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傷跡 2

俺はその傷跡を見た瞬間、見てはいけないものを見たような気がして一瞬動きが固まってしまう

傷跡を見られた菜々は俺と目を合わせようとせず、黙り込んでしまった

そんな菜々を見て我に返った俺は傷の手当てに集中する事にした。見られた菜々が1番苦しいのに一瞬固まってしまった自分に嫌気がさす


「これ使って」


そう言い結衣が渡してきたのは消毒液と絆創膏だった。この3人の中で1番男勝りな性格の結衣の女の子らしい一面に驚きつつも、俺はありがとうと言いそれを受け取り菜々の傷の応急手当をした


「菜々大丈夫か?」


「…はい」


その答えにはいつもの明るい菜々の面影は無く、明らかに気弱な、それでいて今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気を放っていた


「翔〜!夏樹ちゃんもちゃんと無事だぜ〜!」


空気を読まない響のやかましい声の方向に視線をやると、夏樹と2人でこちらに向かって手を振っていた

そうだ、コイツらにもお礼言わなきゃ


「柊も響もありがとう、マジで助かった。でも何でここに?」


「全然〜、コイツら何かコソコソ怪しかったからさ何企んでんのか気になってさ。とりあえずコイツらの事学校に報告しとかないとな」


そう言い柊は気絶している蓮に思いっきりビンタをして、文字通り叩き起した


「ッツ!てめぇこの間の1年のガキ!」


頬に柊の手の跡がビッシリ残った蓮は目を覚ますとそう言った。どうやら以前から柊と面識があるようだ


「お前ら知り合いなのか?」


「コイツら空き教室俺らが占領する時に居たから1回ボコしてるだけだよ」


なるほど、入学して数日でヤンキーボコボコにした件(ep.7参照)の時のやつか。可哀想にコイツも被害者だったのか…


「じゃ、俺らコイツら連れて学校報告行ってくるわ。多分まだ開いてるだろーし、ゴメンだけど夏樹ちゃんと結衣さんも来て」


「「えー!?」」


柊がそう言うと夏樹と結衣は同じリアクションをし顔を合わせる


「えーじゃない、証人いるし菜々さん怪我してんだから当たり前ね」


まさかの柊にそんな常識的な考えが出来るなんて思いもしなかった俺は思わず感動してしまう

柊にそう言われ夏樹と結衣は渋々、文句を言いながら柊達と再び学校へと戻って行った

ビンタされて起こされた蓮はともかく引きずられながら、響に連れていかれてる颯太が可哀想でならない

まぁ、自業自得ってことで!


「菜々...帰ろう」


俺がそう言うと菜々は黙って頷き再び帰路に着いた

蓮達に襲われる前のワイワイした雰囲気とは一変、氷のような空気が漂う

ん〜、どうしたもんかなぁ。まさか、菜々が自傷行為しているなんて夢にも思わなかった

だけど、それをしてしまう気持ちは俺も前の人生で少し経験済だから分からないことは無い。それだけ追い込まれているってことだ


この場の雰囲気をどうしようか考えに考え抜いたが良い案が浮かばない

かくなる上は...えーい!ままよ!

俺は菜々の手に手を伸ばしその手を繋いだ


「っ…!」


急に手を繋がれた菜々はみるみるうちに顔が真っ赤になり、恥ずかしいのか俺とは逆の方を向き歩き続けた

かくいう俺も自分の顔が熱くなっていくのを感じる。多分、菜々と同じ顔をしていると思う


うるさく脈打つ心臓を何とか押さえつける。これワンチャンさっきより状況悪化してないか?とか思ってしまうが、そんな思いとは裏腹に菜々はその手を強く握り返してきた


そこから数分、俺の家が見え始めた頃に菜々がようやくその口を開いた


「…家、来ませんか?」


心臓が更に急速に脈打つのを感じ、体全体が熱くなる

俺の頭は最早まともな思考が出来る状況では無くなっていた


「…行く」


人生2度目の女の子の家、気持ちが高まるが先程の菜々の傷跡が脳裏にチラつく。俺はこの子のメンタルを少しでも回復させる事は出来るのだろうか。いや、菜々の傷を見てしまった時点で俺がどうにかしなければいけない

そんな事を考えてるうちに菜々の家の前へと到着していた


「あはは、手びっしょりですね」


繋いでいた手を離すと菜々はそう言い笑った

それを言われて気付いたが確かに手汗でびちゃびちゃだ。それもそうか、人生でまともに女の子と手繋いだことなんてないもんな


菜々は自宅の鍵を開けると中に俺を招き入れた。菜々の家に入るとそのまま菜々は再び俺の手を引き部屋へと案内した


「え?」


菜々の部屋へと入るとその()()な光景に俺は目を疑った

勉強机と布団のみの簡易的な部屋の壁には、ビッシリとスケジュールの管理表やテストの点数表が張り出されていた。中には「陸上辞めろ」等の文字が書いた紙なども貼られていた


その中でも1番目を引いたのが休みの日のスケジュール管理表だった。朝4時起床から始まり30分で朝食、それ以降は18時まで勉強、再び30分晩御飯を挟み1時まで勉強、その後就寝という物だった


そんな異常なスケジュール表を見て一目で菜々の親は『毒親』と言う奴だと察した


「何も無い部屋だけど適当に座って。今日お母さん帰って来ないから心配しなくても大丈夫だよ」


俺の顔を見て結衣も色々と察したのかそう言い床に座り込んだ


「菜々の事ちゃんと聞かせて欲しい」


考えるより先に言葉が出ていた。そうだ、俺はこの子の事何も知らない。学年トップの成績で何でも器用にこなせる子という事ぐらいだ、あとヤンデレって事

そんな子が何で俺なんかを好きになってるのか、あの傷跡とこの部屋の惨状に隠された菜々の闇


「全部受け止め切れるかは分からないけど、俺で良かったら話して欲しい」


「……っ…ぁ…わぁぁぁぁぁあ!!!」


それを聞いた菜々は一瞬固まった後、大粒の涙を零し声を上げて泣き出した

普段の明るい菜々からは想像も出来ない程の泣きっぷりに俺は黙って菜々を抱き締める


「…っ…ご、ごめん…ありがとう…」


菜々が泣き出してからしばらく経ち、ようやく少し落ち着いてきたようでそう言った

その後、菜々は自身の壮絶な闇について語り始めた

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