異世界では美形に注意しましょう
「さぁ行こうか。宇佐木が待ちくたびれてる。君が来るのをとても楽しみにしていたからね。遅くなれば僕がどやされる」
随分と饒舌な王子様だ。
きらきらと金の髪を靡かせて、僕には理解できない事をひたすらに話してくる。
僕が聞いているかどうかなど関係ないとでもいうかのように、それはもう一方的に。
「それで、この変な世界に僕を呼んだのはあなたですか?」
面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。
異世界に来て、それでいて美形に出会うとろくなことはない。
本を多く読んでいる僕に言わせてみれば、これから何かと戦えだとか、お宝を探して来いだとか、君は選ばれし者だー!とかそんな展開になりえない。
そうなる前に、うまく交渉してみよう、面倒くさいことはごめんだ。
「何故そう思う?」
「だってあなたがここの王子様なんじゃないですか?」
「まさか!アハ、ハハハハ、この世界にそんなものはないよ、強いて言うならば君がその存在に近い」
どうやら笑い上戸らしい。何をそんなに面白がるのかは分からないが、僕の顔を見てはくすくすと笑う。
「帰してくれませんか」
「それは無理」
きっぱりと即答されてしまう。
「僕の都合はどうなるんですか」
「そんなもの関係ないよ。君はただ座ってるだけでいい」
「はぁ?」
ただ座ってるだけ。
それだけの為に僕を呼んだのだとしたら迷惑な話だ。
僕は面倒な事も嫌いだが、退屈も嫌いなのだ。
何事も中間が一番。程よく適当に過ごせればそれがいい。
「それより、よく分かったね、ここが異世界だって。順応が早い」
まるで値踏みするかのような無遠慮な視線。
「こんな広大な花畑はともかく、空まで紫だなんて僕の世界では在り得ない」
「ここが君の世界だよ」
にっこりと有無を言わせぬ笑みで言われて有栖はぐっと言葉を飲み込む。
「とりあえず、この鎖を解いてくれませんか」
言った後で何故僕がこんな奴に敬語など使っているのかと気付く。
「それも無理」
「冗談じゃない」
「そう、文字通り、『冗談ではない』
こんなところにあと少しでも居たら君は死んでしまうし、僕は宇佐木ともう口も利いてもらえなくなる」
にこ、と微笑みそう言うと、そいつはじゃらじゃらと腕に巻きついたやたら重そうな鎖を解き、早口で何か呟く。
僕の知らない原語だった。
とたんに強い光に襲われて、僕は目を開けていられずにきつく目を閉じた。