きれたカイン
最近2週間に一回の亀更新ですいませんぬ
がんばるぞー
男たちは五人いた。
そこかしこに因縁をつけては店内を荒らし始めた。
「おらおらあああ!!化け物マダム!!!出てきやがれ!!」
「あたしはここにいるよ!!お客さんに手を出すんじゃないよ!!」
「シャアアアラップ!!!」
マダムが声を上げると、それに反応するかのように男の一人がテーブルを足蹴にしてひっくり返した。グラスの割れる音と悲鳴が響く。
「何の罪もないお客さんにまで迷惑をかけるなんて…!!あんたら人としても商売人としてももう終わりだよ!!」
「うるせえ!!もとはと言えば金を返さねえあんたがわりいんだろうがよ!!」
「こ、これは一体…なんの騒ぎだ!」
「しっ!!」
ハーシュは周囲の様子を見ようと立ち上がりかけたアイルノーツの膝に手を置いた。
「こうゆう時は動かない方がいいです」
「し、しかし…」
「大丈夫、考えがありますから」
(…目つぶしの簡単な術…少し前に覚えなおした術だけど…)
ハーシュはテーブルの下で囁くような声で詠唱を始めた。ぽうと温かな感触が両の手に広がっていく。
「おい?何やってんだお嬢ちゃん?」
後ろから手を掴まれ、ハーシュが構成中だった術式はあっけなく霧散した。
「あっ!!」
「おっとあぶねえあぶねえ!!術者を雇ってるとはな!!」
(術式を構成中に見破られるなんて…!)
チンピラに見えて、その実ハーシュが考えるよりも腕が立つ輩だったようだった。
「き、貴様!!その手を離せ!!」
グリムノーツが勇敢にも男に食ってかかった。
「おっと…?このお嬢さんあんたのお気に入りってか??」
男は歯牙にすらかけない様子で、ハーシュを後ろ手に締め上げると悠然とグリムノーツを下から上まで観察した。
「随分と仕立ての良い格好してんじゃねえか?ちょっとくらい…痛っで!?」
ハーシュはグリムノーツに危険が及ぶと判断し、咄嗟に男の腕にかみついた。
「早く!!逃げてください!!」
「ぐ…調子に乗りやがってこの野郎!!」
男はハーシュの頬を手のひらで叩いた。その勢いでハーシュは床に倒れこむ。
「いっ…!」
「へえ…よく見たら結構な上玉じゃねえの、どれどれ?ハーシュちゃんって言うんだってよ!」
男はハーシュの胸の名札を強引に破りとると弾みで胸のボタンがはじけ飛んだ。
「やっ…やめ……!」
「ふひひ、たっぷり可愛がってあぶらあげっ!!??」
男が奇声と共に真横に綺麗に吹き飛んでいくと、その後ろから姿を現したのはカインだった。
「……営業妨害だ。早々お引き取り願おう」
「カイン!!」
「なんだこのおとごんがだぶ!!??」
カインは片手で男の頭を掴むとそのまま床に叩きつける。男の頭は床の木のタイルに突き刺さり男のつま先がぴんと天井に向けて突き立った。
明らかにオーバーキルである。
「か、カイン…??」
「……次は誰が死ぬ?」
カインの目には尋常ではない殺気がこもっている。その姿はさながら狂戦士だった。
ハーシュは思わず血の気が引いた。そのまなざしは平常時とは言い難かった。…カインもカインで結構なストレスが溜まっていたのだろうか?
あっという間に二人が戦闘不能にされ、気勢が削がれた残りの三人の男たちはカインの殺気に気圧され後ずさりする。
カインは間髪入れずに男の一人に詰め寄るとその手首を掴んだ。
「ひぃっ!?」
「おい…この手か?…ハーシュを殴ったのは?」
みしみしと男の手首から異様な音がする。痛みと恐怖で男の額からは冷たい汗が流れる。
カインは男の手首を力づくで引きつけるとテーブルの上にばん、と固定した。
「ちょちょっと待ってくれよ…!!わ、わるかった…話せばわか…!?」
カインはカトラリーに手を突っ込んだかと思うと次の瞬間、男の手の甲に勢いよくフォークを突き立てた。骨と金属が擦れる鈍い音がした。
「いっ…ぎいやああああああああああああああああああ!!!???いでえええええええええええええええええええええ!!!!!????」
男の口角から泡交じりの嗚咽が漏れる。それでもカインは顔色一つ変えずに皮下へ貫かれた血まみれのフォークに更に捻りを加えた。男の割れるような悲鳴が立て続けに響く。
「いぎひい…い、いでえ…た、助けて…い、命だけは…!?」
男の口からは弱弱しく懇願するような声が漏れた。店内のものはみなよほど肝を冷やしたと見えて、血気盛んなはずの冒険者の中にさえも囃すような声を発するものはいなかった。
カインの行動を流石に見かねたリデアが慌てて声を上げる。
「ちょ…ちょっとカイン!!流石にやりすぎじゃないあんた!?」
「関係ない」
当のカインは据わった目でこちらを見ることすらしなかった。
(完全にブチ切れてる…!)
リデアの背筋に冷たいものが走った。
本気で切れたカインを止められる力は自分にあるだろうか?そう自問するリデアは躊躇せざるを得ない。
「カイン!!」
その声に一瞬カインの思考が止まる。フォークを握る手にやわらかな手の感触が重ねられる。
「…カイン…馬鹿…!!」
ハーシュの手は震えていて、怒ったようでいて悲しそうな目だった。
「ハー…シュ?」
ハーシュは血まみれのフォークの握られたカインの手を血の付くのも構わず自らの胸部に押し当てた。カインの手に不意打ちのようにふわりとしたマシュマロの手触りが感じられる。
「お…ま!?な、何を!!!!????」
「カインの力は誰かを守るための力」
ハーシュの目は貫くようにはっきりとカインの目を見つめていた。そこには強い光が灯っていた。
「……」
「…弱い者いじめをする力じゃないよ」
「…そう………だな……」
カインの表情から激しいものが憑き物を落とすように抜けていく。ハーシュはほっとしたのか目の端に涙が溜まった。
「約束!!忘れたとは言わせないよ」
「わ、わかった!!わかったから早くその手を離せ!!」
店内一同、思うことは。
(腕ぱふぱふ…うらやま…)
(…俺らは一体何を見せられているんだ…)
だった。
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「助かったわ!!本当にありがとう!!」
マダムは一件落着したことについて、カイン達に平身低頭礼を言った。
「マダム、奴らは一体何だったんだ?」
「もとはと言えば私が悪かったのよ…私が生き別れた息子のために借金なんてするから…!!」
マダムはくやし気に唇を噛み、涙は見せまいとばかりに横を向いた。
「マダム、借金とはいかほどか?」
ひょいと話に割り込んできたのは、グリムノーツだった。
「あ、さっきの親切な人」
「そうね…利子が膨らみに膨らんで…今はざっと100万ギルくらいかしらね…」
マダムはふっと自嘲するように言った。すると…
「その程度か?」
皆の空気が固まった。
「その程度…??」
グリムノーツは手早くさらさらと小切手を書き始めた。
「マダム、これを」
グリムノーツの手に乗っていたのは、0がこれでもかと並んだ小切手だった。当然のごとくサインと実印入りだ。
「こ、これは…!」
「ハーシュさん…」
グリムノーツは小切手をハーシュの両手にぎゅっと託した。
「な、なんでしょう…?」
「あなたは危険な状況を顧みず私を身を呈して助けようとしてくれた…あなたのような美しい心の持ち主を私は他に知らない…私は二重の意味で救われたよ…商売人同士の利益のためにへつらい、叩き合うやり取りに私はいつの間にか心を惓んでしまっていたようだ…」
グリムノーツはカインにちら、と目をやると悲しげに眉間にしわを寄せた。
「ハーシュさん…私にはこれくらいしか出来ないが…どうか…幸せになってほしい…」
グリムノーツはハーシュに向かってそういうと颯爽と身を翻した。
「いえあの…グリム…?さん…?ボクこのお店とそんな関係深い訳じゃもがもが!?」
言いかけたハーシュの口に手をやったのはマダムだった。
「ありがとうございます…ありがとうございます…!!!この御恩は…一生忘れません!!」
「いいのだマダム…そのハーシュという娘を幸せにしてくれれば…それが私の望外の幸せだ…」
「もがー!?」
グリムノーツは上を向いてさっさと歩いて行ってしまった。そう、涙が溢れないように。
「…ああゆう男いるわよね…基本的に天然でいい奴だけど人の話聞かない馬鹿…」
「…リデアってなんか非道すぎない?!」
「そうだな」
「カインまで!?」
最後にグリムノーツの見せた一筋の涙は夕焼け色に輝いていたとさ。
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「あれでよかったのかな…」
馬車に揺られながらハーシュは思案顔だ。
路銀は諸々の謝金としてマダムが給金にかなり上乗せして支払ってくれたため、翌朝には早々と次の街へ出立する事が出来た。
悩んでいるのはグリムノーツの件だった。
グリムノーツは何も知らずに赤の他人の借金を返した形になってしまったわけだが、マダムの手前それも言い出すことが(物理的にも)できなかった自分をハーシュは責めているのだった。
「まあいいんじゃない?」
リデアはいつものごとくあっけらかんとしていた。
「…馬鹿には馬鹿のやりたいようにやらせておけばいい。自分の望み通り金を使ったんだから幸せだろう」
「カイン今回やたら辛辣だね…?」
「なんでかしらねえ?くすくす」
リデアが面白そうにぷくくと笑っており、横でカインは不機嫌そうに口をつぐんだ。ハーシュは不思議そうに両者を交互に眺めたが、ふうと大きくため息をついた。
「とりあえず、あの服着ないでよくなったからそれだけでいいよ……」
「…そうね」
「なんにせよ、一件落着だ」
3人の旅は続いていく…




