机の上に乗ってた。危ない。


「翔、お前は接客準備と看板撮影だぞ」


柊が肩を叩きながら言ってくる。


「俺は力仕事!段ボール運びは任せろ!!」


響はすでに汗だく。まだ始まってないのに。


……いつも騒がしいのに、今日はなんか違う。

文化祭前日だけあって、空気が浮ついてるのに引き締まってるというか、

「青春イベントの本番直前」みたいな熱さがある。

いいな、こういう雰囲気。



午前は授業がある……はずだったが、


「授業?そんなものは無い!!!作業しろ!!!」


秒で作業時間になった。教師ってなんだ。あの担任回を重ねる事に壊れてないか?


まぁそんな事よりも、まずは厨房チームの試作確認。

家庭科室には甘い匂いが充満していて、腹が鳴る。


「翔さん、試食お願いします!」


菜々が焼きたてパンケーキを差し出す。


「またか。昨日の結衣のと比べられるじゃん」


「比べてくださいね」


笑顔が怖い。


……一口。


「……うまっ」


生地ふわふわ、バターの香り、甘さもちょうどよく思わず声が漏れる。


「っしゃあ!」


菜々ガッツポーズ。背中のエプロンのリボン揺れる。どいつもこいつも文化祭効果でキャラが崩壊しているらしい。


そんな俺たちを見て結衣もすかさず自分の皿を出す。


今度はホットサンド、チーズとベーコンの香りが食欲を刺す。


「こっちは軽食枠ね。厨房チーフの本気だ」


食べろと言わんばかりに近づけられた。


一口。


「これ……マジで店で売れる」


「それが聞きたかった」


ほっと息を吐く結衣。

昨日より目が柔らかい。ってかコイツ軽食までこんな完璧に作れるのかよ、相場こういうタイプは料理下手だろ…。


「翔の一言、私のエネルギーになるから」


小声で呟くのズルいんだよ。

菜々が負けじと隣で言う。


「じゃあ私の甘味部門も笑顔にさせ続けますね?」


瞳がキラキラと燃えてる。

二人の張り合いが静かに炎上し始めているが、

どっちの料理もガチで美味いから困る。

思わず俺は笑った。


「文化祭……めっちゃ楽しみじゃん」


ほんとうに心の底からそう思った。



午後――装飾班の応援へ。

廊下には紙テープがずらり、

教室前には看板立ての木枠とペンキが広がり……まさにカオス。


「翔ーー!!看板用の撮影タイムだ!!」


夏樹が俺の腕を掴む。逃がさない握力。

俺はチャイナ姿でなく制服+エプロン姿で撮影することに決まっていた。

チャイナは本番にお披露目したいという夏樹のこだわりだった。

背景は白布、ライトはスマホライト3台、やる気と行動力はプロにも匹敵するだろう。


「翔くん、ここに立って!」

「顎上げてー!笑顔!微笑みのやつ!!」

「“いらっしゃいませ”言いながら手振って!」


指示が飛ぶ飛ぶ飛ぶ。

気付けばポーズ十種類、表情八種類、動画も撮影された。

俺は看板素材として大量生産された。こういうのは絶対に俺じゃなくて女子の仕事だろう…。


なんやかんやで完成したポスターがこれ。


《喫茶 朝日》

店名の下にはエプロン姿の俺が微笑む写真がドーン!

そして端に小さく

《※当日チャイナあります》

書くなぁあああ!絶対に書くな!


結衣「これで客入り倍増するな」満足気。

菜々「当日は私の隣に立ってくださいね?」微笑。

夏樹「チャイナで客引きは任せた!」ニヤリ。

響「翔が看板なら勝てる」サムズアップ。

柊「なんやかんや楽しんでるだろお前」笑う。


……俺、逃げ道消えた。

でも、不思議と嫌な気分ではない。

皆が笑ってるから。



夕方。

飾り付けはほぼ完成、厨房の仕込みも終盤。

黒板には大きく「開店まで18時間!」と書かれていた。

各担当が最後の確認に走り回る中、

俺は教室の真ん中で深呼吸した。


「……文化祭、いよいよだな」


独り言のつもりだったが、


「だな」


後ろから柊の声。


「翔、最近よく笑うようになったな」


ぽつりと言ってくる。


「文化祭の準備、楽しいか?」


「そりゃ色々面倒だけど……悪くない」


「悪くないって?」


一瞬考えた。

父親の事、まだ心の奥がざわつく。

けど――今は。


「そうだな、最高だよ。……まじで」


柊の口角が少し上がった。


「なら良かった」


響も加わって拳コツン。


「明日、俺たちのクラス最強にしようぜ」


「失敗しても笑ってやろう」


「全力でな」


拳が重なる音が、胸に響いた。



片付け後、教室の蛍光灯が一つずつ消えていく。

帰り支度を終えると、菜々が近づいた。


「翔さん」


「ん?」


ほんの少し、声が柔らかい。


「明日、最高の日にしましょう」


結衣も隣で小さく笑う。


「厨房チーフとしても、個人としても……翔に笑ってほしい」


「装飾、絶対映えさせるから!店長業務、絶対にやりきるよ!」


「俺に運搬は全部任せとけ!俺ができるのなんて肉体労働くらいだからな!」


「翔は接客集中な。俺はチャイナ着てるけどあくまで会計担当だからな」


最後に担任が乱暴に言う。


「俺はな、成功か失敗かより――

 お前ら全員で楽しんで帰ってきたら100点だ。」


胸が熱くなった。

このクラス、騒がしいけど――誇れる。

明日を思うだけで、心臓がざわざわする。

期待か、不安か、全部混ざっている。


でも俺は――

この日常を守りたい。

父親の影も、未来の不安も、今は置いていく。

明日は笑顔で迎える。


「行くか!」


感情をあまり表に出さない柊が大声でそう言った。


「おう!」


俺はそれに応えるように返事を返す。


校門を出ると夕焼け。

風が少し冷たいのに、不思議と暖かい。


そして――

文化祭開幕まで、残り1日。

俺たちの青春は、ついにステージに上がる。

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