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脇役少女  作者: uda
探偵と孤島の物語
17/17

人助けも悪くない

 その後、主に事情と録音したテープを聞かせた。三武郎達は朝にきた船と共にやってきた警察にテープと一緒に潮田を引き渡した。

 海狐に襲われたショックか、会話を録音されていた事実を知った為かは分からないが、目を覚ましてから呆けた眼をしている潮田は大人しく警察に連行されていった。

 本来ならその時に三武郎達も警察の事情聴取を受けに行かねばならなかった。だが、当主である荒神 魚彦が話をもう少ししたいと警察に言い、権力があったのか、警察は引き下がり三武郎達は夕方過ぎまでこの島にいることになった。


 となったのだが、三武郎は特にすることがなくただ、エアコンの効いたリビングのソファーに座り、ぼんやりとテレビを見ていた。

 栗栖のように今回の真相を知り、主に詳しく説明をしているわけではなく。

 勇子のように海狐という非現実的な存在と積極的に話をする気もない。

 探偵でもなくヒーローに憧れてもいない三武郎は特にやることもなかったのだ。自分自身今回も特に活躍することもないと理解している。

 しかし、何故か今回潮田を殺そうとした人達だけではなく、館の人々に会うたびに頭を下げられ、感謝されてしまった。


「ったく、何なんだよ」

「でも、嬉しかったでしょ?」

「うぉ!! ……ガキ。いつ帰ってきやがった」

「さっきですよ。いやぁ、面白い話でしたよ」


 いつの間にか背後に現れた勇子は、気分がいいのか頬を高揚させ、三武郎の隣に座り込む。そして。聞いてもいないのにどんな話をしていたかを、上機嫌に話し始めた。

 海狐が今は魚彦ではなく魚彦の孫を狙っているらしく。早く夏休みに帰ってこないかとウキウキしていた事や、連絡を取れるようにこんな不思議な石をもらったと語る。

 やかましい。と三武郎は言いかけたが、満面の笑みを浮かべた勇子の表情にためらい、黙って聞き流すことにした。

 ふと、三武郎は時計を見る。時刻は夕方過ぎを指していた。


「なぁ、ガキ。そろそろ帰らる時間だ。あの女はまだ、戻ってこないのか?」


 午前中から当主の部屋にいるであろう栗栖のことを三武郎は問うと勇子は気まずそうに頬を掻く。


「なんだよ」

「いえ、実は栗栖さん一足先にもう帰っちゃってます」

「はぁ、どういうことだ。人が待ってんのに」


 潮田を捕まえる際に誤って本来の姿を見られてから、案の定三武郎は栗栖に怯えられ距離をとられていた。

 分かっていたこととはいえ、あからさまに避けられる行為に三武郎は当主との話が終ったあとにガツンと言ってやる気であった。


「あの野郎……今度会ったら、また、トランクの中にぶち込んでやる」


 怒りが頭を沸騰させ、、三武郎はぎりぎりと歯軋りをする。その様子に勇子は慌てたようにポケットから一枚の紙を取りだした。


「い、いや、向こうは三武郎さんのような非日常的な存在にトラウマを抱えているみたいなので、そんな直ぐに貴方に顔を合わすことができなんですよ」

「あ? んなの知るか」

「まぁまぁ、本人も反省しているみたいで、ほら、こんな手紙を預かってますよ」


 言いながら勇子が差し出す折りたたまれ紙を三武郎は奪い取り広げる。

 中にはかわいらしい文字で、助けに来てもらったのに悲鳴を上げたことや避けたことに対する謝罪がメモ用紙にびっしりと書かれている

 そして、最後のほうに栗栖の名前を電話番号が書かれていた。

 あまりの文章の多さに若干引きそうになる。


「おいおい、何で電話番号書いてんだよ」

「それは落ち着いたら定期的にでもいいので会えないかということらしいですよ」

「何だそれ?」

「さすがに栗栖さん自身も何度も三武郎さんのような存在と出会って悲鳴を上げるのは良くないって思っているとのことです。それでせっかく知り合いになれたのでこれを機会に克服したいみたいなんですよ」


 って、帰りの船に乗る前に言ってましたよと勇子は付け加える。

 三武郎はしばらく手紙を眺めた後、小さく舌打ちを手紙をポケットの中にねじ込んだ。


「……しゃーねーな」

「ふふ、ありがとうございます」


 頭を掻きながら三武郎は席を立つ。栗栖が帰ったのならもうこの島にいる理由はないのだ。


「ったく、いい加減居心地がわりぃから、荷物まとめてサッサと帰るぞ」

「確かに帰る時間ですが、え? 何で居心地が悪いのですか」

「活躍していねぇのに、いちいち御礼言われるのが胸糞わりぃんだよ」


 両ポケットに手を突っ込み部屋を出る三武郎の後を勇子が小さな足を懸命に動かしついてくる。

 廊下は蒸し暑い熱気が緩く三武郎を包み込む隣を歩くように追いついた勇子は話を続ける。


「活躍してないとか言わないでくださいよ。頑張ってたじゃないですか」

「そうなのか?」

「私ひとりなら犯人を無傷で止めることはできなかったですし、栗栖さんが海狐に連れて行かれた際に三武郎さんの足がなければ間に合わなかったかもしれません。後、三武郎さんがいなかったら海狐が私たちを招待することなどなかったのですから」


 真面目に褒められてしまい。今までの人生であまり褒められたことにない三武郎は少し混乱し顔を勇子からそらした。


「……なら、連れてこられた甲斐があったのか」

「ええ。ちなみに訪ねたいのですけど、今でも人助けでお礼を言われたこと、居心地悪いですか」


 しばらく蒸し暑い廊下を歩いた後、三武郎は小さくフンと鼻を鳴らした。


「まぁ、悪くねぇがな」

CAST

主人公 探偵・古畑 栗栖

犯人役 メイド・磯崎

    友人の妻・寺波婦人

    記者・渦谷

依頼人 当主・荒神 魚彦

殺され役 使用人長・塩田

助手役  勇子。三武郎。

その他  若い使用人・浜村

     当主の友人・寺波


次回→妖精の恋。

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