12話 早める死期
凄まじく訪問者ありませんね。
マイペースで続けます。
アンとマーナのためにも。
◆マーナ(昼顔)
「20人……って、オレらの仲間の……ですか?」
「そうさ、それ以外にダレが居る? バルバルの千人長にオマエらが強いって証明を立てれなきゃ、オメーも、オレたちも、帰り道はねェ。選択の余地はねェのよ」
両脇を持ち上げられムリヤリ立たされたオレは、耳元に煙草臭い息を吹きかけられた。
「――アンに一言、こう伝えればいい。『20人のアイツらは裏切者の敵だ。すぐに殺せ』、と」
「なッ?! バカなコトを――!」
「バカじゃねぇ。それがオマエらを連れて来た目的なんだからよ」
有無を言わせぬまま、オレとアンは20人の同胞がいる幕舎へ連行された。その間、アンは従順にオレの指示を守り、口を真一文字に結び、決して暴れ出さなかった。
「あれ? 居ない……」
「あの連中ならお遊戯広場に集めたよ。こんなに楽しいイベント、自分たちだけで満喫したら部下たちがカワイソーでしょう?」
蛮族風情がキラリと白い歯を覗かせる。
バルバル族、女千人長。どこまでも野蛮でクズで……とことん美しい。
司令と隊長、そして女千人長が座する特等席の真正面に、アンとオレが引っ立てられた。
円筒形の囲いのある……ここは闘技場だ。
空気が生臭いのは所々地面に血が沁み込んでいるからだろう。人のものか別の生き物か、それ以上の詮索は止めておいた。
ゲートが開き、さっきまで一緒にいた同胞が蹴り込まれながら入場してきた。抵抗した者もいたようだ。返り討ちに遭い、傷だらけでよろめいている。
オレが驚愕を受けたのはその20人に加えて10人ほど人数が割り増しされていたことだ。
最近の戦いで捕虜になっていた者たちだ。一般市民も数人混じっているし、あろうことか子供の姿もある。
「さぁ、七人の魔女を自称する者よ。今宵のショータイムを大いに盛り上げよ!」
鹿の面に戻った女千人長が興奮の雄叫びを上げ、それに呼応して揺れる松明の火の合間から蛮族の咆哮。腹をすかせた熊がエサに飛びつこうとするさまを思わせた。薄暗いためにその者らの姿かたちがボンヤリとしか視認できず、空恐ろしさに身震いする。
「……おい、オマエら。いったいどういう了見でオレらの前に立ってやがるんだ?」
「七人の魔女ってなんだよ? 気味が悪いんだよ、ガキども」
「隊長はなんであんなところで高みの見物をしてるんだ? オマエら何かしってるのか?」
「アッハッハ」
甲高い女の嗤い。千人長のものだ。
口々にオレらふたりをなじる同胞ら。もっともだ。特別に御呼ばれしたオレたちだけ、別室で歓待を受けたと誤認しているのだ。裏切者の輪の中にオレらふたりも含まれてるんだ。
「待ってください。アンタたちは勘違いしてます。オレらふたりはアンタたちの味方です」
――と言ったものの、果たして胸張って言い切れるのか。隊長からなんて言われたか反芻してみろ。あの女千人長からなんて言われたか叫んでみろ。……言えるわけねェ。
兵士のひとりがオレの胸ぐらをつかみ、手加減無しに殴りつけた。大きく仰け反ったオレ、地面に叩きつけられる。
アンが割って入り、オレにすがった。
「ねぇマーナ。この人たち、味方じゃないの? 敵なの?」
コイツはオレの返事が無いと動けねぇ。
一言、「敵だ」。
そう告げるとどんなコトが起こるのか。
数人が庇ったアンごと、蹴り込みしてきた。
痛えだろっ、やめてくれッ。
時折混じる「もっとやれ」の罵声。すべて女千人長から発せられてる。あの女ぁ。
「ねぇ、ねぇッマーナ。この人たちなんてわたしたちを攻撃するの? 敵になっちゃったの!?」
「う、ぐ、がはっ!」
必死の思いでオレは転がり逃れて連中から離れた。一旦距離をとったことでターゲットがアンに変わった。彼女は殴る蹴るの暴力を受けてもジッと突っ立っている。眼はオレから外さないでいる。
「このッ、裏切り者ッ!」
「蛮族の手先ッ、イヌッ!」
「同胞の痛みを知れッ、ガキッ!」
トリストン隊長がバンバン、手を叩いた。一瞬、嵐が止む。
「ヨォ、マーナよ。もうそろそろ眠いだろ? お楽しみショーを始めろや?」
「お楽しみショー……」
狂暴化した囚われの兵ども、いぶかし気にヤツに注目した。
「……なんだ? 隊長は何を言ってるんだ? 答えろよ、ガキども」
ズン! と重い蹴りが腹に入った。
「ぐっは!」
はー。確かに。ぼちぼちマジで眠たくなってきた。
「マーナッ!」
アン、2打目を打ち込もうとした男のかかとを掴んでひっくり返した。地に頭をぶつけ脳震盪を起こした男、喪心する。
あまりに手際が良かったので、気味悪がって遠巻きになる同胞ども。
「ハハハッ。まこと愉快だな。もう充分、裏切りの報いは先取りしたろう? さーて、いったい何秒でソイツらを始末するんだ? 七人の魔女の呪い子たちよ? 実力を見せてくれ」
オレ、よろけながらゆっくり立つ。
あー……気に入らねぇ。
まーったく気に入らねぇ。
なーんでこんなカスどもの座興に付き合わなきゃならんの?
なーんでこんな情けない連中の身を案じなきゃなんないの?
オレは……叫んだ。
「オイッ! 女千人長! テメーさっきから、何様だッ」
――シンとなった。
……あれ、聞こえんかったかな?
「千人長! テメーなんざ、アンが出しゃばるまでもねぇ! よくよく考えりゃ司令とトリストンのヤローに次いでカスだ! 3人の代表として表に出ろッ! オレが成敗してやる」
はぁはぁ。喉痛い。全力で言ってやった。
更に追い罵倒だ。
「ブース、ブース! ここまで来やがれーッ!」
会場全体がビリビリし始めた。




