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平和?な水族館デート〜表〜 

そして――それぞれの思惑が交錯する、水族館デート当日。


「おはようございます!起きてください翔さん!」


そう言われ、無理やり起こされる俺。ぼやける視界のまま時刻を見ると――朝の4時半だった。……ん?


「菜々……早すぎる……始発すら動いてないぞ……」


「そうなんですか……?ワクワクしすぎて、早とちりしていました……」


早とちりも早とちり。大早とちりですよ、菜々さん。

よく見ると菜々は黒のワンピースに身を包み、いつでも家を出られるレベルで支度を終えていた。

髪も整ってるし、バッグも用意済み。……お前、気合いが“本気”すぎる。


「水族館が開くのも10時くらいだから、9時くらいまでは寝かせてくれない?」


「はい!分かりました!おやすみなさい!」


俺がそう言うと菜々は、二度寝しようとする俺の顔を――隣でバチバチに開いた目で、じっと見つめながらそう言った。


いやいやいや。

寝れるかい。


◆


その頃、チーム馬鹿共は……


「よーし、張り込み開始よ!」


菜々と同じ思考なのか、朝4時には俺の家の近くに集まり監視を始めていた。

ヤンデレの夏樹と結衣に加え、なぜかノリノリの響、そして眠気で死にそうな柊。


チームバカ達の尾行が――幕を上げた。


◆


そして4時間後、朝8時。


菜々の勢いに負けた俺は結局まともに寝れず、準備を済ませる。母さんお手製の朝食を菜々と食べ、家を出ようとしていた。


当初の予定より早く出ることになったが、1時間も家で時間を潰すのは厳しい。ゲーム類もない俺の家じゃ、なおさらだ。


「行ってらっしゃい。デート楽しんでね!」


そう言われ、母さんに見送られる俺と菜々。

「行ってきます」と返し、家を後にする。


菜々が来てからすでに数日。母さんもすっかりこの生活に慣れた様子だった。


……慣れるの早すぎだろ、うちの母。


家を出た俺達は最寄りの駅で電車に乗り、水族館の最寄り駅へ向かう。

朝日ヶ丘には水族館はなく、電車と徒歩で30分ほどかかる。


◆


電車を降り、道中ちょっと寄り道なんかもしながら、9時に水族館前へ到着。


開店1時間前にも関わらず、すでに大勢の人が開くのを待ち侘びていた。

今日は日曜。周りはカップルや家族連れが多い。


普段の俺なら場違い感で気まずくなるところだが――今日はデートだ。


それどころか、隣にいるのが普通に顔面レベル高い菜々なせいで、妙に胸を張って歩けてしまう。


……俺、今日だけ主人公補正強くね?


「こんだけ人多いなら、早く出て正解だったかもね」


「はい!危なかったです!」


そんなやり取りをしつつ入場券を購入し、入場の列へ並ぶ。

最初は「開店まで1時間とか長っ」と思っていたのに、菜々と部活の話や、この間のテストの話――何の変哲もない普通の会話をしていると、時間はあっという間に過ぎていった。


気づけば1時間。係員が入場ゲートを開くと、並んでいた人達が一斉に水族館内へ流れ込む。


中に入ると、外とは違う涼しい空気が俺達を出迎えた。

何歳になっても、この“入場した瞬間”は心が踊る。

隣を見ると菜々が目をキラキラさせ、きょろきょろと辺りを見渡していた。


「翔さん!早く行きましょ!」


そう言って俺の手を引く菜々。

俺はそのまま手を繋ぎ、水族館の奥へ歩みを進めた。


水族館に入ってまず目に入るのは、見上げるほど巨大な大水槽。

静かな館内の中で、そこだけが明るく光り、入ってくる客の目を一気に奪っていた。


もちろん菜々も例外じゃない。

水槽を見るなり走り出し、俺を引っ張っていく。


「す、すごい……!」


水槽の中には色とりどりの魚。カラフルに配置されたサンゴが、照明に反射して綺麗に光っている。


そして菜々の目を一番引いたのは――


無数の小さな魚が群れとなり、水槽いっぱいに広がる姿だった。

鱗に光が反射し、所々がきらっと輝く。その光景はまるで夜の街並みみたいで、妙に見入ってしまう。


「めちゃくちゃ綺麗だな」


思わず俺も呟く。

しばらく二人でその魚の群れを眺め、俺達は次の水槽へ歩みを進めた。


「何が一番見たいんだ?」


俺がそう聞くと、菜々は即答した。


「イルカショーみたいです!」


満面の笑み。

薄暗い館内で、菜々の輪郭を水槽の光がほのかに照らす。


その瞬間、普段の菜々とは違う――どこか妖艶さみたいなものが滲んで見えて、俺は思わず息を飲んだ。


心臓が、ドクンと鳴る。


……今日一日、俺の心臓持つかな。


そんなことを考えながらも、俺は菜々と手を繋いだまま、水族館のさらに奥へと進んでいった。


◆


水族館の奥へと進んだ俺達は、一通り魚達を見終え、ふれあいコーナーと呼ばれるエリアへと足を運んでいた。


そこはヒトデやカメなど、さまざまな生き物と実際に触れ合える場所で、菜々の興味を強く惹きつけていた。


「ヒ、ヒトデ!ヒトデですよ翔さん!」


そう言って、周りの子供達以上にはしゃぐ菜々。

その様子に、周囲の親御さん達からほのぼのとした視線が向けられる。


……よりによってヒトデなのか、とは思いつつ、俺もヒトデに手を伸ばす。


「おー……意外と硬いんだな、ヒトデって」


「ですねですね!カチカチです!」


おい。

言い方。

多分、完全に無意識なんだろうけど。


「こっち、バカでかい亀いますよー!」


そう言ったかと思うと、いつの間にかヒトデを元の場所へ戻し、今度はリクガメのコーナーへ移動している菜々。


俺は完全に子供に振り回されている保護者の気分になりながらも、菜々の後を追い、ふれあいコーナーを一通り堪能した。


その後も写真を撮ったり、カピバラに餌をあげたりと水族館を満喫し、俺達は館内のレストランで軽く腹ごしらえを済ませる。


そして今――大本命のイルカショーの会場へと足を運んでいた。


「間もなくイルカショー開演です!」


そんなアナウンスと共に、陽気なBGMが流れ始める。

しばらくして登場した飼育員とイルカ達に、観客のテンションは一気に跳ね上がった。


もちろん、菜々も例外じゃない。


「わっ……!」


隣で小さく声を上げ、目を輝かせている。


飼育員にしっかり躾けられたイルカ達は、ボールを鼻でキープしながら立ち泳ぎをしたり、輪をジャンプしてくぐったり、背中に飼育員を乗せて泳いだりと、次々に芸を披露していく。


「す、すごいですね……イルカって」


そう言って目をキラキラさせる菜々を見ていると、こっちまで自然と気分が高揚してくる。

そしてショーはいよいよクライマックスへ。


――その時だった。


こちらに向かって一直線に泳いでくる数匹のイルカを見て、俺はすべてを察した。


(あ、これ……絶対水かけられるやつだ)


俺達は、菜々が初のイルカショーということもあって、張り切って最前列に座っていた。


ふと後ろを見ると、カッパを着込んだ人達がスタンバイ済み。

何も知らずにワクワクしている菜々を横目に、俺は顔を下に向け、被害を最小限に抑える努力をする。


そして――


イルカが大きく跳ね上がり、着水。

凄まじい水しぶきが上がり、観客席を丸ごと飲み込んだ。

隣を見ると、菜々は正面を見たまま、びっしょびしょになって固まっていた。


「……菜々、大丈夫か?」


俺が恐る恐る声をかけると、菜々はゆっくりこちらへ視線を向ける。


「……翔さん、びっしょびしょですよ!」


そう言って大声で笑い出す菜々。

いや。

どう考えても、今この場で一番びしょびしょなのは菜々本人だ。


それを見ているうちに、俺も耐えきれず笑ってしまい、二人でお互いの悲惨な状態を見ながら大笑いする。


一通り笑った後、俺達はイルカショーを後にし、さすがにこのままではまずいと近くのお土産屋でTシャツを購入し、着替えることにした。


着替え終わって合流すると、お互いの服装のダサさに再び笑いが起きる。


菜々はペンギンの顔がドアップでプリントされた白いTシャツ。

俺は熱帯魚・ピラルクの顔面がドーンと配置されたシャツ。


……どっちも酷い。


そのままダサい服で水族館デートを続行し、最後にお土産を購入して、俺達は水族館を後にした。


時刻は17時過ぎ。


館内から外へ出ると、夕日が辺りをオレンジ色に染め上げていた。


「翔さん、今日はありがとうございました!すごく楽しかったです!また行きましょうね!」


満足そうにそう言う菜々の表情を見て、今日一日ちゃんと楽しませてあげられたのだと、俺は安堵する。

当初はどうなることかと思ったが、何事も起こらず、平和な水族館デート――


……そう、思っていた。


帰りの電車でも、家までの道でも、水族館の話を笑いながら続け、もうすぐ家というところで――事件は起きた。


夕日が照らす、静まり返った地元の帰り道。


何もない、いつも通りの家の前。

だが、そこに――ヤツは立っていた。


「……は?」


思わず声が漏れ、俺は歩みを止め、その場に立ち尽くす。


「お客様でしょうか……?」


俺の異変に気づいた菜々が、そう声をかけてくる。


だが――違う。


アイツは、そんな生易しい存在じゃない。


そこにいたのは、一度目の人生では既に死んでいるはずだった父親の姿だった。


「……あれは俺の親父だ。絶対、近寄るなよ菜々」


そう言って菜々の手を引き、後ずさる。

しかし、こちらに気づいた父親は、迷いなく近づいてきた。


なんで。

なんでここにいる。

なんでなんでなんでなんで。


ぐちゃぐちゃの思考が頭を埋め尽くし、さっきまでの幸福が一気に叩き落とされる。


そして――

その感情は、やがて殺意へと変わった。


「クソ野郎が……ぶっ殺してやる!!!」


気づいた時には、俺は近くのゴミ捨て場にあった瓶を手に取り、父親へと殴りかかっていた。


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