【第8章】クエスト開始
ドラゴンは通称【シュヴァルツヴァルト】と呼ばれる漆黒の森林地帯を抜けた、岩壁の山の麓にいるという。
目的地は街から1日半もかけて行かなければならない道のりだった。
俺達は親睦を兼ねて、歩きながらだが自己紹介をした。
「申し遅れました、僕はケイン ガード。B級冒険者です、ドラゴンの炎攻撃ならこの盾で守ってみせます!」
「俺の名前は、マージ グルド。俺もB級冒険者だ、低級魔法と剣を使う」
「私はカイナ ジルホーン。私もB級冒険者で回復魔法が使えます、少し時間はかかりますが皆さんの怪我を治します」
「……私は、マリーナだ。見ての通り剣士だ」
なんでだろう、マリーナさんだけずっと俺に怒ってる気がする。
俺、何かしてしまったのだろうか…。
兎にも角にも、このパーティで俺達はドラゴンを討伐する事になった。
皆、見るからにいわゆる異世界冒険者といった風貌で少し心強かった。
とはいえ、B級冒険者ばっかりのこのパーティでドラゴンは倒せるのだろうか——。
シュヴァルツヴァルトを進む事、約半日…皆に疲れが見え始めた時、ふいにケインさんが語り始めた。
「実は僕、近々どうしてもまとまったお金が必要なんです」
「だからどうしても、今回のクエストは成功させたくて」
そこまでケインさんが言うと、カイナさんが聞いた。
「何でそんなお金が必要なんですか?」
「あっ、もし嫌だったら答えなくてもいいですけど」
「嫌じゃないよ、俺、村に帰ったら結婚するんだ、婚約者と」
「えぇ〜いいなぁ〜」
カイナさんが顔を赤らめて羨ましがっていた。
「な〜んだ、くだらなねぇ〜」
マージさんがつまらなさそうに言った。
「ぼ、僕は本気なんだ!」
そう言いながらケインさんがマージさんに喰ってかかる。
「わ、悪かったよ…」
マージさんが慌ててケインさんに謝った。
「まぁまぁそんなケンカしないで〜」
カイナさんが2人をなだめていた。
……それを聞きながらふと、思った。
これって……なんだろう。
あれ?もしかして……?
フラグ……?
頭にそんな思いがよぎった時。
いきなり一体のオークが茂みから俺達を襲ってきた。
手には棍棒が握られている。
身長は約2m強といった所、筋骨隆々で黒目のない眼でこちらをまっすぐ睨んでいる。
俺は急に動けなくなった。
そして、直ぐに分かった、これが本物の殺気というやつなのだと。
空気が重い、これが生まれて初めて感じる、死の予感だった。
俺達は、ハンターのつもりで受けたこのクエスト。
しかし、オークから襲われようとしている今。
俺達は狩る方ではなく、狩られる側だった。
ズォォンッッ!
棍棒が地面に叩きつけれ、凄まじい砂埃が上がった。
砂埃の奥でケインさんが棍棒でオークに攻撃されているのが分かる。
砂埃が消えかかった視界の先には盾がひしゃげ、そのまま頭を潰された、ケインさんが無惨にも倒れていた。
「ヒッ」
それを見て声を上げてしまった、回復魔法使いのカイナさんが次の標的となった。
「い…いや……」
オークはケインさんの頭と血が、へばりついた棍棒をそのままカイナさんの顔面に命中させた。
カイナさんの頭部は、まるで水風船の様に弾け飛んだ。
顔に水滴のようなものがかかった。
指先で触るとヌルッとしていて少しだけ温かい。
見ると血だった、さっきまで笑い合いながら話していた人の……。
…ダメだ、この世界ではB級冒険者の実力はオークすらも倒せないんだ。
そう思った俺はヘナヘナと、その場にへたり込んでしまった。
メキョッッ!
オークの棍棒が剣士のマージさんの脇腹を捉えた。
まるでドライバーで打たれたゴルフボールの様に、成人男性が軽々と宙に舞った。
そして、マージさんは巨木に身体を叩きつけられ動かなくなった。
怖い…怖くて仕方がない、逃げなければ。
殺される…。
足が震えて立てない俺は、泣きながら四つん這いになってその場から逃げた。
ザジュッ——
また、音がした。
今度はマリーナさんの番だと思って振り返った。
あんなに暴れていたオークが、地べたでのたうち回っている。
よく見るとオークの腕が…無かった。
マリーナさんの足下には、棍棒が握られている腕だった物が落ちていた。
マリーナさんは剣を鞘にしまうと、俺の方に近づいて来た。
マリーナさんは、俺に馬乗りになると、強烈な一撃を顔面に叩き込んだ。
何度も…何度も。
「何故逃げる⁉︎」
「卑怯者め!偽物の嘘つきが!」
俺が、気を失うギリギリまでマリーナさんは殴り続けた。
その時、オークが背後からマリーナさんを残された手で殴った。
「グッ……!」
と言うのと同時にマリーナさんは殴り飛ばされた。
脳震盪を起こしているのか、マリーナさんは立とうにも立てなくなってしまったようだ。
俺は、また死を悟った。
しかし——パトリックさんの言葉を思い出した。
そして、俺は自分で自分を、無理矢理奮い立たせた。
俺はまだ生きてるじゃないか、最後の最後まで諦めちゃダメだ——と。
そして、オークを倒せる程の強力な武器を考え始めた。
「…そうだ、あれだ!」
俺は魔筆を取り出し、描き始めた。




