14 隣村
結局僕は村へ帰らず、彼らの家で夕餉をご馳走になった。負傷した男の奥さんが作る料理はとても美味しかった。
伯父が手当の仕方を奥さんに教えて薬を渡している間、僕は息子二人の相手をしていた。
人心地つくと家族四人に見送られ、伯父の住む家へ向かった。すっかり暗くなっている。
「ねえ、伯父さん?」
僕は月明かりに浮かぶ石ころを蹴りながら伯父の背中に声をかけた。
「ん?」
伯父は振り向かず、のんびりした声音で応えた。
「どうして伯父さんは薬師になったの?」
「さぁ、どうしてだろうなぁ」
「伯父さんに薬の事を教えた人がいるんでしょ?」
「まぁ、そうだなぁ」
「でも、その人はこの村にはいないよね。死んじゃったの?」
「さぁ、今はどうしているのやら」
「あ、そっか。この辺りの人じゃないんだね。じゃあ、伯父さんはどこか別の村に行ったことがある?」
「そうだなぁ、お前さんよりかは、行ったことがあろうなぁ」
伯父との会話はいつもこんな感じだ。こちらの質問にはまともに答えてくれない。伯父を相手取るには根気が必要だ。
「ねえ、伯父さんは都に行ったことがあるんでしょ?」
「ほう、都になぁ」
伯父の声色が、面白がるように変化した。ようやく興味を引けたようだ。勢いを得て続ける。
「都はどんなところなの?何日で行けるの?都までには、他にいくつか村があるんでしょう?そこで休みながら歩くの?」
「さぁなぁ。歩いて行ったことがないから、何日かかるやら知れんなぁ」
「え、歩くには遠すぎるとか?じゃあ牛に引かれていくの?すごく長くかかりそうだね。」
「ははは、馬に乗って行くんだよ」
「馬に?」
「ああ」
「…ふうん」
いつの間にか伯父の家に着いた。着くなり、伯父はごろんと横になって伸びをした。
「村の外に出たいのか?」
「いや、そういうわけではないんだけど…、外はどうなってるのかなと思って」
「ほう」
「…あのさ、伯父さん」
僕は伯父の様子を伺った。伯父に何かをねだる時は慎重になる。
寝転んで目を閉じた伯父は、相槌を打ってくれない。しばらくして、僕は小さな声で言った。
「…やっぱり、なんでもない」




