【第1章】才能の壁
【第1章】才能の壁
漫画の持ち込みで出版社へ行った帰り道。
俺は、電車賃を節約する為、一人トボトボと…歩いていた。
さっき漫画編集者に言われた事を反芻しながら…。
——「う〜ん…やっぱり、ストーリーがなぁ」
「物語がありきたりなんですよね〜」
違う編集者も似たような事を言ってた。
「物語もキャラクターもあまり…魅力が感じ無くて」
「既視感のあるキャラと作品ばかりで…」
「上手いんですけど絵がちょっと今風じゃないんですよね…」
俺が17年間、数々の某有名漫画家達の下で、アシスタントとして培った技術の全てを注ぎ込んだ渾身の作品を見せても…返ってくる言葉は、結局。
前回と同じだった。
どうやら、俺の絵は古く、物語は陳腐で、キャラクターには個性も魅力もないらしい。
つまりは、才能無し…という事だ。
だらだらと結果が出せないまま、それでも、いずれデビュー出来るという夢を見ていた。
もう少し、もう少し頑張れば下積みの成果が出る。
そう勘違いしたまま、17年間という途方もない時間を過ごしていた。
今更、田舎に帰っても両親や田舎の友達に会わせる顔が無い…。
俺は、美術系の高校にも、大学にも行っているのに、何者にもなれていない自分が情け無くて恥ずかしくて、仕方ない。
田舎といえば…アイツに言われた事を思い出した。
確かあれは、中学生の卒業式の日。
「お前も絵が好きだったら、俺と同じ美術系の高校に行けば良かったのに」
俺と同じく漫画家を目指している友達に、軽口をたたいた。
その発言に悪意は全く無かった。
「……お前んちみたいに俺の家は金持ちじゃねぇんだよ!」
凄い剣幕で言われて、目を合わせて喋る事が出来ないまま、その後の言葉が何も思いつかなかった。
そういえば、それがソイツとの最後の会話だったな。
それからソイツは高校卒業後、わずか数年で漫画家デビューして、アニメ化もドラマ化もされて…。
今や、時の人になっている。
そんな作品を、俺は変なプライドが邪魔をして…未だに読めていない。
こんな事、考えながらも街ゆく看板の書体や汚れ方、ボルトの位置や数…形、そんな物ばかりに目が行く…。
街並みの背景を描く時のヒントを探している……。
漫画家になれもしない俺には意味無いのに……。
俺の人生…なんなんだったんだろう…。
——その時だった。
「アステル•ヴェニア!」
何処からか、声が聞こえた。
そして、何故か自分に向けられた声のような気がして、俺は後ろを振り返った。
当然……その声の主は、何処にもいなかった。
「まぁ、そうだよな…」
俺は首をもたげながら、踵を返し歩き始めた。
モサッ……地面の感触に違和感を覚えた。
顔を上げると…そこは森?……だった。




