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創世紀  作者: 首藤
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9/10

忘らるる

広大な砂漠や、荒廃した街を車で駆けること3時間。

僕とマーキナーは、12時半ごろにイラク南部のサワーマに到着した。意外にも道路は整備されており、落ち着いた雰囲気の街という印象だ。


マーキナーと僕は車を駐車させたあと、サワーマの商店街にある屋台でお昼ご飯を何にしようかと吟味していた。するとマーキナーが手を振って、僕を呼び寄せた。


「シャワルマサンドなんてどうだイ?チャイもあるよ」


「…ああ、構わないけど」


そういうと、マーキナーは屋台の店主にサンドイッチとチャイを頼んだ。店主はにこやかな表情で注文を受けたあと、チャイを多めに淹れてくれた。この地域の住民は皆穏やかなであり、割とフレンドリーな様子を受ける。どの国においても、このような優しい心を持った人はいるのだ。


「ん、チャイうまいな」


「…ボクには少し甘ったルイような気もするよ」


チャイには通常よりも多めの砂糖が入っており、甘党である僕には最高の味付けだったが、どうやらマーキナーは違うらしい。


シャワルマサンドはというと、見た目はクレープに似ており片手で持てるサイズだが、具沢山なのでかなりのボリュームがある。特に羊肉だ。薄く切られている割に歯応えがあり、少々塩分が多いのだが、サラダリーフやトマト、パン生地といい具合に混ざり合ってとても美味しかった。




腹ごしらえが終わったところで、僕とマーキナーはサワーマからまた少し離れて、ウルクの遺跡へ向かった。

車で市外へ出ると風が大きく吹き荒れて砂埃が舞い、視界が悪くなっていた。当然建物なんてなく、あたり一面が砂漠なので、本当にこの場所に、かつての古代都市があったとは思えなかった。面影を一切感じないのだ。しかし、数十分もしないうちに、土で人工的に作られたような、大きな物体が見えた。砂嵐なのでよく見えなかったが、確かに大きな建造物が見えたのだ。


そう、あれこそウルクの遺跡なのだ。


遺跡の少し手前に車を停めて、遺跡前にあるチケット売り場に向かうべく、僕とマーキナーは車を降りた。その頃にはもうすでに、砂嵐は止んで、視界も良好であった。

チケット売り場には男性の従業員が1人いるだけで、僕たち以外の観光客はおらず、静寂であり、物寂しい雰囲気を漂わせていた。


チケット売り場を通って、遺跡の方まで歩く。

道などと言ったものは存在せず、整備はされていない様子だった。あたりには粘土板の欠片が粗末に落ちている。本来ならば厳重に保管されるべき代物だ。僕はその粘土板に近づいて、書かれている楔形文字をじっと見つめた。


“⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は創造したのち、⬛︎⬛︎⬛︎を、深く見つめている。”


欠けているので、一節しかわからない。メソポタミアの粘土板は、数はすごいものの損傷が激しいものが多い上、文字に込められた意味がわかっていないものも数多くあり、このようにして本来記されていた事柄が不明な場合が多くある。ギルガメシュ叙事詩だって、全てが解読されているわけではない。あまりに古い時代だと、人々から忘れ去られ、もはや人類が知ることのできない真実が数えきれないほど存在するのだ。


だから、考古学は面白い。


「今、キミの目の前にあるのはイナンナ神殿ダよ。」


僕の後ろを歩いていたマーキナーが、そう僕に言ってきた。

イナンナは、後にイシュタルと呼ばれるメソポタミア神話の神だ。神話の中でも最高位の立場にあり、信仰されている地域も幅広い。


「この辺は発掘調査が幾度も止まってイテね、謎の多い遺跡だよ」


僕は目の前の遺跡を見上げた。かつて僕たちも祀られる立場にあったのに、こうして人類の視点で神殿を見るのはかなり稀だ。人類だけでなく、かつてここにも神がいたのだと思うと、なにかと感情が込み上がってくる。


現在時刻は、16時を回っている。

ここに来てから気がつけば2時間ほどが経っていた。ノスタルジックに浸りつつ、様々な場所を転々として、見つめて、考えての繰り返しをしていたら、また風が吹いてきた。だんだんと強くなる風に、目が霞んでいく。そろそろバグダードに戻らないと、夜遅くに帰ることになる。流石の僕でも夜のバグダードを歩くほど肝は据わっていない。

僕は遺跡を背にして歩いた。するとマーキナーが横からやってきて、僕にこう言った。


「おや、もう良いのカイ?風も強いからねェ」


「明日はバビロンに行くぞ」


「全く人使いが荒いねェ、キミは。でも、ボクもバビロンに行きたかったからラッキーかも」


マーキナーは、僕に呆れたような表情でそう言った。バビロンになんの用があるのだろうか?

僕たちは砂嵐になる前にマーキナーの車に戻ってきて、再び車を走らせた。車の窓から見えるウルクの遺跡は、砂嵐であまり良いようには見えなかった。

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