今宵はパーリナイ
服の描写と中世的な内装描写でいつも壊滅的な語彙力の無さを感じて絶望に打ちひしがれます!(血涙)
「ほらそこ!!テーブル足りてないわよ!!」
「も、申し訳ありません!!すぐに持ってきます!!」
「おい!!料理は何皿出来た!!」
「まだざっと50皿です!!あと450皿足りてません!!」
「なんだと!?きりきり作るぞ!!」
朝からそこは戦場のようだった。
ハーシュ達が宿泊した客間のある別館も例外ではなく、朝から扉越しに聞こえてくる小間使いの騒音にたたき起こされたような形だ。
三人は寝間着のままだが、もう既に冴えてしまったようで、右に左に本館から別館へと走り回る窓の外のメイド達を眺めながらリデアの部屋の中で立ち尽くしていた。
「……で……?」
「なんでこんなことになってるの…?」
「…それはオレが聞きたい」
カインから伝え聞いた話によると、ハルメリアのダンジョン踏破(にまでとうとう話が大きくなっていた)を祝うパーティが今夜催されるということが、昨晩城主の独断で決まったらしい。
そして、半日であらゆる手配と準備を済まさなければならない現場のメイド達は血相を変えているという訳だ。
ハーシュ達は所せましと走り回るメイド達に若干不憫そうな視線を送った。
「…ハーシュはもう体の調子はいいのか??」
「え…!あ…うん!……おかげさまで……」
「そうか……」
「………」
「………」
そのまま二人とも会話も続かずに沈黙が続いた。
「あ、あの…カイン…!」
「ん……なんだ……」
「その…昨日は…なんというか…その………」
ハーシュが言いよどんでいると、カインも少し気まずそうに視線を逸らして言った。
「…気にするな…毒にやられたなら平時通りとはいかないだろう……」
「…あ…そ…そうだよね……あはは…は…」
「………」
「あんたらなにをそんな気まずそうにしてんのよ…」
リデアは呆れた様子で言い放った。
「き、気まずくなんてないよ!」
「そうだ!気まずくなぞない!」
リデアは無駄に反駁する二人に、勝手にしてくれとでも言わんばかりの大きなため息をついた。
そうしてしばらく三人で沈黙を持て余してるとコンコンとノックの音が響き、扉の隙間から年配のメイドが顔を出した。
「カイン様、リデア様、ハーシュ様、ご機嫌麗しゅうございます」
年配のメイドは両手を前で合わせて控えめなお辞儀をして見せた。
「あ、はい」
「私、お三方のパーティーのお召し物を見立てる様にハルメリア様より申し付かっております。それでは、殿方のカイン様はこちらへどうぞ。お二人には若いスタイリストが付くとのことですので、もう少々お待ちくださいませ。それでは、失礼いたします」
年配のメイドも現場仕事に追われているようで、戸惑うカインを手早く導いていくと足早に去っていった。
ハーシュはリデアと顔を見合わせる。するとほどなく二人の前に部屋に若い女があらわれた。
「し、失礼いたしま…ひゃあっ!!??」
女はドアを開こうとしたらしいが、器用にもその場ですてんと転んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「いたた……すみません……あ、あなたがハーシュ様…??」
すい、と自然に女の手のひらがハーシュの頬に当てられた。ハーシュは戸惑う暇もなく、その女の頬には微かに赤みが差していた。
「え…え??」
「すごい…なんて綺麗な……内面から光るような肌のキメの細やかさ……まるで純白のキャンバス……眺めていると心躍るようです……!!」
怒涛の様にまくしたてるテンションにハーシュはしばし唖然とした。
「……ど、どうしたんですか……??」
「あ…も、申し訳ございません!!わ、私サリイと申します。急に舞い上がってしまって…大変失礼いたしました…!」
サリイは両目が隠れるくらいのピンク色のぱっつん前髪が特徴的だった。黒いサテンの様な布を腰に纏い、ターコイズのあしらわれたベルトを締め、黒いベストをルーズに羽織っている。シンプルだが趣味の良さが感じられる格好だ。
「それで、あんたがスタイリストってことでいいの?」
「は、はい…」
と、三人で話していると窓の方からハルメリアの大きな声が聞こえた。
「…カイン様!!!本日はリオンドール随一のカリスマスタイリストと名高い方を呼んでおりますのよ!カイン様と私はぜひそちらでおめかしいたしましょう!」
遅れてカインの浮かない声がぼそぼそと聞こえてくる。
「…いや…俺は…正直全然興味がないのだが…」
「そんなことおっしゃらず!美丈夫のカイン様ならきっとスタイリスト御方の腕に見合うくらいの麗しい見目に仕上がることでしょう!!ささ!!こちらへどうぞ!!」
「オレはいい……それにそんなに腕がいいのなら、あの二人につけてやればいいだろう…そのカリスマなんとやらを…」
「ご心配なく!!あの二人には屋敷の見習いのスタイリストをつけましたから!!おほほほほ!!」
何もかも筒抜けのハルメリアの会話が遠ざかっていき、気が付くとサリイは先ほどよりも大分居たたまれない様子でそこに立っていた。
「えっと、つまり………」
「その……私…お嬢様にすこしだけ…嫌われてるようでして……」
サリイがどよんとしたオーラを纏い出したので、今度は逆にリデアが慌てだした。
「…ま、まあ私たちは服なんて着れればなんでもいいけどさ……それで、あんたは大丈夫なの??」
サリイはしゅんとした様子で俯いてしまう。
元来からして消極的な様子のサリイ。主であるハルメリアに値踏みされたこの状況でなかなか胸を張ってはいと言える様なものではない。
「サリイ、顔上げて」
不憫に思ったハーシュはサリイの顔を覗き込むと元気づける様ににこりとほほ笑んだ。サリイの頬にまた微かに赤みが差す。
「は、ハーシュ様…」
「じゃあ、サリィ。リデアに色々と見立ててもらっていいかな?」
「い、いいんですか!!」
サリイの顔が、パッと明かりがさしたように明るくなった。
「もちろん、そもそもスタイリストなんて付けてもらったこともないんだからさ。ね、リデア?」
ハーシュがそういうと、サリイは今度は不思議そうな顔でハーシュの顔を覗きこんだ。
「……ハーシュ様は…仕立てさせては、くださらないのですか??」
「え゛?いや、そんな…ボクは…」
ハーシュの返答に拒絶の意を読み取ったのか、再びサリィはしゅんとした様子で俯いてしまった。
そんなサリイに今度はハーシュが慌てて弁解しようとする。
「め、メイクも何も……ボクはその……」
判然としないハーシュの返答に何かを感じとったのか、今度はキッと決心したようにサリイは目の色を変えて言った。
「いいえ、差し出がましいですが、先ほどのあの殿方様を見つめるハーシュ様は紛れもなく恋をする乙女の横顔をしてらっしゃいました」
「はあ!?サリィ!?な、なにを言ってるの!!」
サリイは先ほどとは打って変わって強い意志を持った瞳でハーシュを見つめた。
「ハーシュ様…私を信じてくださいませんか?…必ずや今宵をあなたの幸せな夜にしてみせます」
「し、幸せって…そんなんじゃ…」
ハーシュはサリイの剣幕に押されて後ずさるが、サリイは逃がさないとばかりにハーシュとの間合いを詰めた。
「ハーシュ様は、そういって諦められるのですか?」
「あ、諦めるって…」
「カイン様を他の女に取られてもいいのですか?」
「そ…んなこと…言われても…」
その時、ハーシュの顔に初めて逡巡するような、躊躇いの色が浮かんだ。
「ハーシュ様は本当の気持ちに向き合う勇気が出ないから言い訳を探しているだけです」
思いのほか強い押しにハーシュはたじたじだった。こうしてみるとサリイは思ったよりも性根の強い娘なのかもしれない。
サリイはダメ押しとばかりにハーシュの両手をぎゅっと握りしめた。
「…さ、サリイ?」
「…私の全力を持ってハーシュ様の退路を断って差し上げます」
(へえ……)
後ろでリデアがにやにやと面白そうに笑っていることにハーシュもサリイも気が付かなかった。
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日が陰る頃には、広間はメイド達の労苦の甲斐あってお誂え向きのパーティー会場へと変身を遂げた。
光り輝くシャンデリアの下には煌びやかに装飾されたテーブル。その上には趣向の凝らされた料理が並ぶ。
開場されて間もない広間はまだ満員とは言わないまでも、貴族から名士のご令嬢までが歓談しており、まずまずの賑やかな様相だった。
「あちらの壁際にいらっしゃる御方はどなたかしら…」
「憂いのこもった眼差しも素敵…」
一部の婦女子達からの熱い視線を浴びているのは誰あろう黒いタキシードを来たよそ行きのカインだった。金髪はパーティー用にバックにまとめられておりいつもより高貴に見える出で立ちだったが、それを感じさせないカインの無造作な立ち居振る舞いは、多くの婦女子達には色っぽく映るようだ。
当のカインにはきゃあきゃあ、と姦しい婦女子達の嬌声は一向に耳に入らないらしく苛々とした様子で腕組みをしたままコツコツと指の腹で自らの肘を叩いていた。
するとその時、わっと場が華やいだ。広間にハルメリアが現れたのだ。
外連味を感じさせる立ち居振る舞いは、満を持してという表現がよく似合うようだった。ハルメリアの社交場での振る舞い方にはそのキャラクターが分かりやす過ぎるほどによく表れていた。
カインはハルメリアを見つけると獲物を得んとばかりにずんずんと近づいて行った。
「あら、カイン様」
ハルメリアはカインを見つけると優雅にほほ笑んだ。
婦女子達が熱い視線を向けていたカインがハルメリアに情熱的な様子で近づいてきたことに、婦女子達は当惑しつつもロマンスの予感を感じ、ハルメリアに羨望の眼差しを向けた。
ハルメリアとしては当然、その優越感を独り占めするつもりであるらしかった。
「…そんなに急いでいらしてどうなさったのですか?」
「ハルメリア殿、丁度良かった。ハーシュとリデアはどこにいる?」
「は……??」
カインの思惑としては、ガース隊長と万が一面倒なことになった場合に備えてハーシュとリデアには事前に三人共タイミングを合わせて逃亡する可能性を言い含めておきたかったのだった。
そんな理由もありカインの表情にパーティーを楽しむような雰囲気は微塵もなかった。そもそも長身にタキシード、さらに美しい金髪と優雅とすら言えるような見た目ではあってもカインは所詮根っからの武人でありパーティーを楽しむなどという頭は端っから持ち合わせていないのである。
ハルメリアは一瞬、笑顔をひきつらせたが直ぐに取り直した。
「…ハーシュ様は後程すぐにいらっしゃいますのでご心配には当たりませんわ。そんなことよりも、カイン様もパーティーをお楽しみになってはいかが?」
「いえ、お気遣いには当たりません。それでは」
「か、カイン様!!私と踊ってくださいませんこと??」
ハルメリアは慌ててカインを引き留めた。
多くの取り巻きがいる手前、こんな色気もない会話だけして殿方に離れていかれたら令嬢としての面目が潰れてしまう。ハルメリアにはそんな思惑があった。
「いや…俺はけっこ」
「やあ、カインくんではないか!!」
カインの肩に唐突に重量のある無骨な手が置かれ、ぎりぎりと骨が軋むが如き力がかけられる。傍から見て分からないほどとは言え、ほとんど全力に違いなかった。
(カインくん…まさか私の娘の誘いを断ろうという訳ではあるまいな…?)
カインの耳元で呟いたガースの憤怒で引き攣った顔はまるで悪魔の笑顔の様に見えた。
カインにとっては、非常に不本意ながら一宿一飯の恩義がある。いたずらにことを荒立てるのも馬鹿馬鹿しいと思ったカインはしぶしぶとハルメリアの手を取った。
ダンスなどアレフガルド学園での初等科での入学パーティ以来だ。
どうしたものかと思ったその時、向こうの方でわあ、と歓声のようなものが沸いた。
カインがそちらを見ると、その中心にいたのは紺のドレスを身に纏った紛れもなくハーシュの姿だった。
「美しい……」
「なんて綺麗な銀髪……」
「あれは…どこのご令嬢だ……??」
来賓からは口々に感嘆を表す言葉が紡がれ、ため息が漏れた。
確かにカインの目から見ても一瞬我を忘れて魅入ってしまうほど、ドレスを身に纏うハーシュは美しかった。
だがそんな中、注目されていることにも気が付かないほどにハーシュ自身は転ばないように歩くことに必死だった。
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(ヒールって…歩きづらい…)
ハーシュにとっては、露出度の高いドレスも化粧もヒールも何一つ慣れなかった。ハーシュはこそこそとリデアに耳打ちした。
「リデア…女の人ってこんなに背中出して恥ずかしくないの??…なんか落ち着かないんだけど…」
「…うん…そうね…どうでもいいけどあんたの横って非常に歩きづらいわ…」
リデアは、周囲の好奇の目にうんざりして疲れた様な表情だった。だがリデアのそんな事情は露知らずハーシュは首を傾げた。
「…なんで??」
ハーシュが奥の方に何の気なく目をやると、カインの姿が見えた。長身で金髪のカインは遠くからでも否応なく目立つ。
「あ…!…」
カインを見つけたので、声を掛けようとハーシュは片手を上げたがその次の瞬間には咄嗟に足が竦んでしまった。
腕をカインに絡ませるハルメリアの姿が見えたのだ。
ハーシュは胸を突くような痛みを感じ、そこからふいに目を逸らしてしまった。
リデアはそんなハーシュの様子を横目に見ていた。
「…いいの?ハーシュ?」
「…え…いいって?」
「あの女、カインのこと狙ってるみたいだけど」
「……え……」
狙う。それがどういうことかくらい、流石のハーシュでも理解できた。
「そう、なんだ…」
空気が抜けるように、ハーシュの顔からは見る見る生気が抜けて無表情になった。
リデアはうんざりした様子でかぶりを振った。
「……まったくもう…別にあたしはあんたら二人の子守りなんかじゃないからね…今夜くらい自由にやらせてもらうわ」
「…今夜くらいってところくらいは突っ込みをいれた方がいいのカナ……?」
「…なんですって?」
「なんでもないです…」
リデアはその言葉の通り、テーブルに美食を求めてずんずんと旅立っていった。こういう時のリデアの場への順応力はたくましい限りだなあとハーシュは感心するばかりだった。
手持ち無沙汰になったハーシュはやることもなく、食事でも口にしようかとテーブルに近づこうとしたその時だった。
「お嬢さん、何かお探しですか?」
「え?」
ウェイターの人だろうか?ハーシュはこういったパーティーの勝手がわからないので戸惑いつつも応じた。
「えっと、特に何か欲しいものはないんですけど…あの、あれ…とかおいしそうですね?」
「ああ、あれですね、ちょっと待っててください」
そういうと、男は近くのこれまたウェイターらしき男を呼び止めて耳打ちをしたあと、ハーシュの方へ戻ってきた。
「ドリンクと一緒に持ってくるように伝えました、少し待ちましょうか」
「あ、はい。ありがとうございます」
ハーシュは結局この人がウェイターなのか、客なのか検討がつかなかったが、気が付くとなんとはなしに二人で待つ雰囲気になっていた。
会話、会話…とハーシュが考えあぐねていると、男の方から話しかけてきた。
「お嬢さん、お名前は?」
「あ、はい。ハーシュ。ハーシュ・マギ・ベルナルドと言います」
「ハーシュさんか、美しい、いい名前だ」
「そうですか?…初めて言われましたけど」
「今日はハルメリア様のご招待でいらしたのですか?」
「…とゆうよりは…ハルメリア様に道すがら偶然にクエストに誘われてその行きがかりでパーティーにもお呼ばれしたって感じです」
ハーシュは言いながら昨夜の一幕を思い出しかけたので、口には若干の苦笑が浮かんだ。
「クエスト!?ハーシュさんは冒険者なのですか!?」
驚かれて心外な気持ちが勝ったハーシュは少しむっと頬を膨らましていった。
「…どういう意味ですか…そんなにひ弱そうに見えます?」
「…いや…失礼しました。ただこんな可憐な人がそんな危ないことをするなんて…考えただけで心配になってしまいますよ…」
「危なくなんてないですよ」
ハーシュの目がまぶしそうに細められる。それは切なさをかみしめる様にも見えた。
「…心から守ろうとしてくれる仲間たちがいるんです…だから、怖いことなんてないんです」
ハーシュは満面の笑みで答えた。
男は我を忘れた様にぽうっとハーシュの顔を眺めていたので、ハーシュが不思議そうな顔を向けると男ははっと我に返ったように居住まいを正した。
「…ビル・ハーレイ」
「え?」
男は膝を折り曲げるとハーシュの前にひざまずいた。
「私の名前です。ハーシュさん。どうか、私と踊ってくださいませんか」
「え、えっと…?」
突然の展開に戸惑いを感じたが、助けを求めようと周囲を見渡しても頼りのリデアの姿はなかった。
話した感じだと(流石にウエイターではなく)高貴な家の人なのだろう、これは断ったら流石に失礼に当たるだろうか。
「すみません、ボ……じゃなくて私、踊ったことってないんですけど…」
「では、私にエスコートさせてください。行きましょう」
「あ、あの…!」
言うが早いが、半ば強引にハーシュは広間の中心へと片手で連れていかれた。
中心にたどり着くとビルは振り返りざま、ハーシュの手をぎゅっと強く握るとハーシュの背中にもそっと手を添えた。ハーシュも分からないなりにビルの背中に手を添える。
男の手。男の背中。その驚くほど硬い感触。それが今の自分と目の前の人が全く違う生き物
であるということが知れた。
ビルがリードする基本のステップに慣れてくると、情熱的なまなざしがこちらに向けられていることにハーシュは気が付いた。
女であること。女として求められること。
その時、ハーシュは不思議とそれがどういうことかをすとんと受け入れられた気がした。
それでも、この人ではない。
それがハーシュにはわかった。わかってしまった。
手の硬さ、視線、優しく導くようなステップ。
ビルの技術にはおそらく申し分はなかったし、受動的な役目を演じることに不思議な安心感を覚える気持ちもあった。
だが、ハーシュの中に少しずつ。自分が求めているものが、どこか別のところにあるような落ち着かない気持ちが徐々に頭をもたげてくるのを感じた。
ハーシュは無意識にその姿を目で探していた。
やがて、曲が終わりダンスの一幕が終わった。各々のペアが深くお辞儀をして笑顔を見せる。
「カイン様」
「………」
ハルメリアと一曲踊り終わったカインだが、終始心ここにあらずであることはハルメリアには痛いほど知れた。
本来であれば、恥をかかされたことに対してハルメリアがカインを非難してもよい状況であると言える。ハルメリアは拳をぐっと握りこんだ。
「…そんな辛そうな顔してらっしゃるくらいなら、さっさと行ってきてくださいまし」
「ハルメリア殿」
カインは驚いたような顔だった。
「…今行かないと、あなたのことを一生意気地なしとなじってやりますから!!」
カインは、ハルメリアの声に反応してか、弾かれるように一直線に向かった。
カインがハーシュの手を取ろうとしたその時、間に入ってきた影があった。
ビルが、ハーシュの肩を抱くようにカインとの間に入ったのだ。ビルは不快感も露わにカインを睨みつけた。
「…なんだね、君は?挨拶もなくレディに触れようとするとは無礼だとは思わないのか…!!」
「ハーシュ!!」
リデアが背中からハーシュの手を取り、くるりと回してビルから剥がして自らの懐に呼び込んだ。アイキの様な手際の良さだった。
「リデア?!」
リデアはカインにくいと指で合図をした。迎えに来いという意味だ。
ビルは呆気に取られて言った。
「な、一体なんだ君は!?」
「空気読むのはあんたの方ってこと。潔く諦めなさい」
「何を…!?」
カインは、素早くハーシュの許へと参じた。
「はい、私の代わりに面倒見てやって」
「わ…!」
リデアが放るとハーシュはぐらりと体を預けたが、カインがそれを支える形となった。
「あ、ありがと…」
カインはハーシュの手を取るとまた広間に戻った。
「なんなんだ君たちは…!」
ビルは憤懣やるかたない様子でリデアを非難がましく責め立てた。
「あんたダンスには自信があるようだけどさ。今度はハーシュの表情をちゃんと見てるといいよ」
「なんだと…!?」
パーティの最中の争いにざわめきが起こる中、新たな曲が始まった。
(つづく)




