平和?な水族館デート〜裏〜
夏樹と結衣の号令で集められた響と柊は、朝の4時という非常識な時間から翔の家の近くで張り込みをしていた。
「お前ら、さすがに早すぎだろ。絶対」
柊が欠伸混じりにそう言うと、夏樹は即座に言い返す。
「甘いわね。菜々は私達と同類よ?」
「つまり?」
「ワクワクしすぎて、この時間から動き出すタイプ」
「……なるほど、確かに」
アホのアホ理論に、何故か納得してしまうアホ柊。
そして何が面白いのか、ずっとテンション高めで今か今かと待ち続けるアホ響。
果たしてこの4人のアホ達は、無事に尾行を成功させられるのだろうか。
――1時間後。進展なし。
――2時間後。進展なし。
――3時間後。進展なし。
「クッソ……完全に騙されたじゃねぇか!アホ女共が!ぜんっぜん同類じゃねぇじゃねぇか!」
ついに痺れを切らした柊が噛みつく。
「うっさいわね!ちょっと計算違いだっただけよ!」
「そうだそうだ!念には念を、ってやつだろーが!」
アホ2人がアホ理論で対抗する中、唯一、何故かずっとワクワクしたままの響。
そして――
さらに1時間後。
ようやく、翔と菜々が姿を現した。
2人は翔の母親に「行ってきます」と声をかけ、仲良く並んで駅の方へと歩き出す。
「……出た」
「事前情報だと、行き先は水族館よね。響?」
「イェッサー!」
「よし、なら駅に――」
夏樹の言葉が途中で止まる。
それも当然だった。
彼女の視界に、手を繋いで歩く翔と菜々の姿が映ったからだ。
「……え、いつの間に……?」
結衣も同じく言葉を失う。
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間。
「「ぶっっ殺してやる!!!」」
「待て待て待て待て!尾行だろ!?尾行!バカかお前ら!」
慌てて2人を抑える柊と響。
この2人がいなければ、間違いなくこの時点で事件が起きていた。
◆
なんとか暴走する2人を押さえ込み、アホ4人は水族館前へと到着していた。
時刻は9時。開店まであと1時間。
翔達がチケットを購入するのを確認し、4人もこっそり後を追う。
「……1時間待ちか。今日、待ち時間長すぎじゃね?」
「人多いし、菜々ちゃんの提案なんじゃない?」
文句を言いつつも、翔達からギリギリ見つからない距離で待機する柊と夏樹。
一方、待ち時間に耐えられなかった響と結衣は、近くのガチャガチャコーナーへ消えていった。
……まとまりがなさすぎる。
やがて開店。
4人は人混みに紛れ、スパイミッションを開始した。
最初に翔達が向かったのは、入口すぐの巨大水槽。
「うおー!すげぇー!」
「バッカ!声デケェんだよ!」
スパイの自覚ゼロな響と、それを同じ音量で止める結衣。
「……お前ら2人とも静かにできねぇのか」
「無理だね……」
翔達が先へ進むのを確認し、4人も後を追う。
やがてふれあいコーナー。
「すっげぇ!結衣!エイだぞエイ!」
「え!マジ!?本物!?」
完全に観光客モードの2人を横目に、柊と夏樹は観察を続ける。
ヒトデの前で盛り上がる翔と菜々。
それを見つめる周囲の視線は、どう見ても仲の良いカップルを見る目だった。
その視線に、夏樹の胸が僅かに締め付けられる。
その後も昼食、イルカショーと順調に進む尾行。
翔達は最前列。
4人は少し後ろの席。
「……あそこ、バカ濡れるけど大丈夫か?」
響の言葉に視線を向けると、周囲がカッパ姿だらけなのに、翔と菜々だけが完全無防備。
「翔くんが濡れるのはいいけど……菜々ちゃんはちょっと可哀想かも」
「でも今さら声かけられねぇしな……見守るしかないな」
そして――
イルカショー、クライマックス。
複数のイルカが客席へ向かって泳ぎ、跳ね、着水。
凄まじい水しぶき。
無防備な2人は、想像の3倍ビショビショになった。
「「「「うおおおおお!!!!」」」」
気づけば4人全員、立ち上がって拍手していた。
嫉妬心という感情は、人をここまで正直にする。
だが、その歓声とは裏腹に、翔と菜々の距離は確実に縮まっていた。
その後、Tシャツ事件で腹を抱えて笑い、
水族館を出た頃には夕日が街を染めていた。
「……流石に疲れたな」
柊の言葉に、3人も同意する。
朝4時からの尾行。疲れないわけがない。
それでも最後まで尾行を続け、翔達が家へ向かうのを確認するため、朝集合した場所へ先回りした。
そこで――
異変が起きる。
「……あれ、誰?」
夏樹が指差す先。
翔の家の前で、スーツ姿の男が落ち着きなく徘徊していた。
「怪しすぎだろ……締めるか?」
「待て。翔くんの父親だったらどうすんだ」
だが、家に入らないのは明らかにおかしい。
迷っている間に、翔と菜々が帰ってきた。
男も気づき、近づく。
「ほら、やっぱり知り合――」
「ぶっ殺してやる!!!!」
住宅街に響く翔の怒声。
初めて見るその姿に、4人は言葉を失う。
――そして。
一番最初に動いたのは、柊だった。




